41話 それぞれの恋バナ(1/3)
「大友先生のことが好きなのっ」
水野は顔を真っ赤にしながら、そう吐き出した。
それを聞いて俺は、
「知ってた」
「そうなの?」
俺と結依のリアクションが分かれた。俺は気付いていたが、結依は分からなかったらしい。
「へ?高島は知ってたの?」
水野は俺が気付いていたことが意外だったらしい。目を見開いてそう聞いた。
「知ってたっていうか・・・。普段のお前を見てたら、なんとなく想像はつくぞ」
「え、そ、そう?」
「だって水野、ステータス測定のとき、先生のことはうちが守ってあげる、って言ってたし。それって先生のことが好きだからだろ?」
「う~」
水野はポッと顔をさらに赤くして、再びうつむいた。
それ以外にも、大友先生にベタベタしたり、俺が大友先生の部屋で相談していたら乱入してきたり。あのときの様子じゃ、毎晩先生の部屋に行ってるようだった。それで気付かないほど俺も鈍感じゃない。
「確かに水野さん。今思えば大友先生と話すときだけとても笑顔だったわね。あんなあからさまな態度、恋愛感情がないとおかしいものね」
「う~」
結依の言うとおり、それも気付くきっかけだった。水野の奴、この世界に来る前から大友先生と話すときはにっこにこだった。よく村上と百合の花が見えるなんて話してたが。確証を得たのはやっぱりエリュシオンに来てからの言動だな。
「へ、へんじゃない?女同士だし、先生と生徒だし」
「いや、別に」
むしろ百合の花を咲かせてください。そう思いを込めて、力強く頷く。
「後者はともかく、前者は問題無いと思うわ。最近は同性愛も広く認知されているし。私は応援するわ」
「うん・・・。ありがとう」
やっと、ほっとした顔になった。たしかに障害の多い恋だから、止められる可能性も十分にあるだろう。それでも、俺も応援したいと思う。
「で、それを俺たちに相談してどうしたいんだ?」
「んと。先生と距離を縮めるにはどうすればいいかなって」
「私たちで良いのかしら。村上くんや柴田さんの方が適任だと思うけど」
結依も同じことを思っているようだ。そう。身近に村上と柴田さんというカップルがいるのだから、そっちに相談すれば良いのに。
「二人にも相談したら、高島と一条さんに相談した方がいいって」
「なんでだよ」
ここにはいない村上と柴田さんに突っ込む。二人はカップルだが、俺と結依は恋愛関係ではない。それなのになぜこっちに回すんだ。村上に会ったら文句を言ってやらないと。
しかし、水野はガバッと頭を下げた。
「お願いっ。うち、どうしたら良いと思う?」
必死に頼み込む様子に、俺と結依は顔を見合わせた。仕方ない。知恵を絞るか。そう目で会話する。
とは言っても俺たちは恋愛経験があるわけじゃない。勝手な意見しか出せないだろう。それでもよければ、と前置きして、話す。
「とりあえず、大友先生といっぱい話すことじゃないか?」
「単純接触効果ね。確かに大事だと思うわ」
難しい言葉で、結依も同意した。俺もよく分からないが、それを言うのは癪なので適当にうんうんと頷いておく。
「なにそれ?」
「簡単に言えば、会う回数が多いほど、話す回数が多いほど、その人に対して好意を持ちやすくなることよ」
そうなんだ。いや、俺が言いたかったのもまさにそういうことだ。いっぱい会う方が好感度って上がりやすい気がする。
「なるほど!じゃあ先生にいっぱい話しかければいいんだね!」
とはいえ、毎晩先生の部屋に行ってるんだったら、もう十分な気もするけどな。ボディタッチととかもしてるし、距離を縮める努力は十分してると思う。だからこそ。
「もう告白したらどうだ?」
「こ、告白ぅ?」
すっとんきょんな声。よほど驚いたらしい。ただ俺も冗談で言ったわけではない。ちゃんとした理由があってのことだ。
「ああ。少なくとも、意識させることはできるだろ?」
「で、でも、断られたら・・・」
しかし、水野は乗り気ではなさそう。俺としては、普段こちらが恥ずかしくなるくらい水野は先生にアピールしてるんだけどな。やっぱり告白となると違うんだろうか。
「もう一度告白したら良いんじゃないかしら。別に一度しか出来ないわけじゃないんだし」
水野の言葉を結依が引き継いだ。結依も俺の意見に賛成らしい。
「そうそう。とりあえずやってみたらどうだ?」
「そんな簡単に言うけどさぁ」
