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14話 甘い誘い

「ふい~。疲れた・・・」


「お帰りなさいませ。タカシマ様」


 訓練初日を終えて部屋に戻ると、オットーさんが出迎えてくれた。ただいま返りました、と言いながらベッドにダイブ。午前中のランニングと午後の筋トレで身体はヘトヘトだ。


「お疲れのようですね」


「はい・・・。ああ、オットーさん。やはり貴族のライオス教官に無能はいらんとのけ者にされました」


「なんと・・・。まさか本当にそうなるとは。異世界から来ていただいた方にそんなご無礼な仕打ち・・・。同じ国民の代表として謝罪いたします」


 そう言ってオットーさんは律儀に頭を下げた。


「いえ。オットーさんが謝ることじゃないですから。でもロッシュさんという方が僕たちを指導してくれました。オットーさんが言ったとおり、近衛隊平民組の方でした」


「さようですか。ロッシュさんというのは、もしや元近衛隊平民組組長のロッシュ=ベイルさんですか?」


「はい。ご存知ですか?」


「もちろんです。彼は元は地方の一兵卒ですが、己の腕一本でのしあがり、とうとう近衛隊平民組組長まで上り詰めた猛者です。陛下の信任厚い立派な騎士でした。残念ながら5年前に引退されましたが、今も彼を慕う部下の方は多いですよ」


 ほえ~。ロッシュさんってすごい人だったんだ。指導してもらえるのは、ある意味ラッキーかもしれない。訓練はきついけど。


「ところでタカシマ様。明日は安息日でございます」


 少しトーンを変え、オットーさんがそう切り出した。

 ああ。そういえばロッシュさんも言ってたな。明日は安息日だから訓練はなしだと。日本で言う日曜日みたいなものか。この世界は6日で一週間だから、5日働いて一日休む。この安息日はどんな仕事でも基本は休むのだそう。


「救世主の皆様は、今回は王城の外へ外出の許可は下りませんでした。この世界にまだ慣れていないだろうからというのが理由です」


「そうですか」


 せっかくの異世界なので、町並みを見学したかった気持ちもある。だがまあ別の機会でもいいや。どうせ疲れ切って寝ているだろうし。

 だが、オットーさんの話はそれで終わりではなかったらしい。少し声を潜めて話し出した。


「しかし、男性の皆様は、王都のある場所へ行く場合に限り、外出が認められました」


「はあ。どこですか」


 男性だけ・・・?そんなことがあるのだろうか。疲労でぼんやりする頭でそんなことを思った。


「娼館です」


「し、しょうかん・・・?娼館?娼館って、あの?」 


 思わぬ単語に、始めはなんのことか分からなかった。意味がつながって、ガバッと顔を上げつつ聞いた。まさか、と思いながら。


「はい。女性が男性をおもてなしする、あの娼館です」


 間違っていなかった。現代日本風に言うと、風俗だろうか。そこへの外出ならOKと。・・・そうですか。


「ストレス発散のため、娼館への外出のみ認めるという通達が来ております。今夜から明日にかけての外泊です。タカシマ様。いかがなさいますか?」


 オットーさんの問いかけに、俺は、


「・・・行かないです」


「・・・よろしいので?」


「・・・はい」


 決して迷ってはいない。残念がってもいない。別に誰か特定の人の顔が思い浮かんだとか、そういうことではない。ないったらない。


「かしこまりました。王城内でしたら、自由に散策して結構ですので、明日はごゆっくりお過ごし下さい。では失礼します」


 そう言って一礼してから、オットーさんは部屋を出て行った。気持ち笑っていたような気がした。

 ・・・しかし、娼館か。クラスの男子で、誰が行くんだろ。村上は行かないだろうな。ああ見えて真面目だし。柴田さんに顔向けできないだろう。もし行ってたら俺がぶん殴る。前田達は行くだろうな。行くというか、断る姿が想像できない。調子に乗ってノリで行きそう。

 ・・・この話が女子に広まったら軽蔑されそう。俺は別に行ってないけど。結依になんて言われるだろうか。


「はぁ・・・。・・・もう寝よ」


 疲れた。体力的にも、最後精神的にも疲れた。



「おはよう」

 

 翌日。俺が一階の食堂に降りると、いつもの席に三人が座っていた。村上もいる。やっぱり。行ってなかった。よかった。見直したぜ。しかし、周りを見渡すと、男子の数がいつもの半分ほどしかいなかった。案の定、前田達もいない。まあ、そういうことなんだろう。

バイキングでさっと料理を取って、座る。思わず、村上の方を見る。目が合う。信念を持った者の目。お前も行かなかったか、お前こそ。・・・通じ合うものがあった。


「ねえ。なんか男子の数が少なくない?」


 結依のその言葉に、とっさに村上と目を合わせてしまった。ごまかそう。そう一致した。


「さ、さあ。まだ寝てるんじゃないか?今日は訓練休みだし」


「そうそう。慣れない環境で疲れがたまってるんだよ」


「ふ~ん。まあいいけど。でも女子は割といつも通りなのよね」


「そ、そんなことよりさ、今日は王城を探検してみようぜ。な、高島?」


「お、おお。いいねえ」


「ちょっと。二人とも。どうしたの?」


「「え、何が?」」


「何か隠してることでもあるの?」


「そ、そんなわけないだろ」


「ふーん」


 じとーとした結依の目が怖い。しかし、俺はなにもやましいことはしていない。堂々とするんだ。


「でも、私も王城を探検してみたいです」


「・・・ふぅ。まあ良いわ。行きましょうか」


 柴田さんのおかげで、流れは止まった。俺たちは事なきを得た。・・・俺たち何も悪いことしてないのに、何故こんなことしてるんだろ、と思わないではなかったが。


 王城探検は、平和に終わった。第一、第二訓練所、花畑などをぐるっと見学し、特筆すべきこともなかった。あ、あれだな。大友先生と水野が二人で散歩してたことぐらいだな。うん。めでたしめでたし。



 余談だが、後日。どこから広まったか、一部の男子が娼館へ行っていたことが女子に知れ渡った。これだから男って・・・と男子全体がしばらくの間冷めた目で見られるようになってしまった。当然、大友先生はお冠。長々と男子全員が説教された。俺は行ってないのに・・・


「悠は行ってないわよね?」


「も、もちろん。誓って行ってない」


「そ。よかった。行ってたらもいでたわ」


「・・・ナニヲ?」


 ・・・やっぱり、行かなくてよかったです。

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