表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/130

56話 リルの能力(2/2)

 午前中はリルとボール遊びをした。リルの能力を測るためのものだが、ロッシュさんメイさん含め楽しんでいたのでボール遊びと表現してもいいだろう。そして昼食。俺たちはメイさんが作ってくれたサンドイッチを頬張り、リルは干し肉をかじっている。


「すごいですね、リルって。走るのも速いし、ジャンプ力も高いし・・・」


 俺は改めてリルについて話した。午前中、リルはボールへ向かうときに足の速さ。キャッチする時にジャンプ力の高さを見せてくれた。その能力は俺の予想を上回るものだった。しかしロッシュさんはあまり驚いていないようで、平然と頷いた。


「まぁ、魔物じゃからの。普通の動物より能力は高い。しかし、その中でもリルは特別優れているようじゃ。この分じゃ、おぬしらのよき助けになるじゃう」


 俺たちの助け。その言葉を聞いて、ドキッとした。俺たちの助けということは、一緒に戦うということだろう。


「やっぱり、リルも一緒に戦うんですか?」


 いくら能力が高くても、やはり気は進まない。こんなにかわいい子を危険な目に遭わせたくない。万が一があると思うと気が気でない。だからロッシュさんの言葉が冗談であってほしいと薄い期待を声m手聞き返した。


「そのほうがよいじゃろう。わしはおぬし、ユイ、リルの三人で戦うのがよいと思うぞ」


 しかしロッシュさんは至極真面目にそう答えた。それを聞いて、結依の顔も曇った。


「でも、リルを危ない目に遭わせたくないです」


 結依も俺と同じく、気乗りしないようだ。しかし、結依の言葉を聞いてロッシュさんはいたずらっ子のように笑った。


「ふっふっふ。それは杞憂じゃと思うぞ」


「「え?」」


 そして、驚きの提案をした。


「ユウ。午後はリルと戦ってみなさい」


「戦う?」


「うむ。といっても武器は使わんでいい。ユウがリルに手で触れたらリルの勝ち。リルがユウの身体に身体を当てたらリルの勝ち。こういうルールで戦ってみろ」


「わ、分かりました」


「ふふふ。これでおぬしよりリルの方が強かったら、おぬしの心配は杞憂になるな」


「そうですけど・・・」


 というわけで、俺とリルは戦うことになった。確かに俺より強かったら、俺が心配するのはおこがましいってことになるけど・・・。さすがに負けるとは思えないが、とりあえずやってみよう。


「いいか、リル。お前は俺の手から逃げるんだ」


「わん!」


「で、俺が触るより先に、俺の身体に触れるんだ」

 

「わん!」


 分かったか分かっていないのか。返事だけは元気がいい。とにかくやってみよう。どちらが能動的に相手に触れるか。そういう勝負である。


「リル。頑張ってね」


「おい。リルの応援かよ」


「当たり前じゃない。悠、リルに怪我させたら許さないわよ」


「・・・へいへい」

 

 過保護な結依にため息を吐きつつ、リルから離れて立つ。ロッシュさんが審判役だ。そのロッシュさんが手を上げ、始め、という声と共に手を下ろした。


「よしっ。いくぞっ」


 俺はリルに向かって駆け出した。狙うはリルの小さな身体。先ほどのボール遊びを見ていると油断は出来ない。でもやっぱり犬だ。簡単に終わるだろう。 

 そう思い、リルの身体に手を伸ばす。


「わんっ!」


 ひょいと。リルは軽く左にジャンプして、いとも簡単に俺の手を逃れた。

 うん。まあこれは想定内だ。リルがすばしっこいのは分かっていたら。


「よっ」


 一気に距離を詰める。あっという間にリルの目の前に。そう。俺の方が身体が大きい。だから一気に距離を縮められるのだ。身体が大きいというのはそれだけで大きなアドバンテージである。


「今だっ」


 手を伸ばす。リルのふわふわの体毛がすぐそこに。さぁ、勝負は決まったーー


「わふっ」


 ところが、またもリルは右に飛んで俺の手を躱した。そのまま距離を取られる。むっ。あと少しだったのに。


「わんっ!」


 こんどはリルの方から走ってきた。まっすぐ俺の方へ向かってくる。分かっていたが、とても速い。速いが、対応できない速さじゃない。

 さて、どこに来る?


「わん」


「っ!?」


 かと思ったら、リルの姿がかき消えた。いや、右だっ!


「くっ」


 身をよじる。


「わふっ」


 目の前を、リルが飛んできた。危ねっ。あのままぼーっと突っ立っていたら、リルに体当たりされて負けていた。


「ふぅ」


 強い。速さもそうだが、頭がいい。リルが消えたと錯覚したのは、途中でリルがスピードアップして、俺の目がついて行かなかったからだ。そんなことをするぐらいリルはしたたかなのか。油断できない。そしてそうなると、今見せている速さが全力とも限らない。


「わん!」


 リルが走って俺の方へ突っ込んでくる。さあ、今度はどっちだ?じっと集中する。深く集中する。やがて、リルの動きがゆっくりに見えてきた。そして雑音も消えた。

 足の動きがよく見える。着地した右足。力がこもっている。

 右かっ!?


