31話 お出かけ(2/2)
レストランは、落ち着いた雰囲気のおしゃれなお店だった。ウェイターも客も上品な感じがして、むしろ俺たちが気後れしてしまうほどだった。
席に着き、料理が運ばれてくるまで暫し結依と話す。話題は先ほどの劇についてだ。
「何か気持ち悪かったわ、さっきの劇」
「どこが?」
「あの勇者。芝居ががりすぎよ。あんなにかっこつけなくてもいいじゃない」
「芝居だから仕方ないだろ。確かに見てるこっちが恥ずかしくなるぐらいだったけどな。でも、聖女だって、あんなに天真爛漫なのはおかしいだろ」
「なによ。文句あるの?」
何か引っかかることはあったが、それ以外に、気に入らない点も多かった。やれ勇者がイケメン過ぎるだの、ストーリーが順風満帆すぎるだの、アリエスとミラの関係が安っぽすぎるだの。たぶん王都でこの劇にこれほど文句を言ってるのって俺たちぐらいじゃないかな、というほどだった。
「ま、もう劇のことは忘れましょ。創作物に文句を言っても仕方ないわ」
「そうだな。せっかくだし、料理を堪能しよう」
「そうね」
レストランは魚料理中心のメニューだった。ほろほろとした身に酸味のきいたソースが合わさって、とてもおいしかった。一人5000ゴル。なかなか値が張るが、その分おいしかった。野菜も出ていたが、結依がどうしても食べられないものだけ食べてあげた。さすがにこの雰囲気で無理矢理食べさせて騒ぐことは躊躇われた。
「おいしかった」
「そうね」
「次どうする?ロッシュさん達のプレゼントを買おうか」
「ええ」
ということで、レストランを後にした俺たちは店を冷やかしつつ、何をプレゼントするか、あーでもないこーでもないと話し合った。1,2時間ほど歩いて、途中カフェにも寄りつつ、考えた結果、プレゼントはロッシュさんにはハンカチ、メイさんには花を贈ることにした。
「ロッシュさんには花は似合わないな」
「似合う似合わないはともかく、実用的なもののほうが喜びそうね」
ロッシュさんのハンカチは、グリシャム服飾店というお店で買うことにした。富裕層側にあるお店だが、2000ゴル弱で買えるようなので、予算内にもしっかり収まる。ということで、店前に来た。
「よし、行こうか」
「あ、待って、悠」
「何だ?」
「えっと・・・。二手に分かれましょう。私は花屋の方を見てくるわ」
「お、おう。分かった」
ここで、俺がロッシュさんのプレゼントを扱うお店、結依は花屋と分かれることにした。驚きつつも、実はどこかで一人になるタイミングがほしかったので、結依の提案はちょうどよかった。
「終わったらこの店の前に来るから、待ってて」
「はいよ」
そう返事すると、結依は歩いて行った。それを見届けて、俺は店に入る。
「いらっしゃいませ。なにかお探しですか」
こぎれいな店内。落ち着いた雰囲気。店員が軽く微笑みながら、声をかけてきた。
「はい。プレゼント用のハンカチを」
「ハンカチですね。こちらになります」
店員に案内されたのは、奥のハンカチ売り場。しかし種類が多い。赤、青、黄色、黒、茶色など一色のものから、縞模様、水玉模様、ワンポイントの刺繍が入ったものなどなど、全て合わせて50種類ほどもある。どれにしようか、迷う。
ロッシュさんはあまり派手なものは好みそうにない。となると、水玉模様や赤系のハンカチは避けた方が無難か。かといってせっかくのプレゼントに無難すぎるものもよくないだろう。
「失礼ですが、どなたにプレゼントされるご予定ですか?」
「え~っと。お世話になっている男性です。60代くらいです」
「それでしたら、こちらの落ち着いた茶色のハンカチなどいかがでしょう?」
店員が示したのは、茶色のハンカチだった。濃い茶色と薄い茶色の2色がグラデーションになっていて、シンプルすぎないのもいい。
「いいですね。それでお願いします」
「畏まりました。以上でよろしいでしょうか?」
「あ、えっと・・・。実はもう一つ探しているものがあって・・・」
「お待たせ、悠」
