表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/130

57話 それぞれの思い

 私はベッドに入って、今日の疲れを癒やす。リルとボール遊びをしたせいで、肩が重い。そして横になりながら、これまでことを思い返す。


 私と悠は日本からエリュシオンという世界に連れてこられた。エリュシオンのアルス王国という国の仕業らしい。初めのうちはそこの王城で世話になっていたが、今は城を出てロッシュさんメイさん夫妻のもとでお世話になっている。


 王城を出た理由はいくつかある。まずは人間関係。一緒にエリュシオンに来た前田というクラスメイトがどうも気にくわなかった。日本にいたときからそうだが、私にも悠にも嫌がらせを続けてきた。そして王城での模擬戦まがいの暴力。あれが許せなかった。あんなやつのそばに痛くなかった。だから悠と一緒に城を出た。

 人間関係の他にも理由はある。それは貴族たちが信用出来ないことだ。この国のトップは王のはずだ。召喚されたとき、一番初めに会った王様は誠実そうだが、病弱にも見えた。だからだろうか。公爵が幅をきかせている。王を蔑ろにするという時点で信用できない。そしてたぶんあの公爵は私たちを道具とした思っていない。それは公爵の息子、ビルクリフの言葉で確信に変わった。このまま城にいても使い潰されるだけだと思ったのだ。


 城を出てお世話になっているベイル夫妻は実にいい人達だ。嫌な顔せず私たちを引き取ってくれたし、快適に暮らせるよう気に掛けてくれるし、私には魔法、悠には剣の訓練まで付けてくれる。いくら感謝しても仕切れない。メイさんとたちの訓練は厳しいが、私たちが日本に帰るためには必要なことなので、必死について行っている。なにより悠も頑張っているのに私だけ無様な姿は見せられない。

 ベイル家では魔法と剣もそうだが、冒険者として活動もしている。簡単に言うと、街の住民の困りごとを解決していく仕事だ。そこで印象深かったのが、カーネリア孤児院の子供たちだ。子供の面倒をみるという依頼だったが、みんなかわいくて、癒やされた。特にフィーリアちゃんという女の子が私とついでに悠に懐いてくれた。孤児院にいる間は私か悠にべったりだった。かわいかった。ちなみに、フィーリアちゃんはエルフという種族らしい。他にも獣人のケインくんとサラちゃんもいた。私たち人間とは外見的特徴が違うエルフと獣人だが、違いはそれだけだ。中身は普通の子供たちである。


 さて、冒険者の依頼では魔物討伐の依頼も受け始めた。つまり、生き物を殺す依頼である。初めギルドの昇格試験で兎を殺したとき、罪悪感に襲われた。あのときの手の感触は一生忘れないだろう。しかし、日本に帰るためにはそれは乗り越えなければならない。魔物を殺せなければ魔王討伐は出来ない。魔王討伐が出来なければ日本に帰れないからだ。


 昨日も魔王討伐に行った。そこでなんと、リルという子犬を拾った。私と悠が二人で森へ行ったときに、ひょっこり現れたのだ。当然、初めは警戒した。魔物が巣くう森にいる犬。ただの犬であるはずが無い。しかし、リルを見た途端、同時に私の胸を打ち抜く何かがあった。一目惚れではない。ただ、心が浮き立つような、そんな奇妙な感覚になった。

 リルは会った当初から、不思議なくらい私たちに懐いてくれた。私もそれにほだされ、すぐにでも連れて帰りたいくらいに思った。しかし俺たちは居候だから、と悠に諭され、いったんは諦めて帰途についた。ところが、なんとリルはこっそり私たちの後を付けてきたのだ。こうなったらもう何が何でもロッシュさんに許可をもらうしかない。必死の思いで頼み込み、無事に飼ってもいいと許可をもらえた。あのときはエリュシオンに来てから一番うれしかったかもしれない。


 そして今日。王都の外の草原でリルと遊んだ。そこで、リルの驚きの能力が判明した。目で追えないくらい速い足。悠を飛び越えるぐらいの跳躍力。悠いわく、頭もかなり賢いらしい。とにかく、普通の犬ではあり得ない動きをしていた。悠と戦って、圧勝していたくらいだ。悠だって、真面目に運連をやっているからそこそこ動けるはずなのに、である。

 ロッシュさんは、リルは私たちと一緒に戦えると言っていた。初めはリルを危険な目に遭わせたくないと反対だったが、これを見てそうも言えなくなった。私たちが戦うような相手に、リルは苦戦すらしないだろう。むしろリルと戦ったら、私たちの安全が確保できる。そう思わされた。それに

