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44話 草原での訓練(1/2)

 孤児院に行った翌日。今日は王都の外の草原に来ていた。俺、結依、そしてロッシュさん、メイさんの4人だ。

 この草原に来た一番の理由は、結依の魔法の訓練だ。魔法の訓練をしようとしたが、庭だと狭いので、草原の方が都合が良いらしい。そしてどうせなら、と俺たちもついて行って、ついでにフローラ草の採取の依頼を受けることにしたのだ。ギルドでは幸いクリスには会なかったので、4人である。よかった。連日クリスに会うなんて、たちの悪い罰ゲームでしかないから。

 というわけで、冒険者ギルドを出て、王都周辺の草原へ来た。フローラ草の採取をする前に、まずは4人で結依の魔法を見学することにする。


「じゃあ、いきます」


 結依がそう言って深呼吸し、手を前に出した。深く集中。息を止めて、気合いを入れた。


「”#&$%=)(!”%&」


 呪文を唱えた。


 ・

 ・

 ・


 しかし、何も起きなかった。ひゅぅぅ。風が吹く音だけが聞こえる。

 前にも見たぞ、この光景。


「・・・失敗ね」


 恥ずかしそうに結依が言った。顔がほんのり赤く染まっている。


「おい」


 魔法を見たかったのに。今のところ光をともす魔法しか見れていない。もっといろんな魔法を見たいのに。そう恨みがましい目で結依を見る。


「うるさいわね。気が散るから、悠はあっちで草むしりでもしてきなさい」


 俺はもっと見たいのに、しっしと結依に手で追い払われた。


「なんてこと言うんだ」


 むっ、として言い返すと、メイさんが申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさいね、ユウさん。どうもユウさんが近くにいると集中できないみたいなの。主人と一緒にフローラ草の採取をしていてくれないかしら」


「・・・分かりました」


 結依にはイラッとしたが、メイさんにそう言われたら仕方が無い。ロッシュさんとフローラ草の採取をするか。


「行きましょう。ロッシュさん」


「ふふっ。そうじゃの。ユイ。頑張ってな」


「はい。頑張ります、ロッシュさん」


 ロッシュさんの励ましに、結依が元気よく答えた。一応の義理として、俺も声を掛ける。どうせ冷たくあしらわれるだろうけど。


「頑張れよ、結依」


「はいはい。さっさと行ってきなさい」


「対応が違うじゃないか」


「日頃の行いの差よ」

 

 ま、どうせそういう対応だと思った。それがなんかおかしくて、にやっと笑いながら歩いて行った。


 さて、結依とメイさんから離れ、ロッシュさんとフローラ草の採取をする。緑の細長い草で、裏が黄色っぽいのが特徴だ。その辺の草をサーッと翻しながら裏を見て、フローラ草が見つかればプチッと採取する。

 しばらく黙って採取していたが、ふとロッシュさんがつぶやいた。


「で、昨日クリスも一緒に孤児院に行ったんじゃろ?どうじゃった?」


 話題は、昨日孤児院に一緒に行ったクリスのことだ。元々俺と結依への指名依頼だったが、結依に惚れているクリスが無理矢理付いてきたのだ。依頼が終わってベイル家での夕飯の時に軽くその話をしただけなので、詳細が聞きたいのだろう。


「普通でしたよ。クリスもちゃんと子供たちの面倒をみていたし、結依に変なちょっかいも掛けませんでした」


 ロッシュさんの期待に応えられないが、昨日は特に大きな出来事はなかった。普通に子供たちと楽しく遊んで、依頼をこなした。クリスも子供たちと遊んでいて、変なことはしなかった。

