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49話 ゴブリン討伐(2/3)

 ロッシュさんを先頭にして、俺、結依、最後尾にメイさんという布陣で森を歩く。足下の枝や落ち葉を踏んで物音を立てないよう、慎重に歩く。そして、周囲の気配に気を配る。

 今のところ、聞こえるのは風が木を揺らす音と、俺たちのかすかな足音だけ。生き物の気配はない。しかし、自分の心臓の鼓動が激しくなっているのを感じる。遊びではない。訓練でもない。本気で生きるか死ぬかの場所に来たんだ。分かってはいたが、そう実感するとやはり緊張してきたのだ。が、緊張で息を荒げるわけにはいかない。それが物音になるからだ。大きく、静かに呼吸しながらロッシュさんの背中について行く。


カサッ


 前方の草がかすかに揺れる音がした。同時に、ロッシュさんが掌を下に向け、腕を下げる動作をした。しゃがめ、という合図だ。俺たち3人はその場でしゃがみこみ、ロッシュさんだけ抜剣して構える。

 じっと草むらを見つめる。


 カサッ


 いよいよ。ゴブリンか。一気に緊張感が高まるのを感じる。


 カサッ


 草むらから何か、飛び出してきたっ!

 しかし、


「きゅぅ」


 茂みから飛び出してきたのは、真っ白な兎だった。ゴブリンではない。なんてことはない、あの昇格試験で殺したような兎だ。

 思わず、ふぅっと息を吐く。ゴブリンかも、と思っていただけに、肩すかしを食らった気分だ。

 当の兎はキョロキョロと辺りを見渡しながら、俺たちのことはまるで無視してどこかへ走り去っていった。


「兎じゃったの」


 やや声を潜めながらロッシュさんが言った。


「しかし、油断は禁物じゃ。気を抜かず、歩いて行くぞ」


 俺たちは頷いて、またロッシュさんを先頭に歩き出した。

 歩き出して、すぐ。


 ガサガサ


 またもや前方の草むらが揺れた。心なしか、先ほどより大きな音だった気がする、ロッシュさんがしゃがめと合図したので、息をひそめて草むらにしゃがみ込む。


 ガサガサ


 あっ、と声を上げそうになった。慌てて口を塞ぐ、

 奥にゴブリンが見える。しかも、一体ではない。三体だ。緑色の体色で、体毛はない。痩せ細った身体。身長は高くない。腰に獣の皮でできたぼろ衣をまとい、しかもそのうちの一体は木の棒を持っている。

 あれがゴブリンか。

 そいつらは草むらの奥を歩いている。時折なにかを探すようにキョロキョロしているが、俺たちに気付いた様子はない。

 事前にロッシュさんが言っていたのは、複数体で群れていた場合は攻撃せずに隠れること。今がまさにそのとき。見つからないように、身動きせずに息を殺す。

 どれくらい時間が経っただろう。30秒か、一分か、或いは5分か。緊張で時間の感覚が分からない、


 ガサガサ


 ゴブリンたちは、俺たちに気付かず、そのまま森の奥へ消えていった。


「行ったの」


 ロッシュさんがそうつぶやいたのを聞いて、やっと俺は大きく息を吐いた。


「あれがゴブリンですか・・・」


 俺の後ろで、結依が小さくつぶやいた。


「驚きましたか?」


「はい・・・。なんというか・・・。気持ち悪かったです・・・」


 確かに、ゴブリンの姿形は気持ち悪かった。俺は漫画やアニメで似たような姿を見ているから耐性があるが、初めて見た結依には刺激が強かっただろう。 


「初めてゴブリンを見たら、そう思うかのう。少し休憩するか?」


「いえ。大丈夫です」


「ユウさんも疲れていませんか?」


「大丈夫です。進みましょう」


「よし、では行くぞ」


 ということで、単独行動をしているゴブリンを探しに、さらに森を歩くことに。

 ロッシュさんの合図で再び歩き出した。

 そして、一分ほど歩いただろうか。


 ガサガサ


 草が揺れた。ロッシュさんの合図で、草場にしゃがみ込む。


 ガサガサ

 