買い物が終わって、グリシャム服飾店の前で待つ。日も傾いてきた。空が赤らんでいる。もうそろそろ帰る時間かな。そう思いつつ待っていると、まもなく結依が戻ってきた。手に提げた鞄から花束がのぞいている、
「お待たせ。買えたかしら?」
「ああ。俺も今終わったところだから。茶色のハンカチなんだけど、どうかな?」
「あら、いいじゃない。悠にしてはいいセンスよ」
「おい。ひと言余計だ。で、そっちはどうなんだ?」
「これよ」
結依は鞄に刺さった小さな花束を掲げた。淡いピンクの花が3本ほど咲き誇る、かわいらしい花束だ。
「へぇ。いいんじゃないか」
「でしょ?」
自室にでも飾ってもらえれば、一気に華やかになると思う。しかも花が多すぎないのも、重くなくて良いと思う。
「「・・・」」
実は、結依に話がある。しかしうまく切り出せない。謎の沈黙があった。ちょっと気まずい。
いや、だめだ。話しかけよう。
「「あのっ」」
「「・・・」」
言葉がかぶった。最悪だ。余計気まずい。
「ど、どうぞ・・・」
結依に言われ、仕方なく重い口を開く。
「あーー。これ」
どう言っていいか分からない。とりあえず、先ほど買った商品を結依に突き出した。ロッシュさんへのプレゼントとは別の、もう一つ買ったもの。
「なにこれ?」
「んっと。まあ、あげる」
「は?なんで?」
「き、昨日結依を怒らせたみたいだからな。セナさんを見つめてたみたいで」
「・・・ほんとよ。女性をじっと見つめるなんて非常識よ」
「ああ。だから、まあ、そのお詫びだ」
「・・・ま、ありがたくもらっておくわ」
結依はもう気にしていないみたいだが、まあ怒らせたのは事実だからな。変に借りを作りたくなかったから、プレゼントでもあげて許してもらおうと思っただけだ。他意は無い。
「開けていい?」
「おう」
包装紙を剥がし、箱を開ける。
「わあ」
入っていたのは、水色のシュシュだ。黒髪に映えると思って選んだももの。
「ふぅ~ん」
わずかに口元を緩ませながら、結依がそう漏らした。そしてまっすぐおろしていた髪の毛を後ろで束ね、シュシュでまとめる。
「っ・・・」
「似合う?」
「あ、ああ」
ポニーテールにした結依は、微笑みながらそう聞いてきた、結依は、悔しいが、とてもかわいかった。やや照れて赤くなる頬も、わずかに不安げに伺う上目遣いも、そしてわずかににほころんだ口元も、濡れたように輝き、揺れる黒髪も。とてもきれいだった。思わず数瞬みつめ、言葉を失う。
そして見とれたことを悟られたくなくて、顔をそらした。
「ふふっ。ありがとう」
「おう」
結依の言葉に、そっぽを向きながらぶっきらぼうにしか返事出来なかった。多分笑っている。屈託のない笑みを浮かべているに違いない。その顔も見たかったが、でもやっぱり恥ずかしくて見れなかった。
「・・・それから、これ、私から」
そう言いながら、結依は俺の前に小さな小包を差し出した。
「なにこれ」
俺が聞くと、結依はやや声を小さくして、
「あげる」
「・・・」
受け取って、包装を開けてみる。小さな箱の中に入っていたのは、色鮮やかな丸い糸だった。
「ミサンガよ。手首につけて、自然に切れると願いが叶うんですって。昨日怒って雰囲気悪くしたから、お詫び」
「気にすることないのに」
そう言ったが、うれしかった。思わず顔がほころんでしまう。結依ってたまにこういうちょっとしたプレゼントをくれる。きっとまめな性格なんだろう。
「借りを作りたくないだけよ」
結依はふいと顔をそらしながら突き離すように言った。その顔はほのかに赤く染まっていた。
手首に付けてみる。細い糸だが、意外と丈夫に編んでいる。願いは・・・
「日本に帰れますように、かな」
いつかこの願いは叶うのだろうか。いや、叶えてみせる。親しい人が全員無事で、帰れるように。
「でもまさか、二人ともプレゼントを買ってるなんてな」
「ふふっ。そうね」
しかもお互い同じことに対するお詫びで、な。なんだかおかしくて、二人で笑ってしまった。クスクスという笑い声が夕日に染まる大通りに溶けていく。
「あーーあと。メイさんに言えと言われたんだか・・・」
