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12話 プチ追放とロッシュさん

「諸君らの指導を賜った近衛隊剣士組組長、ライオス=ジャン=ミード=ビルクである。私のことはライオス教官と呼ぶように」


「同じく諸君らを指導する近衛隊魔法組組長、ゲイル=ジャン=ミード=グレッグである。私のことはゲイル教官と呼びたまえ」


 朝食後、俺たちは王城の一施設、第一訓練所というところにやってきた。だだっ広い開放的な建物。例えるならローマのコロッセオ、あるいは野球場だろうか。校庭の2~3倍はあろうかという広いグラウンドを観客席が取り囲むような構造。

 そして、ライオスとゲイルの二人の教官。ライオスの方がガタイがよく、ゲイルの方は細身。といってもライオスは筋肉質と言うより脂肪で膨れているような感じがするし、ゲイルの方はガリガリと形容した方がいいような細さに見えた。


「お手柔らかにお願いいたします」


 代表して大友先生が応じる。それに対して二人の騎士はうむ、と鷹揚に頷いた。


「各々の適性に応じて私かゲイルが指導する。ステータスの4つの値のうち、魔力量が最も多かった者についてはゲイルが魔法を、そうでないものは私が剣術を教える」


「魔法はここではなく、第二訓練所へ移動して指導する」


 ステータスの項目は筋力、体力、敏捷、魔力量だった。俺は筋力17、体力17、敏捷26、魔力12だった。つまり、俺はライオスから剣術を教わることなる。生徒達からは、魔法を学びたかった、だの、剣術もかっこよさそう、だのという声が聞こえる。俺もせっかくならば魔法を学びたかった、という思いはある。

 と、ライオスがにやっと笑った。ただし、目の奥は笑っていない。あれは人を馬鹿にするとき特有の笑みだ。


「そうそう。なんでもこの中にステータスが異様に低い者がいたとか」


 嫌らしい表情で放たれた言葉に、生徒達の視線が俺と結依に向いた。中でも前田達3人はライオスと同じ表情をしながら俺を見た。


「ふむ。貴様らか」


 人垣をかき分けてライオスが俺たちの方へ歩み寄ってくる。その顔には相変わらず人を見下したような笑み。それから、嫌悪の色も。


「貴様らは私が指導するに値しない。個別訓練だ。あそこにいるロッシュに指導を受けるがよい」


 そう言って、ライオスはくいっと顎をしゃくった。振り返ってみると、壁際に一人の老人が立っていた。あの人がロッシュという人らしい。もっとも、遠目なのでその為人までは分からない。


「待って下さい!彼らも私たちと一緒にできませんか!?」


 大友先生が俺たちをかばうように叫んだ。俺たちが冷遇されている、あるいは嫌がらせをされていると思ったのだろう。実際、俺もそう感じた。というか、ライオスの顔を見れば誰だってそう思うだろう。


「能力が低い者と一緒に訓練しても、お互い不幸になるだけ。我々は高いレベルで訓練できないし、低い者は無理して怪我をするかもしれない。それが分からない救世主様ではありますまい?」


 にやっと。嘲るような笑みを浮かべながらライオスが言った。それを受けて大友先生は、しかし・・・、となおも食い下がる。


「彼らだけ仲間はずれというのは・・・」


「いいじゃねえか。雑魚は雑魚らしく隅っこでおとなしくしてりゃあよ」


「前田くん!」


「くっく。ま、あのロッシュという奴も、元は近衛隊平民組の組長なのでな。全くの素人ではない。ま、ステータスが低い者と、身分が低い者・・・。ちょうど良い組み合わせだろう」


「ぷっ」


 ニヤニヤしながら言うライオスの言葉に、前田が吹き出した。これも一種の無能追放ムーブだろうか。

 しかし、俺は近衛隊平民組、という言葉を聞いて、むしろうれしくなった。今朝オットーさんが言っていたからだ。困ったら彼らを頼ればいいと。むしろこんな嫌みな奴より、ロッシュという人に指導してもらった方がよっぽどいい。そう思えてきた。


