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20話 提案と決断

「おぬしとユイ。わしの家に来るか?」


「え・・・?」


 俺の口から驚きの声が漏れた。しかし、ロッシュさんには俺の反応が意外だったようだ。続けて口を開く。


「何を驚いておる。前にも言ったじゃろう。それとも、冗談じゃと思っておったか?」


「い、いえ・・・」


 冗談だと思っていたというか、俺がその選択肢を本気で検討していなかったというか・・・。なんだかんだ、追放されないだろうという甘え。迷惑はかけられないという思い。いろいろあって、現実的な選択肢とは思えなかった。もちろん、そう言ってくれた気持ちはうれしかった。その気持ちだけで満足していた。

 ロッシュさんは、俺たちの指導を押しつけられた、何の関係もない一般人。今でも指導してくれて感謝しているのに、さすがに頼りすぎるのは・・・


「私、前田と一緒にいたくない」


 静かに言った結依の言葉に、はっとした。前田はもともと結依に惚れて、幼なじみの俺が邪魔でいちゃもんをつけていたんだ。その前田が、結依に直接何かしないと、どうして言い切れる?いや、ライオスと結託して模擬戦で俺をはめたんだ。その可能性は十分にあると思ったほうがいい。結依の拒否感は当然のものだ。そう思わされた。


「おぬしら二人の安全のためにも、この城は出た方がいいと思う。わしの家で一緒に暮らそう。ああ、わしに遠慮はするな。妻も是非と言っておる」


「・・・」


 この城を出て、ロッシュさんの家でお世話になる・・・、か。真剣に考えなきゃな。

 まず、前田達とも、それからカーン公爵とも離れられる。それはとても魅力的だ。むしろそうした方が安全だろう。前田がちょっかいをかけてくるのを避けられるし、俺たちを使い潰すかもしれないカーン公爵から離れられるのもありがたい。ただ、もし他の生徒達が魔王を倒したとき、城にいない俺たちも一緒に帰らせてもらえるのだろうか。

 どうするかな・・・。

 そう考えていると、ガチャと医務室の扉が開き、ドタドタと誰かが入室してくる音が聞こえた。いったん考えるのをやめ、目を向ける。


「高島!大丈夫か?」


「高島くん!」


 入ってきたのは三人。ミルさんに連れられてた村上と柴田さんだった。どうやらミルさんの用、というのは二人を連れてくることだったようだ。二人はキョロキョロと当たりを見渡し、俺の姿を見つけると駆け寄ってきた。


「ああ。まだ痛みはあるけど、大丈夫だ」


 安心させようと少し笑いながら言うと、二人はほっとしたように息を吐いた。本当に心配してくれたんだな、とその姿を見てうれしくも申し訳なくなった。


「もう数日寝てれば治るらしいから、たいしたことないよ」


「いや、それはたいしたことあると思うぞ」


 椅子に座りながら、呆れたように半笑いになる村上。しかしすぐにそうだ、と横にいるロッシュさんを見て、こう言った。


「ああ、そういえばお前ら、ロッシュさんのとこに行くんだってな」


「いや、まだ返事はしてないけど。なんで知ってるんだ?」


「昨日ここに来たときに一条さんとロッシュさんが話してたんだよ。俺はいいと思うぜ」


 その言葉に驚いた。しかも、柴田さんもそうです、と言葉を重ねる。


「高島くんも一条さんも、前田くんから何かされるかもしれませんから」


「そうじゃ。おぬしらの友人もこう言っとるんじゃから、遠慮せんでいい」


 村上と柴田さんに乗っかるように、ロッシュさんも勧めてきた。みんな、ロッシュさんにお世話になることに賛成なのか。


「そうですか・・」


 ロッシュさんに迷惑をかけると思っていたが、それは気にするなと念押しされた。そして、結依も城にいたくないと言っていた。その理由も共感できる。結依は前田に無理矢理迫られるかもしれないし、俺だってまたボコられるかもしれない。


「公爵のこともありますし・・・」


 という柴田さんの声。

 カーン公爵は、俺たちを捨て駒、ぞんざいに扱うかもしれない。そうなれば、むしろ城にいる方が危険だ。それも重々承知だ。だからこそ、俺たちだけ出ても良いのか、とも思う。他の生徒を見捨てる形にならないだろうか。

 そう思って村上を見ると、俺の思いを見透かしたように、


「俺たちは城に残るよ。山本とか、大友先生のことも気になるしな。というか、真っ先に切り捨てられるとしたら、能力の低いお前らだと思うぜ」


 少し笑って言った。そして柴田さんも頷いて言う。


「ただ、私たちが身の危険を感じて、城を出たいと思ったときは、外の世界を案内してもらえると嬉しいです」


「ああ。だから、俺たちの前に外の世界を下見してきてくれ」


「・・・」


「それまでは、俺たちが前田を見張っておくぜ。お前たちに悪さしないようにな」


「村上・・・」


 そこまで言われたら・・・。


「分かった。ロッシュさん。お世話になります」


「ああ。もちろんじゃ」


 遂に、ロッシュさんにお世話になることにした。ロッシュさんも結依も賛成だし、村上、柴田さんにも背中を押されたら、断ることはできない。まあ実際、こうするほうがメリットも多いしな。

 心なしか、結依もほっとしているような気がする。


「村上、ありがとう」


「へへっ。いいってことよ」


 村上は照れたように鼻をかく。


「日本に帰ったら、ラーメンでも奢らせてくれ」


「おう。楽しみにしとくぜ。だから一緒に帰ろうな。まあ、お前らが先に魔王を倒すかもしれねえけどな。もしそうなったら、俺たちも一緒に帰らせてくれよ」


「ああ。でも、今の実力的にはお前たちの方が早いと思うけどな。そのときは、俺たちを置いていかないでくれよ」


「分かってるよ」


 そう言って俺たちはくすっと笑い合った。良い友人を持った、とうれしくなった。

 と。パンパンと誰かが手を叩く音が耳に入った。そちらに顔を向けると、音の主はミルさんだった。


「はいはい。話は終わったかい。じゃ、みんな出て行ってくれ。ユウは安静にしておかなきゃいけないんだ」


 俺たちの話が終わるのを待っててくれたらしい。

 分かりました、と返事して、村上、柴田さん、ロッシュさんは立ち上がった。


「ほら、あんたもだよ」


「え?」


 立ち上がるそぶりすら見せなかった結依が、ぽかんとしている。


「もう目が覚めたから、いいだろう?ゆっくり寝かせてやりな。あとは寝て回復するだけだからさ」


「でも・・・」


「結依。俺は大丈夫だから、お前も休め」


 結依の目の下にはうっすらクマがある。昨日はここに泊まったらしいから、あまり寝れなかったのだろう。責任感の強い結依らしいが、俺としては結依の身体も心配だ。部屋に帰ってぐっすり寝てほしい。


「・・・わかった」


 渋々、といった感じで結依も立ち上がった。最後までチラチラと俺を見ながら、医務室を出て行く。いや心配性か。もう寝るだけだって。


「じゃ、おとなしく寝るんだよ」


「はーい」


 特に逆らう理由もないので、ミルさんに言われた通り、目をつむる。

 しかし、ロッシュさんの家に居候か・・・。召喚された当初は考えもしなかったな。どんな生活だろう。とりあえず、前田達にいちいち絡まれないことだけは確かだ。それはうれしい。あとは、訓練もするだろうな・・・。厳しそう。でも、最低限前田に勝てるぐらい、強くなりたい。そして願わくば、魔王が倒せるぐらいに。

 そのようなことを考えながら、まもなく、眠りに落ちた。

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