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48話 ゴブリン討伐(1/3)

 昇格試験が終わって家に帰ると、ロッシュさんとメイさんが気に掛けてくれた。俺たちが平和な世界から来たと知っているからなおさら、つらくないか、怖くないかと心配してくれた。そして、一応二日間は依頼も訓練もなしの休養日としてくれた。

 俺たちも、兎を殺した直後はショックを受けたが、今はもう大丈夫だ。完全に吹っ切れたわけではないが、引きずってもいない。自分でも意外だ。もっとメンタル的にやられるかと思ったが。ただ、心配してくれるのはうれしかった。

 休養日は装備の手入れをしたり、結依と王都を散策したりした。王都では何とカイさんに出会った。治安維持のための巡回中らしい。その場でD級昇格を報告したら、逆に今までE級だったのかと驚かれた。そして最後に、デート楽しむっすよ!と言われた。いや、デートじゃないから。


「気のせいかしら?物価が上がっている気がするんだけど」


「そうか?」


「ぼーっと生きてるから分からないのよ」


「なんだとっ」


 とまあちょくちょくケンカしながらの王都散策だった。いつも通りといえばいつも通りだ。


 そして休養日あけ。俺と結依、ロッシュさんとメイさんの4人で、D級の依頼を受けることにした。D級の依頼。森へ行って、魔物の討伐だ。いよいよ本格的に冒険者としての活動だ。

 4人で冒険者ギルドに来た。D級の掲示板を見てみる。やはりE級のような簡単な依頼はない。ゴブリンの討伐やオークの討伐、あとは森にある素材の採集の依頼などだ。


「今日はこれを受けようかの」


 ロッシュさんはそう言って、その中の一枚の依頼書を手に取った。俺はその紙をのぞき込む。



ーゴブリン討伐ー

内容:アルスの森ゴブリン討伐

適正:D級

場所:アルスの森

報酬:10000ゴル/1体



「ゴブリン討伐ですか?」


 ゴブリン討伐。そう書いてあった。いよいよ魔物討伐か。


「うむ。初めはこれがいいじゃろう」


「ローさん。ゴブリンとはなんですか?」


 同じく依頼書をのぞき込んでいた結依がローさんことロッシュさんに聞いた。


「体長一メートルほどの二足歩行の魔物じゃ。身体は小さく、力も弱いので討伐するのは難しくない。ただ、たまに群れで行動することもあるので、それは注意が必要じゃが」


 漫画やアニメで描かれるゴブリンも同じような感じだった。小さくて、雑魚キャラ扱い。ただ、楽観視はできない。俺たちも雑魚であることには変わりないのだ。

 ぶるっと身体が震えた。武者震いという奴か。


「いよいよですね」


「大丈夫ですよ、タカさん。私たちがサポートしますから」


 俺がぽつりとつぶやくと、メイさんが拾って励ましてくれた。俺の不安な気持ちを察してくれたようだ。その気遣いがうれしくて、笑顔で頷いた。頑張ろう。少し前向きになれた。


「そうじゃ。ではいくぞ」


 ロッシュさんは依頼書を持って、受付へ向かった。俺たちもそのあとへ続く。


「おはようございます。本日はどういったご用件ですか?」


「この依頼を受けたいんじゃが」


 受付嬢はセナさんではなかった。20代くらいのその女性はにこやかに対応してくれたが、ビジネススマイルという感じがする。いや、全然それで問題ないんだが、セナさんは心からの笑顔という感じがするので、どうしても比べてしまう。


「畏まりました。ギルドカードをお預かりします」


 俺たちは4人とも、ギルドカードを提出する。その間、俺はキョロキョロとギルド内を見渡す。


「タカ。今日はセナさんはいないみたいよ。残念ね」


「ばっ、べ、別にセナさんを探してたわけじゃねえよ」


「あら、そう?」


「そ、そうだよ」


 びっくりした。なんで分かったんだ、結依の奴。あー。変な汗をかいた。

 いや、別に変な意味はなくて、単にセナさんは今日休みなのかなぁって思っただけだ。まぁ、今はちょっとナイーブな気分でもあるから、セナさんの笑顔で癒やされたいという気持ちにも無きにしもあらず・・・。いや、嘘です。だから結依さん。そんな怖い顔をしないで下さい。

