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68話 それぞれの苦悩

「ただいま帰りました」


「帰りました」


「わん」


 孤児院を去ってクリスの告白があって・・・。俺たちはベイル家に帰ってきた。帰り道はひと言も話さなかった。俺は俺で考え事をしていたし、結依もたぶんそう・・・。お互いだまりこくったまま帰宅した。

 ただ、そんな俺たちの様子にロッシュさんは首をかしげた。


「おお。おかえり・・・。どうしたんじゃ?元気がないように見えるが」


「いえ・・・。大丈夫です」


「そうか?ま、とりあえず夕飯じゃ」


 心配しつつも、深くは触れないでくれた。その気遣いを有難く思いつつ、食卓についた。


「おかえりなさい・・・。今日は魚を焼いてみました。いっぱい食べて元気になってくださいね」


 メイさんも何か言いたげだったが、深くは聞かないでくれた。そしていつものようにメイさん手作りのご飯をいただく。食べながらとりあえず明日の予定を話す。


「ロッシュさん。明日おやすみをもらっていいですか?」


「ん?構わんが。もしかして、建国祭か?」


「はい。孤児院の子供たちと見に行くことになりまして」


 明日は建国祭がある。そのパレードを子供たちと見に行く約束をした。正確に言うならたまたま会うだけだが・・・。とにかく、明日はそういう予定を入れてしまったので、訓練などはできない。

 それを聞いてロッシュさんわかった、と頷き、


「なんじゃ。わしはてっきり二人でデートするもんじゃと」


 そのひと言に俺たちは固まった。


「「・・・」」


 固まって何も言えなかった。いつもだったら、違います!と言い返す場面。だが、今日の俺たちは何も言えなかった。今その話題に触れる勇気はなかった。そのまま黙々と夕食を食べ続ける。


「「・・・」」


 ロッシュさんもメイさんも目を見合わせる。俺たちの様子がおかしいと思っているのだろう。


「ごちそうさまです」


「お。おお」


 申し訳ないが、あまり味は分からなかった。食べ終わってすぐ立ち上がった。ロッシュさんが心配そうな顔をしていたが、構っている余裕はなかった。そのまますぐに部屋に引っ込む。

 ベッドに倒れ込む。陰鬱とした気分を晴らそうとため息をつく。しかし何も気分は晴れない。リルを抱えてつぶやく。


「なあリル。どうしたらいいと思う?」


「わふ?」


「そうだな。お前に聞いても仕方ないよな」


 結依がクリスに告白された。俺はどうすればいいんだろう・・・。最初クリスはただのチャラ男だと思った。でもあれだけ真剣に結依のことを思って。今まで結依に言い寄ってきた男とは違う・・・。なんてったって恋敵(クリス視点)の俺にも優しいんだから。結依にはもっと優しくなるだろう。だからか、俺も悩む。結依はクリスと付き合った方が幸せになるんだろうか。


「わん!」


 リルが元気よく鳴いた。気にするな、元気出せ、と言っているように感じた。

 ・・・いや、待てよ。そうだ。なぜ俺がこんなに悩んでいるんだろう。俺が告白されたんじゃない。俺は当事者でも何でも無い。これは結依の問題なのに。


「・・・はぁ。俺が考えるのも違うか。結依の勝手だよな・・・」

 

 それなのにこの胸のモヤモヤは何だろう。さみしさ?嫉妬?いらだち?分からない。感情に名前を付けられない。そしてなぜモヤモヤするのかも分からない。そのモヤモヤが時折肺を侵食して息苦しさすら感じる。本当にどうしたんだろう、俺は。


 さみしさだろうか。娘が結婚する際に父親が感じるのと似た・・・。ああ。そうかもしれない。結依は俺の妹みたいなもんだからな。今まで俺がどれだけ世話をしてあげたことか。

 じゃあ、結依がクリスとくっつけば、俺も結依の世話をしなくて済むってことか。そうだな。それはせいせいする・・・ぜ。

 と、


「わんわん」


 リルが俺の手から抜け出し、扉の前に座った。開けてくれ、という姿勢だ。そして前足でちょんちょんと扉の右の方を叩いている。その方向にあるのは結依の部屋だ。


「リル?結依のとこに行きたいのか?」


「わん」


 そう肯定したと思ったので、扉を開けてやる。リルはわん!とお礼を言うかのように鳴いて俺の部屋を出て行き、結依の部屋の前で座り、結依を呼ぶためにまたわんわんと鳴きだした。


 なんとなく結依の顔を見たくなかった。なので俺は結依が出てくる前に扉を閉め、ベッドに寝転んだ。そのままため息をつきながら目を閉じる。先ほどのクリスの目。結依の迷っている顔。

