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53話 新たな出会い(1/2)

 緊急招集があって、俺と結依はハイゴブリンという強敵と遭遇した。その強さに苦戦し、恐怖したが、クリスの助けもあってその場を乗り切った。

 ちなみに、なぜ緊急事態、つまりオークの群れが北上し、その余波でゴブリンの群れも北上するという事態が起こったのか。詳しくはよく分からないらしい。森の奥まで行ったロッシュさんは、オークの群れがなにかしらの強敵から逃げて北上したと推測していたが、その強敵は見つけられなかったらしい。ただ、オークの群れもがブリンの群れも元通りになったので、緊急事態は解除。森も通常通りになり、依頼も受注可能になった。


 その後はロッシュさんたちと訓練したり、森へ入ったりと、経験を積んでいった。2~3回ゴブリン討伐の依頼を経験すると、普通のゴブリン相手なら数匹同時に相手取れるようになった。最初は兎一匹殺すのにひぃひぃ言っていた。そこから考えると進歩したものである。

 そして、緊急事態から約10日後。俺と結依、二人で森へ入ることになった。若干の緊張はあるが、森の浅い部分ならそうそう遅れをとらないという自信も付いてきた。二人だけでゴブリン討伐。大丈夫。俺たちならできる。


「「ただいま帰りました」」


 結果として、俺たちは二人でゴブリン討伐を成し遂げた。何事もなかったといえば嘘になるが。


「おお。お帰り。無事じゃった・・・か?」


 ロッシュさんの言葉は、だんだん尻すぼみになり、俺の腕に視線が注がれる。そう。何事もなかった訳ではない。それは、俺の腕に答えがある。


「なんじゃ、それ?」


 といっても、怪我をしたわけではない。


「まあ、かわいいわんちゃんですね!」


「わん!」


 そう。俺は子犬を抱えて戻ってきたのだ。なぜこうなったのか。話は今朝まで遡る。



 

 俺と結依は朝からギルドに来ていた。ロッシュさんとメイさんはいない。二人だけで依頼を受けるからである。俺と結依の二人でゴブリンを討伐するというのが今日の目標だ。

 俺はD級の掲示板からゴブリン討伐の依頼書を剥がし、受付に持っていく。ギルドカードと依頼書を渡すと、


「いらっしゃいませ!あら?タカさん!イチカさんも!今日はお二人ですか?」


 受付にいたのはおなじみ、セナさんである。頭の上にある耳がかわいらしい獣人の女性だ。客が俺たちだと分かるとにっこり微笑んでくれた。


「はい。二人でゴブリン討伐に行こうと」


「そうなんですか!?無理はしないで下さいね!」


「はい。ご心配ありがとうございます」


 結依は堅くそう言うが、セナさんは少し寂しそうな顔で


「自分の実力を過信して身を滅ぼす冒険者の方を何人も見てきましたから・・・」


 特にギルドは成果報酬型だ。依頼を受けなければお金を稼げない。そしてより多くのお金を得ようと思ったら、難しい依頼を受けることになる。しかし、身の丈に合わない依頼は死に直結する。自分ならどのレベルまで出来るか、客観的に判断するのは難しい。難しいが、出来なければ死ぬ。冒険者として生きるためには不可欠の技能だ。


