41話 それぞれの恋バナ(2/3)
「大友先生のことが好きなのっ」
うちは思い切って、そう言った。そして、ちらっと二人の顔を伺う。もし軽蔑されたらどうしよう・・・。そんな不安が頭をよぎる。
「知ってた」
「そうなの?」
高島と、一条さんの反応。一条さんは意外そうな顔をしているが、高島は頷いている。だが、少なくとも、軽蔑はしていなさそうだ。よかった。でも、どうして高島は知ってるのだろう。
「へ?高島は知ってたの?」
ずっと誰にも言ってなかったのに。
「知ってたっていうか・・・。普段のお前を見てたら、なんとなく想像はつくぞ」
「え、そ、そう?」
普段のうちって、そんなに分かりやすいかなぁ?好きとは直接的には言ってないんだけど。
「だって水野、ステータス測定のとき、先生のことはうちが守ってあげる、って言ってたし。それって先生のことが好きだからだろ?」
「う~」
ポッと顔が赤くなるのを感じる。
そうだけど。そうだけどっ。あのときは先生の役に立てるって思ったら舞い上がっちゃった。改めて人の口から聞くと恥ずかしい。でもそれ、高島にもブーメランだよ。
「確かに水野さん。今思えば大友先生と話すときだけとても笑顔だったわね。あんなあからさまな態度、恋愛感情がないとおかしいものね」
「う~」
けっこうバレバレだったんだ。はずかしい。それも、一条さんにもブーメランだけどね。
だ、だけど、
「へ、へんじゃない?女同士だし、先生と生徒だし」
改めて、二人はどう思うだろう。こんな普通じゃない恋愛。
そう恐る恐る聞くと、高島も一条さんもきっぱり言ってくれた。
「いや、別に」
「後者はともかく、前者は問題無いと思うわ。最近は同性愛も広く認知されているし。私は応援するわ」
「うん・・・。ありがとう」
ちょっとほっとした。二人は頭ごなしに否定するような人じゃないと思っていたけど、でもやっぱりそう言葉にしてくれるとうれしい。肩の力が抜けて、背もたれにどさっともたれかかる。
「で、それを俺たちに相談してどうしたいんだ?」
「んと。先生と距離を縮めるにはどうすればいいかなって」
そう。これが今日の本題。うちが大友先生と距離を縮めて、ゆくゆくは、その、恋人、みたいになるにはどうすればいいか、って。それを相談したい。
「私たちで良いのかしら。村上くんや柴田さんの方が適任だと思うけど」
「二人にも相談したら、高島と一条さんに相談した方がいいって」
「なんでだよ」
高島はそう言うが、うちも君たちが適任だと思う。だってずっとイチャイチャしてるし。二人は多分いちゃついてる自覚はないんだろうけど。だから二人にアドバイスがほしい。そう思って、頭を下げてお願いする。
「お願いっ。うち、どうしたら良いと思う?」
高島と一条さんは困ったような顔で目を見合わせれた。いいなぁ。そういうの。なんか通じ合ってるって気がする。でもそういうことするからラブラブって言われるの、もっと自覚した方がいいと思う。
やがて、高島は勝手な意見しか出せないけど、と前置きして、話しだした。
「とりあえず、大友先生といっぱい話すことじゃないか?」
「単純接触効果ね。確かに大事だと思うわ」
「なにそれ?」
聞き慣れない言葉にこてんと首をかしげると、一条さんが説明してくれた。
「簡単に言えば、会う回数が多いほど、話す回数が多いほど、その人に対して好意を持ちやすくなることよ」
それだと幼なじみの二人はめっちゃ好意を持ってることになるけど、それはいいのかな?まあ説得力はあるけど。
「なるほど!じゃあ先生にいっぱい話しかければいいんだね!」
今までも、大友先生に話しかけようとはしている。これはそのまま続けて良いんだ。
そう安心したところで、高島が軽い口調でとんでもないことを言い出した。
「もう告白したらどうだ?」
「こ、告白ぅ?」
うちの口から、聞いたことないような声が出た。だってめっちゃびっくりした。
告白なんて無理っ。恥ずかしいよぉ。ただでさえ特殊な恋なのに。断れれたらどうすんのさ。
しかし高島はなおも言いつのる。
「ああ。少なくとも、意識させることはできるだろ?」
「で、でも、断られたら・・・」
「もう一度告白したら良いんじゃないかしら。別に一度しか出来ないわけじゃないんだし」
そこで一条さんも乗っかってきた。どうやら彼女も賛成らしい。
もう一度告白・・・。た、たしかに振られたところで諦められないとは思うけど・・・。
「そうそう。とりあえずやってみたらどうだ?」
「そんな簡単に言うけどさぁ」