 そういった顔がだんだん薄れていって。そしてなぜか今まで結依と過ごした日常が思い出されて・・・。幼稚園の頃、動物園でライオンにびびり倒して泣いている結依、小学校の頃、母に怒られて泣きながら我が家に駆け込んできた結依・・・。なんで今更こんな子とを(思い出すんだろう・・・。それとも、これは夢だろうか。そう思いつつ、いつの間にか意識が沈んでいった。




☆☆☆




 夕飯を食べたあと、悠はすぐ自室に引っ込んだ。


「どうしたんじゃろう?ユウは」


 ロッシュさんは心配そうにつぶやいた。まったくあの馬鹿は。何を悩んでいるんだろう。さっきの出来事は悠には関係ないのに。


「わん」

 

 リルが悠のあとを追っていった。リルがついているなら安心だろう。


「ごちそうさまです」


 私も食べ終わるとすぐ立ち上がった。


「ユイさん?悩みがあったら相談して下さいね?」


「・・・はい。でも大丈夫です」


 メイさんがそう気に掛けてくれる。それだけでとてもうれしかった。ただ、これは私の問題だ。ぺこ、とお辞儀だけして、私もゆっくり階段を上がり、自室へ向かった。


 二階の悠の部屋の前を通るとき、自然と足が止まった。悠は今何を考えているんだろう。


「・・・いや、私こそなにを考えているんだろう」


 はっと頭を振り、足を動かして悠の部屋の前から立ち去った。さっき自分で思ったはずだ。これは悠には関係ない。私の問題だって。悠が何を考えていようが私には関係ないはずだ。


 部屋には入り、ぼふっとベッドに倒れこむ。そのままぼーと天井を見つめる。そっと目を閉じる。脳裏に浮かぶのはクリスの瞳・・・。


「わんわん!」


 部屋の前から犬の鳴き声がする。リルだ。どうしたんだろう。こんな時間に。

 扉を開けると、リルがお座りをして待っていた。そのまま抱えて部屋に連れて行く。リルを抱え込んだままベッドに倒れ込み、話しかける。


「リル。あなたはどう思う?」


「わふぅ」


「・・・そうよね。あなたに聞いても仕方ないわよね」


 今日クリスに告白された。告白された瞬間は頭が真っ白になって返事が出来なかった。今まではクリスと付き合うなんて考えられなくて、お断りすること一択だったのに。とても真剣に言われたから混乱してしまった。

 今までの男はロクな男がいなかった。乱暴したり横柄だったり・・・。クリスだって初めはチャラいナンパだと思っていた。でも違った。クリスは実際にはとても誠実な人だった。まともな男に告白されたのは今日が初めてだ。だから戸惑ったのだが・・・。そう思うと自分の男運のなさに呆れる。どこで運を使い果たしたんだか・・・。


 とにかく、明日には返事をしなければならない。改めて考える。クリスと恋人になった場合のことを。

 イケメンで優しい彼氏。私のこともきっと大切にしてくれる。危険な冒険にも行かなくていいと言ってくれそうだし、生活も何不自由なくしてくれそうだ。周りの女性たちからもうらやましがられ、その視線はさぞ気持ちいいことだろう。まさに勝ち組だ。


 ・・・ただし重大な問題もある。私はこの世界の住人ではないこと。だから私が日本に帰るなら、いずれ別れが来る。あるいは私がこの世界に留まるか。もしくは、クリスも日本に来るか・・・。、


 もしこの世界に残るとしても、クリスなら受け入れてくれるだろう。そして私を幸せにするために全力を尽くしてくれるだろう。私がどうしても日本に帰りたいと言えば・・・。もしかしたら、クリスも来てくれる・・・?優しい人だから、そう言う可能性は十分ある。


 クリスとこの世界での暮らし。私は冒険者を続けるのだろうか。それとも家でクリスの帰りを待つのだろうか。ロッシュさんたちとご近所になって、たまに孤児院に遊びに行って。そんな日常。


 もしくはクリスと日本での暮らし、か。朝起きて、学校に行って。もしかしたらクリスも学校に通うかもしれない。一緒に登校して、授業を受けて、お弁当を食べて、一緒に下校する。たまにはどこかに寄り道するかもしれない。そんな日常。


 それは・・・。


 どちらにしても・・・。


 そこには・・・。


「わん」


 リルを隣に置いて目をつぶる。やはり思い出されるのはクリス。そして何故かそれを聞いている悠の強張った顔。

 さらに、これも何故か今まで悠と過ごした日常がフラッシュバックして・・・。幼稚園の頃、近所を探検していると大型犬に吠えられて泣いている悠。小学校の頃、私をショッピングモールに連れ出したものの迷子になって泣いている悠・・・。何故・・・?それとも、これは夢・・・?そう思いつつ、いつの間にか意識を手放した。

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