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52話 緊急事態(2/2)

「ゴブリンだっ!」


「多いぞっ!」


「やべぇっ!」


 誰かが叫んだ。そう。森の奥から、ゴブリンが現れた。それも一体ではない。軽く10体、下手したら20体はいる。それぞれさびれたナイフを持っていたり、木の棒を持っていたり。そして石を持っている奴も。 

 どうやら先ほどの投石はこいつらの仕業らしい。頭一つ分大きな身体を持っているゴブリンだ。


「群れだっ!」


「お、おい待てっ!あいつ!」


「ハイゴブリンだっ!なんでこんなとこにっ!」


 ハイゴブリン?なんだそれ。俺が首をひねっていると、ベッカーさんが教えてくれた。


「あいつだ。大きいのがいるだろ。あいつは普通のゴブリンより数倍強い。正直、厳しい戦いになりそうだぜ」


 ベッカーさんの指の先を見ると、あの石を持っている個体だ。確かに他のゴブリンとは違い、背が高く肉付きもいい。痩せていると言うよりは引き締まった体つきだ。あれがハイゴブリン。どうやら単なる個体差ではなく、種族が違うゴブリンらしい。そう言われると、普通のゴブリンに比べて強そうだ。


「落ち着け!ここを突破されるとこいつらが王都まで行くんだぞ!死ぬ気で倒せ!」


「「「「おお!」」」」


 ベッカーさんの檄に、冒険者たちは威勢のよい返事で答える。そして、


「「うおおおぉぉぉ!!」」


 俺、結依、ベッカーさん以外の冒険者がゴブリンに挑みかかる。ハイゴブリンを除いて、冒険者とゴブリンの乱闘があちらこちらで行われ始めた。出遅れた俺たち。いや、出遅れたというよりは、ハイゴブリンの眼光に射すくめられて動けなかった。


「ギュギュギュ」


 奴は俺たち3人の方へ、ゆっくり歩いて来る。


「ギュゥウウウ」


 完全に俺たちに狙いを定めたらしい。


「ちっ・・・。D級3人でハイゴブリンか・・・」


 うなるようにベッカーさんがつぶやいた。強敵のハイゴブリン。厳しい戦いを暗示するように、ベッカーさんの声が震えている。

 ちら、と他の冒険者たちを見る。


「とやっ!」


「ギュゥ」


「せいっ!」


「ギギッ」


 皆ゴブリン相手に苦戦している。援軍は見込めない。


「ギュゥウウウ」


 ゆっくりとハイゴブリンが近づいてくる。逃げられない。いや、逃げてはだめだ。俺たちの後ろは王都。

 ゴクリ。隣のベッカーさんがつばを飲み込む音が聞こえた。そして彼はゆっくりと口を開く。


「まずは俺が行く。2人は機を見て俺を援護してくれ」


「ベッカーさん・・・」


 ベッカーさんの声はやはり震えていた。怖いのだ。ハイゴブリンが。それでも自分が先陣を切ると言う。


「俺はこう見えてベテランなんだ。俺に任せろ」


「・・・」


 うんとは言えなかった。ただ、


「うおおおおおお!!!」


 ベッカーさんが飛び出した。

 剣を振り上げ、ハイゴブリンに迫る。


「くらえぇぇっ!」


「ギュギュッ!」


 ハイゴブリンは腕を振り上げた。それは殴る前兆の動作。その腕が振り下ろされる先は、ベッカーさん。


「危ないっ!」


「うおっ!」


 ブン、と振り下ろされた腕を、ベッカーさんはすんでの所で避けた。


「速いっ」


 普通のゴブリンと動きが段違いだ。なるほど。ベッカーさんが恐れるわけだ。今のハイゴブリンの動き、ロッシュさんと遜色ないように見えた。


「ギュギュギュギュ」


 ハイゴブリンが再び力を入れて拳を握る。そしてまっすぐベッカーさんに向けて繰り出す。

 まずいっ!ベッカーさんがやられる!


「はぁぁぁ」


 恐怖心を押し殺し、ハイゴブリンに向かって駆け出す。狙うは首。奴を一撃で屠る!