せっかくの機会なので、昨日メイさんに言われたことを結依に言ってみよう。多分結依は笑って受け止めるだけだろうけど。
「なに?」
結依も笑いながら、聞き返した。
「結依の方が美人なんだから、他の人に見とれるわけないだろ、と」
「っっっっ!」
あたりまえでしょ、と言うかと思った。しかし結依は目を見開いた、と思ったら、さっと顔を伏せた。
「・・・」
そのまま結依はうつむいたまま黙りこくってしまった。ほのかに見える顔が、赤くなっている。
「結依。なに赤くなってるんだ?お前そんなの言われ慣れてるだろ」
一目惚れしたから付き合ってくれ、とか告白されたこともあっただろう。結依が美人なのは客観的なレベルでそうなのだから、いちいち俺が言わなくてもいいように思うのだが。
と思ったら、結依はがばっと顔を上げた。
「もうっ。ほんとにもうっ!」
「どうした?牛になったのか?」
「うるさいっ!帰るわよっ!」
そう言って、ずんずんと歩き出した。
声こそ大きいが、怒ってはなさそうだ。そんな風にわちゃわちゃ喋りながら、俺たちは帰路についた。最後だけごちゃごちゃしたが、まあ、総じて楽しかった。夕日の差す中を、軽くなった心で弾むように歩く。
「おお。お帰り。早かったの」
ベイル家に戻ると、ロッシュさんがそう言って玄関で出迎えてくれた。
「あら、お帰りなさい」
パタパタとメイさんもリビングからやってきて、微笑む。すると、結依の頭を見てあら、とめざとく気づいた。
「ユイさん。髪型変えたのね?」
「ん?おお。そうじゃの」
朝はストレートだったから、雰囲気は変わっている。それにいち早く気づいたメイさんと、言われてから気づいたロッシュさん。メイさんがロッシュさんをジト目で睨んでいる。
「え、ええ。まあ・・・」
俺がプレゼントしたシュシュでポニーテールにした結依。それを少し触りながら、照れたように返事をした。
「うふふ。似合ってるわよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って褒められると、なんだか俺も照れくさくなる。
「ま、とにかくあがれ」
結依の変化に気づかなかったことを責められて居心地が悪くなったのか、ロッシュさんが俺たちをせかす。その背中に、俺は声をかけた。
「あーー。ロッシュさん」
「何じゃ?」
ゴホンと咳払いして、先ほど買った小包をロッシュさんに手渡す。
「これ、プレゼントです」
「お?わしにか?」
「はい。いつもお世話になっているので。そのお礼です」
「ほう・・・」
目元を緩ませながら、ロッシュさんは受け取ってくれた。包装紙を剥がし、箱を開け、中身を見た。
「ハンカチか」
ハンカチを手に取ったロッシュさんはうれしそうに笑っていた。それを見て俺も安心し、笑みがこぼれた。
「はい。ぜひ使ってください」
「うむ。ありがとう」
ロッシュさんは本当にうれしそうに笑っていた。
「あら。よかったですね」
「う、うむ」
微笑むメイさんに対するロッシュさんの声には、照れも混じっているようだった。
「メイさんにも、こちら」
今度は結依がメイさんに、花束を手渡す。
「まあ。きれいなお花」
「いつもありがとうございます」
「ふふっ。いえ。こちらこそ。二人が来て毎日楽しいわ。そうだ。玄関に飾りますね」
メイさんもうれしそうだ。よかった。日頃の感謝が少しでも伝わればいいな。城でのけ者にされていた俺たちを拾ってくれた優しい人達だから。喜んでくれて、とてもうれしい。
「さて、ご飯にしましょうか」
「「はい」」
「うむ」
ベイル邸の4人は皆笑顔で、温かい雰囲気だった。ずっとこんな日が続けばいいのに、と思った。
☆☆☆
ロッシュさんのハンカチは、グリシャム服飾店というお店で買うことにした。富裕層側にあるお店だが、2000ゴル弱で買えるようなので、予算内にもしっかり収まる。ということで、店前に来た。
「よし、行こうか」
「あ、待って、悠」
店に入ろうとする悠と呼び止める。ど、どうしよう。いったん悠と別行動したいんだけど、不自然に思われるかな・・・?
