62話 邂逅
俺は今、一人で王都を歩いている。別にたいした意味は無い。休日なのでのんびり散歩しているだけだ。
昨日、リルと一緒にゴブリン討伐に出かけた。そこでなんと10体ものゴブリンの群れに遭遇した。苦戦しつつも、なんとか撃退することに成功。リルとの連携が光った戦いだった。討伐が終わった後、結依は少し悩んでいるようだったが、リルの慰めもあって元気になった。アニマルセラピーという奴だ。
その後家に帰り、起きた出来事をロッシュさんたちに報告すると、大層驚かれた。10体ものゴブリンと遭遇して大丈夫だったか、と。確かに俺と結依だけだったら危なかったが、リルがいたから大丈夫だった。ロッシュさんがリルを連れて行くことを提案したとき、初め俺たちは渋っていたが、やっぱりロッシュさんが正しかったわけだ。
そのゴブリン討伐の疲れを癒やすためもあって、今日は休みになった。なので、俺はぶらぶらと王都を散策しているのだ。結依?知らん。誘ったけど、私は家にいるって言われた。どうせリル戯れてるんだろ。昨日からべったりだったし。というわけで、今日は俺一人だ。
なんだかんだ、王都を一人で歩くのは初めてだ。いつもはロッシュさんやメイさん、そして結依がいた。そう思うと不思議な感じがする。知らない世界の知らない街を一人で歩いているのが。ただ、この世界にも慣れつつある。心細さはないとは言えないが、ワクワクする気持ちも大きい。
「おっ。そこの兄ちゃん。串焼きはどうだい?1本200ゴルだよ」
「じゃあ、1本ください」
「はいよ。毎度あり」
食べ歩きをしつつ、観光気分で王都を歩く。今買ったのは串に刺さった肉。焼き鳥の一回り大きなものだ。パクッとかぶりついてみる。
「うまい」
少し肉は固めだが、肉汁がじわっと口の中に広がる。ピリッとしたタレの味も効いている。何の肉だろう。ま、おいしければなんでもいいや。
そんな調子で歩く。ここは王都の大通り。庶民側。道の両端に見せがち並び、人通りも多い。店側はそんな通行人を引きつけようと大声で呼び込み、通行人は気に入った店があればふらっと立ち寄る、そんな活気がある光景が広がっている。まるで古き良き商店がみたいだ。そう思いながら歩いていると、
「ん?タカ?」
後ろから声を駆けられた。俺をタカ、と呼ぶと言うことは冒険者ギルドの関係者。そしてこの声。・・・嫌な予感がする。しかし、無視するわけにもいかない。もっと面倒なことになりそう。なので、渋々振り返る。そこにいたのは
「げっ。クリス・・・」
さらさら金髪のイケメン。やっぱり。クリスだ。爽やかでラフな格好に身を包んだオフのA級冒険者だ。
「げ、とはなんだ。失礼な」
といいつつ、クリスはキョロキョロとせわしなく俺の周りを見回す。まるで誰かを探しているようだ。もっとも、こいつが探す人なんて一人しかいないが。
「タカ。君一人か?イチカは?」
やはり想い人である結依を探していたらしい。しかし、残念ながら今日結依はお留守番だ。
「今日は俺一人だ。イチカはいない」
「む。そうか。残念だ」
クリスは残念そうにため息をついた。ただ、結依がいないと分かればおとなしく帰るだろう。
そう思ったのだが、なぜかクリスはじっと俺を見つめる。なんだ?俺に何か用か?俺はクリスに用なんてないが。そう思っていると、こんなことを言ってきた。
「ところでタカ。今、暇か?」
「・・・暇だけど。なんだ?」
なぜそんなことを聞くんだろう。警戒しながらそう答えると、クリスはにやっと笑った。そして、驚くべき提案をしてきた。
「だったらちょうどいい。今から君を鍛えてやろう」
「は・・・?」
キミヲキタエル?