告白かぁ。いずれはしなきゃなんだけど。今するの?もうちょっと待っても良いんじゃない?そうやってアドバイスするのは簡単かもしれないけど、実際やる側としては大変なんだよ?特にうちの場合は相手が受け入れてくれるっていう保証がないわけだしさ。
「まあ待て。さっき自分で言ってたが、お前には二つの障害がある。同性同士であること、教師と生徒の関係であることだ。大友先生はお前のことを恋愛対象として見ていない可能性の方が高いと思う。だからさっさと告白して意識付けさせることが大事だと思うんだ。もし同性に興味は無いって言われても、少なくとも意識はするはずだ」
ほう。なるほど。まあ一理ある。確かに先生はうちのことを同性の教え子と思っているはずだ。そうじゃなくて、うちのことを、自分に恋する女の子と思わせることは大事かもしれない。
「う、うん。なるほど。も、もし、教師と生徒だからだめっ言われたら?」
むしろ、真面目な先生のことだから、こっちのほうが大変かもしれない。
「そうね・・・。ここは日本じゃないからもう関係ないと言うか、卒業するまで待つと言うか。ただ、大友先生はこの世界に来ても私たちの先生であろうとしているから、卒業するまで待つといった方がいいかもしれないわね」
「そう・・・」
先生のことだから、生徒と先生は恋愛しちゃだめって言いそう。そういう真面目なところも好きなんだけどさ。でもそれならうちが待てばいいもんね。
「とにかく、まずは意識させることが大事だと思うわ」
「わかった。ありがとう。ちょっと考えてみる」
やるっきゃないかぁ。恥ずかしいけど。でも、このまま何もせず諦める方が嫌だもんね。
二人に相談してよかった。いい意見が聞けたし。なにより否定せずに真剣に考えてくれたことがうれしかった。
「お役に立てたのならよかったわ。それで・・・」
「な、なに?」
一条さんの目がキラッと光った気がした。そして身を乗り出してきた。ちょっと怖くて、思わず後ずさりする。
「先生のどんなところが好きなの?」
「そ、それ聞く?」
「相談に乗ったのだから、教えてくれても良いんじゃない?」
一条さんも恋バナ好きなのかな。ううん。女子はみんな好きだもんね。
「う、うーんとね。優しくてかっこいいところ。でも無理しちゃうからうちがそばにいてあげないとって思う」
そういううちだって恋バナは好き。特にうちは相手が相手だから誰にも言えなかった。だから、聞いてほしい気持ちもある。
「へえ。好きになったきっかけは?」
「言っても良いけど、二人にも好きなタイプとか話してもらうよ?」
「あ、じゃあいいです」
「好きになったのはねぇ」
高島の制止を無視して話し出す。うちだって話したいし、二人の話も聞きたいんだ。
「初めはきれいな人ってだけで、恋愛感情はなかったんだ。高校入学してすぐの頃かなぁ。学校に来る途中で一人のおばあちゃんが重い荷物を持って歩いてたの。大変そうだったから、うち、手伝ってあげたんだ。そしたら当然遅刻するわけ。で、うち、派手目な格好してるから、そういうとき、中学まではサボってただろって頭ごなしに怒られてたんだ。ところが、大友先生はうちの話をすんなり信じてくれて、偉いですね、って微笑んでくれたんだ。それが一番最初かなぁ」
最初は普通のきれいな先生っていう印象で、それ以外特になにも思わなかった。ところがあの遅刻の一件で全てが変わった。今までだったらうちの話を信じてくれる先生はいなかったのに。大友先生だけが信じて、褒めてくれた。あのときの先生の笑みにやられたんだ。普段は大人っぽい美人さんだけど、子供みたいな無邪気な笑みだった。
「へぇ」
「えへへ。恥ずかしいなぁ。こういうこと言うの」
恥ずかしいけど、でも誰かにいいたかったことも事実だ。うちが惚れた人は、こんなにかわいい人なんだぞって自慢したかった。
「いい話を聞けたわ」
「で、ちなみに、二人はどんな人がタイプなの?」
「なんで俺たちが言うんだよ」
「だって、うちばっか話してもつまんない。いいでしょ?ちょっとぐらい」
ぐいぐい迫るうちに諦めたのか、高島が話し出した。
「俺は・・・、うーん。守ってやりたくなる人、とか?それでいて守られるだけじゃなくて、一緒に戦ってくれる人。でもだからこそ守りたくなる人」
「私は、ほっとけない人かしら。私がいないと無茶しそうな・・・。私が一緒に戦ってあげないといけない人」
「なにそれ。戦うとかわかんない。もっと考えて言ってよ」
一緒に戦うとか。なにそれ。そんな特殊な経験してないでしょ。そんなふわっとしたのじゃなくて、うちはもっと具体的な好みが知りたいの!
