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34話 カーネリア孤児院(2/2)

「ここが子供たちの遊び場です。では、開けますね」


 ギイイと音を立て、セリアさんがドアを開けた。

 いよいよ子供たちとのご対面だ、少し緊張してきた。


 中はさすがに広い部屋だった。ベイル家のリビングか、それ以上。中には10人ほどの子供がいた。おもちゃで遊んでいたり、走り回っていたり、絵本を読んでいたり。

 と、一人の男の子が俺たちに気づいた。


「なんだおまえら!」


 その声をきっかけに、他の子たちも俺たちに気づいた。


「てきか!?」


「あたらしいおともだちだ!」


「わーおねえちゃんかわいい!」


「よわっちそうだな!」


 わらわらと集まってくる。大きい子で12~13才ぐらい。小さい子で5才ぐらい。男女比は半々ほど。なんと、獣人の子どもも見られる。10歳くらいの男の子と女の子の二人がそうだ。


「はいはい。あなたたち、静かに。お兄さんとお姉さんが今日一日遊んでくれるのよ。ご挨拶して」


「「「「こんいちはーーー」」」」


 セリアさんに促されて、子供たちは元気よく声をそろえて挨拶してくれた。俺たちもこんにちは、と返す。

 と、落ち着いたのはその一瞬だけ。またわらわらと集まり、騒ぎ出した。


「おにいちゃんたち、あそんでくれるのか!?」


「あそぶー?」


 キャーキャーと騒ぐ子供たち。結依はそんな子供たちにしゃがんで目線を合わせ、にっこり笑った。


「ええ。今日は私たちと思いっきり遊びましょう」


「わーー。すごい!」


「やたーーー」


 テンションが上がった子供らは、今度はじっと俺を見つめた。すごくキラキラした瞳だ。


「にいちゃんもか!?」


「あそぶ!」


「あ、ああ。よろしくな」


「へっ。しゃーない。なかまにいれてやるぜ!」


 子供たちの勢いに戸惑ったが、なんとか受け入れてもらえたようで、よかった。


「ふふっ。ではタカさん。イチカさん。よろしくお願いします。私は孤児院の掃除をしていますから、何か困ったことがあれば声をかけてください」


「「はい」」


 セリアさんは若干ほっとしたような顔をしながらそう言って一礼し、部屋を出て行った。もしかしたらセリアさんも俺たちと子供らが上手くいくか不安だったのだろうか。でもこの部屋から去ったということは、信頼して任せてもらえたということかな。頑張ろう。


「なあなあ。にーちゃんたちはふーふなのか!?」


 セリアさんが退室したと思ったら、10歳ぐらいの男の子が、唐突にそんなことを聞いてきた。それに子供たちも大きく反応した。


「ふーふってなに?」


「え?ふーふはふーふだぞ」


「ライ。あんたなにも知らないのね」


「なんだとシーラ!おまえしってんのか!?」


「もちろんよ!ふうふっていうのは、ラブラブな二人のことよ!」


 シーラと呼ばれた、年長の女の子が胸を張りながら答えた。それに子供たちは目を輝かせ、大盛り上がり。


「わー。おにいちゃんたちらぶらぶ!」


「らぶらぶ!」


「らぶらぶ!?」


「ふーふ!」


「「ふーふ!ふーふ!」」」


 子供たちの盛り上がりが、おかしな方向になってしまった。響き渡るふーふの大合唱。


「ち、ちょっと。私たちは夫婦じゃないわ!」


 それに耐えかねた結依が、焦ったように言った。


「えーー。ちがうのー?」


「ああ。友達だ」


「ともだち」


 子供の目線に合わせて、ゆっくりと噛んで含めるように言う。俺も、結依と夫婦だと言われるのがうれしいわけじゃないから、しっかりと言い聞かせる。


「君達だってみんな友達だろ?俺と、こいつ。ああ、俺はタカで、こいつはイチカっていうんだ。俺とイチカは友達だ」


「んーー。わかった!」


 わいわいがやがやとはしゃぐ子供達。なにがそんなに楽しいのか、きゃっきゃと笑っている。


「タカにーちゃん!なにしてあそぶ!?」


 子供たちの興味は移ろいやすい。話題が変わってくれてほっとした。


「んー。その前に君達の名前も教えてくれ」


「分かった!俺はライ!」


「シーラよ!」


「べぐはべぐ!」


「おれはゼン!」


「あたしはマフィ!」


「ケイン!」


「ぼくはぐれん!」


「わたしはあんね!」


「うちはサラ!」


 ケインとサラは獣人。頭部に獣の耳、お尻から尻尾が生えている。ライとシーラと名乗った二人が年長、ベグが一番年下のように見える。しかし一度にわっと名乗られても覚えられなかった。追々覚えていこう。


