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27話 訪問

 居候3日目。 午前中はダッシュと素振り、午後は体幹トレーニングを行った。筋肉痛がつらい。でも

城にいた頃も含めて、トレーニングを始めてから30日以上経っている。その成果が徐々に出てきたのか、うっすら筋肉が付いてきたような気がする。


 居候4日目。ストレッチ中心だった。筋肉に大きな負荷をかけない日も大事なんだとか。ロッシュさんは、体が柔らかければ怪我をしにくいし、より多彩な動きもできるとも言っていた。何より、体の疲れも取れるので、毎日風呂上がりにやるよう勧められた。


 居候5日目。この日は素振りと筋トレ中心のメニュー。手のひらにマメができて痛い。

 それから、夕食の席で、結依が魔力放出をできるようになったとメイさんが嬉しそうに言っていた。4日でできるようになるのはとても早いらしい。あまり凄さがわからないのでポカンとしていたら、結依にちょっとは褒めろと怒られた。


 居候6日目。さあ今から訓練しようと思い、玄関の扉を開けると、村上、柴田さん、大友先生、水野、山本が門の前に立っていた。


「村上!柴田さん!大友先生!」


 驚いて声をかけると、手を振って反応してくれた。


「よお高島!久しぶりだな!」


「お久しぶりです!」


 庭を駆けて門の前までいく。城を出てから会うのは初めてだ。たった数日ぶりのはずだが、とても懐かしい気がした。


「元気か?」


「ああ。村上たちも元気そうだな」


「まあな」


「私たちも元気です」


「お久しぶりです。高島くん。一条さんもお変わりないですか?」


「先生。わざわざありがとうございます。俺も結依も元気ですよ。水野と山本も来てくれてありがとう」


「ま、暇だったしね~」


「ぼ、僕は村上くんに誘われて・・・。あ、もちろん高島くんのことも気になってたよ!?」


 村上、柴田さん、先生らと挨拶を交わしているとロッシュさんも門まで歩いてきた。


「おお。ユウとユイの友達か。よく来たの。まあ入ってくれ」


「ご無沙汰しております。ロッシュさん。突然押しかけてすみません。お邪魔します」



 今日の訓練は中止になった。初めての外出許可が出て真っ先にここに来てくれたので、歓談するのもいいだろうということになった。物置部屋から椅子を引っ張り出してきて、テーブルを9人で囲む。元々4人で使うには大きいテーブルだったが、さすがに9人だと少し狭い。

 一通りの自己紹介が終わって、メイさんが入れてくれた紅茶を飲みながら再会を喜ぶ。


「一条さんもお久しぶりです。お元気そうで何よりです」


「ええ。柴田さんも元気そうでよかったわ。水野さんと山本くんも来てくれてありがとう」


「あんた、旦那とおんなじこと言うじゃん」


 明るいギャル、水野が結依のひと言に反応し、混ぜっ返した。


「だんな・・・?」


「誰が旦那か、水野」


 多分、俺も結依も、水野と山本に対して来てくれてありがとうと同じ台詞を言ったことをイジってきたんだ。そう思って突っ込むと、水野はより深くにやっと笑った。


「おんやぁ?うちは別に高島だって言ってないけど?」


「っ!俺しかいないだろうが!」


「ほぅ。一条さんの旦那は俺しかいないと。独占欲ですな」


「話の流れ的に!同じ事を言ったのが!俺しかいないだろうと!誰が結依の旦那か!」


「私も、こんなやつが旦那だなんて嫌よ」


「おい高島。フラれてんぞ」


 村上も混ざってきた。


「黙れ村上。俺の方から願い下げだ」


「だってよ、山本。どう思う?」


「え、僕・・・?僕は高島くんと一条さんはお似合いだと思うけど」


「おぉ!いい目持ってるなぁ!」


「節穴だ」


「節穴よ」


 こんな気の強い女と結婚したら、俺の身が持たない。奥さんにするなら優しい人が良いなぁ。俺が守りたいって思えるような優しい人が。


「まあまあ、皆さん落ち着いて」


 わちゃわちゃする俺たちを、柴田さんが苦笑しながら止めに入る。と、くすくす、と言う笑い声が聞こえた。ぱっと全員の視線が集まる。笑い声の主、大友先生はみんなに見られていることに気づくと、はっ、と口元を隠し、ごめんなさい、と言った。