リルも私たちと一緒に戦うことを望んでいるみたいだ。言葉は通じていないけど、そう訴えているような気がした。


 出会って2日だが、リルには相棒とか家族とか、それに近い感情を抱く自分がいる。そしてそれに驚きこそすれ、嫌な気持ちはない。警戒心が薄いかもしれないが、リルのことだったら信じられる。何でだろう。理屈では分からない。分からないが、訴えるんだ。リル。また会えてよかったって。


 はぁ・・・。リルは今日も悠の部屋か。悠のやつ、リルを独占しすぎじゃないかしら・・・。そう思いながら私は眠りに落ちていった。




☆☆☆




 ユウとユイが寝静まったあと。わしとメイは夫婦水入らずで晩酌をしていた。話題はユウとユイのこと。異世界から召喚されてしまったかわいそうな子たち。ひょんなことからわしらが引き取ることになったが、二人とも素直で良い子たちじゃ。真面目で気遣いも出来る。それどころか、わしにはハンカチ、メイには花のプレゼントまでしてくれた。本当に良い子たちじゃ。もっとも、お互いのことになると素直になれないのが玉に瑕、かの。


 わしはユウに剣を、メイがユイに魔法を教えている。ユウは正直、才能の塊じじゃ。本人はどうもその自覚はないが。しかし、あの分じゃ、すぐにわしを追い抜くじゃろう。そして、ユイも魔法の才能があるらしい。まったく、恐ろしい二人を引き取ったもんじゃ。じゃが、それがわしらの生活の張りになっている。あの二人がどこまで強くなるか、見てみたいもんじゃ。願わくば、二人が無事に成長し、無事に元の世界へ帰れますように。それはそれで、寂しいが、の。


 さて、話は昨日ユウとユイが拾ってきた子犬に移った。リルと名付けられた子犬だ。


「あなた。リルは何者でしょうか?」


 メイがそうつぶやいた。わしも同じ思いじゃ。一目見ただけで分かった。あの見に宿す膨大な魔力。ただの魔物ではない。


「さて、な・・・。わしも何の魔物か分からん。ホワイトファングでもないし、グレイウルフでもない。あの動きを見たら、もっと上位の・・・。それこそ、フェンリル・・・。いや、考えすぎか」


 フェンリル。かつて魔王を討伐した勇者と聖女のお供。伝説上の魔物だ。主以外には決してなびかず、忠実で、仲間思いだったという。しかし勇者と聖女が魔王と相討ちになったあと、忽然と姿を消してしまった。フェンリルの寿命は一説によると1000年を越えると言われているから、ひょっこり現れても不思議ではないが・・・。さすがに妄想が過ぎるか。どうやら酒が回ってきたらしい。

 しかし、それぐらい強い魔物である。だからこそわしは最初警戒した。それはメイも同じなはず。しかしメイはあっさりリルを認めた。


「メイ。おぬしはすぐに飼ってもよいといっておったの。どうしてじゃ?」


 そう尋ねると、妻は目をぱちくりとさせ、さも当然のように言った。


「え?だってかわいいじゃないですか」


「お、おう・・・。そうじゃな」


 わしの口から戸惑った声が出た。出会って約40年経つが、こういうおおらかというか、適当というか、脳天気なところはマダ慣れない。まあ、そこが彼女の魅了でもあるが。と、メイはすこし真面目な顔になって、


「それに・・・。悪い子には見えませんでしたから。ユウさんとユイさんと、リルが、強い絆でつながっているように見えたんです。会ったばかりのはずなのに、ね。どうしてでしょう。私も年かしら」


「ふっふっふ。そうか・・・」


 強い絆、か。言い得て妙じゃな。初めてリルを連れて帰ったときから、ユウもユイもリルを見つめる目は慈愛に満ちておったし、リルもユウに抱えられて完全に身を任せ、甘えた目でユウとユイを見つめていた。だからわしも飼うのを許した。得体の知れない魔物だが、危険ではないだろうと。


「はい。とにかく、お二人にとっていい出会いでしたね」


「そうじゃな。なにかあってもリルが守ってくれるじゃろう」


 ユウもユイもわしらにとってもう家族みたいなもんじゃ。子供がいないわしらにとっては子供同然とすら感じる。その二人を、リルは守ってくれるだろう。


「さて、明日から身体能力強化の魔法でも教えるかの?」


「ええ。そう言うと思って、ユイさんにはもう呪文は教えてありますよ」


「はっはっは。さすが我が妻じゃ」


「それはもう。出会って40年ですから」


 いくつになっても、お互いの思いが通じ合うというのはうれしいものじゃ。わしと妻は、ユウ、ユイ二人の成長を祈ってグラスを合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