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33話 カーネリア孤児院(1/2)

 昨日、一昨日と木を切る練習をした。目の前に立てた木を切ることから始め、少し離れてステップを踏んでから切る練習、走りながら切る練習、突きで木を割る練習などなど。止まっている木ならどんな態勢でも離れていても、切れる自信は付いた。あとは動く標的、そして生きている生物を切れるかが今後の課題だとロッシュさんは言っていた。


 で、今日は冒険者ギルドの依頼を受けることになった。俺と結依の二人でだ。といってもE級の依頼は危険はものはない。わしらがおらんでも大丈夫じゃろう、というロッシュさんの判断だ。

 そんなわけで、俺と結依は二人で冒険者ギルドに来ている。掲示板を見つめ、どの依頼を受けようか吟味しているところだ。


「どうする?」


「そうね・・・」


 E級依頼にもいくつか種類がある。前回受けた薬草集めの他に、迷子のペット捜索、街の清掃、店頭での売り込みなど。ロッシュさんの言うとおり基本的に危険なものはなく、冒険というよりは便利屋という側面が強い。


「これなんかどうかしら?」


 結依が一枚の依頼書を指さした。


ー孤児院訪問ー

内容:孤児院にて、子供の遊び相手を務める

適正:E級

場所:王都のカーネリア孤児院

人数:1人~(報酬は何人いても同じ)

報酬:10000ゴル/1日



「孤児院?」


「ええ。子供たちを遊ぶだけでお金をもらえるなんて、最高じゃない?」


 結依は若干目を輝かせながら言った。そういえばこいつ、意外と子供好きなんだよな。中学校のとき幼稚園を訪問するという時間があったが、その時も楽しそうにしていた。まあ別に俺も嫌じゃないから構わない。報酬は二人で分ける分少なくなるが、どうせ居候の身だからどうしても必要という訳ではないし。


「じゃあそれにするか」


「決まりね」


 そう言うや、結依はぺっと素早く依頼書を引っぺがし、受付へ歩いて行った。ちょうど掲示板に近い一番端が空いていた。


「この依頼を受けたいのですが」


「畏まりました」


 依頼書と、ギルドカードを提出する。それを受け取った受付嬢が顔を上げた。見覚えのある顔だった。その人も俺たちを見ると、目を丸くして、それからぱっと笑ってくれた。


「あら、イチカさん。それにタカさんも。いつもありがとうございます!」


「セナさん!」


「・・・お久しぶりです」


 受付を担当していたのは、偶然にも、猫獣人のセナさんだった。俺たちを見て口角を上げて、目を細めて、うれしそうに笑ってくれる。多分営業スマイルだが、でもかわいらしい笑顔だ。それに釣られて、俺も笑顔になってしまう。

 おっと。セナさんをじろじろ見るとまた結依に怒られる。ほら、またジト目で俺のことを見てるし。んんっ、と咳払いしてごまかす。セナさんをじろじろ見てませんよ、と。


「うふふ。イチカさん。そんなに警戒なさらないでください」


「な、なんのことですか?」


 セナさんのニコニコ笑顔に、結依がたじろいだ。慌てて結依も反論しようとするが、セナさんが余裕の態度で手続きの話を始めた。


「いえ。失礼しました。それで、こちらの依頼ですね。報酬は二人で10000ゴルとなりますが、よろしいでしょうか」


「・・・はい」


「ありがとうございます。カーネリア孤児院はここから15分ほど歩いた場所にあります。地図をお渡ししますね」


 カードを返却するとともに、孤児院までの地図を渡してくれた。それによると、庶民側の住宅街に孤児院はあるようだ。


「依頼が達成できれば、孤児院の方から達成証明書をもらってください。それをギルドに持ってきていただけると、正式に達成と見なされ、報酬もお支払いいたします」


「分かりました」


「他に何か質問はございますか?」


「いえ。大丈夫です」


「分かりました。では気をつけていってらっしゃいませ」


 セナさんに見送られ、ギルドを後にした。


「今回はセナさんを見つめてないだろ?」


「そうね。私の方が美人だから、見とれるわけないものね」


「おい」

 

 それを言ったことに深い意味は無いが、改めてほじくり返されると恥ずかしい。 

 そんな話をしながら、カーネリア孤児院に着いた。


「ここか・・・」


 俺は地図と見比べながら、場所が間違いないか何度も確認する。しかし、どうもこの2階建ての建物が孤児院らしい。


「そうみたいね・・・」


 結依の口からも戸惑ったような声が出た。

 二人して孤児院を見つめて、しばしぽかんとした。

 なぜなら


「「ぼろい・・・」」


 敷地は広かった。ベイル邸と同じかそれ以上だ。しかし、いかんせん建物がボロボロだった。壁は傷んで塗装が所々剥がれている。蜘蛛の巣だって何個も見受けられる。窓にはひびが入ったものを強引にテープで補強した跡があるし、庭の芝生も雑草が伸びていて手入れされているとは言えない。

 総じて建物がボロボロ、手入れも行き届いているとは言えない。本当にここで良いんだろうか。


「とにかく、入るか」


「そうね」


 敷地の門を開け、庭を通って、玄関前へ。コンコンをノックする。

 中からはーい、という女性の声が聞こえた。パタパタという足音が近づいてきて、ギイィときしみを響かせて扉が開いた。


「始めまして。カーネリア孤児院の院長、セリアと申します。どういったご用でしょうか」


 中から出てきたのは、紺の上品なワンピースに白いエプロンをした老婦人だった。茶色の長い髪の毛を緩くまとめ、優しげな笑みを浮かべている。顔には所々しわが刻まれているが、顔には若々しさもあった。しかしどこか警戒するような表情も含まれているように見えた。


