30話 お出かけ(1/2)
初依頼の翌日。今日は訓練も依頼も無しの、完全休みの日になった。しかも昨日薬草集めの依頼でもらった報酬をお小遣いとして与えられた。これで王都の観光をしてこい、ということらしい。昨日4人で稼いだのは20000ゴル。俺と結依で分けて、1人10000ゴルが今日の軍資金だ。
「ほら、いくわよ」
「ちょっと待て。寝癖が直らん・・・。よし。できた」
「なんで女の私より時間がかかるのよ」
「うるさい。俺の寝癖は強敵なんだ」
ロッシュさんとメイさんから、二人で行動しろと言われた。王都は初めてだから、迷うかもしれない、と。たしかに王都をロッシュさん抜きで歩くのは初めてだ。迷う可能性は十分にある。そして俺たちは土地勘もない。迷ったらどうすることも出来ない。加えてこの世界にはスマホがない。地図を検索することも、電話で連絡を取ることも出来ない。そう言う意味では二人で行動するのは合理的ではある。
「行ってきます!」
「行ってきます」
「うむ。気をつけての。デート楽しんでな」
「デートじゃないですよ!」
「行ってらっしゃい。朝帰りでもいいわよ」
「な、なんてこと言うんですか。夕飯までには帰ってきます!」
ロッシュさんには俺が、とメイさんには結依が突っ込み、外へ出る。あくまでロッシュさんに言われたから二人で行動するだけだ。デートではない。ロッシュさんは男女二人のおでかけはデートと考えている節がある。しかし、それは無理があるだろうと俺は思う。その定義に従うなら、俺は結依と何百回デートしてるんだって話になるからな。野球観戦しかり、ショッピングしかり・・・。だから、これは単なる散策なのだ。デートではない。そして、朝帰りもしない。俺たちはそんな関係じゃないし。
時刻は昼前。10時頃だ。
「まずは劇場へ行きましょう」
「ああ」
結依は昨日少し怒っていたが、今はもう元に戻っている。ただ、メイさんのからかいにぐったりはしているようだが。
実は、ロッシュさんから、劇のチケットをもらっていたのだ。二人で見てこい、と。王都にある王立アルス劇場のチケット。そこで勇者物語という演目が上映されるらしい。11時からの公演のチケットを2枚だ。その後はレストランで食事をした後、適当に王都をブラつく予定だ。
劇場は王城の近くにある。のんびり歩きながら向かう。キョロキョロと大通りの店を冷やかす。あのレストランおいしそう。いやこっちの方がおしいそう、いやいやそんなことない、とか言い合いながら歩く。
花屋の前を通ったとき、ふと結依がつぶやいた。
「ロッシュさんとメイさんへのプレゼントも買わないといけないわね」
「そうか。そうだな」
結依の言葉にはっとして、気づいた。俺たちの面倒をみてくれるロッシュさんとメイさんに何も恩返しを出来ていない。今日プレゼントを買って帰るのはとても良いアイデアだ。結依のくせによく気がつく。
「その顔やめなさい」
「なにが?」
「結依のくせによく気がつく、という顔よ」
「・・・なんで分かったんだ?」
「鎌をかけたんだけど」
「あ」
「あ。じゃない。失礼な奴ね」
そうこうしているうちに、劇場に着いた。大通りから少し中に入った場所。王城のすぐそばの大きな建物だ。
チケットを見せて、中に入る。俺たちの席は、2階席の一番前。ステージがよく見える席だ。開演までもうまもなく。客席もほとんど埋まっている。
「勇者物語、だっけ?」
「ええ。400年前に魔王を倒した勇者と、その相棒である聖女のお話よ。1,2を争う人気公演らしいわ」
「ふ~ん」
400年前の勇者ね。俺たちも一応魔王を倒そうとしている身だから、何かしらの参考になるかもしれない。ロッシュさんもそう言う意図でチケットをくれたんだろうか。
チリンチリン、という音が鳴り響いた。同時に劇場全体が暗くなり、幕が開いた。
昔々、このユードラン大陸はマクトリア帝国によって統一されていました。しかし大陸中央にそびえるグリア山に突如魔族の長、魔王が出現。魔王は手下の幹部4人をそれぞれ東西南北に派遣し、攻め込みました。
4地域はどれも劣勢。このままでは人類は滅び、ユードラン大陸は魔族が跋扈する暗黒世界へ一直線でした。人々は悲嘆に暮れ、人類を救う救世主を待ち望みました。
