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32話 剣と魔法

 昨日は休みで、結依と王都巡りをした。


「おはようございます」


 翌朝、起きてリビングに行くと、俺以外の三人は朝食を食べていた。


「おはよう、ユウ」


「おはようございます」


「・・おはよ」


 席に着くと、メイさんが朝食を用意してくれた。


「ありがとうございます」


 パンとサラダ、スープだ。いただきます、と手をあわせて有難くいただく。

 パンを咀嚼しながら、ちらっと隣の結依を見る。黄色いシャツに白いパンツという爽やかなファッション。そして髪は青いシュシュで束ね、白いうなじをあらわにしている。


「・・・なに?」


 俺の視線に気づいたのか、結依がジト目で見つめ返してきた。


「いや、なにも」


 昨日プレゼントしたシュシュを使ってくれていてうれしいな、とか思っていない。ポニーテール似合ってるな、とか思っていない。ただぼーっと結依の方を見ていただけだ。

 黙々とパンを食べる。手にはめたミサンガがやけにこそばゆかった。


「ユウ。今日は剣の訓練じゃぞ」


「分かりました」


 朝食を終えたあと、庭へ出てロッシュさんの訓練を受ける。途中玄関を通ったとき、昨日贈った花が飾られていているのが見えた。大切にしてくれているようで、うれしかった。


「さて、今日はものを切る訓練を行う」

 

 ロッシュさんはそう言うと、庭に無造作に置かれた薪の束を指さした。薪と言っていいんだろうか。長さは軽く一メートル以上ある。太さも片手では握れないほどだ。


「剣で何かを切るというのは意外と難しい。最初のうちは途中でつっかえたり、生々しい感触に切るのを躊躇ったりすることがあるのじゃ。そこで今日は木を切ることから始めようと思う」


 ロッシュさんは薪を一本、束から取り出した。薪は数十本ほどあるが、よく見るとすべて先が尖っている。ロッシュさんは手に持った薪の尖っている部分を下に向け、思いっきり地面に突き刺して、立てた。手で触れずとも薪が自立したような格好だ。地面に突き刺さった木は俺の胸ぐらいまではある。


「さて、この薪を倒さずにきれいに切ることが今日の目標じゃ」


「はい」


「まずはわしがやってみよう」


 ロッシュさんは薪の前に立ち、剣を抜いて構える。

 ふぅっと息を吐いてぴたりと動きを止めた。

 ピンと空気が張り詰める。


「はっっ」


 ザンッッ


 振り下ろされた剣は、薪を斜めに切り裂いた。右上から左下にかけて、きれいに真っ二つだ。切られた上半分は地面に転がり、下半分は地面に突き刺さったままだ。


「ざっとこんなもんじゃ」


「すごいです」


 薪に近寄って断面を確認する。きれいに磨かれたような、すべすべの断面だ。


「よし、ではユウもやってみぃ」


「はい」


 ロッシュさんが新しく突き刺してくれた薪の前に立つ。いつもの素振りのように、軽く息を吐き、剣を頭上で構える。大事なのは、力を抜いて、振り下ろすこと。


「はっっ」


 ガッッ


 しかし薪は切れなかった。鈍い衝撃音と、手にしびれが生じただけだ。薪は直立不動で立っている。


「少し角度が悪かったの。腹の部分で薪を殴りつけるようになっておる」


「痛いです・・・」


 手をさすりながら、薪をセットし直す。木を切るという意識が強すぎて、右手に力が入りすぎた。そのせいで手元が狂い、刃ではなく腹の部分を当ててしまったようだ。

 もう一度。右手の力を抜いて、剣をしならせるように。


「はぁっっ」


 ザッ


 切れた、と思ったら途中で剣が止まった。いや止めてしまった、というほうが正しいだろうか。何かを割く重い感覚に集中力が途切れた。

 薪は半分だけ割けた状態。剣は薪に挟まって止まってしまった。


「感触に戸惑ったかの?」


「はい・・・」


 剣の刃が薪に振れ、割いていった。その瞬間、急に剣が重くなったように感じた。同時に、ミリミリという手の感触。それらに戸惑い、最後まで剣を振り切ることが出来なかった。


