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55話 リルの能力(1/2)

「うーん」


 ゆっくりと意識が覚醒してくる。朝だ。


「ふぁぁ~・・・。ん?」


 あくびを一つしたところで、腹に重みを感じた。なんだ?まさか、金縛りか!?と思った次の瞬間、


「わん!」


 腹から鳴き声が聞こえた。それで原因が分かった。


「・・・ああ、リルか」


 金縛りではない。リルが腹の上に乗っていただけだ。気が抜けて、ゆっくり息を吐く。

 昨日森で拾った白い子犬。やけに懐いてきたのでベイル家で飼わせてもらうことにしたのだ。そのリルは俺の腹の上でお座りし、尻尾をゆらゆら振っている。かわいい。思わず手を伸ばし、もふもふの頭をなでる。


「く~ん」


 リルは甘えた声を出し、顔の方へにじり寄ってきた。


「よーし、よし」


「く~ん」


 さらに頭をなでると、ペロペロと俺の顔をなめてきた。くすぐったくて、仕返しの意味を込めてさらにわしゃわしゃと頭をなでる。すると、リルはさらにじゃれついてきた。


 もふもふ

 ペロペロ

 もふもふ

 ペロペロ

 もふもふ

 ペロペロ

  ・

  ・

  ・


 ああ、いい。癒やされる。もふもふとペロペロの応酬。天国はここにあったのだ。ずっとこのままでいい。

 だが、それを崩す邪魔者は、突然現れるのだ。


 コンコン


「悠?起きてる?入るわよ」


 結依が俺の返事を待たずに部屋に入ってきた。そしてリルを見つける否や、さっとかけより抱き上げてしまった。


「あ・・・」


 腹の上の幸せの重みが消えた。しかし結依はそんな俺に目もくれない。


「おはよう、リル」


「わん!」


 ああ、リル。戻ってきておくれ。だが俺の願いもむなしく、結依はリルを抱えたままベッドから立ち去り、


「朝ご飯出来てるわよ。速く降りてきなさい」


 そう言い残して部屋を出ていった。残されたのは俺一人。


「・・・起きるか」


 最後こそ結依に邪魔されたが、今日はいい朝だ。ペットというのは素晴らしいな。




「さて、今日は草原にも行くか」


 朝食の席で、ロッシュさんがそう切り出した。ちなみにリルは床で肉を頬張っている。焼いた肉と生肉の両方を差し出し、焼いた肉を選んだ。野生のくせに贅沢な奴である。


「草原ですか?」


 俺がそう問うと、ロッシュさんは頷いた。


「ピクニックがてら、リルも連れてな。リルがどの程度動けるかを見てみよう。もしかしたらおぬしらの従魔として一緒に戦ってくれるかもしれんしの」


 なるほど、そういう意図もあったのか。というか、リルって魔物だったんだ。その辺の区別は全然つかない。思わずリルを見る。リルは自分が話題に上がっているのも知らず、のんきに肉を頬張っている。かわいい。

 しかし、正直、リルを危ない目にあわせたくない。一緒に戦うなら、どうしても危険な場面に遭遇することもあるだろう。そう思うと一緒に戦ってほしいとは思えない。


「心配か、ユウ?」


「ロッシュさん・・・。はい・・・。リルを危険な目に遭わせたくはないです」


「私もです。いざというとき、リルを守り切れるか・・・」


 俺も結依の言葉に賛成だ。リルに危険が迫ったとき、俺たち二人で守れるだろうか。俺たちは最近戦い始めたばかりなのに。

 しかし俺たちの心配をよそに、ロッシュさんはにやっと笑った。


「ふふっ。しかし、心配するな。わしの勘では、リルはかなり強いぞ。むしろ、おぬしらよりも・・・」


 俺たちよりも・・・まさか、強い?ちらっとリルを見る。のんきに肉を頬張っている。このかわいらしいわんちゃんがそんなに強いのか?自分たちが強いとは思わないが、リルが強いことはさらに想像できなかった。


