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19話 目覚め

「ううん・・・」


 目が覚めた。柔らかい、暖かな布の感触が身体を包んでいる。ほのかな薬品の香りがツンと鼻をつく。


「悠っ!」


「ゆ・・・い・・・?」


 結依の声が聞こえた。

 にゅっ、と視界の横から結依の顔が出てきた。ああ、俺が寝転んでいるのか。


「いてて・・・」


 身体を起こそうとすると、全身激痛に見舞われる。諦めて、横になる。ぼふっ、と柔らかい感触。どこかのベッドだ。


「おや、目が覚めたかい?」


「ミルさん・・・?」


 結依の横に、中年の女性がやってきた。過去に一度だけ会ったことがある。ミルさんだ。


「ここは・・・医務室ですか・・?」


 俺の問いに、ミルさんはああ、と頷いた。

 転んで腕を怪我したとき、近衛隊平民組の医務室に連れてこられた。その時見た風景と一致する。椅子と机。薬品が入った戸棚。ベッド。どうやら俺は平民組の詰め所にある医務室のベッドに寝かされているようだ。


「昨日、そこの嬢ちゃんたちがあんたを運んできたんだよ」


「そうですか・・・。昨日?」


「ああ。あんた、丸一日寝たっきりだったんだよ」


「えっ・・・」


 衝撃のひと言だった。俺は模擬戦の途中から記憶がない。おそらく、気絶したんだ。で、結依たちがここに運んできてくれた、と。運んだはいいが、一日中気絶してたのか。重傷だな。情けない。


「幸い、あと二日も寝てりゃ治るだろう。後遺症もない」


「そうですか・・・。よかったです・・・。ありがとうございます」


 俺のお礼に、ミルさんは、気にするな、とばかりに手をひらひらを振った。


「礼ならそこの嬢ちゃんたちに言っときな。すごい剣幕であんたを運んできてたんだから」


 ミルさんの言葉に結依を見ると、ふいと視線をそらされた。


「べ、別に私は普通よ。村上くんたちは慌ててたかもしれないけど!」


「何言ってんだい。あんたが一番・・・」


「ミルさん!」


「昨日だって、嬢ちゃんはあんたのそばをてこでも動かなくてね。泊まってったんだよ」


「~~っ!!ミルさん!!1」


「おっと。はいはい。おばさんは黙っとくよ。ああ、私は用事があるから、ちょっと出てくるよ。すぐ戻る」


 そう言って、ミルさんは医務室を出て行った。後に残ったのは、俺と結依。

 気まずい。


「あーー、結依?」


「・・・なに?」


「ありがとう。運んでくれて。看病してくれて」


「べ、べつに。私は医務室の案内をしただけだから」


「それでも、ありがとう」


 結依は昔からこういう優しさはあるからな。看病してくれたりとか。お礼を言っても素直に受け取らないひねくれ者だけど。

 結依はうつむいた。照れているのか、と思って顔を見ると、その表情はとても暗かった。どうした?と聞こうとしたが、その前に結依が口を開いた。


「私がいたから、前田は悠を敵視したようなものだもの・・・」


 顔を伏せ、自嘲するように小さくつぶやいた。今にも泣き出しそうなくらい、縮こまっていた。


「結依」


 責任を感じているらしい。俺がこんなボコられたのは、自分のせいだと。食堂の前で前田に絡まれたときも責任を感じていた。そのときも俺は大丈夫だと言ったが、今回は直接暴力を受けたことで、より感じているのだろう。