俺と結依の二人共に言われて、水野はややふてくされるような感じでそうつぶやく。俺はそんな水野に落ち着け、とジェスチャーしながら、話を続ける。
「まあ待て。さっき自分で言ってたが、お前には二つの障害がある。同性同士であること、教師と生徒の関係であることだ。大友先生はお前のことを恋愛対象として見ていない可能性の方が高いと思う。だからさっさと告白して意識付けさせることが大事だと思うんだ。もし同性に興味は無いって言われても、少なくとも意識はするはずだ」
俺の言葉に納得したのか、水野はほう、とため息を一つ。
「う、うん。なるほど。も、もし、教師と生徒だからだめっ言われたら?」
「そうね・・・。ここは日本じゃないからもう関係ないと言うか、卒業するまで待つと言うか。ただ、大友先生はこの世界に来ても私たちの先生であろうとしているから、卒業するまで待つといった方がいいかもしれないわね」
「そう・・・」
「とにかく、まずは意識させることが大事だと思うわ」
「わかった。ありがとう。ちょっと考えてみる」
水野はそう言って朗らかに微笑んだ。これ以上は水野の頑張り次第だからな。ファイト。
「お役に立てたのならよかったわ。それで・・・」
「な、なに?」
結依の目がキラッと光った気がした。そのまま身を乗り出す。水野が警戒して、身体をのけぞらせた。
「先生のどんなところが好きなの?」
「そ、それ聞く?」
「相談に乗ったのだから、教えてくれても良いんじゃない?」
どうやら結依の中で、恋バナスイッチが入ったらしい。ぐいぐいと水野に迫る。
水野は照れながらも、でもまんざらでもなさそうな顔で答える。
「う、うーんとね。優しくてかっこいいところ。でも無理しちゃうから私がそばにいてあげないとって思う」
「へえ。好きになったきっかけは?」
「言っても良いけど、二人にも好きなタイプとか話してもらうよ?」
「あ、じゃあいいです」
「好きになったのはねぇ」
おい。断っただろ。
水野は俺の返事をお構いなしに、ペラペラと話し続ける。
「初めはきれいな人ってだけで、恋愛感情はなかったんだ。高校入学してすぐの頃かなぁ。学校に来る途中で一人のおばあちゃんが重い荷物を持って歩いてたの。大変そうだったから、うち、手伝ってあげたんだ。そしたら当然遅刻するわけ。で、うち、派手目な格好してるから、そういうとき、中学まではサボってただろって頭ごなしに怒られてたんだ。ところが、大友先生はうちの話をすんなり信じてくれて、偉いですね、って微笑んでくれたんだ。それが一番最初かなぁ」
「へぇ」
「えへへ。恥ずかしいなぁ。こういうこと言うの」
水野は恥ずかしそうに、そしてうれしそうにはにかむ。相手が相手だけに、今まで話したくても話せなかったのかもしれない。
「いい話を聞けたわ」
「で、ちなみに、二人はどんな人がタイプなの?」
今度は水野が身を乗り出し、聞いてきた。
「なんで俺たちが言うんだよ」
そうなるなら話さなくていいって俺は断ったはずなんだけどな。
「だって、うちばっか話してもつまんない。いいでしょ?ちょっとぐらい」
お前の相談だろうが。
・・・しゃーない。引く気配がないし、適当なこと言って逃げるか。好きな人、ねぇ。
「俺は・・・、うーん。守ってやりたくなる人、とか?それでいて守られるだけじゃなくて、一緒に戦ってくれる人。でもだからこそ守りたくなる人」
とりあえず、頭に浮かんだことを話す。抽象的だから、ダメージも少ない。
「私は、ほっとけない人かしら。私がいないと無茶しそうな・・・。私が一緒に戦ってあげないといけない人」
「なにそれ。戦うとかわかんない。もっと考えて言ってよ」
水野は全然逃がしてくれなかった。でも確かに一緒に戦ってくれる人っておかしいか。どこからそんな発想が出てきたんだろう。もうちょっと普通な感じで・・・。なんだろうな・・・。
「ベタだけど、優しい人。寝込んでるときに看病してくれるとか、つらいときに励ましてくれるとか。笑顔が素敵な人も好きだな。俺にだけ笑顔を見せてくれるとか、なんかうれしい。あとは、一見クールだけど、実はデレてくれる人。いつも俺のことを心配して、なにかあったらすぐに気づいてくれるような人・・・かな?」
好きなタイプ・・・あんまり考えたことがなかった。でもやっぱり優しい人が好きだな。隣の結依が乱暴だから余計に。
「外見は?」
