22話 王都
城門をくぐって、王都へ出る。城壁の向こう側の、未知の世界だ。
「ほえー」
第一印象としては、古き良き町だ。現代日本のアスファルトとコンクリートの町並みとは違う。かといって昔の日本の木造建築とも違う。道路は石畳。建物も多分石とレンガでできている。せいぜいが3階建て。やはりアニメの定番通り、中世の西洋風になるのだろうか。
キョロキョロと周りを見渡す。何もかもが初めての風景。幅広い道路とその両側に並ぶ建物。行き交う人々。混雑しているというほどではないが、それなりに通行人もいる。まっすぐ伸びる道路は横に広く、4~5メートル以上はあるだろうか。両側には商店が建ち並び、買い物客があふれている。その道路の先には大きな城壁が王都を囲うようにそびえ立っている。王城の周りにも城壁があったが、王都の周りにもあるらしい。しかも、遠目だが王都のものよりも高い気がする。
「ほれ、いくぞ」
周囲を見ることに夢中になって、足が止まっていたようだ。ロッシュさんに声をかけられた。
「「す、すみません」」
「「・・・ん?」」
俺のことか、と思って返事すると、結依と言葉かかぶった。お互いを見て、首をかしげる。
「二人ともじゃよ」
そう言ってロッシュさんはくっく、と笑う。どうやら俺と結依二人とも周りを見渡して、足が止まっていたらしい。
「むぅ」
結依と同じだったことがなんとなく恥ずかしくて、スタスタと歩く。
「行きましょう。ロッシュさん」
「まあそんなに焦るな、ユウ。先に行っても道が分からんじゃろ」
「ぷっ」
呆れるロッシュさんの横で、吹き出す結依。キッとにらむと、横を向いて、知らん顔をされた。
「さて、遊んでないで行くぞい」
「遊んでないですよっ!」
俺の抗議も虚しく、ロッシュさんは俺を追い抜いてスタスタ歩き出した。慌ててついて行く。
大きな通りを歩きながら、やはりチラチラと周りを見てしまう。魚、野菜などの食料品を売っている店もあれば、宝石、装飾品などを扱う店、さらには飲食店まで。様々な店舗が建ち並んでいる。すれ違う商店の店員はにっこりと笑い、それとなく売り込みをかける。声を張り上げるでもなく、穏やかにアピールする姿はどこか上品な感じがする。
「この通り沿いは商業が活発じゃ。もっとも、このあたりの店はどれも富裕層向けじゃ。庶民向けの店は王都の大門近くにある」
ロッシュさんは色々と説明をしてくれる。なるほど。この付近は店も客も富裕層と。金持ちケンカせずじゃないが、品があると感じたのはそういう理由か。
街ゆく人は、中年の女性が多い。今の時間は主婦の買い物の時間だろうか。しかし自分で荷物を持たず、使用人らしき人に持たせている人もいれば、そもそも使用人だけが買い物に来ている場合も多い。この辺りも富裕層という感じがする。
ちなみに、大門というのは王都の入り口であるらしい。王族貴族以外は大門を通らなければならず、通る際も住民以外は通行税を払わないといけないそう。
「一本中の通りに入れば、住宅街じゃ。この辺りは主に大商人の住宅が多いの。そうそう。王城の反対側には貴族の住宅街がある。特に用がない限り、行く出ないぞ。厄介事を引き受けたければ別じゃが」
「絶対行きません」
今のところ、貴族に対しては悪い印象しかない。カーン公爵、ビルクリフ、ライオス・・・。あんなのがいっぱいいるところなんて、絶対行きたくない。
しかし、この世界には人間の他に、エルフと獣人がいるらしいが、見かけるのは人間だけだ。耳が長い長命種族のエルフに、獣の耳、尻尾を持った身体能力抜群の獣人。王城でも人間だけしか見なかった。せっかく外に出たのだから、一目見たい。
