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41話 それぞれの恋バナ(3/3)

「大友先生のことが好きなのっ」


 水野さんは思いきって、そう言った。大友先生のことが好き?驚いた。驚いたが、目をぎゅっと閉じ、拳を握り、顔を赤らめている。勇気を振り絞っている様子で、とても嘘をついているとは思えない。


「知ってた」


「そうなの?」


 私と悠のリアクションが分かれた。私は分からなかったが、悠は気付いていたらしい。

 なんで?何で悠は知ってるの?逆に気持ち悪い。


「へ?高島は知ってたの?」


 水野さんも悠が気付いていたことが意外だったらしい。目を見開いてそう聞いた。


「知ってたっていうか・・・。普段のお前を見てたら、なんとなく想像はつくぞ」


「え、そ、そう?」


「だって水野、ステータス測定のとき、先生のことはうちが守ってあげる、って言ってたし。それって先生のことが好きだからだろ?」


「う~」


 水野さんは赤い顔をさらに赤くして、再びうつむいた。

 確かに言ってたわね。それも、クラスメイトだけでなく、貴族もいた公衆の面前で。あれには驚いた記憶がある。それに、私も思い出したことがある。


「確かに水野さん。今思えば大友先生と話すときだけとても笑顔だったわね。あんなあからさまな態度、恋愛感情がないとおかしいものね」


「う~」


 普段から水野さんは明るい性格だが、大友先生と話すときはそれが顕著だった。今にして思えば、それが恋してるってことなんでしょうね。

 水野さんはうつむいたまま、目線だけでこちらを伺うように見て、小さく不安げに尋ねた。


「へ、へんじゃない?女同士だし、先生と生徒だし」


「いや、別に」


「後者はともかく、前者は問題無いと思うわ。最近は同性愛も広く認知されているし。私は応援するわ」


 悠も、私も、力強く言った。どんな形であれ、人を好きになるって言うのはすてきなことだから。否定せず、応援してあげたい。


「うん・・・。ありがとう」


 やっと、ほっとした顔になった。私たちが否定するとでも思ったのかしら。そんなはずないのに。


「で、それを俺たちに相談してどうしたいんだ?」


「んと。先生と距離を縮めるにはどうすればいいかなって」


「私たちで良いのかしら。村上くんや柴田さんの方が適任だと思うけど」


 私も悠も恋愛経験は無い。そんな私たちが相談相手として適切とは思えない。むしろ、村上くんと柴田さんというカップルが身近にいるのだから、そちらに相談した方がいいと思う。


「二人にも相談したら、高島と一条さんに相談した方がいいって」


「なんでだよ」


 悠と同じ気持ちだ。何故私たちに回すのだろう。カップルである二人の方がどう考えても向いているだろうに。

 と思ったが、水野さんは勢いよく頭を下げて頼んできた。


「お願いっ。うち、どうしたら良いと思う?」


 必死に頼み込む様子に、私と悠は顔を見合わせた。仕方ない。頑張って考えるか。そう目で会話する。

 悠は、勝手な意見しか出せない、それでもよければ、と前置きして、話す。


「とりあえず、大友先生といっぱい話すことじゃないか?」


「単純接触効果ね。確かに大事だと思うわ」


 頷きながら私も同意する。心理学の用語で、恋愛だけでなくビジネスにも使われている考えだ。悠にしてはまともな意見を出す。少し感心した。


「なにそれ?」


「簡単に言えば、会う回数が多いほど、話す回数が多いほど、その人に対して好意を持ちやすくなることよ」


「なるほど!じゃあ先生にいっぱい話しかければいいんだね!」


 水野さんは明るく言った。しかしもう十分すぎるほど話しかけているとは思うけど。

 と、悠が一歩踏み込んだ発現をした。


「もう告白したらどうだ?」


「こ、告白ぅ?」


 すっとんきょんな声。よほど驚いたらしい。確かにいきなりすぎる感は否めない。ただ、私はありだと思う。


「ああ。少なくとも、意識させることはできるだろ?」


「で、でも、断られたら・・・」


 しかし、水野は乗り気ではなさそう。今思えば、水野さんってずいぶん大友先生にアピールしてるんだけどな。そっちの方が恥ずかしくないのかしら。


「もう一度告白したら良いんじゃないかしら。別に一度しか出来ないわけじゃないんだし」


 私も告白することに賛成だ。まずは恋愛対象として意識さないことには始まらない。今の大友先生にとって、水野さんは一人の女子生徒でしかないだろうから。まずはそれを覆さねばならない。


「そうそう。とりあえずやってみたらどうだ?」


「そんな簡単に言うけどさぁ」


 とはいえ、やはり告白は難しいらしい。水野さんは困ったように首をかしげ、悩んでいる。そんな水野さんに言い聞かせるように、悠が言う。


「まあ待て。さっき自分で言ってたが、お前には二つの障害がある。同性同士であること、教師と生徒の関係であることだ。大友先生はお前のことを恋愛対象として見ていない可能性の方が高いと思う。だからさっさと告白して意識付けさせることが大事だと思うんだ。もし同性に興味は無いって言われても、少なくとも意識はするはずだ」


