65話 孤児院(1/2)
俺と結依はギルドに来ていた。依頼、それも例の孤児院の指名依頼を受けるためである。実は昨日ギルドで装備を借りたとき、指名依頼の紙が貼ってあるのを見つけたのだ。
「指名依頼があるのは分かったけど、なんで今日悠はギルに行ったの?」
「んっ。まあ、野暮用で」
「野暮用」
「取るに足らない用事ってことだ」
昨日の帰宅後、そんな会話があった。別にやましいことはないのだが、クリスに訓練を付けてもらって、さらにぼろ負けしたことは言いたくなかったので、ごまかした。仲がいいと思われるもの嫌だった。
ということで、ギルドなうである。しかも、今日はリルも同伴だ。リルがいれば子供たちも喜ぶだろうと思ったからだ。
ーE級冒険者タカ・イチカ 指名依頼ありー
孤児院の訪問
詳しくはギルド受付まで
指名依頼の依頼書を剥がして受付に持っていく。担当はセナさんだった。セナさんに会うのは実は久しぶりな気がする。いつものようにすぐ対応してくれた。
「おはようございます。タカさん。イチカさん」
「「おはようございます」」
挨拶を交わしながら依頼書とギルドカードを手渡すと、セナさんは結依に抱かれているリルに視線を向けた。
「そちらのわんちゃんは・・・。っ!」
と思ったら、くわっと目を見開いた。
「わん!」
「!!???」
「わん!」
「あ、こら。リル。おとなしくしなさい。すみませんセナさん。こいつはこの前拾った魔物です。リルって名前です」
「リル・・・?ほんとに・・・?いえ、まさか・・・」
呆然とつぶやくセナさん。一体どうしたのだろう。
「セナさん?」
「わん!」
「はっ!」
そこでセナさんははっと我に返り、ぶんぶんと頭を振った
「ご、ごほん。んっ。失礼しました。依頼書をお預かりします。ええと、指名依頼・・・。カーネリア孤児院の指名依頼ですね」
セナさんは気を取りなおして手続きをし始めた。
ところがいきなり
「すみません」
と謝罪の言葉の述べた。セナさんが謝る意味が分からなかったので首をかしげると、申し訳なさそうに理由を告げた。
「実は、報酬についてなんですが・・・。D級に昇格したので、報酬額を上げることもできたんです。ただ、先方の事情や、お二人のお得意様ですので、一応以前の条件でお受けしたのです・・・。今から交渉して報酬を上げることも可能ですが・・・。どうされますか?」
なるほど。そういうことだったのか。ただ、俺たちの答えは決まっている。
「いえ、このままで大丈夫です」
「はい。これからもこの報酬額で結構です」
カーネリア孤児院に余裕がないことは知っている。だから報酬額に異存は無い。俺たちも半分子供たちと遊びに行っているような感覚だしな。
「畏まりました。本当は冒険者に不利益になるから、受付としては褒められたことではないのですが」
セナさんはほっとしたように息を吐いた。
「それと、念のために言っておきますが、これはE級相当の依頼です。D級であるお二人はD級の依頼を受注した方が昇格には有利ですよ?」
「それも大丈夫です」
「この依頼を受けます」
「ふふっ。そうですよね。・・・はい。では手続きが完了しました」
「「ありがとうございます」」
「はい。いってらっしゃいませ」
セナさんに見送られた俺たちはギルドの外に出た。さあ孤児院へ行こう、とあるきだしたところで、前から見覚えのある金髪の姿が見えた。
げっ。見つからないようにさっさと歩こう、と思ったが、向こうも俺たちに気付き、満面の笑みを浮かべて近寄ってきた。ちっ。
「やあ、イチカ!それにタカ!と・・・犬?」
そう。やってきたのはクリスだ。なんで二日連続で会わなきゃいけないないんだ。
「こんにちは、クリス。久しぶりね」
「イチカ!久しぶりだね!会えてうれしいよ!で、その腕のわんこは君の従魔かな?」
「ええ。最近拾ったの。名前はリルよ」
「わん!」
「ほう・・・。これはなかなか・・・」