そのころ、北部のアルス地域にあった北部軍人学校にて、南部フラーク地域の貧乏貴族出身のアリエス=レイントンと西部フェート地域の中級貴族出身のミラ=フローレスが出会いました。生まれた地域も身分も違う二人は最初、互いに反目し合いました。しかし時にケンカしつつも、お互いに切磋琢磨し実力を高め合いました。
「ミラ!君の性格は嫌いだが、君の実力は認めざるを得ない!」
「アリエス!普段はあなたのことが嫌いだけど、その強さだけは認めてあげるわ!」
やがて魔族の侵攻が激しさを増してきた頃、女神様からお告げが下されます。アリエス=レイントンを勇者、ミラ=フローレスを聖女とし、魔王討伐の旗印にするというものでした。
アリエスとミラは戸惑いました。
「ああ、なぜ君と一緒なんだ!?」
「それは私の台詞よ!でも女神様のお告げじゃしかたないじゃない!」
「そうだな!俺たちが人類の希望になろう!」
こうしてアリエスとミラは使命を受け入れ、魔王討伐の旅に出ます。まずは北部アルス地域に侵攻していた魔族ジャッカルを討伐しようとしました。自らジャッカルが拠点にしていたべーフェンという都市に出向き、外からジャッカルを挑発。
「おいジャッカルよ!正々堂々勝負だ!」
「私たちが相手よ!出てきなさい!」
ジャッカルはべーフェンから出て、二人をひねり潰そうとしました。しかし結果はアリエスとミラの勝利。ジャッカルが死んだことにより、手下の魔族は逃亡、操られていた魔物は散り散りになり、元のすみかに戻っていきました。そこで、アリエスとミラに近づく魔物が一頭。
「私はジャッカルに操られていたフェンリルにございます。私を解放してくださったお二人のご恩に報いたいと思います。ぜひお仲間にしてください」
それは雄々しい純白のフェンリルでした。
「よし分かった。お前は今からリルだ!」
「私たちと一緒に魔王を討伐しましょう!」
こうして勇者の仲間の中で最も忠義厚いフェンリルのリルが仲間になりました。
ジャッカルを倒したことで、北部アルス地域は魔族の手から解放されました。そして困難を乗り越え、一つの目標を達成したことで、絆は深まりました。二人は自分たちの恋心に気づき、恋人となったのです。
「ミラ!愛してる!」
「ええ!私も!」
愛を確かめ合った二人は、続いて二人と一頭は東部ヴァーナ地域へ向かいました。その道中、黒竜の群れを従える真紅のフェニックスに出会いました。
「君たち、何してるの?」
「俺たちは魔王討伐の旅の最中だ!」
「魔族からユードラン大陸を取り戻すのよ!」
「おおっ!ボクの群れも大分魔族にやられたんだ!ぜひボクも参加させてくれ!」
「よし!ではエンと名付ける!」
「あなたも私たちの仲間よ!」
こうして勇者のお供のなかで最も魔族討伐に燃えたと言われるフェニックスのエンと、その配下である黒竜も加わりました。一行はヴァーナ地域を攻めるマリオという魔族に戦いを挑みます。しかしマリオという魔族は慎重で、居場所がつまめません。そこで一行は黒竜を使い、都市に乗り込んでは魔物を倒し、都市に乗り込んでは魔物を倒し、ということを繰り返しました。とうとうルクスという都市に攻め込んだとき、マリオを発見しました。激闘の末これを討伐すると、残りの魔物も正気に戻って逃げ出し、ヴァーナ地域も人類の手に戻ったのです。
続いて一行は南部フラーク地域へと向かいました。その道中、何十体という魔物に襲われている一頭の純白の狐がいました。アリエスは狐に加勢。魔物を打ち倒しました。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
それは純白の身体に9本の尾を持つ神々しい狐でした。
「俺たちは魔王討伐の旅の最中なんだ。よかったら一緒に来てくれないか?」
「はい!喜んで!」
「よし!お前は今からコハクだ!」
こうして勇者のお供の中で最も気高く従順と言われるコハクが仲間になりました。南部侵攻担当の魔族はミュゼです。ミュゼは卑怯にも手下の魔族に命じて次から次へと勇者一行を襲わせました。勇者一行は力を合わせてそれらを撃退し、遂にミュゼの元へ辿り着きました。こうなればもうお手の物。勇者は見事ミュゼも討ち取り、南部フラーク地域をも解放しました。