「うむ。切るということはこういうことよ。その感触に慣れねばならん。そして、もっと切る瞬間に手首で押し込むんじゃ」


「分かりました」


 3度目の挑戦。新しい薪をセットし、構え直す。もう一度、理想の振りを頭に思い浮かべる。力を抜いて、剣をしならせる。当たる瞬間に手首で押し込む。硬い感触を恐れずに。

 よし。


「はっっっ」


ザンッッ


 パカッと薪が切れた。右上から左下に上下真っ二つ。切られた上部はカランコロンと庭を転がり、根元部分はしっかり突き刺さったまま。


「やった!できました!」


「・・・」


「ロッシュさん?」


「・・・いやはや。もう出来たか。はやいのぅ」


「ありがとうございます!」


「うむ。素晴らしい。よし、では練習あるのみじゃ。どんどんいくぞ」


「はい!」


 こうして昼食まで薪を切る練習は続いた。



 昼食の席にて。わずかにしびれる手を気にしながら、メイさんが作ってくれたサンドイッチを頬張る。基本的に、失敗したのは最初だけだった。きれいに切れたときはほとんど衝撃はなく、気持ちよく振り切れるのだが、やはり何十回とやっていると衝撃は蓄積する。しかも今日初めてものを切ったのだから、まだ身体が感触になれていないこともあって、手に違和感を覚えていた。


「大丈夫ですか、ユウさん。手を気にしているようですが」


「ええ。大丈夫です」


「今日初めて木を切ったからの。しびれるのは当然じゃ」


「あら。あなたが昨日張り切って用意していたあの木の束ですね?」


「う、うむ」


 思わぬメイさんの暴露に、ロッシュさんがたじろいだ。しかし、俺たちが昨日のんきに王都を観光している間にロッシュさんはそんなことをしてくれてたんだ。本当に頭が上がらない。


「ロッシュさん。昨日俺たちが出かけている間に用意してくれたんですか?ありがとうございます」


「ま、まあの。ほんの片手間じゃ」


「それにしてはずいぶん一生懸命やっていましたね」


 ロッシュさんはそっぽを向いて謙遜するが、メイさんは追撃をやめない。ロッシュさんは真っ赤になった。


「う、うるさいぞ、メイよ。それよりユウ。生き物を切るときはまた違った生々しさがあるからの。木を切れたからといって油断するんじゃないぞ」


「はーい」


 ロッシュさんの照れ隠しに、俺も少し笑いながら答える。が、ふと思った。生き物か。確かに。感触は違うだろう。血だって出そうだし。大丈夫かな。一抹の不安がよぎった。

 しかし、それは続くメイさんの言葉でどこかへ吹っ飛んだ。


「そうそう。ユイさんがとうとう魔法を使えるようになったんですよ」


「え!?そうなんですか!?」


 魔法。異世界ものの定番であり、憧れでもある。それを結依が使えるようになっただと!?


「結依!魔法見せてくれよ!」


「落ち着きなさい、悠。・・・良いですか?メイさん」


 そう言う結依も、若干そわそわした様子だ。見せびらかしたいのだろうか。まあ気持ちは分かる。俺だって見たいし、使えるものなら見せたいし。


「仕方ないわね」


 落ち着きのない俺たちの様子にメイさんが苦笑しながら言うと、結依は居住まいを正して右手を前に出す。手の平を上にして、指を軽く曲げた格好。

 結依は目を閉じて、深く息を吐く、集中している。

 口を開いた。


「$!(%~@」


 俺には理解不能な音を発した。その瞬間、ボヤっと結依の指先が光った。淡い黄色の光の玉が浮かんでいる。


「すげぇ・・・」


 紛れもなく魔法の光だ。指先からテーブルを照らす、光の玉。本当に結依は魔法が使えるようになったんだ。

 息をするのも忘れ、見入る。やがて10秒ほど経っただろうか。やがてふっと光が消えた。結依は手を下ろし、荒い息を一つ吐いた。かなり体力を消耗したようだ。それでも俺は魔法を目にして、奇跡を目の当たりにした信者のごとく感動した。


「すごいな、結依、頑張ったんだな」


「え、ええ。まあね」


 結依は疲れたように微笑みながらも、得意げだ。普段は腹の立つ顔だが、今日に限っては素直にすごいと褒めたい。だって魔法だから。感動した。


「ではユウ。おぬしも負けじと頑張らねばな」


「はい!」


 ロッシュさんの声に、勢いよく答える。今の俺には気合いがみなぎっている。

 俺も敵をバッタバッタと切り伏せるような格好良い剣術を習得したい。よーし。頑張ろう。

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