「ごめんね・・・。普段私とは喧嘩ばっかなのに・・・。迷惑ばっかりかけて・・・。暴力を振るわれたのだって、今日が初めてじゃない。これからもあるかもしれない・・・」


「結依」


「やっぱり、私といても良いことなんてないわ・・・。私、もう金輪際悠と関わらなーー」


「結依!」


 それ以上は言わせまい、と俺は大きな声で叫んだ。ズキッと肺が痛んだが、そんなことはどうでもいい。


「確かに、お前に惚れた男が、俺に突っかかってきたことも一度や二度じゃない」


「やっぱり・・・」


「お前とは喧嘩ばっかりだ。些細なマウントの取り合いでケンカしたり、ゲームの勝ち負けでケンカしたり、野球の勝敗でケンカしたり・・・」


「うん・・・私といても、おもしろくないでしょ・・・?」


「聞けって。ケンカばかりだけど。でも、退屈はしないからな。だから、まあ、金輪際関わらないとか・・・。そんこと・・・・言うな・・・」


 暴力を振るわれる?そんなの、結依に被害が及ぶことに比べれば何倍もマシだ。

 結依ともう関わらない?それは、嫌だ。俺は、そう思う。

 結依とそうやって過ごすことは、嫌いじゃない。腹の立つことも多いけど、それでもまあ、悪くないか、と思うのだ。だから、結依と関わらない日常なんて、考えられない。そんな世界は、きっと、つまらない。


 おかしい。声がかすれてきた。視界がにじんできた。何故だ。 


「悠・・・」


 結依の声が震えている。泣きそうになっている。


「嫌がらせがなんだっていうんだ。俺が誰としゃべるかは、俺が決める。・・・それとも、俺としゃべるのは嫌か?」


「そんなことない!」


 結依はぶんぶんと首を振って否定してくれた。よかった。嫌と言われたら、本気でへこむところだった。


「私だって・・・その・・・。あの・・・。悠としゃべるのは・・・。ケンカもするけど・・・。暇つぶしになるし・・・。べつに・・・いやじゃない」


 なんだかんだ結依と一緒にいると、退屈しない。まあ、幼なじみだからな。今更疎遠になるっていうのもな。


「そうか・・・。ありがとう・・・」


「うん・・・」


 結依に心配かけないよう、強くならないとな。そう思った。


 沈黙。お互いの顔を見れない。時計の針のチクタクという音だけが医務室に響く。

 ・・・なんだか恥ずかしい。話題を変えよう。


「そういえば俺、模擬戦の途中から記憶がないんだけどさ。あの後どうなったんだ?」


 確か前田に頭を殴られたはずだ。それ以降、覚えていない。そこで気絶したんだろう。だから俺はどういう経緯で医務室に運ばれたのか分からない。


「・・・別に、たいしたことはないわ。あのあと、すぐに負けが宣告されて、模擬戦は終わりよ。後は、村上くんがあなたをかかえて、ここまで運んでくれたの。あとでお礼を言っておきなさいよ」


「ああ・・・。そうだな・・・」


 そうか。結局負けたか。まあそれは当然だからいいんだけど。でも、あれだけ頑なに負けを認めなかったライオスが、突然負けを宣告したのか?まあ結依が言うからそうなんだろうけど。


「あ、悠・・・?話は変わるんだけど・・・」


「な、なんだ・・・?」


 結依はなぜか言いにくそうに言葉を紡いでいる。そんな態度をされると、俺まで怖くなってくる。なんだ?後遺症の類いはないってミルさんは言ってたが。それ以外でまずいことでもあったのか?


「ライオス教官が、あんな弱い奴に訓練所を使われるのも迷惑だ、と言ってね。カーン公爵も同意したから、二度と訓練所を使うことはできないわ」


「な・・・」


 訓練所が使えない?じゃあ、どうすれば良いんだ?俺は強くなって、魔王を倒して、日本に帰らなきゃいけないのに。心配かけないよう、強くなりたいのに。・・・一緒に強くなるって約束したのに。


「私もカチンときて、こっちから願い下げです、って言っちゃった。だから、私たち、もう訓練所は使えないわ」


「え、お前も?」


 落ちこんでいると、衝撃のひと言。結依も訓練所を出禁になったらしい。え?お前何やってんの?で、なんで当然よ、って顔してるの?