「先生。大丈夫ですよ。僕たちは僕たちでやりますから」


「高島くん・・」


 だから、本心からそう言った。


「私もそれで構いません」


「一条さん・・・」


「では、決まりだな。さっさと行くがいい」


 とはいえ、ライオスの言動に腹が立つのも事実。無言できびすを返し、結依を伴って足早にロッシュと呼ばれる人物のところへ向かった。


「嫌な奴・・・」


 途中、結依がぼそっとつぶやいた。


「そうだな。でもそいつから離れられたんだ。ラッキーと思おうぜ」


 そういう話をしながら、俺たちは俺たちはロッシュという老人の元へ辿り着いた。年のことは60ほどだろうか。刈り上げた白髪に、手入れされた白い口ひげ。顔にはしわも多いが、むしろ目元のしわが優しげな印象を与える。高齢のはずなのに、背筋はピンと伸びて美しい姿勢。腹が出ているわけでもなく、かといって骨が浮き出ているほど痩せているわけでもない。健康的な若々し老人といった感じだ。

 手には木刀を一本携えている。足下には革製のバッグを置いている。


「「こんにちは」」


 恐る恐る挨拶すると、件の老人はふっと笑った。


「ふむ。おぬしらが問題の二人じゃな。ユウ、ユイ、じゃったか。まどろっこしいの。どうしてそんな似通った名前なのじゃ」


 のっけから先制パンチを食らった。俺と結依の名前が似ていることは、幼稚園の頃から散々からかわれてきたネタだ。それで結依と喧嘩になったことも一度や二度じゃない。

 しかし、この人の言い方嫌みという感じではなかった。


「始めまして。私がユイ=イチジョウです。あなたがロッシュさんですね?」


「いかにも。わしがおぬしらを指導することになったロッシュ=ロラン=ミード=ベイルじゃ。気軽にロッシュさんと呼んでくれ」


「ユウ=タカシマです。よろしくお願いします」


「うむ。よろしくの」


 そういって、ロッシュさんは薄く微笑んだ。その笑みは柔和で、俺たちを安心させるような笑みだった。


「さて、おぬしらは特別ステータスが低いということじゃな。ライオスは最近が悪いようでの。隠居のわしを引っ張り出してきたのも、おぬしらに対する嫌がらせじゃろう」


 わしもゆっくりしたかったんじゃが、とため息しながらロッシュさんがつぶやいた。


「なぜ彼はそんなことをするんですか?」


 結依が不満そうに聞いた。


「ふむ・・・。最近手柄をあげられておらんからの。魔王軍と相対するのは地方貴族の軍じゃから、手柄をあげようがないというのもあるが・・・。そこで魔王を直接討伐する勇者に任命してもらおうと思ったところに、おぬしらが召喚されてきたからの。召喚された者は皆ステータスが高いと聞いて諦めたところで、おぬしらの話を聞いて、なぜこんなやつらが・・・、と思ったんじゃろう」


「ええ・・・」


 結依の口から困惑の声が漏れた。俺もドン引きだ、自分が手柄をあげたい、でもできないから弱い者に当たろうって。子供か。


「ま、伯爵家三男のコネ入隊のボンボンなんてそんなもんじゃ。訓練をサボっとるあいつらじゃ、魔王討伐なんて夢のまた夢。むしろあやつらは命拾いしたと思うがの」


 ほっほっほっ、と黒い笑いを漏らすロッシュさんだ。オットーさんもそうだが、貴族に不満抱えすぎじゃない?

 と思っていると、ロッシュさんが真面目な顔になった。


「よいか。この世界に来たからには強くなれ。おぬしらの世界はどうか知らんが、この世界は危険が多い。魔王だけじゃない。一歩街の外に出れば人を襲う魔物がうじゃうじゃいる。盗賊だってひしめいておる。都市間の移動だけでも命懸けなのじゃ。サボるな。手を抜くな。魔王を倒すためだけじゃない。自分と、大切な人を守るためにはの」