「何だ?」
「えっと・・・。二手に分かれましょう。私は花屋の方を見てくるわ」
「お、おう。分かった」
意外と、すぐに了承してくれた。理由も聞かれなかった。よかった。
「終わったらこの店の前に来るから、待ってて」
「はいよ」
悠の返事を聞いて、私は呼び止められないよう急いで花屋へと歩き出した。
目星を付けていたのは近くのディーテフラワーショップ。お店もきれいで、花の種類も豊富だったのだ。
「いらっしゃいませ。なにかお探しですか」
花屋に入ると、若い女性の店員さんが声をかけてくれた。
「はい。知人の女性にプレゼントする花を買いたいのですが」
「畏まりました。どのようなプレゼントですか?」
「日頃の感謝を伝えたいんです」
「なるほど。でしたらこちらのグレスフラワーはいかがでしょう?」
店員さんが提案してくれたのは、薄いピンクの花だった。花が小さく上に向かって咲いている様子がとてもかわいらしい。
「グレスフラワーは感謝の印としてよく贈られる花です。愛を伝えるならあちらのレッドシャワーなども人気ですが」
店員さんは奥に飾られてある真っ赤な花を指さした。花弁が何層にも重なって咲き誇っている様子はまるでバラのようだ。しかし今回は日頃の感謝を伝えるのが目的なのでグラスフラワーで十分だろう。
「いえ。グラスフラワーをお願いします」
「畏まりました」
グレスフラワーを2~3本包んでもらって、花屋を出た。そしてすぐにはグリシャム服飾店へと向かわず、別の店へ向かう。悠と別行動したのは、こちらが本命だ。
「お待たせ、悠」
買い物が終わって、悠の元へ戻る。やや日が傾いてきている。待たせてしまったかもしれない。嫌みを言われるのも癪なので急いで向かう。グリシャム服飾店の前で、悠は待っていた。よかった。怒っている様子はない。
「お待たせ。買えたかしら?」
「ああ。俺も今終わったところだから。茶色のハンカチなんだけど、どうかな?」
「あら、いいじゃない。悠にしてはいいセンスよ」
「おい。ひと言余計だ。で、そっちはどうなんだ?」
「これよ」
先ほど買った花束を見せる。
「へぇ。いいんじゃないか」
「でしょ?」
たぶん、メイさんはこういうかわいらしいものが好きだと思う。喜んでくれるはずだ。
「「・・・」」
実は、悠に話がある。しかし、うまく切り出せない。謎の沈黙があった。ちょっと気まずい。
いや、うじうじしててもだめだ。話しかけよう。
「「あのっ」」
「「・・・」」
言葉がかぶった。最悪だ。余計気まずい。
「ど、どうぞ・・・」
先に言え、と悠をうながす。私の用件は、すこし恥ずかしいから、先に言ってほしい。
「あーー。これ」
悠は視線を泳がせながら、恐る恐るといった感じで、なにか小さく包装された箱を突き出してきた。
「なにこれ?」
「んっと。まあ、あげる」
「は?なんで?」
私にプレゼント?悠がそうする理由が分からず、首をかしげる。
「き、昨日結依を怒らせたみたいだからな。セナさんを見つめてたみたいで」
冒険者ギルドでの話だ。悠がセナさんという受付の女性をデレデレしながら見ていた。それが私は気にくわなくて、少し不機嫌になったんだ。
「・・・ほんとよ。女性をじっと見つめるなんて非常識よ」
一応は私の幼なじみなんだら、もっと常識ある行動をしてほしい。そう。外であんなことをされるのは不愉快だ。
「ああ。だから、まあ、そのお詫びだ」
「・・・ま、ありがたくもらっておくわ」
それでずっと不機嫌なのも大人げないから、忘れるようにはしてたんだけど・・・。でも、こうやって謝って、プレゼントまでくれるのは・・・。昔から、変に気を遣ってくれるのね。こまめにプレゼントもくれるし。悪い気はしないけど。
「開けていい?」
「おう」
包装紙を丁寧に剥がし、そっと箱を開ける。
「わあ」
入っていたのは、水色のシュシュだ。へぇ。悠のくせに。がんばったじゃない。
「ふぅ~ん」
さっそく髪の毛を後ろで束ね、シュシュでまとめてみる。ポニーテール。
「っ・・・」
「似合う?」
恐る恐る聞いてみる。
「あ、ああ」
心配はいらなかった。悠は照れたように顔を背けた。
多分悠はこの髪型が好きだ。もしかして、私のポニーテールが見たくて選んだんだろうか。いや、さすがに考えすぎか。でもこれからはこのシュシュでポニーテールにして、悠を照れさせてやろう。
「ふふっ。ありがとう」
「おう」