「ふっ」


 半ば、勘で身をよじった。そのすぐ横を、白い風が通り過ぎた。速すぎる。目で追えない。よく避けられたもんだ。


「今度はこっちからっ」


 受け身だと勝てない。翻弄されるだけだ。ならば、攻めるしかない。そう思い、俺はリルに向かって走り出した。


「わん!」


 リルも俺の方へ向かってくる。あっという間に距離が縮まる。


 と、リルが前足に力を入れたのが見えた。


 どこに来る?


 上だ!


 バッ、とリルが飛び上がった。


 白い身体が宙を舞う。


 俺の腹に飛び込んで来るつもりか。


 いや。もっと高い。


 俺の胸の高さまで飛んでいる。


 いや。もっと高い。


 頭。


 いや、もっと高い。


「え?」


 完全に俺を飛び越えた。


「あっ」


 後ろだ!俺を飛び越えて、俺の背後を取った!


 慌てて振り返る。


 しかしもう遅い。


「わふっ!」


「わっ」

 

 襲い来る柔らかな衝撃。

 中途半端に振り返った俺の胸に、リルが飛び込んできた。その勢いに押され、尻餅をつく。


「くぅ~ん」


 リルは俺の胸に乗り、顔をペロペロとなめてきた。そして、悟る。 


「ま、負けました」


「わん!」


「そこまで!勝負あり!勝者リル!」


「すごいじゃない!リル!」


 ロッシュさんの判定と、結依の歓声が聞こえる。そしてリルは特に勝利を誇るでもなく、相変わらず俺の顔をなめている。


「・・・。はぁ・・・」


 ため息をつきながらリルをあやす。悔しい。手も足も出なかった。思ってた以上に強かった。

 すると、そばで見守っていたロッシュさんが俺たちのそばにやってきて、言った。


「だから言ったじゃろう?杞憂じゃと。リルはおぬしよりずっと強い」


「わん!」


 本当に。完敗だった。身体能力も、頭の良さも、体力も、全てが想像以上だった。ああ。セナさんが言っていた言葉を思い出す。過信しないでくださいね、と。リルは所詮犬だと過信していたのは俺だ。リルはただの犬ではない。魔物だ。・・・だとしても、強すぎないか?


「魔物ってどれもこれもこんなに強いんですか?」


「いや、リルは特別強いと思うぞ。わしも驚いた」


「そうですか・・・」


 それはよかった。このリルで普通のレベルだったら、心が折れていたかもしれない。


「リルはおぬしらのよきパートナーになるじゃろう。以前のハイゴブリンのような想定外の強敵が現れても、リルがおれば守ってくれるやもしれんな」


 俺たちが手も足も出なかったハイゴブリン。リルなら倒すことが出来るんだろうか。いや、出来るんだろうな。ハイゴブリンの攻撃は見えたが、リルの動きは時折目でも追えなかったから。しかもリルはまだまだ余力がありそうだし。


「はぁ・・・。リルを危険な目に遭わせたくないって言ってたけど、リルがいた方が安全になるんだな・・・」


「わん!」


「ま、そういうことじゃな。魔王討伐に向けてリルはいい戦力になると思うぞ」


 いい戦力。というか、このままじゃ完全に俺たちが足を引っ張る形になりそうだけど。でも、リルが一緒に戦ってくるなら、これ以上心強いことはない。

 ため息をついて、リルを抱える。目をじっと見つめると、リルはかわいらしく首をかしげた。


「リル。俺たちは魔王を倒したいんだ。お前は戦うのは嫌か?」


 ただ、いくらリルが強いと言っても、無理矢理戦わせることはしたくない。そう思って聞くと、


「わふぅ~?わふわふ」


 コテンと首をかしげ、ブンブンと首を振った。意味が分かっていないのか、否定しているのか。

 続けて、俺はこう言った。


「もし俺たちと一緒に戦ってほしいって言ったら、協力してくれるか?」


「わん!」


 力強く返事をしてくれたように思う。これは・・。リルは俺たちと戦ってくれると思っていいんだろうか。

 そして、結依もしゃがんでリルに視線を合わせる。


「リル。私たちと一緒に戦ってくれる?」


「わん!」

 

 結依の言葉にも、元気よく鳴いて答えた。肯定の返事のように思う。


「よし。リル。俺たち一緒に戦ってくれ」


「わん!」


 最後にもう一度聞くと、やはり力強く鳴いてくれた。俺の勘違いじゃなければ、リルは俺たちと一緒に戦ってくれるはずだ。

 しかし、リルに頼りっぱなしといういうのも違う。悔しいし、情けない。リルにだけ危険な目にも遭わせたくない。だから、こう決意を述べた。


「でも、いつかお前を守れるぐらい強くなってみせるからな」


「くーん」


 ペロペロ。リルは再び俺の顔をなめだした。結依がうらやましそうに見ているが、こればっかりは譲ることは出来ない。

 こうして、リルは俺たちの相棒になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