28話 やきもきする友人たち
俺、美穂、大友先生、水野、山本はロッシュさんの家を出て、陽が傾きかけた王都を歩いていた。日本とは違った街の景色に時折目を奪われながら王城へと向かう。
この世界に来てから何度目かの休日だが、初めて王城の外への外出許可が出た。それを利用して高島と一条さんの様子を見にロッシュさん家を訪問した。二人とも楽しそうに暮らしていて、安心した。いや、楽しそうかは分からない。だって訓練しかしてなさそうだから。しかも自分を追い込むようなきつい訓練を、二人とも。意味が分からん。
「一条さんと高島くん、元気そうでよかったですね。和久くん」
「ああ。そうだな」
俺は美穂の問いに頷いた。まあ元気だから訓練できるのだ。そう思うことにしよう。
王都を5人で歩く。思えば、この5人の組み合わせも不思議だ。山本は先日の模擬戦で当たってからよくしゃべるようになった。水野は日本にいた頃も、こっちに来てからも、ほとんどしゃべったことがない。そもそも大友先生と並んで歩くというのも新鮮だ。
「仲が良さそうでよかったです」
「あいつら、絶対両思いだよね。早く付き合えばいいのに」
美穂の発言を受けて、水野が呆れたように言った。
「!分かりますか!?水野さん!」
その言葉に、美穂が勢いよく食いついた。水野は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐにうんうんと頷いて、喋りはじめた。
「まあそりゃね。高島のやつ、めっちゃ一条さんのこと好きじゃん」
「そうですよね!」
美穂がはしゃいだように話す。美穂は恋バナが好きなのだ。とくに身近にいる高島と一条さんは格好のネタなのだとか。それを共有できる人がいてうれしいらしい。
「あいつ授業中もずっと一条さんのこと見てたでしょ」
「うふふ。それは教卓からでも分かりましたよ。二人はしょっちゅう見つめ合ってましたから」
ここでまさかの大友先生が参戦してきた。女性というのはなぜかくも恋バナで盛り上がれるのか。少し笑いながら、二人の恥ずかしい行動を教えてくれた。
「そうなんですか!?」
「はい。授業は真面目に受けていましたし、指摘するのは野暮なので何も言いませんでしたが」
無意識かもしれないが、高島だけじゃなく、一条さんも。お前らそんなことしてたのか。両思いすぎるだろ。そして先生にも見られてて、バラされたぞ。かわいそうに。俺はここにいない二人を思って心の中で合掌した。
「高島くんは小さい頃からずっと一条さんを守ってきたみたいですよ!」
「ああ。それは俺も聞いたことがある。ケンカになったこともあるって。でも一条さんには言うなって口止めされたな。一条さんが責任感じるからって」
一条さんを乱暴に手に入れようとした男、興味本位で一条さんにちょっかいを出そうとした男、好きが故にいたずらで興味を引こうとした男。そいつらから一条さんを守ろうとして、何度かケンカになったことがあると聞いた。本人は幼なじみの義理として、と言っていたが、どう考えても好きな女の子を守ろうとしたとしか思えない。
「でも私は全部言ってくれた方がいいです。隠れて痛い目に遭っている方が心配です」
「そうか?好きな子の前ではかっこつけたいって男心だろ」
「いえ。私はやっぱり言ってほしいです。だから和久くんも、悩みがあったら言ってくださいね?」
「お、おお」
微笑みながらそう言う美穂に、ドキッとした。普段は穏やかでどちらかというと気弱な美穂だが、たまにこうした芯の強さを見せる。
「はいはい。そこ、イチャイチャしない」
「し、してません!」
水野にからかわれ、美穂が赤面しながら否定する。俺の顔も赤くなっている気がする。
「で、でも、一条さんも負けず劣らず高島くんのことが好きですよね!」
慌てて、美穂が話を変える。人の恋バナをするのは好きだが、自分がいじられるのは苦手らしい。水野もにやっと笑ったがそれ以上追求せず、美穂の話に乗っかった。
「わかる~。一条さんってクールぶってるけど、めちゃめちゃ高島のこと好きだよね~」