「高島くんと一条さんが元気そうで本当によかったわ。安心したら、つい笑ってしまって」


「先生・・・」


「ロッシュさん。メイさん。うちの生徒が本当にお世話になっております。このご恩はいつか必ずお返しいたします」


「いやいや。わしらがやりたくてやってることじゃから。先生は気にせんでいい」


「そうです。ロッシュさんたちへの恩返しは私たちがきちんとしますから。先生もご自愛下さい。私たちばかり気にして、自分のことを後回しにしないでくださいね」


 そう。ここは俺たち日本人にとって未知の世界。俺たちばかり気にしていないで、大友先生も自分のことを考えてほしい。先生が俺たちを心配しているように、俺たちだって先生を心配してるんだ。

 その思いは同じようで、村上も、柴田さんも、水野も、山本もうんうんと頷いている。


「・・・ありがとうございます。しかし教師というものはやはり生徒のことが心配で・・・」


「もうっ。そんなこと言う口はこの口かっ」


「ひゃっ。ひょ、ひょっとっ」


 むにぃ。水野が大友先生の口をつまんだ。


「じゃあ、先生がうちらのことを心配するなら、うちが先生のことを心配してあげる。それでおあいこでしょ?」


「みしゅのひゃんっ」


「返事は?」


「ひゃ、ひゃいっ・・・」


「うん。よろしい」


 水野は先生の口から手を離し、にぱーっと笑った。今日一番の笑顔だった。

 全く水野は。先生の口をつまんで無理矢理言うことを聞かせるなんて。こんなところで何やってんだ。いいぞもっとやれ。


 その後、話題は俺たちの生活になった。俺が毎日倒れるまでトレーニングしていると言うとドン引きされたし、結依も吐きそうになりながら魔力放出訓練をしていたと言うとこれまたドン引きしていた。


「そういえば、前田の様子はどうですか?」


 俺はふと気になったことを、話題に上げた。城を出る直前、前田は結依を取り返す、首を洗って待っとけ、と言っていた。あれから数日だが、俺が知る限りこちらにちょっかいはかけていない。城での様子はどうなんだろうと気になった。


「あーー」


 村上がやや顔をしかめながら柴田さんや先生と顔を見合わせた。あまり良いニュースはないと察した。なにが来る、と身構えると、村上は


「いや、二人に直接関係する話じゃないんだ。ただ・・・」


「ただ?」


「実はライオス教官が、前田達は自主練習でいいって言ったんだ。二人が城を出て行った日からな。模擬戦で強さを見せたから・・・つまり高島を・・・その・・・」


「俺をボコボコにして強さを証明したってことだな?」


「ああ、すまん。そうだ。で、そういう理由で、前田と、ついでに伊東と三村も、自主練習になったんだ。ただ、あいつ、昼頃まで寝て、起きたら飯だけ食って、城の外にふらっと遊びに行って、っていう自堕落な生活なんだ。訓練してる様子が全くないんだよ」


「日に日に態度も横柄になっていって・・・」


「僕も何度か怒鳴られたよ・・・」


「ええ。なんとか生活態度を改めて、訓練させようと叱ったんですが・・・。私の言うことには耳を貸さず・・・」


「もうそんな奴ほっとけば良いんだよ。先生はもう先生じゃないんだよ?」


 水野が呆れたように言った。一見その台詞は先生を突き放す、冷たい言葉のも思われた。事実、似たような言葉を前田も大友先生に吐き捨てた事がある。

 しかし、水野が大友先生を突き放すとは思えなかった。その言葉は、水野なりの思いやりだろう。そして、その言葉に賛成する人がいた。


「そうじゃ。先ほどからわしも思っておったが、先生は先生じゃない」


 ロッシュさんだ。


「え・・・?」


「先生は元の世界じゃ、先生じゃったかもしれん。しかし、この世界では等しく召喚された者じゃ。先ほどもユイが言っておったが、もう少し肩の力を抜いても良いんじゃないかの」