「冒険者のタカです」


「同じく冒険者のイチカです。依頼を受けて参りました」


「あら。冒険者の方ですか。ありがとうございます。汚いところですが、どうぞお入りください」


 俺たちが名乗ると、セリアさんは安心したような笑みを浮かべた。そして俺たちを孤児院へ招き入れた。


「「おじゃまします」」


 中も、お世辞にはきれいとは言えなかった。所々ほこりが残っているし、壁の汚れ、塗装の剥がれも目立つ。


「こちらへどうぞ。お茶をお出ししますわ」


 サリアさんに案内されて、孤児院へと入る。入ってすぐの、応接間のようなところに通された。所々布が剥がれたソファに座る。

 しばらくお待ちください、とセリアさんが出て行った。この応接室も、きれいとは言えない。ソファもそうだが、掛けてある絵画もほこりをかぶっている。窓は外から見たとおり、テープで補強されている。


「お待たせしました。どうぞ」


 戻ってきたセリアさんにどうぞ、と欠けたコップでお茶が差し出された。


「すみません。どうも貧乏なもので」


「「いえ。とんでもない」」


 恥ずかしそうにサリアさんが謝罪する。俺たちもじろじろ見るのは失礼だったかもしれない。ぶんぶんと首を振る。


「今日は来ていただいてありがとうございます。依頼は、子供たちと遊んでいただきたいのです」


「ええ。分かりました」


「実はこの孤児院は私一人で運営しておりまして・・・。もう歳も歳だから、思いっきり遊んであげることが出来なくて・・・。だから冒険者さんには、子供たちに付き合ってあげてほしいんです」


 セリアさんは見たところ60代くらいだ。メイさんと同じ年代だ。その歳になるとやんちゃ盛りの子供たちの相手をするのもさぞ大変だろう。子供たちのエネルギーはすさまじいからな。付き合うのも大変だし、かといって我慢させるのもかわいそうだから、どこかで発散させてあげたい。だから冒険者ギルドに依頼をしたんだろう。


「そういうことなら。任せてください」


「ありがとうございます。お二人が子供たちの面倒をみてくださるなら、私は孤児院の掃除が出来ますわ」


 そうか。一人だと掃除にも手が回らないよな。それならば建物の手入れが行き届いていないのも納得だ。お金がないのもそうだが、単純に人手も足りないんだろう。じろじろと見て申し訳ない。


「申し訳ないのですが、依頼料は二人合わせて10000ゴルしか出せません。それでもよろしいですか?」


「「はい」」


 俺も結依も力強く頷いた。なけなしのお金で依頼をしたんだ。子供たちが思いっきり遊べるように。すごく子供思いの院長さんだ。だったら俺たちも頑張らないと。


「ありがとうございます。さっそく子供たちのところへ案内しますね」


「「お願いします」」


 応接室を出て、廊下を歩く。建物自体は大きい。だからこそ、一人で管理するセリアさんは大変だろうな。と、そのセリアさんは応接室の隣室の前で立ち止まった。


「この孤児院には女神セフィア様の像があるんです。よかったらお参りしていかれますか?」


「セフィア様?」


「はい。アリエス様とミラ様を勇者と聖女に任命した女神様です」


 勇者と聖女。あの劇で見た二人組か。やけに芝居がかっていた二人を思い出す。その二人が勇者と聖女になたのは、女神のお告げがあったから。日本人の感覚からすると、本当か非常に疑わしいエピソードだ。


「せっかくなのでお参りしていきます」


 しかしこのタイミングの良さ。何かの縁だろう。神社にお参りに行くような気分で俺はそう言った。


「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」


 中は小さな部屋だった。大人が5人も入ればいっぱいになる広さだ。小さな台座の上にぽつんと小さな女神像が置いてあるだけ。あとは椅子も机も何もない殺風景な部屋。その女神像も高さ30センチほどで、お世辞にも立派とは言えない。スカーフをかぶり、手を前で組んで優しげな表情で祈りを捧げる石の女神様だが、所々入っているヒビが痛ましさを感じさせる。


「ごめんなさい。あまり立派な女神像ではないのですが」


「いえ」


 恥ずかしそうに目を伏せるセリアさんに首を振り、合掌して礼。作法が分からないから適当だ。目を閉じて、お祈り。

 日本に帰れますように。



まさーもどーーくーーーて



「え?」


 かすかに声がした。しかし結依の声でもセリアさんの声でもない。キョロキョロと見渡しても、俺たち以外ここにはいない。


「タカさん?イチカさん?どうされました?」

 

 俺だけでなく、結依もどこか落ち着かない様子だ。


「いえ、なんでもありません」


「はい」


 しかし結局気のせいだろうと思うことにした。結依も何も言わず、首を振るだけ。


「そうですか。では子供たちのところへ案内しますね」


 セリアさんも特に何も聞かず、部屋を出た。そしてまた孤児院を先導する。

 途中お手洗いや洗面所の説明を受け、奥の部屋へ辿り着いた。


「ここが子供たちの遊び場です。では、開けますね」


 ギイイと音を立て、セリアさんがドアを開けた。

 いよいよ子供たちとのご対面だ、少し緊張してきた。 

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