40話 意外な訪問
ピクニック翌日。この日は朝からベイル家の庭で訓練。そしてそれは俺だけでなく、結依も同じのようだ。
「ではユイさん。まずはやってみてください」
「はい」
とはいっても、結依は身体を動かすトレーニングをするわけではない。庭で魔法を発動させる練習をするのだ。そのために結依とメイさんは庭に出てきている。
俺とロッシュさんは少しその様子を見学させてもらう。
「ふぅ」
結依は気持ちを落ち着かせるように深く深呼吸した。目を閉じ、手を軽く前に突き出す。
「”#&$%=)(!”」
俺には意味不明な言葉を唱えた。
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しかし、しばらく経っても何も起きなかった。
「し、失敗ね」
結依が気まずそうに言った。
「失敗かよ」
「うるさいわね。難しいのよ」
「うふふ。ユイさん。焦ってはだめですよ」
「はい」
結依がごほんと咳払いし、俺をにらみつけた。
「というわけで、悠。気が散るから、あっちで訓練してなさい」
「へーい」
魔法見たかったんだけどな。
という訳で、俺とロッシュさんは結依とメイさんから見えない位置に移動した。
「まずは腕立て伏せ50回じゃ!」
「はいっ」
今日は筋トレの日らしい。腕立てにはじまり、腹筋、背筋、スクワットなどまんべんなくこなした。
そして昼食。いつも通り、俺、結依、ロッシュさん、メイさんの四人だ。結依とメイさんの姿を見るのは朝の庭以来。あのときは魔法の発動に失敗していたが、あの後どうだったのだろう。
「結局、結依は魔法を発動できたのか?」
「・・・まだよ。難しいのよ。魔法って」
「そうなのか」
残念そうに答えた結依だが、それを聞いて俺の方が残念に思った。
「どうして悠がしゅんとするのよ」
俺の反応が意外だったようで、結依がそう聞いてきた。
「いやー。簡単だったら俺も使ってみたいんだ。魔法」
誰でも簡単に使えるなら、俺だって使いたい。だって魔法だぞ。憧れない方がおかしい。しかしメイさんが結依には才能があるって言ってたのに、これだけ苦戦するのなら、俺には無理かもなぁ。
コンコン
「わしが出よう」
そんな話をしながら昼食を食べていると、玄関の扉がノックされた。ロッシュさんが立ち上がり、出て行った。
「またカイさんでしょうか?」
「どうでしょう?そう頻繁に来るような人ではないのですが」
メイさんと話しつつ、ロッシュさんを待つ。
ほどなく、廊下を歩く足音が聞こえてきた。ガチャと扉が開いた。
「ユウ。ユイ。お友達じゃぞ」
どうやらやってきたのは俺たちの友人らしい。ということは、村上たちか。
ところが、ロッシュさんに続いて入ってきたのは、なんとも意外な人だった。
「おじゃましまーす」
やってきたのは、何と水野だった。しかも、他の人影が見当たらない。
「一人か?」
驚いて聞くと、水野は頷いた。
「うん。ちょっと高島と一条さんに相談したいことがあって」
「相談?私たちに?」
結依が意外そうに聞いた。俺も同じ気持ちだった。俺たちと水野は特別仲が良いというわけでもないし、誰かから相談されるような素晴らしい人間でもない。あるとすれば城を出たいという相談だが、それなら大友先生辺りを連れてくるだろう。
「ふむ。ではおぬしら、カフェにでも行ってくるがいい」
戸惑っていると、ロッシュさんが俺たちにそういった。
「ロッシュさん・・・?」
「せっかく頼ってきてくれたんじゃ。訓練のことは気にせんで良いから、きちんと話を聞いてあげなさい」
「え?訓練?でも。そんなたいしたことじゃないから・・・」
申し訳なさそうに水野が言った。普段明るい水野のそんな態度も珍しい。
しかしメイさんは首を振り、
「いいんですよ。ユウさんとユイさんも頼たれてうれしいと思うわ。行ってらっしゃい」
別にうれしいとは思わないが。仕方ない。相談にのってやるか。
「じゃあ、行くか」
「ええ」
「・・・ありがと」
というわけで、俺、結依、水野はロッシュ家を出て、カフェにやってきた。富裕層側にあるおしゃれで静かなカフェだ。
俺はカフェオレ、結依はフルーツジュース、水野はコーヒーを注文した。
ドリンクを飲みながら水野の様子を見る。しかしなかなか切り出さない。言いにくい話題なのだろうか。仕方ないので、当たり障りのない話題を振ることにする。
「そう言えば、みんなの様子はどうだ?」
「ん、まあみんな元気にしてるよ」
「だって、悠。風邪ひいたのはあなただけみたいよ」
思わぬ形で被弾した。くそっ。それをいじるならこっちだって考えがあるぞ。
「う、うるさい。それを言うならかいがいしく看病してくれたこともバラすぞ」
「もうバラしてるじゃない!それに言い方に悪意があるわ!」
やいやいと俺たちが言い合ってると、水野がくすっと笑った。
「ま、元気は元気だけどね。訓練がなんか軍隊みたいになってるんよ。剣を型を完璧に覚えさせられたり、そろって行進させられたり」
それは軍隊というより、集団演技のような気がしないでもないが。そんな訓練で本当に魔王を倒せるのだろうか。テレビで見る自衛隊とか、めっちゃ過酷な訓練をしてるイメージだぞ。
「前田の様子はどう?」
結依が聞いた。前田の様子は俺も気になっているところだ。
「あー。前田は自主練習になって、ずっとサボってるって話はしたじゃん?あれから一緒。滅多に訓練所に来ない。最近じゃ、貴族の自宅に招かれて接待されてるって言いふらしてるよ。そのせいか、ちょっと太ってきてるし。大友先生も頑張って説得はしてるんだけど、全然聞かないし・・・」
そうか。前田は相変わらずサボってるらしい。しかし、それは俺たちにとっては、悪い話でもない。もし前田が圧倒的な活躍で魔王を討伐すれば、調子に乗って俺の帰還を拒否する可能性があるからだ。俺のことが嫌いなあいつならやりかねない。
「あー。その」
そこで水野が口ごもった。
「何だ?」
「その大友先生の事で相談があるんだけど」
「おう」
「なにかしら」
やっと本題だ。言いづらそうにもじもじする水野をじっと見つめ、ゆっくり言葉を待つ。
「実は・・・」
下を向きながら、ゆっくり口を開いた。
「うち・・・」
顔が徐々に赤くなっている。
「大友先生のことが好きなのっ」