「さて、ピクニックに行くならお弁当を作りましょうかね。あ、そうだ。物置に小さいボールがあったはず。ユウさん。それも持っていきましょう」


「わ、分かりました」



 ということで、俺たちは王都の外の草原にやってきた。


「さっそくじゃが、リルの能力を測ってみようかの」


「わん!」


「ユウ。このボールを投げてみろ。で、リルにそれを取ってこさせるんじゃ」


 ロッシュさんからボールを手渡された。革製の柔らかいボールだ。大きさは野球ボールぐらい。それを投げてリルに取ってこさせる。よくある犬との遊びだ。


「分かりました。・・・リル、いいか?俺がこのボールを投げるから、走って取ってくるんだぞ」


 これでリルの足の速さが分かる。


「わん!」


「よし。行くぞっ」


 えいっ。まずは5割くらいの力で軽くボールを投げる。放物線を描きながら遠ざかっていく。


 ビュン


「え?」


 速いっ!リルが飛び出した。白い残像が見える気がした。そのまま目にもとまらぬ速さで駆けていき


「「え?」」


 俺と結依の口があんぐり開いた。

 というのも、リルが飛び上がり、空中でボールをキャッチしたのだ。それも、ただジャンプしたのではない。俺の身長ぐらい飛んだのではないだろうか。

 リルはそのままスタ、ときれいに着地した。


「う!う!」


 ボールを咥えたリルが戻ってきた。そして俺の足下にポトンと落とし、褒めて褒めて、とでも言うように尻尾を振りながら俺を見上げる。


「お、おお・・・。すごいな、お前」


 若干引いた。しかし、すごい。よくやった、とわしゃわしゃ褒める。


「わん!わん!」

 

 リルはうれしそうに身を寄せる。まったく、甘えん坊だな。まあそこが可愛いんだけど。


「すごいわね、リル・・・」


 結依も驚きながら、リルを褒めた。


「うむ。まあこのぐらいはやるであろうと思っておった。ユウ。今度は全力で投げてみてくれ」


「はい。リル。もう一度やるぞ」


「わん」


 ということで、再びボールを握る。今度は全力で。

 ゆっくり息を吐いて、振りかぶる。テレビで見た遠投の要領で、斜め45度でボールを放る。


「よっ」


 ボールは勢いよく手から離れ、あっという間に小さくなった。


 ビュン


 俺の元からリルが勢いよく走り出した、普通の犬ではあり得ない速度。リルは一瞬でボールに追いつくと、力強く地面を蹴り。高く飛ぶ。そおままパクッとボールを咥え、華麗に着地。

 速度、跳躍力は明らかに普通の犬を凌駕している。そして目測も完璧で、俺の指示を理解する賢さも持ち合わせている。確かにこれなら、魔物が従魔として重宝されるのも分かる。もっとも、リルを戦わせるかはまだ分からないが。


「う!う!」


 ボールを咥えて戻ってくる。その表情は誇らしげに見える。


「すごいわね、リル」


 戻ってきたリルを、結依が出迎えた。俺も待ち構えていたのだが、結依が前に出てリルを抱きしめてしまった。


「わん!わん!」


 結依はわしゃわしゃとリルをなでる。リルもまんざらでもなさそうだ。


「あなた。すごいですね、リルは」


「うむ。しかもまだまだ余裕そうじゃしの」


 メイさんとロッシュさんも後ろでそう褒めている。歴戦の二人から見ても、リルの能力は優れているらしい。それは素直に誇らしい。


「さて、今度はわしに投げさせてくれんかの?」


「分かりました。リル、今度はロッシュさんのボールを取ってくるんだぞ」


「わん!」


「よーし、行くぞ、リルよ」



 こうして午前中はボールを用いてリルの能力を測った。交代でボールを投げてはリルが取ってくる。俺たちも全力で投げたが、ことごとくリルに空中キャッチを許した。どんなボールでもリルが空中でキャッチするもんだから、もはや笑うしかない。でもなんだかんだ、ロッシュさんもメイさんも含めてみんなで楽しんだ。

 そして午後にはリルのさらに驚きの能力が判明するのだった。

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