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125話 ギルド

 さて。ハイネンに帰って、ユアンを衛兵に引き渡し、事情を説明した。その後の処理は衛兵が行ってくれ、俺たちは2~3日ゆっくりと旅の疲れを癒やした。リルたちと戯れたり、潮風亭の娘、ルビィちゃんと遊んだり。エフリリア村のこと、ユアンのこと、結依のこと・・・。色々と考えるべきことはあったが、それらから目をそらすようにのんびりと過ごした。


 そうこうしていると、冒険者ギルドからビング盗賊団の報奨金が出るということで、呼び出しがかかった。

 ギルドへ行くと、リーンさんに支部長の下へと通された。相変わらず優しげな雰囲気だ。お久しぶりです、とコイルさんに挨拶する。


「お手柄ですよ、タカさん。イチカさん。ビング盗賊団はハイネンと王都の間で活動する盗賊で、領主も長年悩んでいましたから。お二人の名前も有名になるかもしれませんね」


「そうですか?まあ実際に盗賊を討伐したのはこの子たちですけど」


 そうやって俺がペットたちの方を向くと、膝上のコハクが自慢げに鳴いた。


「きゅい!」


「くぅ」


「ぴ」


 リルとエンは控えめに。それを見たリーンさんはくすりと微笑みながら掌サイズの袋を手渡してくれた。


「ふふっ。それで、こちらがビング盗賊団討伐の報奨金です」


「ありがとうございます」


 リーンさんに渡されたのは金貨が入った袋。どうもビング盗賊団は20万ゴルで討伐依頼が出ていたようだ。依頼を受注していたわけでは無いが、結果的に俺たちが討伐したので俺たちがこの20万ゴルをもらうことになったのだ。


 ただ、俺は金貨よりもユアンが気になる。動機は、罪は・・・。


「それで、ユアンはどうなったんですか?」


 俺が聞くと、コイルさんは笑顔から一転、真面目な顔になって答えてくれた。


「彼が盗賊に味方し、あなた方から財産を奪ったり、危害を加えようとしたなら、死刑は免れないでしょう。実際、衛兵もそのような手はずで動いていると聞いています」


 死刑・・・。驚きはしなかった。

 ただ、結依は目を見開いていた。


「そんな・・・」


「彼は家族を人質に取られていた、と供述していますが・・・。それでも・・・」


 盗賊の手先となったのだ。死刑はやむを得ない、と。コイルさんは言外ににおわせた。


「・・・家族は無事なんですか」


「はい。彼の家族はハイネンで元気に暮らしています。そもそも盗賊と接触した痕跡もありません。人質に取ったというのは盗賊の嘘だったようです。ユアンはそれを信じたみたいですね。もしくは盗賊に脅されたということ自体が真っ赤な嘘、という可能性もありますが」


「「・・・」」


 よくよく思い出してみれば、結依を人質にとったときのユアンはなにか口走っていたような気もする。家族がーー、と。あのときは必死だったから気にも留めていなかったけど・・・。

 だとすると、ユアンは本当に家族を人質に取られたと思ってあんなことを・・・。そう考えると同情の余地はあるが・・・。しかし、それで許せるか、と言われれば話は別だ。一歩間違えば結依が殺されていたかもしれないんだ。

 ところが。


「コイルさん。彼は盗賊の仲間ではありませんでした。盗賊との争いに巻き込まれて気絶しただけです」


「ゆーーイチカ?」


 その結依がこう言い出した。驚いて結依の顔を見つめるが、結依はまっすぐコイルさんを見つめ、なおも続ける。


「ユアンさんは盗賊の味方ではありませんでした。私を人質にとったりもしていません」


「・・・イチカさん。前回の事情聴取ではユアンは盗賊に味方してあなたを殺そうとした、と聞いていますが」


「あれは・・・取り消します。気が動転して変なことを言ってしまいました。目撃者は私たちしかいないはずですから、今の私の証言も嘘とは断定できないはずです」


「・・・ほう。ならなぜロープで拘束されていたのですか?」


「あれは盗賊たちの仕業です。私たちは気絶した彼が荷台から落ちないようにロープを解かずに馬車と固定しました」


 コイルさんはじっと結依を見つめる。それに負けず、結依はコイルさんを見つめかえす。そんな時間が5秒ほど続いた。

 先に目線を外したのはコイルさんだ。ふぅとため息をついた。


「・・・いいんですか?」


「はい」


「・・・分かりました。では、衛兵にはそのように伝えておきます」


 コイルさんはやれやれ、と肩をすくめた、

 その後、軽く世間話をしてギルドでの面会は終わった。



「結依。よかったのか?」


 ギルドを辞して、俺は結依に問う。ギルドで結依はユアンは盗賊の味方ではなかった、と証言した。ユアンを罪に問わないでくれ、と言ったのだ。もちろんこの証言だけですべてがひっくり返るとは限らない。それでも、自分を人質にとった男に対して甘すぎる対応だ。


「ええ。・・・彼、私の耳元で小さくつぶやいていたのよ。ごめんなさいって。それを聞いちゃうと、ね・・・」


「お人好しだな」


「自分でもそう思うわ。でも・・・」


「ん?」


 結依は一度言葉を切って、俺の目を見つめた。

 その黒い瞳に吸い込まれそうになり、目が離せない。


「悠があれだけ必死になって守ろうとしてくれたから、なんかもういいかなって」


「!」


 呼吸が止まった。


 ドキッと胸がうるさい。


「そ、そうか・・・」


 なんとか、それだけ絞り出した。


「うん・・・」


 あれから。こういう結依の何気ないひと言に妙にドキドキする自分がいる。いや。別にたいした意味は無いことは分かってるんだ。でもなんだか、こう・・・。


「きゅい!」


 と、コハクが足下で鳴いて、俺に飛びかかってきた。抱っこしろ、ということらしい。


「おっと。ごめんな、コハク。お腹すいたよな」


「きゅい!」


「くぅ~ん」


「ぴぃ」


 コハクに続いて、リルとエンも鳴いた。呆れたような声にも感じた。腹を空かせたコハクを笑っているのだろうか。ただ、もう夜ご飯の時間だ。俺もお腹がすいた。


「と、とりあえず飯でも食うか」


「そ、そうね」


 俺は自分の中の変なモヤモヤを振り払うように屋台へ歩いて行った。

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