 それを聞いて、ロッシュさんはやや拍子抜けしたように目を見開いた。そもそも大きな出来事があったら昨日言ってるし。


「そうか。・・・クリスはユイに惚れとるんじゃろ?おぬしから見て、クリスはユイにふさわしいか?」


 思わぬ質問に、暫し考える。


「え?うーん。悪い人じゃなさそうですけど・・・。でも結依にふさわしいかと言われると・・・」


 少なくとも、人として悪い人ではなかった。横柄ではないし、子供の面倒もみる優しい奴だった。俺という彼氏(設定)にも暴言暴力は働かない。しかし彼氏(設定)がいるにもかかわらず、結依にアタックするぐらい結依が好きならば、一歩間違えばストーカーになる可能性もある。その警戒はしないと、とは思うが。

 しかし、結依の恋人にふさわしいかと言われると・・・。


「では、おぬしはどんな人がユイにふさわしいと思うんじゃ?」


「うーん。そうですね・・・」


 結依の恋人にふさわしい人、か。・・・あまり考えたことがない。うーん。と考える。でも、分からない。結依の隣に誰かがいるってことが、想像できなかった。


「・・・結依に心底惚れた人。そして結依も心底惚れた人ですかね。・・・そもそも、結依の恋人は結依が決めることです。俺が決めることじゃないです」


 悩んだ挙げ句、こう言うしかなかった。

 先日の水野との会話では、自分を守ってくれる人がいい、と言っていたか。強いているなら、その条件を満たす人が、結依にふさわしいんじゃないだろうか。ちゃんと結依を守ってくれる人が。

 

「そうじゃな」 


 そしてロッシュさんはほっほっほと笑った。

 そこで俺はふと思った。結依に彼氏ができたら、俺はどんな立場で結依に関わればいいのだろう。もしかしたら、彼氏に悪いからともう結依と話さなくなるかもしれない。そうなったら、俺は・・・。俺は・・・。


「・・・ウ。・・・ユウ。ユウ!」


「・・・ッは!」


「どうした?ぼーっとして。手が止まっとるぞ」


「あっ、はいっ!」


 モヤモヤを振り払うように、フローラ草の採取に集中した。




☆☆☆




「じゃあ、いきます」


 私はそう言って深呼吸し、手を前に出した。息を止めて、心臓の魔力を感じ取る。体内を巡らせ、手に集める。そして、呪文。


「”#&$%=)(!”%&」


 ・

 ・

 ・


 しかし、掌から水は出ない。本当は水の球体が出るはずなのに。虚しく風だけが吹く。

 