 俺が心の中で変な言い訳をしていると、ちょうど作業が終わったのか、受付嬢がカードを返してくれた。ふぅ。助かった。


「ありがとうございます。カードをお返しします。ゴブリンの魔石をお持ち帰り下さい。魔石一つにつき一体討伐したと見なします」


「うむ」


「では、お気を付けて」


 そのまま出発の運びになった。受付嬢に見送られ、俺たちはギルドを後にする。

 ついにゴブリン討伐を受注してしまった。大門へ向かって歩いていく。一歩歩みを進める度、緊張感が徐々に増していくのを感じる。早く済ませたいという気持ちと、やっぱり別日でも・・・という気持ちがせめぎ合う。

 しかし、時は止まってくれない。あっという間に大門を通り過ぎ、王都の外へ出てしまった。


「ふぅぅ」


 王都の外の草原。青い空のもと、どこまでも広がる緑の草原。いつ来てもいい景色だ。深呼吸して、心を落ち着かせる。前まではここで薬草を採取したり、ピクニックしたり、訓練したりしていた。楽しい思い出がよみがえる。が、今日の目的地はこの草原ではない。


「よいか?奥の森まで歩くぞ」


「はい」


 感傷ははここまで。今日は奥の森、アルスの森まで行くのだ。だいたい徒歩2~30分くらいらしい。少し長く感じる。自転車でもあればなぁと感じるのは日本人の性か。

 で、森まで歩きながら、ロッシュさんとメイさんと打ち合わせだ。


「今日は一匹で森を徘徊しているゴブリンを狙う」


「「はい」」


「ゴブリンはあまり頭がいいとは言えませんが、群れていると連携して戦うことがあるので、注意が必要です」


「そうじゃな。複数で行動しているゴブリンを見つけたら戦わず隠れるんじゃ.。森ではわしを先頭にユウ、ユイ、メイと縦一列で歩く。くれぐれも慎重にな」


「「はい」」


「で、わしがこうしたらしゃがんで隠れるんじゃ。何かの気配がしたとき、まずは身を潜めることじゃ」


 ロッシュさんは掌を下に向け、そのまま腕を下におろした。伏せ、の合図のようだ。


「そして、森では物音を立てないように行動するんじゃぞ」


「分かりました」


 話し声はもちろん、足音などにも気をつける必要があるらしい。物音で魔物を帯び寄せないようにする必要があるようだ。特に俺たちは初心者だから、魔物が寄ってこないように細心の注意を払わなければならない。

 

「他に何か質問はあるかの?」


「ロッシュさん。ゴブリンは武器って持ってますか?」


「いや、基本は素手じゃな。爪でひっかいたり、かみついたりしてくる。ただ、まれに木の棒や冒険者が落としたナイフを持っておる個体がおるが」


「そうなんですね」


 基本的にゴブリンはD級に昇格したての冒険者が最初に討伐する魔物らしい。で、俺はロッシュさんに大分訓練を付けてもらっているから、そうそう遅れはとることはないだろう、と。そう言ってもらったのは、自分の中で自信になる。とはいえ、過信にならないようにはしないと。

 そう思っていると、メイさんがこんなことを言った。


「ユイさんは、まだ戦える魔法は教えていませんので、今日はユウさんのサポートですね」


「分かりました」


「え?戦うのは僕だけですか?」


 驚いた。てっきり俺と結依、両方がゴブリン討伐をするものだと思っていた。聞き返すと、メイさんが答えてくれた。


「はい。普段の戦いでも、剣士が前に出て、魔法使いは後ろでバックアップすることが多いですから。それにそもそも、ユイさんは殺傷能力のある魔法はまだ使えませんので」


「そうじゃの。で、最初の一匹はわしが倒す。ユウ。よく見ておくんじゃぞ」


「わ、分かりました」


 そうか、俺だけなのか・・・。勝手に結依もゴブリンと戦うもんだと思ってたが・・・。確かに結依ってまだ光る魔法と水を出す魔法しか使えないはずだ。それでゴブリン討伐は難しいか。はしごを外された気分だけど、じゃあ仕方ない・・。


 そんな話をしながら歩いていると、アルスの森の入り口に着いた。王都のそばから見ていると小さく見えたが、実際来てみるとかなり大きい。そっと奥をのぞいてみても、木が広がるばかりで出口は全く見えない。


「森は奥に行くほど強い魔物の生息地になっている。ゴブリンの生息地は5分ほど歩いたところじゃ」


「ええ。ただ、森の入り口付近でゴブリンが徘徊していることもありますので、ここからは常に警戒してください」


「「はい」」


 ロッシュさんとメイさんの真面目な口調に、俺たちも真剣に頷く。さあ、いよいよゴブリン討伐だ。

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