「そうよ。ただ、ロッシュさんが王城の外で訓練してくれるらしいから、それでいいんじゃない?」


「そうか・・・」


 よかった。ロッシュさんが訓練をしてくるんだ。じゃあ、単に場所が変わるだけか。ロッシュさんには迷惑をかけるけど、有難い。

 なんだか結依がむっとしているのが気になるけど。


「なあ、俺って訓練所を追い出されるだけか?城からも出て行かなくちゃいかなのか?」


 ふと頭をよぎった疑問。弱すぎて訓練所を使わせないなら、もういっそ追い出した方がいいのでは、とならなかったのか。むしろ、この国の貴族ならそこまでするのが自然な気がしてきた。だってただの穀潰しになるわけだし。俺は追い出されるのか?テンプレのように。そうなったらどうしよう。


「いえ。城を追い出されはしなかったわ。ライオスや前田はそうしたかったみたいだけど、大友先生や、それから執事の人がカーン公爵に訴えてくれたわ。それで、カーン公爵も追い出すまではしなかったそうよ」


「ほっ。よかった・・・」


 執事の人、はオットーさんだろうか。後でお礼を言わないと。彼らのおかげでなんとか衣食住だけはまだ確保できた。命の恩人だ。だが、まずいな・・・。ライオス達はそうしたがっていたのか・・・。これは追い出されるのは時間の問題か・・・?


「でも、正直・・・。私・・・、もうこの城にいたくないわ・・・」


「え・・・?」


 沈んだ声で結依が言った。どういうことだよ、と聞こうと思ったその時、


「おお。ユウ。起きたのか!」


 なんと、ちょうどロッシュさんが医務室に入ってきたようだ。俺のベッドのそばまで来ると、うれしそうににっこり笑ってくれた。

 その笑みがうれしくて、あたたかくて、思わず泣きそうになってしまう。


「はい。心配かけました」


「なんの。おぬしはなにも悪くないわい」


 微笑みながら、椅子に座るロッシュさん。


「昨日はすまんかったの。ライオスに来るなと命令されて、見に行けんかった。わしがいれば、こんなことにならんかったのに」


「いえ・・・。ロッシュさんのせいでは・・・」


「そこでじゃ、ユウ」


 ぽんと手を叩いて、ロッシュさんが真剣な顔で言った。


「なんですか?」


「おぬしとユイ。わしの家に来るか?」


「え・・・?」


 それは、驚きの提案だった。




☆☆☆




「ううん・・・」


 悠のうめき声が聞こえた。ぱっと顔をのぞき込む、うっすら目が開いた。目が覚めた!


「悠っ!」


「ゆ・・・い・・・?」


 もにょもにょと悠が声を発した。よかったぁ。


「いてて・・・」


 悠が身体を起こそうとするが、身体が痛むようだ。諦めて、ベッドに横になる。


「おや、目が覚めたかい?」


「ミルさん・・・?」


 声で気づいたようだ。この部屋の主、ミルさんが様子を見に来た。


「ここは・・・医務室ですか・・?」


 悠の言葉に、ミルさんはああ、と頷いた。

 悠が転んで腕を怪我したとき、連れてこられた近衛隊平民組の詰め所にある医務室。医務室のあてがここしかなかったので、悠をここに運び込ませてもらった。突然駆け込んだにも関わらず、嫌な顔ひとつせず治療してくれたミルさんには感謝してもしきれない。


「昨日、そこの嬢ちゃんたちがあんたを運んできたんだよ」


「そうですか・・・昨日?」


「ああ。あんた、丸一日寝たっきりだったんだよ」


「えっ・・・」


 悠が驚いたように目を見開いた。私も、まさか悠がこんなに眠り込むなんて思わなかった。よっぽど重傷だったのだろう。そう思うと、ぎゅっと胸が締め付けられる。だって、前田が悠を敵視するのって、元はといえば私が原因だから・・・。


「幸い、あと二日も寝てりゃ治るだろう。後遺症もない」


「そうですか・・・。よかったです・・・。ありがとうございます」


 悠のお礼に、ミルさんは、気にするな、とばかりに手をひらひらを振った。


「礼ならそこの嬢ちゃんたちに言っときな。すごい剣幕であんたを運んできてたんだから」


 へ!?何故そこで私に振るの!?ミルさん!?


「べ、別に私は普通よ。村上くんたちは慌ててたかもしれないけど!」


「何言ってんだい。あんたが一番・・・」


「ミルさん!」


 そんなことない!!私が一番慌ててたなんて、そんなことはない!!ないったらない!!


「昨日だって、嬢ちゃんはあんたのそばをてこでも動かなくてね。泊まってったんだよ」


「~~っ!!ミルさん!!1」


 もうっ!!別に言わなくていいじゃない!ほら、悠が目をぱちくりさせてるし!