「うん。みんなよろしくね」


「「「「よろしくーーーー」」」」


 結依の言葉に、みんな元気よく返事をした。


 あれ・・・?ふとそこで気づいた。部屋の隅でぽつんと座り、本を読んでいる女の子がいる。さらさらの銀髪で、5歳くらい。この孤児院では年少の部類だ。この騒ぎに加わらず、ずっと一人でぽつんと座っている。


「あら?あの子は?」


 結依も気づいたのか、近くにいた女の子、シーラ、に聞いた。


「えっと、あの子はフィーリアって言うの」


「いっつも本読んでんだ」


「全然遊あそんでくれないの」


 子供たちも遠巻きにフィーリアを見ている。嫌われているというよりは、接し方がよく分からなくて困っているという雰囲気だ。

 結依は子供たちの話を聞いて、ゆっくりフィーリアのそばに寄っていった。俺も結依についていく。


「こんにちは、フィーリアちゃん」


「・・・」


 結依の言葉に目を上げ、じっと無表情で見つめた。こくんと頷いた。また本へ視線を落とす。


「こんにちは。フィーリア」


「・・・」


 目を上げ、じっと無表情で見つめた。こくんと頷いた。また本へ視線を落とす。

 反応はしてくれたので、無視されているわけじゃない。物静かな子なのだろう。しかし、俺には一つ気になることがあった。フィーリアの耳が長い。多分この子、エルフだ。

 すごい。生エルフだ。初めて見た。アニメのエルフって美男美女が多いイメージだけど、この子もそうだ。まだ幼い子供ながら、目鼻立ちがくっきりしていて、髪の毛もさらさら。小さな身体と、変化に乏しい表情がはかなげな雰囲気を醸し出して、お人形さんのようなかわいさがある。


「これからみんなで一緒に遊ぶんだけど、フィーリアちゃんもどう?」


 結依は優しくフィーリアに言った。フィーリアは顔を上げ、じっと結依を見つめる。見つめられた結依は、ニコッと笑いながらフィーリアに手を差し出す。

 ジト。今度はフィーリアが俺を見た。慌てて俺もニコッと笑い、手を差し出した。

 フィーリアは暫し俺たちを見た後、コクっと笑い、俺と結依の手を取った。


「わあ。フィーリアもあそぼ!」


「あそぼ!」


 シーラたちがわっと寄ってくる。やはり、シーラとどう接すればいいか分からなかっただけで、本心では仲良くしたかったらしい。


「・・・」


 しかしフィーリアはびっくりしたのか、そっと俺と結依の陰に隠れた。引っ込み思案な性格なのだろう。


「なにして遊ぼうか?」


「んー。外に出たい!」


「庭!」


「園長先生は外で遊ばせてくれないの!」


「そう。じゃあ先生に聞いてくるわね」


「「「「わーー!」」」」


 結依がセリアさんに庭で遊ばせても良いか聞きに言った。フィーリアの手を離し、部屋を出て行く。

 フィーリアはしかし俺の手を離さない。すると、わっと子供たちが寄ってきた。フィーリアは子供たちの視線を避けるように足に隠れた。しかし彼らの標的はフィーリアではなく俺らしい。


