69話 建国祭のパレード
「じゃあ、行くか」
「そ、そうね」
お互いぎこちなくそう言い合い、ベイル家を出た。今日は建国祭。子供たちと騎士のパレードを見に行く予定なのだ。なお、普段と違う様子にロッシュさんたちは心配そうな顔をしていたが、何も言わずに送り出してくれた。そして今日リルはお留守番。人が多いからリルを抱えての移動は大変だとロシュさんに言われたからだ。
果たして、ロッシュさんの言うとおり、大通りは大変な混雑だ。やはりパレードを見に来た人が多いのだろう。あと、大通りの中央にロープが張られていて、そこは立ち入り禁止になっているから、普段より道幅が狭くなっているのもあると思う。騎士たちはあの中央部分を行進するようだ。
「ふ、普段より賑やかだな」
「え、ええ」
「「・・・」」
気まずい。会話が続かない。お互いクリスの話題に触れないようにしているのが分かる。何を話していいか分からない。そうやってお互いだまりこくったまま孤児院へ歩いて行く。
「きゃっ」
「お、おい。大丈夫か?」
「え、ええ。ありがとう」
「「・・・」」
人混みでよろけた結依を抱えて、顔が近くなって、気まずくなって・・・。ということがあったとか無かったとか。
そうこうしているうちに、孤児院の近くに着いた。大通りから路地に入れば人通りもマシだ。孤児院の前では子供たちとセリアさんが待っていた。
「あっ!にいちゃんたちー!」
俺たちを見つけたライがブンブンと手を振り呼んだ。俺も手を振り返しながらそちらへ近づく。
「おはよう、みんな」
「おはよー!おねえちゃん!」
「おはよ!」
「おはよー!」
「セリアさんもおはようございます」
「おはようございます。タカさん、イチカさん」
「おはようございます。・・・おほん。セリアさん。偶然ですね。パレードですか?僕たちも見に行くんですよ。よかったら一緒にどうですか?」
あくまで建前は偶然会って一緒に行くこと。だから一応そう言った。するとセリアさんはクスクスと微笑み、
「うふふっ。はい。お気遣いありがとうございます。ぜひお願いします」
ぺこっと一礼した。と、子供たちはキョロキョロと周りを見渡しながら、
「にいちゃんたちー。リルはー?」
「ごめんね。リルはお留守番なの」
「えー」
「リルちゃんいないのー?」
リルが以内と分かるとぶーたれる子供たち、たった一日で子供たちの心を鷲づかみにするとか・・・。さすがリル。
「ごめんね。また連れてくるから」
「ぜったいだぞ-」
「ええ。約束よ」
そんな会話をしつつ、大通りへ向かう。幸い最前列に陣取ることができので、小さい子たちを前にして今か今かとパレードを待つ。ただ、フィーリアだけは結依の身体にもたれかかって手を握っているが。いいなあ。
周りにも見物人があふれている。どうやら本当に人気のイベントらしい。子供たちが迷子にならないように見ておかないと。
「あ、来た!」
シーラの声で、大門の方角へ注目する。すると、馬に乗った壮麗な騎士を先頭に、槍を掲げる騎士、剣を携えた騎士が列を成して行進してくるのが見えた。
「カーン公爵家の、おなーりー」
どこからかそんな声が聞こえた。そうか。これはカーン公爵家の軍なのか・・・。権力を握っているだけあって、どの装備もきれいだ。豪華な金の刺繍が入った鎧はピカピカに磨かれ、馬はきれいで上品な茶色の毛並み。槍も剣も光を反射しキラキラと光っている。そんな騎士たちが30名ほど。ガシャガシャと装備の音を響かせて王都の大通りを闊歩する。
「わー!かっこいい!」
「すげえ」
「うわー」
子供たちは目を輝かせて見入っている。そして興奮しているのは周りの見物客も一緒だ。さすが公爵家、王国の未来は安泰だ、など口々に褒めそやしている。
そうか。パレードにはこういう目的もあるんだ。国威発揚、権力誇示・・・。汚い一面が見えて少しげんなりしてしまった。
その後もパレードは続く。ベガット伯爵家、ユーリス男爵家・・・。よく分からん貴族家が続く。だが、さすがにカーン公爵家が一番豪華だった。他の貴族家は人数が少なかったり、馬がなかったり、鎧に刺繍が入っていなかったり。これはカーン公爵家の財力がすごいのか、それとも他の貴族が公爵に遠慮しているのか・・・。分からないが、いずれにしろ公爵の力を見せつけられた格好になった。
「イグニス伯爵家の、おなーりー」