「おっと。はいはい。おばさんは黙っとくよ。ああ、私は用事があるから、ちょっと出てくるよ。すぐ戻る」


 そう言って、ミルさんは医務室を出て行った。後に残ったのは、私と悠。

 きまずい。


「あ・・・、結依?」


「・・・なに?」


「ありがとう。運んでくれて。看病してくれて」


「べ、べつに。私は医務室の案内をしただけだから」


「それでも、ありがとう」


 別に・・・。だって、元はといえば私が・・・。


「私がいたから、前田は悠を敵視したようなものだもの・・・」


 そう。どう考えても元凶は私。悠はとばっちりを受けただけだ。


「結依」


「ごめんね・・・。普段私とは喧嘩ばっかなのに・・・。迷惑ばっかりかけられて・・・。暴力を振るわれたのだって、今日が初めてじゃない。これからもあるかもしれない」


 口で何か言われるのとは違う。もちろんそれもつらいが、今回は暴力だ。命にかかわる。こんなぼろぼろの悠を見ると、胸が締め付けられる。


「結依」


「やっぱり、私といても良いことなんてないわ・・・。私、もう金輪際悠と関わらなーー」


「結依!」


 悠の強い口調に、驚いて思わず口を閉じた。続きが言えなかった。言わせてくれなかった。

 思わず悠の顔を見ると、瞳が強く輝いていた。


「確かに、お前に惚れた男が、俺に突っかかってきたことも一度や二度じゃない」


「やっぱり・・・」


 それは、きっと私が思っているより多い。悠がボロボロになって帰ってきたことも一度や二度じゃない。訳を聞いてもなにも言わなかったのは、そういうことだろう。


「お前とは喧嘩ばっかりだ。些細なマウントの取り合いでケンカしたり、ゲームの勝ち負けでケンカしたり、野球の勝敗でケンカしたり・・・」


「うん・・・私といても、おもしろくないでしょ・・・?」


 ひどいな・・・、私。ケンカばっかり。そんな女と、仲良くしたい人なんていないに決まってる。


「聞けって。ケンカばかりだけど。でも、退屈はしないからな。だから、まあ、金輪際関わらないとか・・・。そんこと・・・・言うな・・・」


 泣きそうな声で、悠が言った。

 その言葉は、ぐっと胸の奥まで入っていった。


「悠・・・」


 でも、私もおかしい。なぜか目頭が熱くなってきた。どうしたの?私。


「嫌がらせがなんだっていうんだ。俺が誰としゃべるかは、俺が決める。・・・それとも、俺としゃべるのは嫌か?」


「そんなことない!」


 ぶんぶんと首を振って否定する。私も。・・・同じこと・・・。思ってたから。


「私だって・・・その・・・。あの・・・。悠としゃべるのは・・・。ケンカもするけど・・・。暇つぶしになるし・・・。べつに・・・いやじゃない」


 テストで良い点をとって勝ち誇ると、悔しそうに負け惜しみを言ってくるのも。お返しのように、ゲームでマウントを取ろうとして、返り討ちにあって泣きそうになってるのも。たまにチーターズが勝って盛大に煽ってくるのも。そんな悠が・・・。嫌いじゃない。


「そうか・・・。ありがとう・・・」


「うん・・・」


 よかったぁ。自分から言い出したことだけど、もう関わらないって悠に言われたら、たぶんショックを受けていたと思う。ま、まぁ。幼なじみだから、今更離れるのも違和感があるって言うか。となりでキャンキャン騒ぐ馬鹿が、いないならいないで寂しいから

 しばらく、二人ともしゃべらなかった。何をしゃべっていいか分からなかった。どうしよう。悠の顔が見れない。恥ずかしい。


「そういえば俺、模擬戦の途中から記憶がないんだけどさ。あの後どうなったんだ?」


 悠も同じを思ったのか。話題を変えてくれた。ほっとして、しかし、本当のことは言いたくない、とあらかじめ考えていた言い訳を口にする。


「・・・別に、たいしたことはないわ。あのあと、すぐに負けが宣告されて、模擬戦は終わりよ。後は、村上くんがあなたをかかえて、ここまで運んでくれたの。あとでお礼を言っておきなさいよ」