「ロッシュさん。エルフなどはいないんですか?」
ロッシュさんに聞くと、周りを少し見渡した後、声を潜めて教えてくれた。
「ああ。エルフか。この国ではエルフも獣人も数が少ないの。アルス王国の貴族の中にはエルフや獣人をよく思わない者も多いからの。住みづらいんじゃろう」
「そうなんですか・・・」
またしても貴族。ロッシュさんはよく思わない、と濁したが、多分差別的なんだと思う。だって、ロッシュさんの顔はすごく苦々しかったから。本当にこの国の貴族はプライドが高い。残念だが、お目にかかるのはまたの機会にお預けだ。
こんな調子で、10分15分くらい歩いただろうか。道の両側にそれぞれ何台もの大きな馬車が並んだ広場があるエリアに行き着いた。
「あれが馬車乗り合い所じゃ。ここより先は、庶民向けの商店が広がっておる」
確かに、乗り合い所の奥、大門側を見てみると、建物もこじんまりしているし、人も多いように見受けられる。富裕層側は上品な少数の人が買い物を楽しんでいるという印象で、庶民側は多数の市民が元気よく街を賑わせているという印象だ。馬車の乗り合い所を境にして、街の表情が変わっている。
「左側が商人達の私的な馬車を止める広場、右側の広場が乗り合い所じゃ。第二の都市べーフェンや港があるケーニンなどへの馬車がある」
「へぇ。じゃあ他の都市へ行くときはここから馬車へ乗れば良いんですね」
「そうじゃな。都市間の移動は基本的に馬車が多い。歩くと時間がかかる上に、魔物や盗賊に襲われる可能性もあるあらの。といっても、馬車が絶対安全とも限らんが。だから、観光気分で移動することはやめておけ」
「そうですか・・・」
残念ながら、この世界では旅行という娯楽はないようだ。都市の外に出るだけで身の危険があるらしい。
「ここで曲がるぞ」
馬車乗り合い所の手前の曲がり角で左に曲がり、歩く。先ほどロッシュさんが言っていたとおり、閑静な住宅街だ。しかし、住宅がでかい。建物自体がでかいのは当然として、庭までついている。ここも富裕層側だから、住宅も豪華なのだろう。そこで5分ほど歩いただろうか。一軒の家の前で止まった。
「ここが我が家じゃ」
「わぁ」
「大きい家ですね」
ロッシュさんの家も、周りに劣らず大きな家だった。鉄製の門、その先にある10メーロルほどの道。その両側から家を囲むように広がる芝生の庭。白い壁に黒い屋根、2階建ての大きな邸宅。日本の俺の家より数倍でかい気がする。
そうか。ロッシュさんって一応近衛隊平民組の元組長だったんだ。そりゃ家もでかいわ。というか、それを考えるともっと王城の近くで、大きい家でもいいとすら思える。
「そうか?こんなもんじゃろう。さて、入るぞ」
ぎいっと門をあけ、敷地へ入る。
「この庭では剣も振れるし、模擬戦もできるでな。ビシバシ鍛えるぞ」
「げぇ」
思わず変な声が漏れた。強くなりたいはなりたいが、ロッシュさんのビシバシはほんとに厳しそうだ。今までランニングしかしていないが、それだっておもりを持って体力の限界まで走らせるってものだからな。剣を振り始めたらどうなることやら。今から不安だ。
「ふふっ。頑張りなさい、悠」
「おい。人ごとだと思って。ロッシュさん。ユイも奥さんから魔法を学ぶんですよね?」
「おお、そうじゃユイ。おぬしもメイから魔法を学ぶんじゃぞ」
「はい。メイさんってどんな方ですか?」
「ああ。それはな・・・」
ロッシュさんが言いかけたとき、目の前の玄関の扉がガチャリと開いた。中から一人の女性が出てくる。
「いらっしゃい。あなたたちがユウさんとユイさんね」