そして続くはイグニス伯爵家。あれ?どこかで聞いたような・・・。ああ!前に王都の大門でもめてた人たちか!よかった。今日はちゃんと入れたんだな。
「あれー?」
「えー」
「なんか・・・」
ところが、イグニス伯爵家の行列は子供たちに不評だった。いや、子供たちだけではない。周囲の群衆もざわめいてる。それもそのはず。馬上の騎士の装備はきれいだが、周りを固める騎士たちの装備がボロボロなのだ。少し欠けていたり、黒ずんでいたり・・・。俺的には使い込まれた跡だなと、と思ってむしろピカピカすぎる装備より好印象なのだが・・・。これまできれいな騎士たちを見てきた市民にとっては不満だ。
「えー?ぜんぜんかっこよくない-」
「ぼろぼろ-」
そして、当の騎士たちもその不満は伝わっているようだ。ぎゅっと唇をかんで、しかしそれでも胸を張って堂々と行進している。その姿が俺はむしろかっこいいと思った。
そして、このイグニス伯爵家が最後だったらしい。後に続く集団は現れなかった。
「おなかへったー」
「ぺこぺこー」
時刻はお昼を回った頃。周りの見物客も帰り初め、子供たちも空腹を訴えている。
「そうね。孤児院に帰ってお昼にしましょう」
「わーい!」
「やったー」
「タカさん。イチカさん。孤児院で昼食を食べていきませんか?せめてそれくらいはお礼をさせて下さい」
結依と顔を見合わせて頷く。せっかくならご相伴にあずかろう。多分子供たちも興奮して落ち着きがないからセリアさん一人で面倒をみるのは大変そうだし。
ということで孤児院で昼食をいただくことにした。早速孤児院に戻り、準備が出来るまでしばし子供たちと遊ぶ。先ほどのパレードを見て興奮したのか、騎士ごっこをやりたいと言い出した。なんのことはない。みんなで整列して行進するだけだ。ただ、これが子供たちにとっては楽しいらしい。僕が先頭、いや僕が、じゃあ私は最後、とわちゃわちゃしながら盛り上がった。
やがてセリアさんがお昼ご飯を作り終わり、持ってきてくれた。
「はーい。できましたよー」
「「わー」」
お昼ご飯はサンドイッチ。そして今日はお肉もある。それに子供たちは大喜び。
「おにくだー!」
「やたー!」
「はいはい。一人一枚よ」
セリアさんは我先にと肉にありつこうとする子供たちをなだめる。しかし子供たちはやんややんやと大騒ぎ。もしかして・・・。カーネリア孤児院はお金がないから、そんなに肉の出る頻度が多くないんじゃ・・・。そう思うと、俺は思わず自分の肉を差し出していた。
「俺はおなかいっぱいだから、俺の分の肉もあげるよ」
「ほんとー!?」
「わーい!」
俺が言った途端、大歓声。ああ。やっぱりそうか。今日は建国祭ということで奮発したのか。その貴重な肉に大盛り上がりなのか・・・。そして結依も、
「・・・私も。おなかいっぱいだからあげるわ」
「わー!!」
「タカさん・・・。イチカさん・・・」
セリアさんが申し訳なさそうな顔で俺たちを見る。しかし、
「いえ。おなかいっぱいなので」
「私もです」
「・・・すみません。ほら、切り分けるからちょっと待ちなさい」
俺たちの肉を切り分けたら、それほど大きな量にはならない。それでも子供たちは大喜びだ。いっぱい食べて大きくなれよ、子供たち。
昼食後しばし子供たちと遊ぶ。先ほどの騎士ごっこの続きだ。どうやら普通に行進するだけじゃ飽きててきたのか、ほうきを持って槍代わりにしたり、お盆を持って盾代わりにしたり・・・。それはさすがいセリアさんに見つかって怒られていたが。
そして夜。帰る時間になった。
「ばいばーい!」
「また来てねー!」
「タカさん。イチカさん。今日は本当にありがとうございました」
子供たちと別れを惜しみ、セリアさんと挨拶を交わす。いつものことながら、カーネリア孤児院の人達はセリアさんも含めて俺たちが帰ることをすごく惜しんでくれる。それがうれしかった。だからまた来よう、って思える。
「いえ。僕たちも楽しかったです」
「また遊びに来てもいいですか?」
「・・・はい。ぜひ」
俺たちは子供たちに手を振りながら孤児院を後にした。空は暗くなっている。
さあ、今日は充実した一日だった。今日はこれで終わり・・・ではない。
「じゃあ行ってくるわ」
「お。おお」
結依がそう言って、スタスタ歩き去った。
そう。クリスとの約束。
それを果たすため。
今日一番のイベントが待っているのだ。