「ああ・・・。そうだな・・・」


 本当は、私が割って入った。ライオスは負けの宣告なんてしていない。でも、あのまま止めなければ、悠は死んでたかもしれない。割って入らない方がおかしい。

 ・・・そう正直に言うのは恥ずかしいので、嘘をついた。言ったら、絶対いじられる。それは断固として避けなければならない。それに、恥ずかしい。

 無理があったか・・・?ライオスが負けを宣告するはずがない、って思われたか?まずい。話題を変えてしまおう。


「あ、悠・・・?話は変わるんだけど・・・」


「な、なんだ・・・?」


 どうしよう。、別の話題・・・。ああ。あのことを言わなきゃ。でも、楽しい話題ではない。これはこれで、いいづらいなぁ・・・。


「ライオス教官が、あんな弱い奴に訓練所を使われるのも迷惑だ、と言ってね。カーン公爵も同意したから、二度と訓練所を使うことはできないわ」


「な・・・」


 目を見開いて驚く悠。そのあと、悲しそうになった。そんなに訓練したかったのか。まあ、日本に帰るには魔王を倒さなきゃいけないし。


「私もカチンときて、こっちから願い下げです、って言っちゃった。だから、私たち、もう訓練所は使えないわ」


 本当は、模擬戦で無様をさらした無能と、割って入った無礼者は、訓練所に入る資格はないって言われたんだけど。でも、ライオス達と同じ空間にいたくなかったから、問題ない。それに、


「え、お前も?」


 一緒に強くなろうって約束したから。逆に、なぜ驚くの?約束、忘れたの?ちょっとむっとした。


「そうよ。ただ、ロッシュさんが王城の外で訓練してくれるらしいから、それでいいんじゃない?」


「そうか・・・」


 ロッシュさんも賛成してくれたし。そうしない理由がない。


「なあ、俺って訓練所を追い出されるだけか?城からも出て行かなくちゃいかなのか?」


 そういえば、やけに悠って追放されることを気にするわね。アニメの定番だからと言って。まあ、この国の連中からしたら、私たちを養うにもお金がかかるから、コストダウンの意味で追い出される可能性はあることは理解できる。特に、養うことにメリットを感じない、弱い存在に対しては。


「いえ。城を追い出されはしなかったわ。ライオスや前田はそうしたかったみたいだけど、大友先生や、それから執事の人がカーン公爵に訴えてくれたわ。それで、カーン公爵も追い出すまではしなかったそうよ」


「ほっ。よかった・・・」


 ここで私たちを追い出したことに対する、士気の低下。次は私たちの番では?という恐れ。そういったデメリットも考慮しての判断でしょうけど。


「でも、正直・・・。私・・・、もうこの城にいたくないわ・・・」


「え・・・?」


 カーン公爵にも、ライオスにも、会いたくない。そして何より、前田。あいつに会いたくない。一緒の空間にいたくない。そう硫黄と思ったその時、


「おお。ユウ。起きたのか!」


 ちょうどロッシュさんが医務室に入ってきたようだ。悠のベッドのそばまで来ると、うれしそうににっこり笑った。


「はい。心配かけました」


「なんの。おぬしはなにも悪くないわい」


 微笑みながら、私の隣の椅子に座るロッシュさん。


「昨日はすまんかったの。ライオスに来るなと命令されて、見に行けんかった。わしがいれば、こんなことにならんかったのに」


「いえ・・・。ロッシュさんのせいでは・・・」


 ライオスがそう命令したのも、大方、自分の邪魔をされるのが嫌だったのだろう。模擬戦を強制的に止められるのが嫌だったのだろう。

 で、模擬戦後に悠がここ、近衛隊平民組の医務室に運ばれてきた後、元部下の近衛兵達がロッシュさんを呼びに行った。さすがにもういいだろう、と。

 昨日、ことの顛末を聞いたロッシュさんは、びっくり、というより怒っていた。こんなの、模擬戦でも何でもないって。


「そこでじゃ、ユウ」


「なんですか?」


 ぽんと手を叩いて、ロッシュさんが言う。


「おぬしとユイ。わしの家に来るか?」


 冗談にしてはあまりにも真剣に。昨日改めて言ってくれたことを。


「え・・・?」


 悠は目を丸くして驚いた。

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