「なんて?」
問い返した。聞き間違いかと思った。俺を鍛えるって聞こえたぞ。いやいやそんな訳ない。ところが、
「どうもこうもない。聞いたとおりだ。外の草原にでも行って、稽古を付けてやろうと言ってるんだ」
聞き間違いじゃなかった。本当に俺を鍛えるって言ったのだ。脈絡のなさに頭が??で埋め尽くされる。
「いや、でも俺、防具とか持ってきてないしーー」
とりあえず断ろう。なんでそんなこと言い出すのか分からない。怖い。それに、絶対面倒くさいことになりそう。何が悲しくて俺を恋敵と思ってる奴に指導されなくちゃいけないんだ。そう思い、手ぶらであることを口実に逃れようとしたのだが、
「ああ、装備なら心配ない。ギルドに言ったら二人分ぐらい貸してくれるだろう」
俺の話を遮って逃げ道を塞いできた。ちっ。
「A級冒険者に見てもらえる機会なんて、そうそうないぞ?」
「まあ、そうかもしれないけど・・・」
ただ、いきなり訓練をつけてやるって言われても、怪しすぎて警戒するに決まってる。特にクリスは恋敵なんだ(クリス目線)。訓練にかこつけて俺をボコボコにしたいだけかもしれない。どこぞの前田のように。だからやる気にはなれない。
ところが、そんな俺の内心を見透かしたように、真面目な顔になって、
「ああ、もちろん君をいたぶるつもりはない。A級冒険者としてそれは保証しよう」
「・・・そりゃどうも。で、俺を鍛えようと思った理由は?」
とりあえず、話は聞いてやろう。確かに、A級冒険者にトレーニングしてもらうというのは貴重かもしれない。
「ふむ・・・。建前上の理由はいくつかある。前途有望な後輩を鍛えること。これは街、国、ひいては人類の安全に寄与することであり、とても有益なことだ。さらに個人的に僕は君に借りがあると思っている。だから、君を鍛えることでそれを返そうと思う」
借り、というのは結依のことだろうか。クリス目線では、俺は結依の恋人だ。そんな俺がいながら結依にアプローチするのは、俺に悪いと思っているんだろう。ただ、実際は俺は結依の恋人ではない。だからクリスが借りと感じる必要はないし、それを理由にトレーニングをしてもらうのも悪い気がする。
「で、建前があるってことは本音もあるんだろ?」
ただ、クリスが俺を鍛えると言い出した理由はこれだけではないはずだ。そう思って聞くと、案の定クリスは頷いて他の理由を話し出した。
「比較的きれいな本音としては、暇だからだ」
ただ、思ってた答えとは違った。
「いいかげんだな・・・」
思わず力が抜けた。暇つぶしかよ。そんな理由で絡まれたのか、俺は。いい迷惑だよ。しかしさらにクリスはにやっと笑って、
「汚い本音は、トレーニングと称して君に実力差を見せつけ、男としての格の違いを見えようと思ったことだ」
「せこっ!」
思わず叫ぶと、クリスは笑った。
「はっはっは。汚い本音だと言っただろ・・・。ま、君が強くなればイチカも安全にあると思った。君はイチカと一緒に行動することが多いだろうからね」
「・・・」
結局、結依の安全のためってのが一番大きな理由な気がするな。・・・いや、格の違いを見せたいっていうのも大分ありそうだけど。
「で、どうする?君にもメリットはあると思うが?」
挑発的な笑み。どうする?やるのか?それとも逃げるのか?そう言われているような気がした。
「・・・そうだな。じゃ、頼むよ」
そこまで言われたらやるしかない。
格の違いを見せるとかいう理由なら遠慮する必要は無い。逆にこんなに強かったのか、って驚かせてやろう。そうすれば結依も安全だなってこいつも理解するだろ。
A級冒険者とかけだしのD級冒険者。もちろん勝てるとは思っていない。しかし、勝てないまでも、糧にしてやろう。俺が強くなるために、せいぜい利用させてもらうぞ。