「にいちゃん!あのおねえちゃんかわいいな!」


「ん?まあそうだな」


 また話題が戻ってきた。しかし別に嘘をつく必要も無いので、肯定して話を合わせた。それを聞いた子供たちはなぜか目を輝かせた。


「わー。らぶらぶだ!」


「ラブラブね!」


「ふーふだ!」


「こらこら。俺とイチカはただの友達だから」


「えーー1?」


 そんな話をしながら待っていると、結依が部屋に戻ってきた。


「みんな。庭で遊んでもいいそうよ。ただし、庭からは出ないようにね」


「「「「わーー」」」」


 夫婦で盛り上がったと思ったら、すぐに庭に駆け出した。本当に、子供の興味は移ろいやすい。


「敷地内から出ないよう注意してほしいそうよ。あと怪我がないようにって」


「分かった」


 セリアさんからの伝言を聞いて、俺たちも外へ出ようとする。


「行きましょう?フィーリアちゃん」


「・・・」


 無口な少女はこくんと頷いて、左手で結依の手を握った。右手は俺の手を握ったまま。

 フィーリアは、俺と結依と、両手で手をつないでいる。

 不意に、子供たち夫婦とからかわれたことを思い出した。俺たちの間に、手をつないだ幼い子供。

 あながち、否定できないかもしれない。


「悠?行くわよ?」


「あ、ああ」


 ぼーとしていたみたいだ。結依に促され、歩き出した。


 庭では子供たちが俺たちを今か今かと待ち構えいた。何をして遊ぶか。まずはで鬼ごっこをすることになった。この世界にも同じものがあるようだ。最初の鬼は俺。もちろん手加減しながら、少しずつ捕まえていく。捕まった子も鬼になるシステムだ。捕まってもキャッキャと笑って、楽しそうに走り回っていた。


「今度はぼくがおにだー」


「わーー。にげろーー」


 鬼を変えて何度かやったが、獣人のケインとサラの足が速く、子供たちは二人が鬼になるとキャーキャー言いながら逃げていた。しかし、フィーリアは最初からずっと俺か結依の手を掴み、離れようとしなかった。それはもう諦めて、手をつなぎながら遊んだ。


 その後、昼食を一緒に食べた。セリアさんが作ってくれたサンドイッチ。俺たちもご相伴にあずかった。子供達はポロポロこぼすので、時折口元を吹いてやりながらワイワイ食べた。10人もいると大変だ。あっちでこぼすわ、こっちで騒ぐわ。


「グレン。もう少し落ち着いて食べなさい」


「ゼン。サンドイッチは逃げないからな。ゆっくり食べなさい」


 セリアさんの見よう見まねで、俺も子供たちの世話をする。


「ケイン!食事中はたったらだめなんだぞ!」


「アンネ。口元にソースが付いてるわ。拭いてあげるからじっとしてて」


 年長のライとシーラは年下の子たちをサポートしてくれたが、それでもてんやわんやだ。普段一人で面倒を見ているセリアさんには頭が下がる。


「おいしい?フィーリアちゃん?」


「・・・」


 そしてフィーリアは今度は結依に膝枕をしてもらながら、もきゅもきゅとサンドイッチを頬張ってた。結依の表情は優しげで、フィーリアも表情は変わらないが、安心したような雰囲気だった。そこだけ切り取ると、本当の親子のようだった。


 午後は草刈り対決。誰が一番庭の草を取ってくることが出来るか、という遊び。というかぶっちゃけ、雑草刈りだ。庭の雑草が伸び放題なのが気になったので、どうせなら対決というゲーム要素を付け足し、遊びながら草むしりをしよう、という結依の発案だ。


「俺が一番草をむしるんだ!」


「ライにいちゃんにはまけないぞ!」


 ただ、効果は抜群。これによって子供達は我先にと草むしりをしてくれた。特にやんちゃなゼンとお転婆娘のマフィが頑張っていた。そしてフィーリアはちょこちょこと歩いては草をむしり、俺か結依どちらかに見せて、褒められるとまた草をむしり、どちらかに見せてーーということを繰り返していた。表情には表れないが、楽しんでくれたと思おう。


 こんな感じで、一日中子供たちと戯れた。しかし、子供のパワーはすごい。一日中走り回って、それに付き合わされた俺たちもヘトヘトだ。ただ、嫌な感じはしない。楽しかったし、充実感もある。

 もっとも、セリアさんは確かにずっとこれに付き合うのは大変だなと思った。冒険者ギルドに依頼を出すのも納得だ。そのセリアさんは孤児院の部屋や廊下を掃除しているのを何度か見かけた。朝来た時よりもかなりきれいになっていたので、そういう意味でも役に立ててよかった。


「タカさん。イチカさん。今日は本当にありがとうございました」


 夕方ごろ。そろそろ帰るという段階になって、セリアさんに助かりました、と何度も頭を下げられた。


「私たちも楽しかったです」


「えーー。にいちゃんたち、もうかえるのか!?」


「もっとあそぶーー」


「あそぶーー」


「こらこら。わがまま言わないの」


「えーー」


「ごめんね。また来るからね」


「またくるのか!?」


「ぜったいだぞーー」


「おねえちゃん。またきてね!」


「にいちゃんもきてもいいぞ!」


「ああ。だからセリアさんの言うことをよく聞くんだぞ」


「「「「はーーい」」」」

 調子よく返事をする子供たちの様子に苦笑いしながら、セリアさんは言った。


「すみません。実を言うと、ギルドに依頼をしたものの、誰が来るかは分からないのは不安でしたの。でもお二人のような優しい方が来て下さって安心しましたわ。あの、もしよかったら、指名依頼をさせていただいてもよろしいですか?」