残るは西部のフェート地域です。フェート地域にはこのような伝説がありました。ヴィーデンという都市の近くにある洞窟に、フェートの守り神、二叉の猫が眠っていると。そこで一行はその洞窟に行き、西部地域を侵攻する魔族ヴラド討伐を助けてもらおうとしました。
「んにゃ?なんだおぬしらは?」
「俺たちは勇者です。魔王討伐の旅をしています」
「おおそうか。頑張れ」
「このフェート地域も魔族に侵攻されています!どうかお力を貸してください!」
「んん~。別にわっちは守り神というわけでもないしのう。人間が勝手に呼んどるだけじゃ」
「そこをなんとか!」
「・・・あ~わかったわかった。仕方無しじゃぞ?」
「ありがとう!ではこれからタマと呼びますね!」
聖女ミラの必死の説得により、勇者のお供の中で最も博識と言われるタマが仲間になりました。タマは聖女に魔法の神髄を授けるとともに、各都市の地下道、秘密の抜け道を利用し、次々とヴラド配下の魔族討伐に貢献しました。そしてヴラドが待ち構える都市プラッテではタマが一瞬にして城壁を崩し、慌てるヴラドをアリエスが討ちました。
こうして4地域全てを魔族から解放し、あとはグリア山に居座る魔王を討伐するだけです。
グリア山に上った一行。しかしそこにいる魔物の数、強さはこれまでとは比べものになりませんでした。そこでまずエンとその一行は魔物が山からあふれるのを防ぐため、山を囲むように散開しました。
「アリエス様!ミラ様!ボクたちは魔物を食い止める!魔王はまかせたよ!」
「ああ!任せろ!」
最も魔王と戦いたかったであろうエンの気持ちを受け取り、一行は山頂へ進みました。ところが、次から次へと魔物が襲いかかってきます。そこでタマとコハクが襲い来る魔物の囮になることにしました。
「ここはわっちらが引きつける!二人は山頂へ!」
「アリエス様!どうかご無事で!」
「タマ!コハク!ありがとう!お前たちも無事でいろよ!」
タマは弟子とも言えるミラの為に活路を開きました。そしてアリエスと片時も離れなかったコハクは、涙をのんでアリエスと離れました。
タマとコハクのおかげで、勇者と聖女、リルは山頂へと再び歩みを進めました、しかしそのとき
「主様!危ない!」
「っ!リルっ!」
リルは奇襲してきた魔物からアリエスとミラをかばい、重傷を負います。
「主様!私は大丈夫です!それより魔王を!」
「っ!すまん!リル!」
リルは体中に傷を負いながらも、襲ってきた魔物に挑みかかります。
こうしてアリエスとミラ、二人で魔王討伐に挑むことになりました。
頂上では魔王が二人を待っていました。もはや語ることはない。二人と一体は死闘を繰り広げました。三日三晩の激闘の末、結果は相討ち。
「ミラ・・・。おれはここまでのようだ・・・」
「わたしも・・・」
「あいしてる・・・」
「うん・・・」
勇者と聖女は魔王を討ち果たしたものの、同時に息を引き取ることになりました。
勇者のお供たちはしばらく勇者と魔王の亡骸に寄り添いました。そして散り散りになり、今はいずれも行方知れず。
こうして、魔王は勇者と聖女の犠牲により討伐されました。めでたしめでたし。
パチパチパチパチ
劇が終わった。
「ふぅ・・・」
すごく違和感がある気がした。はじめて見た舞台でそんなことを言うのも変な話だが。いや、でも初めてじゃない・・・?なにか忘れてる・・・?じっと考える。なにか・・・。なにか・・・。引っかかる・・・。
ふわっと脳裏に浮かぶ考え。それを掴もうとすると雲のようにすり抜ける。・・・俺は何を思い出したいんだろう。
・・・考えても何も分からない。俺はこの世界に召喚されるまで、ずっと日本にいたんだ。よく考えれば、引っかかることなんてあるはずないのに。
「・・・とりあえず、出よう」
これ以上、考えても無駄だ。そう諦めて、結依に声をかけた。
「・・・そうね」
結依の反応は、鈍かった。心ここに非ずというか、なにか考え事しているような感じで席を立った。
「どうした?」
「・・・いえ。なんでもない」
結依はそう言いつつしばらく虚空を見つめて考えていたが、やがて諦めたようにふるふると首を振った。
「昼ご飯にしよう」
「そうね」
ぼんやりとナニカが引っかかるような思いを抱えたまま、レストランへ向かう。ロッシュさんおすすめの、庶民側の中でも比較的上品で落ち着いた雰囲気のレストランで食事を取る予定なのだ。




