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59話 リルとゴブリン討伐(1/2)

「わん!わん!」


「リル。ちょっと落ち着け」


「わん!」


「もう・・・」


 リルが張り切って森を歩く。俺と結依はそれをたしなめながら追いかける。

 俺と結依、リルはアルスの森へ来ていた。ゴブリン討伐の依頼である。リルを伴っての初依頼だ。ただ、リルが張り切ってどんどん前に進もうとするから、慌てて俺たちも歩いている。


「すごい張り切りようね、リルは」


「そうだな」


 朝、俺たちとゴブリン討伐に行くと分かったときから、リルはテンションが高かった。家の中でも尻尾を振って歩き回り、今か今かと俺たちを急かしていた。そしてギルドでも町中でもぐいぐいとリードを引っ張っていた。どうやら俺たちと一緒に戦えることに興奮しているようだ。


「リルがいるって新鮮だな」


「そうね。リルがいて安心だわ。結局悠は身体能力強化をものにできなかたものね」


「・・・難しいんだよ」


 結依の言葉に苦しい顔で言い訳をする。実際、本当に難しかったのだ。昨日草原で試した強化魔法は。自分の身体の出力が不自然に上がったせいで、身体の操作がうまくできなかったのだ。結果的に、走っただけでもよろけたり躓いたり転んだりと散々だった。ただ、きちんと使いこなせれば格段に強くなれるのは間違いない。だから、今後も練習あるのみだ。


 そんな話をしながら森を歩く。一昨日リルと戦ったときには手も足も出ずに完敗した。そんな強さを持っているリルがいれば安全性は高まる。そもそもリルはこの森で出会ったのだ。つまりこの森で生き抜いてきたということだろう。そういう意味でも魔物に後れを取ることもないはずだ。そんなリルはキョロキョロと周囲を見渡しながら森をずんずん奥へと進んでいく。

 すると。


「グゥゥ」


「「っ」」


 突然。リルが低いうなり声を上げて足を止めた。俺たちも驚いて、すぐに立ち止まり、警戒心を引き上げる。


「グゥゥ」


 リルはうなりながら、茂みをにらみつける。俺もじっとその茂みを見る。すると、カサカサ、と揺れているのが分かった。茂みの奥に、何かがいるのだ。


 ガサガサ


 リルも、俺も、結依も、じっと茂みを見つめる、いつでも戦えるように。集中力はマックスだ。


 ガサガサ


「ギィ」


 ガサッと。茂みをかき分けて出てきたのは、緑の小鬼。ゴブリンだ。


「ギィィ!」


 俺たちを見つけると目を見開いて驚き、武器である爪を振りかざした。そして俺たちに襲いかかろうとした。

 しかし、ゴブリンが一歩踏み出す前に、そして俺が剣を抜く前に、白い突風がゴブリンに襲いかかった。


「グルルッ!」


 リルだ。目にもとまらぬ速さでゴブリンにかみついた。


「ギィィィィッ!」


 ゴブリンは悲鳴を上げた。首にかみついたリルを引き剥がそうと、必死で暴れる。しかしリルはなお一層力強く牙を突き立てる。ゴブリンの首から、だらだらと血が流れる。


「ギィィ・・ィ・・・ィ・・・」


 まもなくその力が抜けていき、地面に崩れ落ち、やがてピクリとも動かなくなった。

 リルはゴブリンから口を離し、一瞥した後、


「わん!」


 振り返って鳴いた。自慢げだ。俺たちに褒めてもらおうと、キラキラした目で見つめてくる。しかしその口元は真っ赤で、足下には首が食いちぎられたゴブリンという猟奇的な光景が広がっていた。それを見て、思わず絶句してしまう。


「わふぅ?」


 どうしたの?とでも言うように、リルが首をかしげた。はっと我に返った。


「リ、リル。よくやったぞ」


「くぅ~ん」


 とことこと歩いてきたリルの頭をなでる。リルは気持ちよさそうに目を細める。こんなかわいい子犬が、いとも簡単にゴブリンを惨殺した。その衝撃に驚いたが、これが野生なんだ。そしてリルは立派に仕事をしたに過ぎない。だったら怖がるより、うんと褒めてあげないといけない。そう思い、リルをわしゃわしゃとなでる。


「よーしよし。すごいな、お前は」


「くぅ~ん」


 これでもか、とリルをなでる。分かってはいたが、やはりリルは強い。今の動きも、気を抜いたら目で追うことは出来なかっただろう。その強さを褒める意味でも、なでる。もふもふで温かくて柔らかい感触だ。しかし、至福のわしゃわしゃタイムを邪魔するものが一人。


「ちょっと、悠。私にもなでさせなさいよ」


 結依だ。横からリルに手を伸ばそうとする。しかし俺はそれに待ったをかける。


「結依。まず魔石を取ってくるのが先だ。取ってきたら変わってやる」


「何ですって!?」


「そうだよな~、リル?」


「くぅ~ん」


 リルに問うと、リルはそう鳴き声を出した。


「ほら、リルもこう言ってるぞ」


 肯定の返事かは怪しいが、とにかくそうやって結依を手で追い払うと、しぶしぶ結依は立ち上がった。


「・・・分かったわよ!もう!」


 そして肩をいからせてゴブリンの死体へ歩いて行った。邪魔者がいなくなった俺は、思う存分リルをなでる。わしゃわしゃ。もふもふ。くぅ~ん。ほう。ここがええのんか。くぅ~ん。そうリルといちゃいちゃしていると、足音を響かせて結依が戻ってきた。戻ってくるなり、叫ぶ。


