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124話 ビング盗賊団

「リル!?どうした!?」


 いや。リルだけでは無い。


「わん!」


「ぴ!」


「きゅううう!」


 エン。コハクも鳴いている。近くの森に向かって。何かを警戒するように。


 何かが来るんだ。


 俺たちは一カ所に集まる。武器に手を掛け、神経を研ぎ澄ます。


 やがて。


 森が、ガサガサと揺れた。


 ガサガサ。


 ガサガサ。


 ・・・大きい。小動物ではない。それに、数もある程度そろっている。


 ガサガサ。


 ガサガサ。


 果たして、そこから現れたのは。


「ああ?ユアンのやつ、しくじってるじゃねえか」


 薄汚い装備を身につけた、中年の男たちだった。


「な、なんだおまえら・・・!?」


 冒険者、というにはあまりに装備がお粗末。そして、笑みが醜悪。


 直感した。ろくでもない奴らだ、と。


「はっ。おめででえやつだ」


 ニヤニヤと笑う男たち。数は5、6,いや、7人か。


「ビング盗賊団、と言えば分かるだろ?」


「泣く子も黙る極悪人だぜ?」


「びびって声も出ねえんじゃねえの!?」


「「「「ぎゃははははははっっっっっ!」」」」


・・・正直、分からない。が、相手は盗賊。


 つぅと冷や汗が流れる。


 魔物では無い。それでも戦わなければならない。文字通り、命を賭けて。


 人間を殺す。


 その場面だ。


 躊躇うな。


 躊躇ったら、やられる。


 俺がそう決意を固めていると。


 その中の一人が口を開いた。


「お?よく見ればきれいな姉ちゃんじゃねえか!」


 そして、下卑た笑みを浮かべる。


「おお!今日は当たりだぜ!」


 は?


「げへへ!さいこーだぜ」


 それって。


「行けぇっ!お前ら!」


 結依のこと、だろ?


「「「おおおおおおおおッッッッ!!」


 頭領らしき人物の合図で、男たちが雄叫びを上げ、一斉に遅かかってくる。


 顔には汚らしい笑み。


「くっ!」


 俺は剣を握りしめる。


 多勢に無勢。それでも。


 


 殺す!!!




「はっーー」


 俺が奴らを迎え撃とうと飛び出しかけた、そのとき。


「わん!」 

 

 リルが飛び出した。


「!?リル!?」


 目にもとまらぬ速さで盗賊たちに迫るリル。


「な、なんだこの犬っころ!まずはお前からーーなっ!?」


 まずリルは手前の盗賊に飛びかかる。一気に首元に食らいつき、


「ぐるるるる!」


 グシュッッッ


「ぎゃああああ!」


 その首にかみつく。おびただしい量の血が流れ、やがてその身体は力を失い、崩れ落ちる。


「なっ!?」


「まずその犬っころを殺せ!」


 盗賊たちの標的がリルに移る。一斉にリルに群がり、剣を振り降ろそうとする。その背後から、今度は赤い鳥が近づく。


「ぴぃぃぃぃ!」


 ぼぉっ。


 赤い炎が盗賊の背中に迫る。


「ひいいいい!熱いッッ!」


「ぐあああああ!」


 二人が炎の直撃を受け、崩れ落ちる。


「なんだ!?」


「鳥です!」


「くそっ!」


 動揺する盗賊たち。リルと、エン。思わぬ強敵に浮き足立っている。


 しかし、まだあいつが残っている。


「きゅいいいい!」


 コハクだ。


「ぐあああああ!」

 

 青い炎を浴びせ、首元に食らいつく。次々に盗賊に襲いかかる。


「ぎゃあああ!」


「うわああああああっっっ!」


 森に盗賊の悲鳴が響き渡り・・・


 結局。ビング盗賊団はあっという間に壊滅した。リル、エン、コハクの活躍によって。俺は何もしていない。7人全員が死亡した。


「・・・」


 俺が直接手を下したわけではない。とはいえ、人が死んだ。これまでは魔物相手だったが、今回は人間だ。何も感じないわけではない。少なからず動揺はある。


「わん」


 それでも後悔は無い。

 あいつらは結依を狙ったんだ。下卑た目で。どんな想像をしていたのかは想像に難くない。許せない。ああ、許せないとも。

 ぐっと拳を握る。許せない。


「わん」


 ふと、足下がくすぐったい。見ると、リルが俺の足に身体をこするつけていた。


「リル・・・。ありがとう」


 それを見て、ふっと身体の力が抜けた。俺はリルをなでる。


「わふぅ」


 そう言えば、リルはこの牙で人をかみ殺し殺したんだよな・・・。躊躇いもなく人を殺したリルを恐れる?いや、そんな感情は湧いてこなかった。むしろ感謝している。リルを俺と結依を守ってくれたんだから。