クリスの言葉は段々尻すぼみになっていき、やがて静かにリルを見つめた。
「わん!」
じっと見つめるクリスに、リルは一鳴きして答えた。クリスはそのまましばしリルを見つめたが、やがて視線をはずし、
「・・・僕はクリスだ。よろしく、リル。で、二人とも、これから依頼かい?」
「そうだ。だからついてくるなよ」
先手を打ってそう断った。しかしクリスはにやっと笑って
「つれないじゃないか、タカ。昨日はあれだけ仲良くしたのに」
「仲良くはしてねぇ!」
「あら。タカ。昨日クリスと会ったの?」
「ん?聞いてないのかい?昨日僕とタカはーー」
「ああ、もう!分かったから!前の孤児院の依頼だ!来るなら来い!」
言わせるか!クリスの言葉を遮って、そう叫んだ。背に腹は代えられない。
「ああ!あれか!もちろん!イチカ、僕も一緒に行っていいか?」
「え?まあ、タカがこう言ってるから、いいけど・・・」
どうも結依は俺が賛成したのが意外だったようだ。しかし、俺は半ば脅されてた状態。昨日の件を知られたくないの?じゃあついて行ってもいいよね!そんなクリスの笑顔に屈した。
「よし。じゃあ早速行こう!」
こうして不本意ながらもクリスを加えて孤児院に行くことになってしまった。
道中結依から昨日クリスと会ったのかと聞かれたが、すれ違っただけと答えておいた。やはりぼろ負けしたのを知られたり仲がいいと思われるのは嫌だった。
そんな話をしながらカーネリア孤児院に着いた。門をくぐり、玄関のドアをノックすると、しばらくして院長であるセリアさんが柔和な笑みを浮かべながら出てきた。
「お久しぶりです。タカさん。イチカさん。まあ、それにクリスさんも」
「お久しぶりです、セリアさん」
「お元気そうでなによりです」
「やあ、院長先生。お邪魔するよ」
セリアさんは俺たちを歓迎するような笑みを浮かべたあと、目尻を下げて申し訳なさそうな氷上になった。
「ええ。よくいらっしゃいました。それと、タカさん、イチカさん。ごめんさない。お二人がD級に昇格していることを知らなくて・・・。受付の方には以前の依頼料で受け取ってはもらえたんですけど・・・。やっぱりD級の方にはもう少しお出ししないと失礼ですよね」
そう謝るセリアさんに俺たちは気にしないで下さい、と首を振った。むしろ、お礼を言うのは俺たちです、と。
「いえ。僕たちも指名依頼があったか早く昇格できたんです」
「そうです。だからお互い様ですよ」
「そう・・・。そう言っていただけるのは有難いですけど・・・」
なおも申し訳なさそうなセリアさん。俺は気を遣わせまいと、あえて話題を変えた。
「それより、今日はペットを連れてきたんです。子供たちが喜ぶと思って。大丈夫でしたか?」
「・・・まあ!かわいいわんちゃん!ええ、是非。子供たちも喜ぶと思います。では、立ち話もなんですから、入ってくさださい。みんなー!タカさんたちが来ましたよ-!」
ようやくセリアさんも笑顔になってくれた。そして俺たちを招き入れ、奥に向かって呼びかけた。すると、ガチャ、と突き当たりの部屋の扉が開かれ、中からわーっと勢いよく子供たちが飛び出してきた。やんちゃなゼンを筆頭に、おてんば娘のマフィ、獣人のケインとサラ、その後ろに年少の子供たちが続き、後ろに年長のライとシーラだ。
「タカのにーちゃん!」
「久しぶりー!」
「イチカおねーちゃん!」
「あ!クリスもいるぞ!」
「あそぼー!」
わらわらとあっという間に子供たちに囲まれた。まだ3回目だが、ずいぶん懐かれたものだ。まあ、こうやって慕ってくれるのは悪い気分じゃない。
「みんな、元気にしてたか?」
そうやって足下の子供たちに声を掛ける。当然、うん!という元気な返事を期待した。ところが
「あ!わんちゃん!」
「ほんとだ!」
「かわいー!!」
「わん!」
俺のことを放り出して、結依が抱っこするリルに群がってしまった。
あ、あれ?みんなリルのところに行くの?ライもシーラもゼンもマフィも?あれ?俺は?
