表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/130

123話 ユアン

「タカさんも、じゅ、従魔も、大人しくして下さい・・・!」


「くぅっ!」


 ユアンが左手で結依の首をロックし、右手で結依の首元にナイフを突きつけている。結依は苦しそうな表情だ。そして、恐怖の色も見える。


「ユアン・・・。お前・・・!」


 目の前が真っ白になった。怒りで身体が震える。同時に、恐怖で身体の芯が冷える。


「うっ・・・。こ、こうするしか無かったんです・・・!」


 カタカタと震えるナイフ。


 あのナイフが10センチ右に動けば・・・!


 あのナイフが首に突き刺さったら・・・!


「結依・・・」


 皮膚を切り裂き、赤い血が噴き出し・・・。


「結依・・・」


 うつろな目。冷たい身体。帰ってこない返事。


「結依・・・!」


 もし。


 もし・・・。


 もし、結依が死んだら・・・。


「こ、来ないで下さい!」


 俺は・・・。


「悠っ!私は大丈夫だから!」


 ぞわっと。


 身の毛がよだつ。


「くそっ」


 死ぬ?結依が?


 考えるだけで、ヘドロのような不快感が、胸に広がる。


「はあっ。はあっ」


 ヘドロが肺にまで達し、息苦しい。


「・・・結依をっ、離せっっ!!」


 ああ!嫌だ!死なせるもんか!


「そ、それはできません!」


 どうする?どうする?どうする!?


「おとなしくしてください!わ、私にも家族がーー」



 その時。


 サッ。


 何かがこすれるような音。同時に、結依の頭から、赤い閃光ががほとばしった。


「ぴ!」


「エ、エン!?」


 それは、赤い小鳥だった。 


「なっ!と、とりっ!?」


 目を丸くし、驚くユアン。


 そのエンは思いっきり空気を吸い込み、


「ぴ!」


 ぼぉっ


 口から赤い炎が吹き出した。それはまっすぐユアンの顔を捉え、


「ぎゃあああっっっっっっ!」


 ユアンの口から絶叫が漏れた。


「えいっっ!」


 同時に結依はユアンを突き飛ばし、拘束から逃れた。

 倒れるユアンをお構いなしに、結依は走り出す。

「結依っっ!」


 結依は走って逃げてくる。


 俺は急いで結依に駆け寄り、その身体を抱き留めた。


「大丈夫かっっっ!?」


「え、ええ・・・」


 その体温を確かめるように強く抱きしめる。温かい。確かにいる。ここに。


「結依っ!」


「ちょ、ちょっと。悠・・・。いたい・・」


 結依は戸惑うような声を出した。それでも俺の腕を振りほどこうとはしない。むしろ俺の服の裾を強く掴んだ。


「よかった・・・」


 心の底から、安堵のため息が漏れた。腕の中に結依がいる。それが何よりうれしかった。


 そうやって感傷に浸る俺の耳に、うめき声が聞こえてきた。


「うぐぐぐぐ!」


 ユアンだ。よろよろと立ち上がり、もがいている。エンの火は致命傷ではなかったようだ。


 そうだ。こいつへの対処を考えないと。どうする?殺すのか?

 殺す?出来るのか、俺に?

 でも、こいつは結依を殺そうとしたんだぞ?

 俺がそうユアンを見つめていると。


「ぐるるる!」


「リル!?」


 唸りながらリルが走り出した。まっすぐユアンの元へ。


 ドンッッ


「ぎゃああああっっ・・・」


 リルに突き飛ばされ、どさっとユアンの身体が吹っ飛ばされ、転がり、地面に倒れ込んだ。


「グルルル!」


 そのままユアンは起き上がることはなかった。


「死んだ・・・のか?」


 結依の手を握りながら、恐る恐る近づいてみる。ユアンはピクリとも動かない。死んだのだろうか。


「いや・・・。よく見ると息をしているわ。気絶しただけのようね」


 そうか・・・。生きているのか・・・。


 と。


「わん!わん!」


 リルが激しく鳴きだした。


「リル!?どうした!?」


 いや。リルだけでは無い。


「わん!」


「ぴ!」


「きゅううう!」


 エン。コハクも鳴いている。近くの森に向かって。何かを警戒するように。


 何かが来るんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