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43話 クリスと孤児院(2/2)

 昼食はセリアさんが用意してくれた。スープとパンだ。


「すみません。あまりたいしたものはお出しできず・・・」


「構わない。いただくとしよう」


 申し訳なささそうに言うセリアさんに、クリスはそう返してパンにかぶりついた。ときおりじゃれついてくる子供たちをうまくいなしながら食べている。なんだかんだ楽しんでいるようだ。

 一方、俺はあぐらをかいた膝に座るフィーリアにご飯を食べさせていた。パンを小さくちぎっては口元へ。フィーリアは小さな口をちょこっと開けて、ぱくっと食べる。小さくちぎって口元へ。ぱくっ。小さくちぎって口元へ。ぱくっ。ぱくっ。ぱくっ。よきところでスープをすくって口元へ。ゴクンと飲み込む。

 かわいい。もきゅもきゅと食べる姿は小動物のよう。かわいい。

 思わず、さらさらの頭をなでてみる。


「・・・ん」


 フィーリアはそう声を漏らした後、ぼてっ、と身体を倒し、胸にもたれた。身体の力を抜いて、俺に身を任せている。全幅の信頼を寄せられているようで、それが心地よく、うれしくて、さらに頭をゆっくりとなでる。


「フィーリア。口元が汚れてるわ」


 横に座る結依がハンカチでフィーリアの口元を拭う。フィーリアは目を閉じてされるがまま。嫌がってはいない。むしろ喜んでいる感じすらする。だが、フィーリアは渡さんぞ。


「はい、フィーリア。こっちもどうぞ」


 結依が自分のパンをちぎってフィーリアの口元へ持ってくる。ぱく。


「あ」


 横取りされた気分だ。


「結依。今は俺がフィーリアの面倒をみてるんだ。邪魔しないでくれ」


「私だってフィーリアちゃんに食べさせたいの。いいでしょ?」


「だめ」


 そう言って俺はフィーリアをぎゅっと抱きしめる。この天使を渡してたまるか。

 そのままにらみ合う俺たち。


「にいちゃんたちー。けんかはだめだぞー」


「ばかねライ。あれはいちゃいちゃしてるのよ!」


「いちゃいちゃってなんだ?」


「とってもなかよくしてるのよ!」


「おお!にいちゃんたちなかよしか!よかった!」


 恥ずかしくなって、俺と結依は顔をそらした。別にケンカでよかったんだが、イチャイチャしてると言われたら恥ずかしくなった。


「僕の前でいちゃつくとは良い度胸だな」


「い、いえ・・・。別にいちゃついている訳では・・・」


「クリスにーちゃん、タカにーちゃんにやきもちやいてるのか?」


「そうだ」


「「「わーーー」」」


 クリスは恥ずかしげも無くそう言い切った。そして、それを聞いた子供、特に女の子達が歓声を上げる。


「タカにーちゃん!クリスにーちゃんがやきもちやいてるって!」


「お、おお」


 どこに嫉妬する場面があったんだろう。別にいちゃついてる訳でもないし。


「クリスのおにいちゃんはイチカおねーちゃんのどこがすきなのー!?」


「一目惚れだ。魂が震えたん」


「「「きゃー」」」


「ほら、みんな。食事中は静かに」


「うふふ。そうですね。タカさんの言うとおり、落ち着いて食べましょうね」


 なんだかバタバタしつつ、昼食を食べる。俺、結依、セリアさん、そしてクリスも、子供たちの口元をきれいにしたり、テーブルや床を拭いたりと大忙しだった。

 そして昼食後、俺たちは縄跳びで遊ぶことにした。セリアさんが掃除中に縄を見つけたのだが、使い道がないそうなので、縄跳びの縄として使わせてもらうことにした。今回は長い縄一本なので大縄飛びだ。さすがに八の字は難しそうなので、全員が初めから中に入って引っかからないように飛ぶ、あのオーソドックスなやつだ。