 悠の意見は私と同じだ。一度告白すれば、たとえ断られてとしても、大友先生は水野さんを意識するはず。そこから諦めずにアタックすれば、可能性はぐっと高まると思う。

 そして水野さんはほう、とため息をついた。納得する部分があったのだろう。


「う、うん。なるほど。も、もし、教師と生徒だからだめっ言われたら?」


「そうね・・・。ここは日本じゃないからもう関係ないと言うか、卒業するまで待つと言うか。ただ、大友先生はこの世界に来ても私たちの先生であろうとしているから、卒業するまで待つといった方がいいかもしれないわね」


 むしろ同性というより、こちらの方が難関かもしれない。水野さんは同性の私から見ても元気でかわいらしく、魅力あふれる女の子だ。いくら大友先生でも、告白されたら少しくらい意識するはずだ。あとは教師と生徒という関係をどう解決するか。


「そう・・・」


「とにかく、まずは意識させることが大事だと思うわ」


「わかった。ありがとう。ちょっと考えてみる」


 水野さんはそう言って朗らかに微笑んだ。ここからは水野さん次第だ。頑張ってほしい。


「お役に立てたのならよかったわ。それで・・・」


「な、なに?」


 ずい、と水野さんの方へ身を乗り出した。彼女は気圧されたようにやや身を引いた。だが、逃がさない。


「先生のどんなところが好きなの?」


「そ、それ聞く?」


「相談に乗ったのだから、教えてくれても良いんじゃない?」


 せっかくなので、恋バナがしたい。何がきっかけで、先生どこが好きなのか。知りたい。

 水野さんは一見恥ずかしがっているが、でもまんざらでもなさそう。やがてポツポツと語り出した。


「う、うーんとね。優しくてかっこいいところ。でも無理しちゃうから私がそばにいてあげないとって思う」


 恥ずかしがりながら語る水野さんは、やはり魅力的だ。

 そして、話をもっと聞きたい。


「へえ。好きになったきっかけは?」


「言っても良いけど、二人にも好きなタイプとか話してもらうよ?」


「あ、じゃあいいです」


 悠が断った。しかし


「好きになったのはねぇ」


 水野さんは悠を無視して語り出した。私たちが自分のタイプを言うかはともかく、水野さんの話は聞きたい。悠。ちょっと黙ってて。


「初めはきれいな人ってだけで、恋愛感情はなかったんだ。高校入学してすぐの頃かなぁ。学校に来る途中で一人のおばあちゃんが重い荷物を持って歩いてたの。大変そうだったから、うち、手伝ってあげたんだ。そしたら当然遅刻するわけ。で、うち、派手目な格好してるから、そういうとき、中学まではサボってただろって頭ごなしに怒られてたんだ。ところが、大友先生は私の話をすんなり信じてくれて、偉いですね、って微笑んでくれたんだ。それが一番最初かなぁ」


 とても幸せそうだ。そんな水野さんを見て、私まで口元がほころんだ。


「へぇ」


「えへへ。恥ずかしいなぁ。こういうこと言うの」


 水野さんは恥ずかしそうに、そしてうれしそうにはにかむ。ちょっと特殊だから、今まで話したくても話せなかったのかもしれない。


「いい話を聞けたわ」


 私がそう言うやいなや、今度は水野さんが身を乗り出した。


「で、ちなみに、二人はどんな人がタイプなの?」


「なんで俺たちが言うんだよ」


 悠が顔をしかめて、文句を言う。確かに、私も自分の話をするのは恥ずかしいかも・・・。


「だって、うちばっか話してもつまんない。いいでしょ?ちょっとぐらい」


 しかし水野さんはキラキラした目で見てくる。その目に耐えられなくなったのか、やがて悠が諦めたように口を開いた。


「俺は・・・。うーん。守ってやりたくなる人、とか?それでいて守られるだけじゃなくて、一緒に戦ってくれる人。でもだからこそ守りたくなる人」


 悠が言ったなら私も言うしかない。ちょっと考えて、頭にふっと浮かんだことを口に出す。


「私は、ほっとけない人かしら。私がいないと無茶しそうな・・・。私が一緒に私が一緒に戦ってあげないといけない人」


「なにそれ。戦うとかわかんない。もっと考えて言ってよ」


 水野さんは納得いかないような顔だ。確かに一緒に戦うっていつの時代の話だ。適当に話しすぎたか。

 改めて悠が話し出した。


「ベタだけど、優しい人。寝込んでるときに看病してくれるとか、つらいときに励ましてくれるとか。笑顔が素敵な人も好きだな。俺にだけ笑顔を見せてくれるとか、なんかうれしい。あとは、一見クールだけど、実はデレてくれる人。いつも俺のことを心配して、なにかあったらすぐに気づいてくれるような人・・・かな?」


 私はそれを聞いて、思わず心の中で呆れてしまった。優しくて、自分だけに笑顔を向けてくれて、なにかあったらすぐに心配してくれる人?そんな人、いないわよ。アニメの見過ぎじゃない?