「外見?かわいい系よりはきれい系が好きかなぁ。目つきがちょっと鋭いぐらいの、クールな感じかな。あとは髪の毛がきれいでスタイルがよくて、っていうありきたりな感じで」
とりあえず、ベタな感じで話してみた。大体の男ってこんな感じだと思うが、水野は俺の答えを聞いて顔を赤らめている。どういう感情だろうか。
「へぇ。一条さんは?」
やっと俺から標的が移った。
「うーん。あまり、誰からも好かれるイケメンには興味が無いわね。私だけが魅力を知ってる人が良い。あとは、私を特別扱いしてくれる人」
「なんだよ、特別扱いって」
思わず結依に突っ込むが、そこで水野が俺に反論した。
「女の子はお姫様なの。王子様に特別扱いしてほしいの。みんなに優しいんじゃなくて、うちだけに優しくしてほしいの」
水野がそう語気を強めて言うが、全然理解できない。
それより気になるのは、お前と大友先生はどっちが王子様なんでしょうか。水野が先生のことを守るって言ってたから、水野が王子様ポジか?先生が守られて照れてるのも見たい。いやでもなんだかんだ先生が王子様ポジも捨てがたい。普段勝ち気な水野が優しくされて照れてる姿も見たい。結論。さっさと告れ。
「別にお姫様とまでは言わないけど、概ねそうね。私だけを守ってくれる人が良いわ」
しかし、私だけ、か。
「ふーん。めんどくさ」
女子ってみんなそう考えるもんなん?特別扱いってなに?ムズい。そんな私だけを守ってくれるやつなんて、いないって。夢見過ぎだ。
「まったく・・・。で、私だけが知ってる魅力って?一条さんは相手のどんなところに魅力を感じるの?具体的に教えて」
「具体的に?うーん。例えばの話で言うと・・・目元かしら。普段目つきがキリッとしてるんだけど、笑ったときにふにゃってなったり、ふとした瞬間に優しげな目に見つめられるのが好きね。あとは、匂いとか。私、意外と匂いフェチかも・・・あ、まって、今の無し!」
そんな変な目をしてる奴なんておらん。そう言おうとしたら、最後口を滑らせた。自分でもそれを悟ったようで、結依はわたわたと慌てて口を閉じる。しかし、吐いたつばは飲み込めない。
「ほうほう。一条さんは匂いフェチなんだって、高島」
「俺に振るなよ。幼なじみのそんな話、聞きたくない・・・」
俺はそれをどんな顔して聞けば良いのか。でもとりあえず結依をいじるネタには困らない。
「も、もうっ。悠も恥ずかしい話しなさい!」
真っ赤な顔をしながら、結依が俺を睨む。それって性癖を話せってことだろ。
「なんでだよ!」
普通に嫌です。なんでそんな恥ずかしいことをしなきゃいけないんだ。
「いいじゃん!うちも聞きたい!」
そこへ面白半分に水野が加わった。最悪だ。しかし俺は負けない!
「嫌だって!話したくない!」
「えー。うちも頑張って好きな人の話したじゃん」
結依は必死に。水野は好奇心に目を輝かせながら。話せ話せとぐいぐい迫ってくる。あまりの圧にたじろいでしまう。
口を固く閉じて二人を見る。しかし、一向に引く気配はない。
「えぇ・・・」
なおも話すまい、と必死に抵抗するが、
「話しなさい」
「話せ~」
全く解放してくれる気がしない。
「・・・ポニーテールが好き」
ついに根負けして、ぼそっと言った。さすがに軽めの奴だが。
「ふぅっ。そんなとこだろうと思った。まあ、それぐらいで勘弁してあげるわ」
しかし結依は上から目線。俺は結構ぶっちゃけたつもりなんだが。イラッとしつつも、とりあえず収まったことにほっとした。え・・・?もしかして結依、俺がポニテ好きってことに気付いてた?・・・いやいや。そんなまさか。だとしたら、俺が結依のポニーテールを見たいからシュシュをプレゼントしたみたいに思われてたってことだろ。いや、それは違う。が、今から言い訳するのもやぶ蛇か・・・?あーー。そうすれば良い?
「ふふっ」
俺が悩んでいると、水野が軽く笑った。もうこの話題はやめよう。そう思って水野に突っ込む。
「おい水野。なに笑ってるんだよ」
というか、元々お前が俺たちに恋バナを振らなければこんなことにはならなかったのに。
「ごめんごめん。なんでもない。でも今日はありがと。楽しかったよ」
水野のすがすがしい笑みを見て、毒気が抜かれた。
色々脱線したが、少しでも役に立てたならよかった。
「ん。ま、頑張れよ」
「ええ。応援してるわ」
こうして水野の相談、というか恋バナ、は無事(?)に終わった。