「じゃ、二列に並んでー」


「「「「はーい」」」」


 子供たちと結依を2列に並ばせる。小さい子の隣の年長の子供、フィーリアの隣に結依を配置する。そして外側に俺とクリス。縄を回す係だ。


「俺とクリスが縄を回すから、下に来たときに飛んで避けるんだぞー」


「「「「はーい」」」」


 しっかし、俺とクリスで大丈夫かね。クリスは、僕にできないことはない、とやけに自信満々だったが、これは二人で息を合わせることが大切なんだ。

 大丈夫かなぁとため息をつきつつ、ひとまず初めてみる。


「よし。じゃあいくぞ。いっせーー」


 ところが、嫌な予感が当たってしまった。俺が言っている最中にクリスが縄を回し始めた。俺はまだ動かしていないから、当然縄はたわんでしまった。思わず、クリスに怒鳴る。


「おい!合わせろよ!」


「それは僕の台詞だ!いくぞ、で回すと思うじゃないか!」


「そんなわけないだろ!いっせーのーで、で回すんだよ!」


「にいちゃんたちー。けんかしちゃだめだぞー」


 ライにたしなめられて、気持ちを落ち着ける。そうだ。子供に言われてるようじゃだめだ。


「よし。もう一回行くぞ!」


「ああ。こい!」


「いっせいーのでっ」


 上手く回し始めは合った。ところが、


「わっ」


 クリスが縄を回すのが異常に早く、またもたわんでしまった。


「クリス!スピードが速いぞ!もっとゆっくり!」


「なんだと!君が遅いんだ!」


「子供が飛ぶんだからゆっくりでいいんだよ!」


「にいちゃん~?」


「あ、ごめんごめん。ケンカしないから」


 そうライに謝り、咳払いする。気を取り直して、もう一度だ。


「いっせーのーで」


 ブン、と縄が勢いよく回された。今回は上手くいった。だが、ぺちん、と誰かの足に当たってしまって、飛ぶことは出来なかった。


「だれだー!?ひっかかったやつー?」


「ご、ごめん、おれ・・・」


「ゼンか!ちゃんととべよ!」


 年長のライに怒られ、普段やんちゃなゼンもしゅんとしてしまった。そこですかさず、結依がめっ、とライを注意する。


「こら、ライくん。そういうときはドンマイって言うのよ」


「ドンマイ?」


「気にするな、次頑張れって意味よ。ライくんだって、怒られるより応援された方がいいでしょ?」


「・・・ゼン、ドンマイ!」


「・・・うん!」


 そんなこんなで、午後は縄跳びで遊んだ。初め子供たちはすぐ引っかかっていたが、そのたびにドンマイドンマイと声を掛け合って楽しそうに遊んでくれた。そしてコツを掴むと徐々に回数も伸びていき、30回連続で出来たときはみんな大喜びだった。

 縄跳びで遊んでいると、あっという間に日が暮れてきた。もちろん途中休憩を入れながら遊んでいたが、子供たちの体力はすごい。俺は回すだけだからまだ平気だが、ずっと飛んでいた結依はヘトヘトになっていた。


「タカさん。イチカさん。そしてクリスさん。今日もありがとうございました。こちら、依頼達成の証明書です」


 そして、帰る時間に。前回のように子供たちに惜しまれながら、帰りの挨拶だ。


「こちらこそありがとうございました」


「私たちも楽しかったです」


「ああ。院長先生。僕も楽しかった。そして急に押しかけてすまなかった」


「にーちゃんたち、またこいよー」


「またきてね!」


「もちろん。また来るよ」


 そう言って手を振ると、子供たちも手を振り返ししてくれた。


「ぜったいだぞー」


「ええ。必ず来るわ」


「まってるー」


 俺も結依も笑顔で子供たちと別れの挨拶をする。そして、そばで突っ立っていたクリスにも、子供たちは突撃していった。


「クリスにーちゃんもな!」


「ん?僕もか?」


「もちろん!」


「クリスおにいちゃんもまたきてね!」


「・・・ああ、そうだな。また来るよ」


 クリスも、初めは驚いていたが、心なしかうれしそうだった。初めは結依にひっついてきただけだが、こいつもなんだかんだ楽しんでいたようだ。


「じゃあ、フィーリアもまたな」


 俺の足をぎゅっと握るフィーリアに、しゃがんで目線を合わせ、そっと手を剥がして握る。じっと見つめ合った後、こくんと頷いて離れてくれた。


「じゃあなー」


「またねー」


 子供たちに見送られながら、孤児院を後にする。王都を三人で歩きながら、クリスが切り出した。


「君達はギルドに寄るんだろう?僕はここで失礼させてもらうよ」


「そうか?じゃあな」


 別に別れを惜しむ必要はあるまい。そう思って、さっさと手を振ると、クリスは苦笑いした。


「タカ。今日は邪魔したな。僕もまだまだ頑張らないとなと思ったよ」


 何を頑張るのだろう。多分結依関連のことだが、俺と結依は普通に過ごしていただけだ。改めて気合いを入れ直すようなイベントはなかったと思うぞ。

 そのクリスは結依に向かってにっこり微笑んだ。


「イチカ。今日はありがとう。楽しかったよ」


「・・・そう。私も意外だったわ。あなたがきちんと子供たちの相手をするなんて」


「僕はこう見えて子供好きなんだ。イチカ。これからも僕のことを知ってほしいし、僕も君のことを知りたいと思う、そして、僕のことを好きだと言わせてみせる。タカ。君には悪いが、もう少しだけイチカにアタックさせてくれ。そして、君には負けないよ」


 クリスは結依のひと言にうれしそうに笑った。そして俺に向かって爽やかな顔で宣言し、


「ではまた!」


 手を振り、颯爽と消えていった。その姿を見送って、俺はつぶやいた。


「賑やかな奴だな・・・」


「・・・そうね。意外と悪い人じゃなさそうね」


「小田や大内や前田に比べればな」


 小学校のガキ大将、小田は結依の気を引くためにいたずらを繰り返した。中学校の不良大内は一目惚れした結依に乱暴しようとして俺とケンカになった。そして言わずもがな、前田。そいつらに比べれば、クリスはずいぶんまともだ。俺にも結依にも暴力や嫌がらせをしないから。一応結依の彼氏ということになっている俺にも礼儀正しくはしている。結依のことがなければ良い友人になれそう、ぐらいには思う。


「で、クリスのことは、ど、どう思ってるんだ?」


 そう結依に聞いた。なぜか喉がカラカラだ。


「別に。私のことを好きって言ってくれるのはありがたいけど、それに応えたいとは思えないわ」


「ふーん」


 自分で思ってるより高い音が出た。

 それにしても今日は楽しかった。明日からも頑張ろう。

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