「しかし・・・」


 大友先生はイマイチ納得仕切れていないが、俺はむしろロッシュさんに賛成だ。さっきも思ったが、大友先生にとっても慣れない環境だからこそ、自分自身も気にかけてほしいのだ。


「ええ。教わることを拒否した者に、教える必要はありません」


「メイさん・・・?」


 ロッシュさんのあとを受けたメイさんが、先生を諭すように、言葉を紡ぐ。


「そもそも、教師というのはただの職業です。生徒の人格、人生全てに責任を持つ必要も、その資格もありません。まずあなたは自分の人生に責任を持ちなさい。その上で、他人の心配をするべきです。あなたにも、元の世界であなたを待っている人がいるのでしょう?」


「そう・・・かもしれませんね」


 うつむいた先生。少し考え込んだ。


「私にも両親がいますから・・・。生きて帰らないといけませんね・・・」


 うつむいたまま、そうつぶやいた。かと思ったら、顔を上げた。その目には強い光が宿っていた。


「しかし、私は全員で日本に帰りたいと思います。高島くんも、一条さんも、前田くんも。誰一人欠けることなく。それだけは譲れません」


「そうか・・・。ならばわしからはもう何も言うまい」


 ロッシュさんは諦めたように首を振った。しかしその顔は微笑をたたえていた。先生の強さに敬意を表するような、そんな笑みだった。

 俺もロッシュさんと同じ思いだ。やっぱり大友先生は何があっても俺たちを気にかける、優しい人なのだ。だからこそ俺たちも信頼するし、心配もするんだ。


「先生・・・」


「何ですか?水野さん」


「んーん。私が支えてあげないとなーって」


「?何をですか?」


「何でもなーい」



 それからは、王都の様子などをわいわい喋り合った。俺と結依が冒険者ギルドに登録したことを話すと村上と山本が身を乗り出して聞き始め、獣人のお姉さんと会ったくだりになると目を輝かせていた。山本も意外と話せるなと思った。

 メイさんが人数分の昼食も作ってくれて、楽しいひとときを過ごした。城より美味いと大絶賛で、メイさんも少し照れていた。


 夕方近くになって、いよいよ帰る段階になった。


「そろそろおいとましましょうか」


「はーい」


「もう帰るのか?気をつけての」


「はい。お昼までいただいてしまって」


「いいのよ。お口に合えばよかったんですけど」


「とてもおいしかったです」


 先生たちが帰りの挨拶を交わしているうちに、村上にこそっと聞いた。


「カーン公爵からは何か言われたか?」


「いや、今のところは何もないぞ」


「ん?なになに?公爵がどうかしたの?」


 鋭く聞きつけた水野が反応するが、首を振って否定する。


「い、いや。なんでもない」


 俺たちを使い潰そうとしているかもしれないカーン公爵。しかし水野と山本はその話を知らないはずなので、慌ててごまかす。


「ふーん。そう」


「あ、ああ。じゃあな、高島、一条さん。元気でやれよ」


「また会いましょう」


「ああ。二人も元気でな」


「今日は来てくれてありがとう」


 村上と柴田さんは俺と結依へと挨拶を交わす。今度は二人ははロッシュさんとメイさんに向き直って、ぺこりと軽く頭を下げた。


「それではロッシュさん、メイさん。お邪魔しました」


「お邪魔しました」


「今日は突然すみませんでした。二人のこと、よろしくお願いいたします」


「お邪魔しました~!」


「お、お邪魔しました」


「うむ。またいつでも来てくれ」


「ええ。お待ちしています」


 大友先生、水野、山本もそれぞれ夫妻に別れの挨拶を済ませ、帰って行った。


 さっきまで賑やかだったのに、来客が帰ったことで、急に静かになった。なんとも言えないさみしさが漂う。俺は庭先まで出て、一行が見えなくなるまで見送った。


「良い友人じゃな。元気をもらえるじゃろう」


「はい。本当に」


 心配して会いに来てくれた。それだけでうれしかった。話せてとても元気になった。


「では、明日からの訓練、もっと厳しくしようかの」


「ぅえっっ!?」

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