「ギィィ!」


 奴が俺に気付いた。目標をベッカーさんから俺に変えた。


「ギィィ!」


 シュッ、と拳を振るう。


「はっ」


 攻撃をやめ、振るわれた拳を避ける。俺の目の前を拳が通り、風圧で前髪が少しめくれた。


「ギィギィギィ!」


 その後もハイゴブリンは拳を振るう。俺とベッカーさんはそれをかろうじて避ける。一対二。数の上では俺たちが有利だが、むしろ俺たちが苦戦している。


「ギィィィ!」


「おわっ」


 攻めようと思っても避けられ、反撃される。ハイゴブリンの拳を避けるので精一杯だ。そんな攻防が続く。


「タカ!大丈夫か1?」


「はい!ベッカーさんは!?」


「俺もまだまだこっからだぜ!」


 そう言うベッカーさんだが、見ると肩で息をしている。明らかに強がりだ。

 かくいう俺も疲労がたまってきた。このままではじり貧だ。

 そのとき


「”#&$%=)(!”%&」


「ギィイッ!?」


 結依の放った水の玉がハイゴブリンに直撃。ハイゴブリンは目を押さえてのけぞった。目に水が入ったようだ。

 今だ!


「はっっっ」


 この隙を逃すわけにはいかない。思いっきり、ハイゴブリンに向かって駆け出す。剣を引き絞り、力をためる。

 狙うはハイゴブリンの首。

 奴の顔を見つめ、剣を振るう

 その口元が、にやっと笑った気がした。同時に、拳を握ったのが見えた。

 やばいっっっ!!! 


「ギィィィ!」


 ガン

 

 剣でハイゴブリンの拳を受け止める。しかし


「うっ」


 勢いを殺しきれず、のけぞる。剣を持つ腕は後ろに流れ、足下のバランスも崩れた。


 まずいっ!


 隙だらけだ!

 

 ハイゴブリンが迫ってくる。


 拳を握って、力をためている。


 奴がにやっ笑った。


 避けるのは、無理。


 剣で防ぐのも、無理。

 

 ・・・あ、死ぬ。


 ぎゅっと目をつぶる。


 やべーー


「$!(%~@」


 まぶたの裏がカッと明るくなった。

 

「ギィィィ!」


 目を開ける。

 ハイゴブリンがひるんでいた。

 その隙に、さっと後ろに下がって、距離を取る。


「ふぅぅぅぅ」


 危ない・・。もう少しでハイゴブリンにぶん殴られるところだった。本気で死ぬかと思った。そう思うと冷や汗が止まらない。心臓がバクバクとうるさい。


「はぁっはぁっ」


 怖かった。危なかった。


「悠!大丈夫だった!?」


「・・・っ。ああっ。ありがとう!助かった!」

 

 結依が魔法で目くらまししてくれたようだ。そのおかげでハイゴブリンがひるんで、俺は逃げることが出来た。結依が光で目くらまししてくれたからいいものの、そうじゃなかったら・・・。いや、よそう。反省も怖がるのも後だ。今はこいつをどうするか。


「ギィィ」


 立ち直ったハイゴブリンが、ゆっくり迫ってくる。


「まだいけるか、タカ?」


「はいっ。もちろんです」


 隣のベッカーさんの言葉に頷く。他の冒険者は遠くでゴブリンと戦っている。俺たち3人でやるしかしかない。しかし未だ攻めに転じることは出来ていない。体力だけがどんどん削られていく。このままでは・・・。

 結依がつぶやく。


「強い・・・」


 ハイゴブリンは間違いなく強い。ただ、だからといっておとなしくやられるわけにはいかない。逃げるわけにもいかない。死にたくない。そして王都に行かせることも出来ない。

 さあ考えろ。どうしたら奴を倒せる?

 俺が後ろに回り込むか?いや、無理か。奴の方が素早い。背後を取るのは難しいだろう。

 結依の魔法で隙を作るか?しかし、タネは割れた。同じ手が二度も通じるだろうか。

 どうする?どうする?