そう思うと、心が沸き立つような感じがした。多分、悠の弱みを握った感じがして、うれしいんだ。優越感に似た感情だろうか。
「・・・それから、これ、私から」
そう言って、悠にさっき買った小包を差し出す。実は私も渡すものがあるのだ。
「なにこれ」
「あげる」
「・・・」
悠は受け取って、包装を開けた。少しぶっきらぼうな言い方になってしまっただろうか。でも目を見て渡すなんて恥ずかしくて出来なかった。
「ミサンガよ。手首につけて、自然に切れると願いが叶うんですって。昨日怒って雰囲気悪くしたから、お詫び」
「気にすることないのに」
悠は口ではそう言っていたが、少し口元がほころんでいた。その顔をみて、ようやくほっとした。喜んでくれたようだ。
「借りを作りたくないだけよ」
顔を背けたまま、そう言った。
「日本に帰れますように、かな」
そう言って、ミサンガを手に付けてくれた。
悠の願い。それは私の願いでもあった。みんなが笑って日本に帰れますように。
「でもまさか、二人ともプレゼントを買ってるなんてな」
「ふふっ。そうね」
なんだかおかしくて、二人で笑ってしまった。クスクスという笑い声がさっきまでの恥ずかしさを解かすようにあふれ出ていった。
「あーーあと。メイさんに言えと言われたんだか・・・」
笑いながら、何でも無いように悠が口を開いた。
「なに?」
私も笑いながら、どうせしょうもないことだろう、と軽い気持ちで聞き返した。
「結依の方が美人なんだから、他の人に見とれるわけないだろ、と」
「っっっっ!」
ドキンと心臓がはねた。カッと顔が紅潮するのを感じた。その顔を見られたくなくて、そして悠の顔を見られなくて、慌てて顔を伏せた。
「・・・」
「結依。なに赤くなってるんだ?お前そんなの言われ慣れてるだろ」
うううううううるさい!たしかに言われることは多いけど!でも・・・っ!今はっっ。なんか・・・。むりっっっ!
「もうっ。ほんとにもうっ!」
「どうした?牛になったのか?」
「うるさいっ!帰るわよっ!」
激しく脈打つ心臓を押さえるようにして、ずんずんと歩く。顔が熱いのは、きっと夕日のせいだ。そう。私が照れる理由なんて無いはずだ。だって今まで何人もの男に言われてきたもの。
妙に心がぎゅっとするのを感じながら、家路についた。
「おお。お帰り。早かったの」
ベイル家に戻ると、ロッシュさんがそう言って玄関で出迎えてくれた。
「あら、お帰りなさい」
パタパタとメイさんもリビングからやってきて、微笑む。すると、私を見つめて、あら、と目を見開いた。
「ユイさん。髪型変えたのね?」
「ん?おお。そうじゃの」
「え、ええ。まあ・・・」
指摘されるのが妙に恥ずかしくて、隠すようにシュシュを触る。
「うふふ。似合ってるわよ」
「あ、ありがとうございます」
でも褒められるのはうれしい。明日からも付けよう。
「ま、とにかくあがれ」
「あーー。ロッシュさん」
背を向けてリビングに戻ろうとしたロッシュさんを悠が呼び止めた。
「何じゃ?」
悠はゴホンと咳払いして、先ほど買った小包をロッシュさんに手渡す。
「これ、プレゼントです」
「お?わしにか?」
「はい。いつもお世話になっているので。そのお礼です」
「ほう・・・」
ロッシュさんは目元を緩ませながら、悠からプレゼントを受け取った。包装紙を剥がし、箱を開け、中身を見た。
「ハンカチか」
茶色いハンカチを手に取ったロッシュさんはうれしそうに笑っていた。それを見て悠も安心したのか、ほのかに笑った。
「はい。ぜひ使ってください」
「うむ。ありがとう」
ハンカチを広げて見つめるロッシュさんは本当にうれしそうに笑っていた。
「あら。よかったですね」
「う、うむ」
微笑むメイさんに対するロッシュさんの声には、照れも混じっているようだった。
「メイさんにも、こちら」
今度は私がメイさんに、花束を手渡す。
「まあ。きれいなお花」
「いつもありがとうございます」
「ふふっ。いえ。こちらこそ。二人が来て毎日楽しいわ。そうだ。玄関に飾りますね」
メイさんもうれしそうだ。よかった。よその世界から来た私たちの面倒を見てくれる二人には、本当に頭が上がらない。喜んでくれたなら、私もすごくうれしい。
「さて、ご飯にしましょうか」
「「はい」」
「うむ」
ベイル邸の4人は皆笑顔で、温かい雰囲気だった。こんな日々が続くのも、悪くないと思った。