「エンとコハクもありがとう」


 俺と結依を守ってくれて。結依が盗賊に捕まっていたと思うと・・・。恐怖と怒りが湧いてくる。人を殺した動揺。それを上回るぐらいに。心がざわめく。


「ぴぃ!」


「きゃうん」


「そうね。特にエンには助けられたわ。ありがとう」


「ぴ!」


 結依もお礼を言ってエンをなでる。俺もリルとコハクをなでる。なでる。


「くぅ~ん」


「きゅい~ん」


 そうやってペットたちをなでていると、ざわめいていた心が段々と落ち着いてきた。そして改めて思う。この世界は厳しい。魔物に盗賊。分かってはいたが、命の危険が多すぎる。特に今回、結依は危なかった。ユアンにナイフを突きつけられて、人質に取られた。

 結依を見る。改めて、無事でよかったと思う。すると、結依がこちらに気付き、目が合ってーー


 ーードキン


「ん?なに?」


「ーーっ!い、いや!なにも!」


 途端、なぜか心臓が跳ねた。あ、あれ?どうしたんだろ。目を合わせることなんて、これまで飽きるほどしてきたのに。今になってなに動揺してるんだ!?


「ふ、ふ~ん」


 濡れるような黒い目、黒い髪。相変わらずつけてくれている青いシュシュ。少しつり目な目つき、整った顔立ち。先ほど抱きしめたときに感じた確かな体温。

 ・・・結依のことを考えれば考えるほど、ドキドキする。おかしい。こんなこと、初めてだ。


「そ、そういえば、ユアンはどうする?」


 慌てて、話をそらす。動揺した内心を悟られたく無かった。


「ん、そうね・・・」


 幸いなことに、結依はその話題に乗ってきてくれた。

 俺は地面に伸びているユアンを見つめる。正直なところ、複雑な気分だ。結依をあんな目に遭わせたこいつを殺したい気持ちもある。ぐつぐつとした憎しみのままにその首を掻き切れ、と心のどこかで叫ぶ。一方で、冷静な理性はそれにブレーキを掛けている。


「荷台にロープは無い?とりあえず縛っておきましょう。ハイネンに着いたらギルドに任せるのがいいと思うわ」


「そ、そうだな」


 案の定、荷台にはロープがあった。それを拝借し、今度は気絶しているユアンのもとへ。髪の毛と立派な口ひげが黒焦げになっている。まずは足を縛り、手を後ろ手に拘束する。荷台に運び、逃げられないように馬車と身体を結んでおく。

 これでよし、と。


「じゃあハイネンに帰るか・・・。どうやって?」


 俺は馬車を見つめ、問いかけた。


「どうやって、って。馬車に乗るんじゃない」


「俺、馬車の操縦なんて出来ないけど」


「あ・・・」


 そう。馬車なのだ。今まではユアンが馬を操っていた。ところが、ユアンはこのとおり。

 すると、リルが自信満々に鳴いた。


「わん!」


「ん?リル。どうした?」


「わん!」


 何か考えがあるようだ。リルはてとてとと馬の方へ歩いていった。


「わん!」


「ブルルル」


「わん!わん!」


「ヒヒーン」


 リルと馬が会話?していた。と思ったらリルが戻ってきて、


「わん!」


「え?」


 そう鳴くのだった。


「乗れ、ってことじゃない?」


「そうなのか?」


「わん!」


 やはりリルは得意げに鳴くのだった。半信半疑で俺は馬車に乗り込む。


「わん!」


「ヒヒーーン!」


「わっ!」


 リルの鳴き声に呼応するように馬がいななき、馬車がゆっくりと動き出した。


「すげえ!」


「わふん!」


 俺は自慢げなリルを撫でた。どうやら馬と会話して、馬車を動かしたようだ。すげえ。うちのペット、なんでもありかよ。


 こうして俺たちを乗せた馬車はハイネンへ向けて動き出した。


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