 つぅと汗が流れる。打開策が見えない。


「ギイイイイィィィィ!」


 雄叫びを上げるハイゴブリン。


「来るぞ!」


 ベッカーさんの声に合わせて、構える。策は思い浮かばない。しかし、戦うしかない。気合いを入れるために、大声を出す。


「来いっ!」



 ザンッ



 突然、ハイゴブリンの身体が縦に真っ二つになった。縦に。


「「「え・・・?」」」


 ハイゴブリンの身体が、ゆっくりと左右に分かれ、倒れる。絶命。

 強敵が突然、殺された。あっけにとられる俺たち。

 その間から人影が見える。


「大丈夫だったか?みんな」


 金髪の貴公子。


「クリス!?」


 さらさらの金髪。抜群のスタイル。甘いマスク。A級冒険者のクリスだ。血に濡れた刀を提げている。

 どうやら、クリスが後ろからハイゴブリンを真っ二つにしたらしい。クリスに助けられた格好になる。


「やあ、イチカ。無事で何よりだ」


 クリスは軽やかな足取りで歩み寄ってくる。俺たちが苦戦した相手をいとも簡単に倒した。そのことについて、特に手応えを感じた風もない。助かってほっとしたという気持ちもあるが、それが悔しくて、つい強い口調で聞く。


「お、おい。クリス。なんでお前がここにいるんだ」


「ああ。森の方は収まったからこっちに急いできたんだ。もうじき他のみんなも来るよ」


「そ、そうか・・・。終わったんだな」


 同じくあっけにとられていたベッカーさんがつぶやいた。クリスは一つ頷いたあと、笑顔で結依に向かう。


「ああ。それで、イチカ。怪我はないかい?」


「え、ええ。ありがとう」


 少し戸惑いながらも、助けられたことは事実なのだ。結依は頭を下げて礼を言った。


「ふふっ。どういたしまして。僕のこと見直したかな?」


「・・・まあ、そうね。あなた、本当に強かったのね」


 珍しく結依がクリスを褒めた。それを聞いて金髪のイケメンはうれしそうに破顔する。

 どうもおもしろくない。と思ったその時、森がガサガサと揺れた。新手の敵か、と身構える。

 しかし、姿を現したのは見覚えのある人達だった。


「タカッ!イチカッ!大丈夫か!?」


「タカさん!イチカさん!」


「無事っすか!?」


「ロッシュさん!メイさん!それに、カイさんも!」


 森から現れたのは、ロッシュさん、メイさん、そしてカイさんだった。そのほかにも何人か近衛兵の人達がいるが、この3人は俺たちの姿を見つけると名前を呼びながら駆け寄ってきてくれた。


「怪我はないかの?」


「ええ。ロッシュさんたちも大丈夫ですか?」


「うむ。わしらも無事じゃ」


「そうですか。よかったです」


 ひとしきり、ロッシュさんたちと無事を確かめ合い、喜び合う。ロッシュさんもメイさんも元気に笑っている。森の奥には強敵もいただろう。無事で何よりだ。

 そして、ロッシュさん、メイさん、そしてカイさんもずいぶん俺たちを心配してくれた。ハイゴブリンの死体を見つけ、大いにうろたえている。

 

「ハイゴブリンとはの・・・」


「そうっすね。驚きっす」


 ロッシュさんたちが驚くのを見て、やはり本当に強敵だったんだなと改めて感じた。そして、恐怖がぶり返す。倒せるビジョンが見えなかった。殺されかけた。


「大丈夫ですか?ユウさん」


「・・・ハイゴブリンは強かったです。勝てないと思いました」


「私もです。正直、怖かったです・・・」


 俺も結依も、弱音を吐く。それほどハイゴブリンは強かった。そして希望が見えなかった。しかし、そんな俺たちにロッシュさんはにっこり頬笑み、


「大丈夫じゃ、タカ、イチカ。おぬしらが誰にも負けんよう、わしらが強くしてやる」


「「ロッシュさん・・・」」


「ええ、もちろんです。それまでは私たちがお二人を守ります」


「「メイさん・・・」」


 その言葉がうれしかった。心強かった。まるで本当の家族のように温かく励まし、包み込んでくれる。恐怖で冷えた心に熱がじんわりと広がっていく。目の奥が熱くなってくる。本当にいい人達に恵まれたな、と。


「それで、このハイゴブリンはそちらの・・・?」


「はい。このクリスが・・・」


 クリスがハイゴブリンを倒した、と紹介しようとしたところで、


「タカとイチカの保護者ですね?A級冒険者のクリスです。」


 クリスがロッシュさんに話しかけた。それを聞いてロッシュさんはぽんと拳を手に打ち付け、納得した表情になった。


「おお。タカとイチカから話は聞いておるぞ。わしはロッシュ。こちらは妻のメイじゃ。普段は冒険者のローとメルとして活動しておる。で、近衛隊のカイじゃ。よろしくの、クリス」