「は、はい!高島くんの能力が低くて馬鹿にされてるときも、真っ先にかばいに行きましたし!すぐ慰めてましたしね!あ、あと一条さん、模擬戦の時、高島くんと前田くんの間に割り込んでましたし!医務室でもずっとつきっきりでした!高島くんのことが好きじゃないとこんなことできないですよ!」
美穂のマシンガントークに、水野も分かる分かる、と頷く。
「そうね~。だって他の男子としゃべるときと高島としゃべるとき、あからさまに態度が違うもん。高島としゃべるときの方が笑顔が多いし」
水野の話に、俺も思い当たることがあった。
「それはそうかもな。山本はどう思う?」
俺はまだましだが、クラスの他の男子と話すとき、一条さんは表情を変えない。事務的な感じで話す。高島としゃべるときだけ、怒ったり、笑ったり、恥ずかしがったりと表情がコロコロ変わる。それは見ていておもしろい。一条さんが高島に心を許している証拠だと思う。
「う、うん。それは僕も感じるかな。僕も何度か一条さんと話したことがあるけど、真顔だったっから」
山本に意見を求めたら、頷いて同意した。
「ですよね!あ!笑顔といえば、高島くんは一条さんに君の笑顔が好きって言ってましたよ!」
「え?本人に言ったの?それもう告白じゃん」
美穂の告発に、水野が驚くような、呆れたような声を出した。能力測定前、食堂で高島が前田達に絡まれたあとの話だ。あのときは高島と一条さん、俺と美穂の4人しかその場にいなかった。責任を感じた一条さんを高島が慰めているときに言ってたな。あれは俺もマジかこいつ、って思った記憶がある。お前一条さんのこと好きすぎるだろって。
「あのときの一条さん、感動して泣きそうになってましたね!」
「そりゃ、大好きな男に言われたらそうなるよね~」
その後もしばらく、高島と一条さんの暴露大会は続いた。これはとても本人達には聞かせられない。聞いたら恥ずかしくて死ぬんじゃないだろうか。いや、それだけネタがある二人がすごいって事なんだけどな。どんだけ普段からいちゃついてるって話だ。
「本人達が相手の気持ちに気づいないのがもどかしいよね~」
水野がしみじみと言った。
「相手の気持ちどころか、自分の気持ちにも気づいてないですよ!無自覚に相手のことが好きで、でもそれが無意識に行動に表れてるんです!」
美穂の言葉に俺も頷いた。あいつら、行動はカップルそのものなんだよな。毎朝一緒に登校し、授業中は見つめ合い、昼食はあーんしあい、一緒に下校する。これでなんで付き合ってないんだろう。実際に付き合ってる俺と美穂より恋人らしいぞ。特に教室や王城の食堂であーんするなんてバカップルも良いところだ。それを無自覚でやってるのがすごい。
「まったく。早く付き合えば良いのに」
「そこが良いんですよ!このもどかしさが!まあ、二人には幸せになってほしいですけど」
「時間の問題だろ。二人が付き合うのは」
「いやぁ?ああいうのは、意外と時間かかるかもよ?何か大きなきっかけがないと自分の気持ちも気づかないでしょ」
「私もそう思います!」
こうしてわいわい盛り上がっていると、ふと大友先生が
「でも、うらやましいです」
ぽつり、と漏らした。
「先生?先生も彼氏ほしいの?」
その言葉に、水野が素早く食いついた。
「彼氏というか・・・。この年になると一人が寂しく感じるんですよ。だれか隣で寄り添ってくれる人が・・・。おっと。すみません。忘れて下さい」
先生は慌てて首を振って、苦笑いでごまかした。先生はアラサーだ。周りの友人がそろそろ結婚しだしてもおかしくはない。そのことに対する焦りなんだろうか。
それを聞いて水野はぼそっと
「ふーん。そっか。うちはずっと隣にいるけどね」
うつむいて、拳をぎゅっと握って、小さく、つぶやいた。
「?なにか言いましたか?水野さん?」
「いーや。何も?」
しかし、水野のつぶやきは大友先生には聞こえなかったようだ。
ま、こっちも頑張れ。水野。
そんな話をしつつ、俺たちは帰途についた。二人の友人の幸せを祈りながら。