「取ってきたわよ!悠!代わりなさい!」


「ちぇー」


 結依は半ば俺を押しのけるようにしてリルを奪い取った。そしてリルの身体をなで回す。


「はぁ・・・。ゴブリンを一瞬で倒すなんて。すごいわね、リルは」


「くぅ~ん」


 手持ち無沙汰になった俺は、うーんと身体を伸ばす。そして思う。あれ?リルが倒したら俺の訓練にならなくね?、と。このままリルにおんぶに抱っこはまずい。リルにはちょっと遠慮してもらわないと。よし。次からは俺がゴブリンの相手をしよう。そう決意し、俺は戯れる二人に声を掛ける。


「そろそろ移動するぞ」


「え~?もうちょっとだけ」


 案の定、結依は渋る。しかし、俺は何も意地悪で言っていうのではない。これにはちゃんとした理由があるのだ。


「ゴブリンの血で他の魔物がやってくるかもしれないだろ」


「・・・そうね。分かったわよ」


 結依がリルをなでる手を止め、立ち上がった。リルも気合いを入れ直すように身体を震わせ、わん、と一つ鳴いた。そんなリルに、俺はさっき思ったことを言う。


「さて、リル。お前がすごいのは分かったから、次は俺に譲ってくれ。俺の訓練にならない」


「くーん」


 元々、ゴブリン討伐は俺のレベルアップという側面があるのだ。だというのに、全てリルに任せていては俺の訓練にならない。ギルドのランクを上げるだけならそれでもいいが、俺の目的はランクアップではない。強くなって魔王を倒すことなんだ。


「よい。じゃあいくか」


「ええ」


「わん!」


 仕切り直して、ゴブリン討伐再開。今度は俺を先頭に歩き出そう。そう思った瞬間。


 ガサガサ 


 ガサガサ


 ガサガサ 


 周囲の草が揺れた。しかも、それは一カ所ではない。右、前、左。広範囲の草が揺れている。


「なに・・・?」


 小さくつぶやいた結依のそばにそっと寄る。


「グルルル」


 リルも足下でうなり声を上げている。


 ガサガサ 


 ガサガサ


 ガサガサ 


 草が揺れる。あちこちで。不吉な予感がする。


 ガサ


「ギギギギ」


「ギィィ」


 右の茂みから、ゴブリンが出てきた。数は二匹。


「グルルル」


 リルがその二匹に向かってうなる。正直、二匹なら俺一人でも相手をすることが出来る。しかし、まだ草が揺れている。


 ガサ


「ギィギィ」


「ギギギギ」


「ギィィ」


 前の茂みから、ゴブリンが出てきた。数は三匹。合計五匹。俺とリル。なんとかなるか・・・?しかし、まだ終わりではなかった。


 ガサ


「ギイギイ」


「ギィギィ」


「ギイイイイ」


「ギィィ」


「ギギギギ」


 左の茂みから、ゴブリンが出てきた。数はなんと五匹。合計10匹のゴブリンだ。


「っ!こんなに大量に!?」


 後ろで結依が絶句するのが聞こえた。俺も想定外だ。まだここは森の浅いところのはず。こんなにゴブリンが出るなんて・・・。まさか、血のにおいに引き寄せられて?いや、原因を考えるのはあとだ!

 

「リル。力を貸してくれ」


「わん!」


 まず、俺一人で10匹のゴブリンを相手にするのは不可能だ。袋だたきに遭う未来しか見えない。となると、訓練どうこう言ってる場合ではない。リルと二人で協力するしかない。二人ならば、時間を掛ければ10匹でも倒せそうな気がする。

 しかし問題は、結依だ。討ち漏らしたゴブリン、余ったゴブリンがが結依に襲いかかること。これが問題だ。というのも、結依はこれまでゴブリンと戦ったことはない。俺が倒したゴブリンの解体がメインだった。それは結依がまだ殺傷能力のある魔法を使いこなせないからだ。だから俺とリルはゴブリン10匹を相手にしながら、結依にゴブリンを近づけない、ということも意識しなければならない。

 後ろの結依に目線を送る。すると、目が合った。強い目をしていた。


「大丈夫。私も戦うわ」


「結依・・・」


 解体用のナイフを手に持ち、力強くゴブリンたちを睨んでいる。しかし、その手は震えているように見えた。無理もない。初めてのゴブリン討伐がピンチの場面なのだから。

 だから、俺はこう言った。


「倒さなくてもいい。自分がやられないように、時間だけ稼いでくれ。絶対に助けに来る」


 結依のところにゴブリンを近づけないのは、正直難しいかもしれない。ただ、結依が逃げ回ってくれれば、その間に俺かリルが駆けつけられる。要はすぐにゴブリンにやられなければ、十分助けられるのだ。


「・・・分かったわ」


 小さく結依がつぶやいた。悔しそうにも見えるし、怖さを押し殺しているようにも見える。ただ、今はその感情を推し量っている余裕はない。手中すべきは、ゴブリンの群れ。

 きっと小鬼を睨み、リルに叫ぶ。


「よしっ!リルッ!行くぞッッ!」


「わんッ!」


「「「ギイギイ」」」


 俺とリルはゴブリンの群れへ駆け出した。

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