「何度か一緒に戦う機会はあったと思いますが、こうして挨拶するのは初めてですね。また会う機会もあると思いますので、その時はよろしくどうぞ」


「こちらこそよろしくの。そして、タカとイチカを守ってくれてありがとう」


「いえ。二人は僕にとって大切な人ですから」


 クリスが笑って言うと、ロッシュさんはいたずらっぽく


「ま、あまりタカとイチカを困らせんでくれよ」


 そして、カイさんも続いた。


「俺は近衛隊のカイっす。タカくんのマブダチっす。ロッシュさんの言うとおり、おイタはダメっすよ?」


「もちろん。僕はイチカもタカも大好きですから。ご心配には及びません」


 ニコッと笑って、クリスはそう返した。

 お、俺も大好き・・・?いや、さすがにそれはご遠慮願いたい。俺にそっちの気はない。

 しかしそういう意味じゃない、例えば友人として好きということでも、好かれる理由が分からない。もうクリスが怖い。何考えてるか分からない。

 が、当の本人は爽やかに微笑んで、


「では、僕は他の冒険者の助太刀に行ってきます。イチカ」


「な、なに・・・?」


「また会おう」


 そう言ってクリスは颯爽と去っていった。本当に嵐のような奴だ。苦手だ、ああいうのは。

 と、そこでようやく、ベッカーさんが話しに入ってきた。


「タカ。イチカ。お前、すごい人達と知り合いだったんだな!」


「え?」


「えじゃねえよ!ロッシュとメイ夫妻と言えば、俺みたいな平民からすればヒーローみたいな存在だぜ!あの強さに何度憧れたことか!それにカイっていやぁ、当代最強と呼び声高い剣士じゃねえか。うらやましいぞ!」


 ベッカーさんの瞳は少年のように輝いている。今の言葉が嘘ではないと確信するどころか、憧れの大きさを感じさせるほどだ。ロッシュさん、メイさん、カイさんってそんなすごかったの?


「ほっほっほ。きみ、名前は?」 


「あ、はい!D級冒険者のベッカーです!よろしくお願いします!」


 そんなベッカーさんを目の前にして、ロッシュさんは朗らかに笑う。

 そして、ロッシュさんに話しかけられたベッカーさんはカチコチになって固まった。 


「わしはロッシュじゃ。で、こちらが妻のメイじゃ。訳あってタカとイチカを預かっておる。二人が世話になったようじゃの。ありがとう」


「い、いえ!そんな!」


「これからもタカさんとイチカさんと仲良くしてあげてください」


「もちろんです!」


 憧れの人に話しかけれて、なんだかんだベッカーさんはうれしそうだ。直立不動のまま、コクコクと勢いよく頷いている。見た目は厳ついが、かわいい一面を見ることができた。


「じゃ、じゃあ俺はこの辺りで失礼します!タカ、イチカ!ギルドで会ったらまたよろしくな!」


「ベッカーさん。今日はありがとうございました」


「ありがとうございました。お気を付けて」


 緊張した面持ちのまま、ベッカーさんは去って行った。それを見送りながら、カイさんが言う。


「ロッシュさん。メイさん。あとはこっちでやっとくんで、もう帰っていいっすよ。ユウくんもユイちゃんも疲れてるだろうし。ご協力ありがとうございました」


「お。そうか。すまんの。さ、タカ。イチカ。帰るかの」


「「はい」」


 こうして、俺たちは帰途についた。カイさんたち近衛隊に見送られて、森を後にする。


「ロッシュさんとメイさんってすごかったんですね」


「いやいいや。昔ちょいとやんちゃしてただけじゃ」


「うふふ。そうですね。今思うと恥ずかしい」


「それにカイさんも。俺、すごい人達から教えを受けてたんですね」


「ほっほっほ。見え見えの世辞はいらん。明日からビシバシ訓練するぞ」


「げぇ」

 

 とは言ったものの、今日は実力不足を痛感した。ハイゴブリンには手も足も出なかった。そしてそのハイゴブリンをクリスは一撃で倒した。

 もっと。もっと。強くならないと。

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