 女の子だって、自分のことで精一杯なの。ずっとあんたを見てる暇なんてないの。ちょっと理想が高すぎないかしら。


「外見は?」


「外見?かわいい系よりはきれい系が好きかなぁ。目つきがちょっと鋭いぐらいの、クールな感じかな。あとは髪の毛がきれいでスタイルがよくて、っていうありきたりな感じで」


 なにそれ。どこの女優の話をしてるの?そんなのがありきたりでたまるか。

 水野さんは一通り悠の話を聞いた後、やや顔を赤らめた後、私を見た。


「へぇ。一条さんは?」


 赤面の意味は分からなかったが、どうやら次は私の番らしい。元々この話を初めてのは私だから、拒否するわけにも行かない。とりあえず、ふわっとした答えで納得してくれないかしら。そう思い、語り出す。


「うーん。あまり、誰からも好かれるイケメンには興味が無いわね。私だけが魅力を知ってる人が良い。あとは、私を特別扱いしてくれる人」


 例えば、あのクリスとかいう冒険者。いかにもモテそうな感じがする。そういうのは苦手。もっと地味でいいから、謙虚で、真面目で、私だけをちゃんと見てくれる人がいい。そして、一目惚れとかじゃなく、ちゃんと私の内面を知って、まっすぐぶつかってくれる人がいい。


「なんだよ、特別扱いって」


 悠が呆れた声で文句を付けてきた。しかし、これは女子として譲れない。そう思い、水野さんを見ると、頷いてくれた。


「女の子はお姫様なの。王子様に特別扱いしてほしいの。みんなに優しいんじゃなくて、うちだけに優しくしてほしいの」


 そして、そう言って同意してくれた。ただ別にお姫様を気取るつもりはない。そういう歳でもないし、柄でもない。


「別にお姫様とまでは言わないけど、概ねそうね。私だけを守ってくれる人が良いわ」


「ふーん。めんどくさ」


 悠hよく分かってていないが、でもこれは生物学的にも正しいと思う。女性は妊娠し、出産する。その間は無防備になる。その時は男性に身の回りの安全確保、食料調達などを依存する必要がある。だからあっちこっちの女性にふらふらするより、自分をきちんと守ってくれる人に惹かれやすいのだ。そしてそういう人こそ、そばにいて支えてあげたいと思う。

 こんなことも分からないから、悠はモテないのだ。


「まったく・・・。で、私だけが知ってる魅力って?一条さんは相手のどんなところに魅力を感じるの?具体的に教えて」


 そう深く質問され、少し考える。私は異性のどんなところを魅力に感じるのだろうか。・・・まあ、思いつくものがないこともないけど。


「具体的に?うーん。例えばの話で言うと・・・目元かしら。普段目つきがキリッとしてるんだけど、笑ったときにふにゃってなったり、ふとした瞬間に優しげな目に見つめられるのが好きね。あとは、匂いとか。私、意外と匂いフェチかも・・・あ、まって、今の無し!」


 とても恥ずかしいことを言ってると気づき、慌てて口を閉じる。


「ほうほう。一条さんは匂いフェチなんだって、高島」


 ち、違う!私は匂いフェチじゃない!ただちょっと変な匂いが好きなだけ・・・!いや、それじゃ匂いフェチかっ。えーーと。とにかく、違うの!


「俺に振るなよ。幼なじみのそんな話、聞きたくない・・・」


 悠っ1引くなっ!私が変態みたいになるじゃないっ!


「も、もうっ。悠も恥ずかしい話しなさい!」


 顔が真っ赤になる。こうなったら悠にも恥ずかしい話をさせて、道連れにするしかない!

 悠を睨んで、話せと圧をかける。


「なんでだよ!」


 悠は固く口を閉じて拒否する。するとそこに、


「いいじゃん!うちも聞きたい!」


 水野さんが混ざってきた。興味本位で加わったのだろうが、私にとっては心強い援軍だ。


「嫌だって!話したくない!」


「えー。うちも頑張って好きな人の話したじゃん」


 私と水野さん。二人でじろっと悠を睨む。話すまで諦めない。


「えぇ・・・」、


「話しなさい」


「話せ~」


 やがて悠は、抵抗は無駄だと諦めたのか、がっくりとうなだれて小さくつぶやいた。


「・・・ポニーテールが好き」


 ・・・なーんだ。しょうもない。


「ふぅっ。そんなとこだろうと思った。まあ、それぐらいで勘弁してあげるわ」


 薄々勘づいてはいた。もっと超弩級のやつがほしかったのに。しかし悠の恥ずかしそうな姿を見て、溜飲は下がった。今日のところはここで引いてやろう。

 ま、これからもポニーテールでいてやるか。遠回しにいじってやるのだ。


「ふふっ」


「おい水野。なに笑ってるんだよ」


「ごめんごめん。なんでもない。でも今日はありがと。楽しかったよ」


 そう言って水野さんは朗らかな笑みを浮かべた。それを見て、相談に乗ってよかった、と思った。最後だけ、恥ずかしい思いをしたけど。水野さんの勇気に免じて許してやろう。


「ん。ま、頑張れよ」


「ええ。応援してるわ」


 こうして水野さんの恋バナは無事(?)に終わった。

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