「焦らず、一歩ずつ進んで下さいね」


 そう言いながら手際よく作業を終わらせ、カードを返してくれた。


「ありがとうございます」


 過信しないように。全く以てその通りだ。セナさんの忠告、有難く受け取っておこう。


「タカさん、イチカさん。気をつけて行ってらっしゃいませ」


「はい。いってきます」


「・・・いってきます」


 最後に笑顔でセナさんに見送られ、ギルドを後にする。

 王都を歩きながら、結依が言う。


「今日もセナさん、可愛かったわね」


「お、おお・・・」


 こういうときは何と答えたらいいんでしょう。はいと答えたら変態、いいえと答えたら失礼なやつになる。

 どうする?逡巡のすえ、導き出した答えは


「そ、そう言えば、ちゃんと準備は出来てるか?」


 第三の選択肢。話をそらすことである。戦略的撤退とも言う。

 結依はじとっとした目を向けた後、


「・・・ええ。大丈夫よ。水も、非常食も、回復薬も。きちんと持ってきたわ」


 ため息をつきながら言った。よし、作戦成功。見事悪魔の二択から逃げることに成功した。


「さすがっす。結依さん」


「見え見えのお世辞はやめなさい」


「あたっ」


 ぺし、と肩をはたかれた。そんな話をしながら、俺たちは王都から森へ歩いて行った。




「じゃあ、入るぞ」


「ええ」


 森へ着いた。ここからは真剣だ。おふざけは一切無し。誇張抜きに命がけの活動になるからだ。結依と真剣な顔で頷きあい、森へ一歩を踏み出す、


 結依と二人、ゆっくりと森を歩く。木の枝を避け、落ち葉を踏まぬようにし、静かな森を奥へと進んでいく。


「「・・・」」


 他の魔物の気配はない。魔物だけでなく、何ものの気配もしない。その静けさが逆に不気味でもある。ともすれば俺以外何者も存在しない世界に迷い込んだような。そんな中で、後ろから聞こえる結依の足音と息づかいが現実に引き戻してくれる。

 そんな調子でしばらく森を歩く。すると


 ガサガサ


 「!」


 さっとその場で止まる。茂みが揺れた。まずは隠れよう。しかし


「ギャギャ!」


「!」


 隠れる間もなく、何かが飛び出してきた。

 緑の小人。手に細長い木の枝。ゴブリンだ。幸いなことに、数は一体。そして、俺を殺すかのように、全力で向かってきている。


「はっ」


 腰の剣を抜く。落ち着け。先手を取られたのは確かだが、慌てる相手ではない。そっと剣を構え、ゴブリンを迎え撃つ。


「ギュギュギュ!」


 ゴブリンが猛然と突っ込んでくる。足も速くない。リーチも短い。

 じっと、待つ。


 今だ!


ブン


 剣を一閃。


「ギャッ」


 短い悲鳴を上げて、ゴブリンは倒れ伏した。首への一撃。即死だっただろう。


「ふぅ」


「お疲れ様、悠」


 結依が後ろからねぎらってくれた。俺は照れくさくて、ぶっきらぼうに返す。


「おう。解体頼めるか?」


「もちろん」


 結依はナイフを取り出し、ゴブリンの胸に当てる。そのままスムーズに腹を割き、内臓をあらわにする。普通の女子高生が見たら顔をしかめるような光景だが、結依は平然としている。


「あった。これね」


 血があふれ出ている腹に手を突っ込み、魔石を取り出した。最初の頃に比べたら、ずいぶんと慣れた手つきになっている。


「上手くなったな、解体」


「そうね。段々と気持ち悪さも薄まってきたわ。それを言うなら悠も慣れたんじゃない?」


「まあな。躊躇わずに殺せるようになってきたよ。・・・それがいいことかは分からないが」


「・・・ええ」


 少し重い沈黙が降りた。躊躇わずに殺せること。死体を解体出来ること。この世界で生きていくためには必要なことだ。そう。それは間違いない。ただ、怖くもある。命の重み。それを忘れてはいないかと。そして、今は大丈夫でも、この先どうだろうと。

 チラリと結依を見る。結依は暗い顔で考え込んでいた。おそらく、同じ事を考えている。自分たちは変わってしまった。簡単に生き物を殺せるようになった。それがいいのか悪いのか。そしてこの先どう変わっていくのか。

 ぐるぐると頭の中で考える。


 ガサガサ


「「!」」


 茂みが揺れた。

 慌てて結依を下がらせ、武器を構える。

 油断した。考え事に夢中になって、警戒をおろそかにした。いや、そもそもすぐにこの場から離れるべきだったんだ。血のにおいに釣られて他の魔物が来るかもしれないのに。

 待て。反省は後だ。今はこの音の主への対処が最優先だ。


 ガサガサ


 茂みの中から、何か出てきた。それはなんとーー

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