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13話 ロッシュさんとの初訓練

「はいはい。訓練を始めようとするか。心配せんでも、わしは実力で近衛兵平民組組長まで上り詰めた男じゃ。ビシバシ行くぞ」


 一転、キリッとした顔で言うロッシュさんに、俺たちも真面目な顔をして頭を下げた。


「「はい。おねがいします」」


「・・・と言っても、わしは魔法のことはなんも分からんのじゃが」


「「え!?」」


 ロッシュさんの思わぬひと言に、俺たちはぱっと顔を上げた。


「じゃあ私の指導はどうなるのですか?私、4つの項目の中で魔力量が一番高かったんですけど」


 結依の質問に、ロッシュさんは心配するなとばかりに手を振った。


「まずおぬしら二人ともステータスを上げてもらう。やはりある程度高くないと話にならんからの。その後、ユウにはわしが剣術を、ユイにはわしの妻が魔法を教えよう」


「ロッシュさんの奥さんですか?」


 俺が聞くと、そうじゃ、と頷いた。


「何を隠そう、わしの妻も元近衛隊平民組の一員じゃからの。ま、その話はおいおいしていこう。まずはおぬしらの訓練じゃ」


「「よろしくお願いします」」


 いよいよ訓練だ。どんなことするんだろ。ちらっと真ん中で訓練しているライオスたち剣士組の方を見ると、全員に木刀らしきものが手渡されているのが見えた。剣なんて、体育の剣道以来か。剣道は先生に筋が良いと褒められたことがあるからな。楽しみだ。


「うむ。ではまずこの訓練所を、走れ。わしがいいと言うまでの」


「え?」


 ロッシュさんのひと言に、思わず驚きの声が漏れ、フリーズしてしまった。

 この訓練所を走れ・・・?思ってたトレーニングと違う。もっとこう・・・。剣を振るじゃないけど、ファンタジー的なことしないの・・・?

 俺の驚きとも不満ともつかない疑問が顔に出ていたのか、ロッシュさんが俺に言った。


「なんじゃ、ユウ。文句があるのか?」


「走るんですか?」


 俺が問うと、無情にもロッシュさんは首を縦に振った。


「うむ。そうじゃ。体力の項目を上げるには走るのが最もよい。今後は筋力トレーニングやダッシュで筋力や敏捷も鍛えていくが。まずは走るのじゃ」


「あの・・・。あっちみたいに剣を振るのは・・・?」


「よそはよそ、うちはうちじゃ。まずステータスを上げると言ったじゃろう。ああ、ユウ。おぬしはこのおもりを両手に持って走れ。一つ5キロのおもりじゃ」


 そう言ってロッシュさんは足下のバッグからごそごそと何かを取り出した。長さ15センチほどの金属製の棒で、両端におもりがついている。完全に小さめのダンベルだ。


「これを持って走るんですか?・・・重っ」


 手渡されたものを受け取ると、両手にずっしりとした重み。普通に重い。で、わしがいいと言うまで走れ・・・?持ったまま?きつ・・・。


「なんで俺だけ・・・」


「おぬしは剣士じゃろ。ほれ、文句言っとらんで、早く行ってこい」


「はーい・・・」


 少々気勢がそがれつつ、結依と一緒に走り出した。


 走る。走る。


「はっ。はっ」


 ライオス達を横目に見ながら、走る。走る。


「はっ。はっ」


 走る。走る。何やってんだあいつら、と笑われている気がする。


「はっ。はっ」


 無心で走る。一周目が終わった。今のところ結依と並んで走れている。


「はぁ。はぁ」


 ・・・走る。走る。ちょっときつくなってきた。


「はぁっ。はぁっ」


 ・・・走る。・・・走る。ロッシュさん。休憩まだですか?あ、結依に抜かれた。そんな得意そうな顔をするな。俺ダンベル持ってるから。


「・・・はぁっ。・・・はぁっ」


 きつい。手が上がらない。もう何も考えられない。何周目?走るという意識はもうない。足が勝手に動いている。


「・・・ぁっ。・・・はぁっ」


 半周先にいる結依が休憩してる。いいなぁ。


「よおーし。ユウ。おぬしもいったん休憩じゃ」


 聞いた途端、崩れ落ちるように地面に倒れた。きつい。もう無理だ。


「はぁっ。ひぃっ」


 荒い息しか出ない。肺が焼けるように熱い。腕がぷるぷるする。ダンベル持って走るなんて正気の沙汰じゃない。


「はぁっ・・・。悠・・・。まだまだね・・・」


 結依が煽ってきた。


「はぁっ・・・。俺は・・・ダンベル・・・持ってるから・・・」


 息も絶え絶えで返事をするのもつらい。でも言われっぱなしも癪に障る。


「お前も・・・持って走ってみろよ・・・」


「いや・・・それは・・・遠慮するわ・・・」


「よーし。10分休憩したら再開じゃ」


「「げぇ」」


 二人そろって変な声が出た。ちょっと初日からきつすぎる気がする。




「よおーし。そこまでじゃ。昼食を食べてこい」


 結局。走る、休憩、走る、休憩、走る、休憩と繰り返した後、ようやく解放された。ちょっと前にライオス達も訓練所を出て行き、今は俺たち三人だけになってしまった。


「ひぃぃっ。ひぃっっっ。もうむり・・・」


「はぁっ。はぁっ。ありがとう・・・ございました・・・」


「昼からは筋力トレーニングを行う。一時間後、ここに戻ってくるんじゃぞ」


「ふえぇ」


「はい・・・」

 

