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25話 訓練と才能

 ベイル邸に居候させてもらうことになった二日目の朝。


「起きなさい。悠」


「うぅ~ん・・・」


 白く、袖や裾に若干フリルがついた長袖シャツに、白のズボン。後ろでポニーテールにまとめた黒髪がよく映える。常々思うが、外見だけで言えば、結依は完璧なのだ。どんな服、どんな髪型でも似合う。顔もスタイルも抜群だ。外見だけで言えば。だから


「かわいい・・・」


 寝ぼけ頭で、そう思った。


「んなっ」


 急に、結依が顔を真っ赤にした。バタンとドアを乱暴に閉め、俺の部屋から出て行き、足音を響かせながら遠ざかっていく。


「んん~?」


 寝起きで頭がぼーとする。どうしたんだろ。急に出て行って。まあいいや。着替えて一階へ降りよう。



「おはようございます」


「おはよう。ユウ」


「おはようございます。ユウさん」


 一階へ降りると、俺以外の三人はテーブルに着いていて、朝ご飯を食べていた。いや、結依は顔を赤くしてうつむいている。


「どうしたんだ、結依?」


「な、なんでもないわよ!」


 そう言ったかと思えば、パンをかき込む。本当にどうしたんだろ。朝から照れることでもあったんだろうか。

 ・・・。え、まさか俺?さっき、結依に向かってかわいいって言った?確かに頭ではそう思ったけど、まさか口に出していた?いやいやそんな馬鹿な。

 ちらっと結依を見る。目が合った。ぱっとそらされた。

 ・・・俺だ。俺のせいだ。俺がかわいいって言っちゃったんだ。恥ずかしすぎる。いくら寝ぼけてたとはいえ、面と向かってかわいいって言うなんて。黒歴史確定だ。これは下手したら一生からかわれるレベルだ。


「朝からお熱いのう」


「そうですね」


 何がお熱いのかさっぱり分からないが、気まずいのでパンにかじりつく。そのまま黙々と食べ進める。

 

「さて、ユウよ。今日から本格的に訓練を始めるぞ」


「は、はい」


 と、ロッシュさんが少し真面目な口調で言った。慌てて俺も返事をする。そうだ。今日から訓練だ。俺たちが強くなるための。前田より先に魔王を倒し、日本に帰るための。頑張らないと。


「ユイさんも魔法の勉強を始めましょうね」


「はい。お願いします」


 俺も結依もそれぞれ返事して、さらに食べ進める。おいしかったが、今日の朝食はあまり居心地がよくなかった。



 朝食後。俺とロッシュさんは武装してベイル邸の庭で向かい合っていた。武器はお互い竹刀。ベイル家の物置部屋に保管されてたものだ。ロッシュさんは自前の防具、俺は昨日買ってもらった防具をつけている。


「ユウよ。マエダとの模擬戦の様子を聞いたぞ。かなり粘ったそうじゃな」


 2~3メートル離れて向かい合った状態で、そうロッシュさんが聞いてきた。


「でも、逃げ回るだけで反撃はできませんでした」


 前田との模擬戦。攻撃を躱すことはできた。でも結局、できたのはそれだけだ。反撃できずに、俺の足が限界を迎え、そのまま負けた。


「いや、わしは正直瞬殺されてもおかしくないと思っておった。しかし、何十手とマエダの攻撃を躱し続けたそうじゃな。すごいぞ」


「ありがとうございます。身体が勝手に動いたっていうか・・・。僕、才能あるんですかね」


「・・・」


 俺は軽い気持ちで言うと、ロッシュさんは黙ってしまった。逆行でロッシュさんの表情が見えないのが、なんだが怖い。


「・・・ロッシュさん?あ・・・冗談でーー」


「その通りじゃ!」


「へ?」


 調子に乗って怒らせたかと思ったら、なんとロッシュさんの返答はイエスだった。驚いて固まる俺だが、なおもロッシュさんは言葉を続ける。


「ユウ。おぬしには戦いの才能があるかもしれん。ステータス差が絶望的に上の相手の攻撃を躱し続けるなど、歴戦の戦士でも難しい。まして素人では考えられんことじゃ。その素人に天賦の才でもない限り、な」


「え?え?」


 本格的に褒めてくれるロッシュさんに、戸惑う。調子に乗るな、のひと言で訓練が始まると思っていたのに。予想外だ。


「ユウ。誇れ。おぬしはステータスには恵まれんかったが、戦いの才能がある。本能で最適解を嗅ぎ分ける、何よりも得がたい才が」


「は、はい」


「ステータス差など、鍛えればどうにでもなる。大切なのは戦いの技術じゃ。どう剣を振るか、どう避けるか。どこに避けるか。どう身体を動かすか。ユウ。おぬしは本能でそれが分かっておる。これがおぬしの才能じゃ」