「ベタだけど、優しい人。寝込んでるときに看病してくれるとか、つらいときに励ましてくれるとか。笑顔が素敵な人も好きだな。俺にだけ笑顔を見せてくれるとか、なんかうれしい。あとは、一見クールだけど、実はデレてくれる人。いつも俺のことを心配して、なにかあったらすぐに気づいてくれるような人・・・かな?」
めっちゃ具体的。
笑顔・・・。君、前に一条さんに君の笑顔が好きって言ってたらしいじゃん。
それも自分だけ・・・。それ、普段の一条さん。そしてそこが好きっていう高島も、大分独占欲強め。
看病・・・。風邪ひいたときも、模擬戦で医務室に運ばれたときも、一条さんはずっと看病してたらしいじゃん。
もう確定じゃん。
「外見は?」
聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。でももうちょっと泳がせてみよう。
「外見?かわいい系よりはきれい系が好きかなぁ。目つきがちょっと鋭いぐらいの、クールな感じかな。あとは髪の毛がきれいでスタイルがよくて、っていうありきたりな感じで」
それ、ぴったり当てはまる人があなたの横に座ってるんですけど。
もう恥ずかしい。遠回しの告白じゃん。これで自分が一条さんのことが好きって気付いてないの?なんで?一条さんも、これだけ言われたら高島が自分のこと好きって気付くでしょ、普通。
「へぇ。一条さんは?」
なんで平気な顔でそんなことが言えるのか分からない。もうおなかいっぱいなので、一条さん話題を移そう。
「うーん。あまり、誰からも好かれるイケメンには興味が無いわね。私だけが魅力を知ってる人が良い。あとは、私を特別扱いしてくれる人」
「なんだよ、特別扱いって」
高島が文句を垂れるが、うちはすごく分かる。
「女の子はお姫様なの。王子様に特別扱いしてほしいの。みんなに優しいんじゃなくて、うちだけに優しくしてほしいの」
うちがそう強く語るが、高島にはイマイチ通じていない。首をかしげたままだ。
「別にお姫様とまでは言わないけど、概ねそうね。私だけを守ってくれる人が良いわ」
「ふーん。めんどくさ」
そう言ってるけど、高島ってだいぶ一条さんを特別扱いしてると思うよ。高島って、ずっと一条さんを守ってきたんじゃん。それ、普通じゃあり得ないから。ずっと一条さんだけを守ってるじゃん。自覚ないの?特別も特別扱いよ。一条さんもそれに気付いてないの?お願いだから、それは気付いてあげて。
「まったく・・・。で、私だけが知ってる魅力って?一条さんは相手のどんなところに魅力を感じるの?具体的に教えて」
「具体的に?うーん。例えばの話で言うと・・・目元かしら。普段目つきがキリッとしてるんだけど、笑ったときにふにゃってなったり、ふとした瞬間に優しげな目に見つめられるのが好きね。あとは、匂いとか。私、意外と匂いフェチかも・・・あ、まって、今の無し!」
高島って普段前髪を下ろしてるから分かりにくいけど、目元がキリッとしてて隠れイケメンって感じするし。それは多分ほとんどの人が気づいてないから、一条さんだけが知る魅力ってことじゃん。一条さんって高島の目元が好きなんだ。そして、他の人に知られたくないと。独占欲じゃん。
それに、匂いって。確か、めっちゃ相性いい人同士だと、お互いの匂いに惹かれ合うって聞いたことがある。もうラブラブじゃん。高島のこと大好きじゃん。なんでこれで付き合ってないの?
「ほうほう。一条さんは匂いフェチなんだって、高島」
「俺に振るなよ。幼なじみのそんな話、聞きたくない・・・」
「も、もうっ。悠も恥ずかしい話しなさい!」
真っ赤な顔で、一条さんが高島を睨む。それがまた甘えているようで、仲が良いんだなって感じる。
「なんでだよ!」
「いいじゃん!うちも聞きたい!」
面白半分で、うちもまざる。
「嫌だって!話したくない!」
「えー。うちも頑張って好きな人の話したじゃん」
一条さんも、うちも、じーと高島を見つめる。うっ、とたじろいで、しかし口は固く閉じたまま。
「えぇ・・・」
なおもじーっと見つめる。
「話しなさい」
「話せ~」
抵抗は無駄だと悟ったのか、高島が諦めて口を開いた。
「・・・ポニーテールが好き」
!
「ふぅっ。そんなとこだろうと思った。まあ、それぐらいで勘弁してあげるわ」
一条さんはもっとディープなものがほしかったのか、不満げだ。というか、高島がポニーテール好きって知ってたの?それでポニーテールにしてるの?
高島も高島だよ。元からポニーテールが好きなのか、一条さんのポニーテールがかわいいからそう言ってるのか。
「ふふっ」
二人とも、好きなタイプじゃなくて、ずっと好きな人の特徴を挙げてるだけな気がした。もろお互いの事じゃん。なんで気づかないかなぁ。それがおもしろくて、思わず笑ってしまった。
「おい水野。なに笑ってるんだよ」
「ごめんごめん。なんでもない。でも今日はありがと。楽しかったよ」
これはほんとだ。楽しかったし、感謝もしてる。うちの恋を応援してくれたし、のろけも聞けた。
「ん。ま、頑張れよ」
「ええ。応援してるわ」
ありがとう。二人に相談してよかった。いい報告が出来るように頑張るよ。
そしてそれはこっちの台詞でもある。あんたら、はやく自分の気持ちにも、相手の気持ちにも気付きますように。