 ロッシュさんは俺たちの返事を聞くとさっさとどこかへ行ってしまった。いや、俺たちを放って行くんかい。


「ゆう・・・。たてる・・・?」


「むり・・・」


 起き上がれない。体力を酷使しすぎた。肺が痛い。力が入らない。


「じゅっぷんまって」


 地面に倒れたまま、そうつぶやく。返事はなかった。結依も疲れ果てているのだろう。

 

 どれくらい走っただろう。朝ご飯を食べてから、昼ご飯まで。休憩を入れながらだが、2~3時間は走っていたと思う。それもダンベルを持って、だ。帰宅部の俺にはきつすぎる。馬鹿みたいな訓練だ。なんで俺がこんなこと・・・。

 いや、今更言っても仕方ないか。強くなるにはこうするしかないんだ。このつらい訓練もいつかは報われる。そう思わなきゃやってられない。・・・初日でここまで追い込まれて、これから先大丈夫だろうか。


「悠・・・。食堂へ行くわよ・・・」


「へい・・・」


 なんとか気合いを入れて身体を起こし、食堂へ向かって歩き出した。



 食堂に入ると、いつもの席に村上と柴田さんが座っていた。今日もバイキング形式のようなので、適当にスープとパンを取って席に着く。今回は俺も結依もいたずらする元気もなかった。


「高島。大丈夫か?」


 グロッキーな俺と結依の様子を見て、村上が心配そうに聞いてきた。


「大丈夫・・・じゃない・・・」


「お、おお・・・。そうか・・・」


 体力がごっそりなくなって、カスカスの声しか出ない。その様子に村上もちょっと引いている。


「横目で見てたんだが、二人はずっと走ってたな」


「ああ・・・。ほんとにずっと走ってたぞ。へとへとだ」


「ま、お疲れさん。俺たちはライオス教官の自慢話を聞いてただけだからな。体力的には疲れてないが、精神的に疲れたな」


「あれ・・・?お前ら、木刀を振ってなかったっけ?」


「ああ。ちょっとだけな。でもほとんどライオス教官がしゃべってただけだったぜ。やれ剣術は魔法より優れているだの。我が剣術のなんとか流派は伝統があるだの。お前たちは筋が悪いだの・・・。俺たちからしたら知らねえよ、って話ばっかだったな」


「そうか。それはそれで嫌だな・・・」


 ため息を吐きながら話す村上を見て、少し気の毒になった。人の長話を聞くのって、かなり退屈だしな。さしずめ、終わらない校長先生の話ってとこか。俺たちとは違う方向で大変だったのだろう。


「柴田さん・・・。魔法はどうだった?」


 結依が柴田さんに聞いた。ゲイル達魔法組は第二訓練所という別の場所へ移動していったので、俺たちはどんなことが行われていたのか分からないのだ。


「私のところも似たようなものでしたよ」


 そう言う柴田さんも元気がなかった。


「ゲイル教官は剣士組のライオス教官に対抗意識があるようで・・・、剣士に負けるなというようなことを長々演説されました」

 

 思い出したくもないのか、柴田さんは苦々しい顔をしている。よほど退屈だったのだろう。


「うわあ」


 思わず口から変な声が出てしまった。ライオスもゲイルも、教える気があるのだろうか。しょうもない長話を延々と。ロッシュさんの訓練はきつかったが、少なくとも身にはなるという点ではよかったと思えてしまう。


「じゃあ魔法についてもなにも教わらなかったのね?」


「はい。私も魔法は少し興味があったんですけど・・・」


「よお高島。お前、教官に訓練を断られるなんてな!雑魚にも程があるぜ」


 とそこへ、あの嫌らしい声が聞こえてきた。前田達三人組。性懲りもなく絡んできやがった。


「そうそう。始まる前に脱落するなんてな!賭けが成立しねえじゃねえか」


「おまけに訳分からん老人に走らされるなんて!雑魚は剣すら握らせてもらえねえってか」


 馬鹿にしたように言って、俺を見下す。何がおもしろいのか、ゲラゲラ笑っている。お前たちも特に何も訓練してないだろうに、なにをそんなに偉そうに言っているんだ。

 またこいつらの悪口に耐えないといけないのか・・・。と思っていると、大友先生がやってきた。


「ちょっと、あなたたち!何度言えば分かるの!」


「あ?また大友かよ。うっせーな」


「いこーぜ」


「こら!待ちなさい!」


 大友先生のおかげで、前田達がしらけてどこかへ行ってしまった。

 ふぅ。助かった。


「まったく。前田も懲りないわね」


 結依のつぶやきに、俺たち三人は頷いた。あいつらも、俺のことが嫌いならいっそ関わらなければ良いのに・・・。


「ま、午後も頑張ろうぜ」


「お互いな」


 そう言いつつ、昼食を口に入れ続けるのだった。

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