「あ、ありがとうございます」


 ・・・もしかしたら、俺をやる気にさせるための方便かもしれない。それでも、ワクワクとうれしさが混在している。もしかしたら自分ってすごいんじゃないかって、期待してしまう。無能と言われた俺にも取り柄があるんじゃ無いかって。そして、自分をここまで評価してくれるロッシュさんの存在がうれしかった。涙が出そうなほどに。


「いくつも修羅場をくぐった剣士が経験で身につけることを、おぬしは最初からできておる。素晴らしいことじゃ」


「はい・・・」


「じゃが、やはりその才も鍛えねばならん」


「は、はい」


「と、いうわけで、じゃ。わしがこれからおぬしを攻撃する。おぬしはわしの攻撃を避け続けるんじゃ。よいな?」


「え?ちょ、ちょっとまっーー」


 思わぬ急展開に、慌ててロッシュさんを止めようとする。しかしロッシュさんはお構いなしに剣を構え、


「いくぞ!そりゃああ!」


「わっ」


 ブンと振るわれた剣を、俺はすんでのところで下がって避ける。危なかった。そして驚いた。前田より鋭い振りだ。いや、それも当然か。あって、元近衛隊平民組の組長なんだから。


「ロ、ロッシュさん。まっーー」


「ほれほれ!まだまだ!」


 ブンと振るわれる剣を、右に飛んで避ける。ロッシュさんはもう、止まりそうにない。仕方ない。


「くっ。分かりましたよ!避ければいいんでしょ!」


 ふっと息を吐き。集中する。ロッシュさんをじっと凝視、かつぼやっとロッシュさんの全身を眺める。

 動きがゆっくり見える。筋肉の収縮、呼吸。身体の傾き。ロッシュさんの次の動きは?


 右!


 ブン


 左!


 ブン


 本能で身体を動かす。理屈じゃない。ただ、身体が動くまま。


 躱す。躱す。右に後ろに左に。剣の風圧を感じながら躱す。


「せいいいっっ」


 身をかがめる。起き上がって勢いよく下がる。


 右!右!後ろ!


「はああっ」


 左!


「あ」

 

 足が動かない。

 よろっと俺の身体が傾くのを感じた。


「やべっ」


 べちゃ。足がもつれて、尻餅。庭に転がってしまった。


 ブンと目の前に迫り来る、竹刀。避けられない。当たるーーー


「・・・ん?」


 しかしいつまで経っても身体に痛みはこなかった。恐る恐る目を開けると、ロッシュさんの竹刀が俺の身体の前で寸止めされていた。俺に怪我をさせないよう、配慮してくれたみたいだ。


「ふぅっっ」


 集中力と緊張感が解けて、大きなため息が出た。竹刀が当たらなかった安堵感もあり、どっと疲れが押し寄せてきた。はぁはぁと荒い息が口から漏れる。


「勝負あり、じゃ」


 にやっと笑ったロッシュさんに手を差し出された。その手を取って、立ち上がる。そのロッシュさんは余裕の表情だ。


「はぁっはぁっ。ありがとうございますっ」


「うむ。素晴らしい動きじゃ。とても素人とは思えん。おぬし実はかなり戦いの経験があるんじゃないのか?」


「いえっ。召喚される前はっ。はぁっ。戦いとはっ。無縁の生活でしたよっ。はぁっ。はぁっ」


 息も絶え絶えに話す。俺は日本ではただの高校生だった。運動といえば体育の授業と近所を散歩するぐらい。戦いだってあるはずがない。強いて言えば中学の剣道と高校の柔道の授業ぐらいだ。でも素人とは思えないと褒めてくれるのは素直にうれしい。


「そうか・・・。まあ、体力は素人並じゃからの。そのせいで、自分の思った動きができておらん。最後足がもつれたのも、体力不足じゃ。才はあるが、身体のスペックが追いついていないのぉ」


「はいっ。はぁっはぁっ」


 前田との模擬戦も、今日も、結局足が疲れて動かなかったことが敗因だ。つまり、体力不足は明らかということだ。


「ともかく、トレーニングは必須じゃな。今みたいな実践的訓練と、トレーニングのような基礎的訓練。これからは、両方行うぞ」


「わ、わかりました・・・」


「さしあたり、10分休憩後、短距離ダッシュ10本じゃ」


「ひぇぇ」


 こうして昼食までみっちりロッシュさんにしごかれた。

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