「・・・失敗ね」


 恥ずかしさをごまかすように、そうつぶやいた。顔も赤くなっているだろう。


「おい」


 悠がじとっとした目で見つめてきた。


「うるさいわね。気が散るから、悠はあっちで草むしりでもしてきなさい」


 しっしと悠を手で追い払う。そんなにじっと見られたら出来るものも出来ない。


「なんてこと言うんだ」


 悠がぶーたれる。しかし、メイさんが私に味方してくれた。


「ごめんなさいね、ユウさん。どうもユウさんが近くにいると集中できないみたいなの。主人と一緒にフローラ草の採取をしていてくれないかしら」


「・・・分かりました」


 悠は、私には不満げに反抗したくせに、メイさんのお願いには素直に従った。それはそれで腹が立つ。


「行きましょう。ロッシュさん」


「ふふっ。そうじゃの。ユイ。頑張ってな」


「はい。頑張ります、ロッシュさん」


 微笑んでくれたロッシュさんに、そう元気よく返す。


「頑張れよ、結依」


「はいはい。さっさと行ってきなさい」


「対応が違うじゃないか」


「日頃の行いの差よ」


 腹が立ったので、冷たくあしらった。いつものやりとりだ。口元が自然に弧を描くのを隠しつつ、悠とロッシュさんを見送った。


 さて、気を取り直して魔法の練習だ。私は息を整え、深く集中した。魔力を感じ取る。それを体内で移動させ、掌に集める。この感覚にはもう慣れた。そして、


「”#&$%=)(!”」


 先ほどと同じ呪文。手から水の玉を発射する魔法。『ウォーターボール発射せよ』と神聖語で唱えたのだが、上手く魔法が発動しなかった。


「うーん」


 どうしても上手くいかない。


「最後の発音ですね。舌を巻くような感じで。お手本を見せますね」


 そう言ってメイさんは軽く手を前に突き出し、唱えた。


「”#&$%=)(!”%&」


 するとメイさんの手から掌ほどの水の球体が発射された。そのまますーっと5メートルほど飛んでいき、最後は地面に落ちて破裂した。


「すごい・・・」


「では、もう一度やってみましょう」


「はい」


 今度こそ。最後の発音を意識して。舌を巻くような感じで。

 魔力を心臓から、身体を通して右手の方へ。そして


「”#&$%=)(!”%&」


 ぐっ、と掌から魔力が抜ける感覚が。かと思うと、私の掌から水の球体が出現した。それは私の掌を離れ、勢いよく前に飛んでいった。


「出来たっ」


 水球は4~5メートルほど前に飛び、やがて地面にぶつかり、しぶきを立てて染みこんでいった。


「ええ。お見事です」


 パチパチとメイさんが拍手してくれた。私もうれしい。うれしいというか、ほっとした。やっと出来た。やはり耳慣れない言葉なので、完璧に発音するのに手こずった。

 ふぅと息を吐いて、悠たちの方を見る。遠くにぽつんと見えるが、しかし、私がウォーターボールの発動に気付いた様子はない。あれだけ見たがっていたのに、こういうときだけ見逃すのか。イラッとするような、逆にざまあみろと思うような。と、メイさんが切り出した。

 

「そう言えばユイさん」


「なんですか?」


「昨日クリスさんと孤児院へ行ったのよね?クリスさんはどうなの?」


「え?え?」


 思ってもいなかった話題に戸惑った。一応昨日クリスが一緒にいたことは行ったが、その場では深く掘り下げられなかった。だからこそ油断していたのだが・・・。メイさんは楽しそうに笑っていた。半ばからかうような顔だ。完全に恋バナモードに入っている。


「かなりアタックされたんじゃない?」


 戸惑う私をよそに、メイさんはぐいぐいと攻めてくる、


「い、いや。昨日は子供たちと遊んだだけですので・・・。そういうのでは・・・」


 実際、昨日は子供たちがメインだった。クリスも子供たちをほったらかして私に話しかけるということはさすがにしなかった。なので、口説かれたとか実感はない。


「クリスさんって強いし、名声もあるし、評判も良いし、イケメンじゃない?恋人としては超優良物件だと思うけど?」


 そう言われて、考える。確かに、クリスはハイスペックだ。非の打ち所がないようにすら思う。端から見たら、アプローチされてなびかない私がおかしいのかもしれない。


「うーん。でも、よっぽどの事が無い限り、恋人にはならないと思います。そういうイメージは出来ないです」


 しかし、私はあまり興味が湧かなかった。イケメン過ぎるのも、ぐいぐい来られすぎるのも、タイプではない。そして何より、クリスが私の恋人になるのが、明確にイメージできなかった。


「あら、そうなの?」


「はい。・・・あれだけ好きって言ってくれるのに、応えられないのは申し訳ないですけど」


「ユイさん。そんなこと思う必要はないのよ。アプローチされたら応えなきゃいけない義務なんてないのですから。あなたはあなたが好きな人と幸せになれば良いの。だから焦らないでくださいね」


「・・・はい」


 クリスは私に近づく男の中で、珍しく真面目にアプローチする男だから、私自身も戸惑っている節はある。だからこそ断るのにも罪悪感も多少あるのだが・・・。そうね。私にはイエスという義務はない。


「さ、もう一度練習しましょうか」


「はい」


 メイさんの言葉に、私はそう返事をした。

 私たちは、昼食まで、しばし魔法の訓練にいそしんだ。

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