「イチカおねーちゃん!この子のなまえは!?」
「この子はリルっていうの。なかよくしてあげてね」
「かわいい!」
「リル・・・さま?」
「ん?リルって呼んであげてね」
「わー!リルちゃん!」
「ねえねえ、さわってもいい!」
「いいかしら、リル?」
「わん!」
「いいそうよ。優しく触ってあげてね」
「わー!」
・・・楽しそうで何よりです。ま、子供たちが喜ぶと思ってリルを連れてきたわけだから。これでいいんだ。でも、ちょっと寂しいです。
「ふっ。タカ。リルに負けたな」
「うるせえ。お前だって負けてるだろ」
クリスにあおられるが、そう言うクリスだって子供たちに振られた口だ。そんな俺たちをセリアさんが苦笑しながら見守っている。
ちょんちょん
「ん?」
俺のズボンが小さく引かれた。
「・・・」
下を向くと、銀髪のエルフ幼女が。
「フィーリア」
「・・・ん」
フィーリアが俺のズボンを握ってたたずんでいた。
お前だけだよ、構ってくれるのは。そのさらさらな髪をなでると、気持ちよさそうに目を細めた。
「うふふ。ではタカさん。クリスさん。子供たちをお願いしますね。私は中で掃除をしていますから。何かあったら仰って下さい」
「はい」
そう言ってセリアさんは二階へ上がっていった。
「タカにーちゃん!そとであそぶぞ!」
「リルちゃんとあそぶのー!」
「はやくこいよ!」
「クリスにーちゃんも!」
「・・・はいはい」
「分かった。今行くよ」
どうやら庭でリルと遊ぶことに決まったらしい。小さいボールも持ってきたからそれでリルと遊ぶつもりなのだろう。
「フィーリア。外に行こうか。リルっていう子犬もいるから紹介するよ」
こくんと頷いた女の子の手を引いて、俺も外に出た。
午前中は庭で遊んだ。やはり中心はリルだった。ボールを投げてリルにとってこさせる遊び。それが人気だった。リルがその能力を活かしてアクロバットなキャッチをするから大盛り上がりだった。俺が投げる、いや私が、僕が、と順番でもめることはあったが、なんだかんだみんな楽しんでいた。疲れたら休憩がてらリルをもふもふ。そしてまたボール遊び。フィーリアもリルとふれ合えたし、全体的に平和に遊ぶことができた。
事件は昼食後に起こった。セリアさん特製のパン、スープ、サラダ定食を食べ終わり、子供たちがリルと戯れているときだった。
ドンドンドン
玄関の扉が激しく叩かれた。
「な、なんだ?」
「わん!」
俺は驚いて立ち上がり、リルも警戒するように鳴いた。フィーリアは俺の足にぎゅっとしがみつき、他の子供たちも不安を隠すようにリルやセリアさんの元に集まった。ただのノックではない。明らかに怒りがこもった激しい打ち鳴らし方だ。
「ちょっと!ここの責任者!出てきなさい!」
女性の怒声が聞こえた。ここまで響いてくるとは、よっぽどの大声だ。その声にさらに子供たちはおびえる。
「僕が様子を見てこよう」
そう言ってクリスは立ち上がりかけた。しかしセリアさんは慌てた様子でクリスを制した。
「クリスさん!待って下さい!私が呼ばれているので!私が行きます!皆さんは子供たちをお願いします!」
セリアさんはそう言って返事も聞かず部屋を飛び出していった。立ち上がりかけたクリスはそのままおびえている子供たちのところまで行き、大丈夫、と励まし始めた。
「なんだろうな」
「さあ。よくないことはたしかね」
俺と結依はそうささやきあう。そして不安がる子供たちをなだめ、落ち着かせることにした。一体何が起こっているんだろう。