 ぼろ衣をまとった緑の小鬼。出たっ!現れたのはゴブリンだ。それも一体。

 思わずつばを飲む。いよいよだ。今日の目標は単独行動しているゴブリン。それが現れた。まずはロッシュさんがこのゴブリンを討伐する。

 ゴブリンと俺たちの距離は10メートルほど。身体はこちらを向いているが、頭をキョロキョロさせていて、正面の茂みに隠れる俺たちに気付いた様子はない。


シュ


 ロッシュさんが静かに飛び出していった。そのまま、風のように静かに、早く駆けていく。あっという間にゴブリンとの距離を詰める。


「ンギョッ!」


 ゴブリンが気付いたときには、もう遅い。

 ロッシュさんは、剣を一閃。


「ギョッ・・・」


 ゴブリンの首と胴が離れた。しゃっ、と赤い血が噴き出し、わずかにロッシュさんを汚す。頭を失った身体はどさっと地面に倒れ、ピクリとも動かない。支えを失った首はごろんと地面に転がる。

 しばし周囲を警戒したロッシュさんは、やがて納刀し、俺たちを手招きした。


「よし、いいぞ。出てこい」


 それを合図に俺たちはロッシュさんのそばに行く。


「すごい・・・」


 ロッシュさんのそばには、首を切断されたゴブリンの死体が転がっていた。鮮やかな一撃で勝負を決めた。思わず賞賛の声が漏れた。


「ユウでもこれぐらいはできる。自信を持ちなさい」


「はい・・・」


 それを聞きつけたロッシュさんは、しかし、誇るでもなく、むしろ俺を励ましてくれた。


「では、メイ。頼む」


「はい。ユイさん。そしてユウさんも。見ていて下さい」


「何をですか?」


 俺たちを呼んだメイさんはゴブリンの死体ににじり寄っていた。何をするんだろう、と思った矢先、


「今からゴブリンの魔石を回収します」


 そう言ってメイさんはナイフを取り出し、迷うことなくゴブリンの胸に突き立てた。


「「っ!!」」


 驚く俺たち。息を呑み、目を見開いた。衝撃で言葉が出なかった。しかしメイさんは平然とゴブリンの身体をかっさばく。ビリビリ、メシメシという耳障りな音が響く。


「うっ」


 思わず耳を塞ぐ。

 皮が裂かれるにつれ、血があふれ出す。そして中の内臓をあらわにした。血のにおいが充満する。グロテスクだ。思わず顔も背けてしまう。が、


「ユウさん。ユイさん。よく見て下さい」


 メイさんに言われてしまった。


「はい・・・」


 頑張って、ゴブリンの死体を視界に入れる。首のない死体が、まっすぐ縦に腹を引き裂かれている。中から血があふれ出し、血まみれの臓器がのぞいている


「体内にある、ひときわ輝く宝石のようなもの。これが魔石です」


 細めでゴブリンの死体を見る。言われてみれば、赤く染まった内蔵の中で、親指くらいの大きさの輝く石がある。地球上にいる動物には見かけない器官だ。


「今回はユウさんが討伐して、ユイさんはサポートをしてもらうので、魔石回収はユイさんの仕事になります」


 ゴブリン討伐をするのは俺だけだと知って驚いたが、サポートに徹する結依の役割もきつそうだ。ゴブリンの死体をかっさばいて中の魔石を取り出す。なかなかいグロテスクだ。


「できるか?結依?」


「え、ええ。頑張ってみるわ」


 口ではそういったが、結依の顔は引きつっている。


「少し離れたところで休憩しよう。そしてその後は、いよいよユウに討伐してもらう」


 そう。魔石回収は俺がゴブリンを倒さないことには始まらない。いよいよ初めてのゴブリン討伐。緊張してきた。

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