 自分と、大切な人を守るため、か。

 ふと、結依と目が合った。結依が俺の方を見ていたからだ。


「何見てんだよ」


「そっちが見てきたんでしょ」


 言い合う俺たちを見て、なぜかロッシュさんが微笑んだ。


「ふふっ。そうか。おぬしら、恋人か?」


「「違います!」」


「いやいや、大切な人と言われて無意識に見つめ合うなんて、恋人だけじゃぞ」


 見つめ合ってはない。向こうが見てきただけだ。俺は結依のことなんて見ていない。

 わーわー言う俺たちを見て、ロッシュさんは苦笑しつつ、手を叩いた。


「はいはい。訓練を始めようとするか。心配せんでも、わしは実力で近衛隊平民組組長まで上り詰めた男じゃ。ビシバシ行くぞ」


 一転、キリッとした顔で言うロッシュさんに、俺たちも真面目な顔をして頭を下げた。


「「はい。おねがいします」」


 これが、ロッシュさんとの初対面だった。




☆☆☆




「ふむ。おぬしらが問題の二人じゃな。ユウ、ユイ、じゃったか。まどろっこしいの。どうしてそんな似通った名前なのじゃ」


 ロッシュさんの第一声はそんなひと言だった。私と悠の名前が似ていることは、幼稚園の頃から散々馬鹿にされてきた。名前を変えろ、そっちこそ、という喧嘩になっったことも何度もある。


「始めまして。私がユイ=イチジョウです。あなたがロッシュさんですね?」


 しかし、嫌みという感じはしない。むしろ先ほどのライオスとかいう男の方がよっぽど嫌みったらしい。このロッシュという人は優しいおじいさんという感じがする。


「いかにも。わしがおぬしらを指導することになったロッシュ=ロラン=ミード=ベイルじゃ。気軽にロッシュさんと呼んでくれ」


「ユウ=タカシマです。よろしくお願いします」


「うむ。よろしくの」


 そう言って、ロッシュさんは薄く微笑んだ。温和な笑みだ。


「さて、おぬしらは特別ステータスが低いということじゃな。ライオスは最近が悪いようでの。隠居のわしを引っ張り出してきたのも、おぬしらに対する嫌がらせじゃろう」


 わしもゆっくりしたかったんじゃが、とため息しながらロッシュさんがつぶやいた。


「なぜ彼はそんなことをするんですか?」


 私は思わずむっとしたのを抑えつつ、ロッシュさんに聞いた。嫌がらせ、と聞いて心中穏やかにはできなかった。


「ふむ・・・。最近手柄をあげられておらんからの。魔王軍と相対するのは地方貴族の軍じゃから、手柄をあげようがないというのもあるが・・・。そこで魔王を直接討伐する勇者に任命してもらおうと思ったところに、おぬしらが召喚されてきたからの。召喚された者は皆ステータスが高いと聞いて諦めたところで、おぬしらの話を聞いて、なぜこんなやつらが・・・、と思ったんじゃろう」


「ええ・・・」


 私の口から困惑の声が漏れた。隣を見れば、悠も首をかしげているのが分かった、自分が手柄をあげられない不満を、自分より能力が劣った者への八つ当たりで解消するなんて・・・。パワハラも良いところだ。


「ま、伯爵家三男のコネ入隊のボンボンなんてそんなもんじゃ。訓練をサボっとるあいつらじゃ、魔王討伐なんて夢のまた夢。むしろあやつらは命拾いしたと思うがの」


 ほっほっほっ、と黒い笑いを漏らすロッシュさんだ。なにか貴族をよく思ってないような感じがする。

 と思っていると、ロッシュさんが真面目な顔になった。


「よいか。この世界に来たからには強くなれ。おぬしらの世界はどうか知らんが、この世界は危険が多い。魔王だけじゃない。一歩街の外に出れば人を襲う魔物がうじゃうじゃいる。盗賊だってひしめいておる。都市間の移動だけでも命懸けなのじゃ。サボるな。手を抜くな。魔王を倒すためだけじゃない。自分と、大切な人を守るためにはの」


 自分と、大切な人を守るため、か。

 ふと、悠と目が合った。悠が私の方を見ていたからだ。


「何見てんだよ」


「そっちが見てきたんでしょ」


 言い合う私たちを見て、なぜかロッシュさんが微笑んだ。


「ふふっ。そうか。おぬしら、恋人か?」


「「違います!」」


「いやいや、大切な人と言われて無意識に見つめ合うなんて、恋人だけじゃぞ」


 見つめ合ってはない。向こうが見てきただけだ。私は悠のことなんて見ていない。

 なおもああだこうだ言いつのる私たちを見て、ロッシュさんは苦笑しながら手を叩いた。


「はいはい。訓練を始めようとするか。心配せんでも、わしは実力で近衛兵平民組組長まで上り詰めた男じゃ。ビシバシ行くぞ」


 一転、キリッとした顔で言うロッシュさんに、私たちは口を閉じて頭を下げた。


「「はい。おねがいします」」


 これが、ロッシュさんとの初対面だった。

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