「指名依頼ですか?」


 指名依頼という制度は特に説明は受けなかったが、おそらく依頼に来る冒険者を依頼人が指名するような制度だろう。つまり、俺たちはそれほど信頼されたということだ。素直にうれしい。


「はい。期日は指定しませんから、もしお暇な時に、またいらしていただけると、とても助かります。子供たちもよろこんでいるようですし」


「またくるんだろーー」


「やくそくーー」


「分かりました。また来ます」


「ありがとうございます。こちら、依頼達成の証明書です」


「ありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」


 証明書を受け取り、挨拶をして帰ろうとした。しかし、俺の手を握る小さな手は、離してくれない。


「フィーリア。また来るから」


「・・・」


 それでも手を離そうとせず、じっと俺の目を見つめる。相変わらずの無表情だが、目は強く俺を捉えている。


「また遊びましょう?」


「・・・ん」


 小さく、蚊の鳴くような声。初めて聞いたフィーリアの声。こくんと頷いて、俺の手を離してくれた。きびすを返し、とことことセリアさんのところへ歩き、足にもたれかかった。


「フィーリアがお二人にここまで懐くなんて、びっくりです。また来ていただけると、この子も喜ぶと思います」


「「はい」」


 そう言われたら、また来ないわけにはいかない。

 バイバイ、と手を振って孤児院を後にする。


「じゃあなーー」


「またねーー」


「ばいばーい」


 子供たちの姿が見えなく為るまで、手を振りながらゆっくり帰る。


「楽しかったわね」


「そうだな。また来ようぜ」


「ええ」


 そう話しながら、ギルドへと戻っていく。

 ギルドでは、またもセナさんに担当してもらえた。達成の証明書を見せて報酬をもらった後、指名依頼のことを話すと驚かれた。


「E級で指名されるなんて、ほとんどありませんよ!すごいです!」


 ニコニコ笑顔でそう言われたら悪い気はしない。ちなみに指名依頼はやはり依頼人が依頼を受ける冒険者を指名することのようだ。冒険者のメリットとして、報酬が高額になりやすいこと、ギルドの昇級に関わる査定に加点がされることを教えてくれた。


「通常E級冒険者に指名依頼は来ないので、ギルドとしてもD級昇格試験の際に説明するのですが・・・。とにかく、おめでとうございます!」


 屈託のない笑顔でそう言ってくれるセナさんに、結依の口元もさすがにほころんだ。

 ちなみに指名依頼が入ると、E級の掲示板に「タカ、イチカへの指名依頼あり」という紙が貼られるらしい。ずいぶん目立つ仕組みだが、まあ仕方ない。


「ありがとうございます。それで、私たちの報酬が高くなるというのは、依頼人が多くお金を払うということでしょうか?」


「ええ、そうなりますね。冒険者を指名する分、依頼人は依頼料を多く払うのが通例になっています」


「でしたら、ギルドに依頼が持ち込まれたときにセリアさんに言ってもらえませんか?依頼料は今まで通りで構いません、と」


「え?いいんですか?」


 結依の言葉に、セナさんは目を丸くして驚く。耳もピンと立ったような気がした。


「はい。悠も良いわよね?」


「ああ、もちろん」


「お二人がいいなら構いませんが・・・」


 あの孤児院は決して裕福では無かった。だから、依頼料で負担をかけたくない、というのが結依の願いだろう。なんなら無料でもいいぐらいに思っているはずだ。

 俺も同じ気持ちなので、うんと頷いた。ただ、俺たちは無料でいいとしても、それは逆にセリアさんに断られそうだ。そして、ギルドとしても、依頼人が払う依頼料から仲介料をとっているはずので、無料は受け入れられないだろう。

 しかし、指名依頼の割り増し報酬を受け取らないというのは、冒険者の提案としては異例のことなのだろう。セナさんが戸惑っている。普通はお金がもらえるならそれに文句はないはずだからな。


「私たちはそれで構いませんので、よろしくお願いします」


「分かりました。しっかりとお伝えしておきますね」


「はい。では、今日のところはこれで」


「あ、はい。お疲れ様でした!またお待ちしています!タカさんも、さようなら!」


「さようなら、セナさん」


 笑顔で見送ってくれるセナさんに俺も挨拶を返し、ギルドを出る。

 こうして、俺たち二人の初依頼は終わった。

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