121話 再会
わしとメイはヴェラの冒険者ギルドにやってきた。ここ3週間ほどで顔見知りとなった冒険者たちに軽く挨拶し、掲示板へ向かう。
わしらは最近C級に昇格した。D級とC級の掲示板を見て、いい依頼がないか探す。ユウとユイを見つけるため、どこかへ出かける依頼があればちょうどいいのじゃが・・・。おっ。あった。わしは一枚の紙を指し、メイに提案する。
「ハイネンへの護衛依頼か。行ってみるかの?」
「いいですね。ハイネンは行ってませんし」
それはハイネンという街への護衛依頼だった。ハイネンはここから馬車で一日ほどの距離。ヴェラと同じく海に面した街だが、ヴェラほど港が大きくないため、街の規模もヴェラほど発展していない。それでも行ったことはないので足を伸ばしてみるのはありだろう。そう思い、その依頼書に手を掛けたーー
「ロッシュ殿?メイ殿?」
すると、わしらの背後からそんな声が聞こえた。このギルドでロッシュ、メイと呼ぶ人。心当たりはない。不思議に思って振り向くと、そこにいたのはなんと。
「クリス?」
爽やかな美男子。見覚えがある。アルス王都で会ったA級冒険者、クリスだ。
「失礼。ロー殿とメル殿と呼ぶべきだった」
「いや、それは構わんが・・・」
クリスは申し訳なさそうに言う。ここはギルド。冒険者ネームで呼ぶのがマナーだ。
しかし、そんなことはどうでもいいほど、わしは驚いていた。クリスがここにいることもそうだが、なにより彼の耳。彼の耳が、前に見たときと違っていたのだ。
「あなた、エルフだったんですね」
長かった。それはエルフ、と呼ばれる者の特徴。メイが言ったとおり、クリスはどう見てもエルフである。
メイに問いかけられたクリスは再び申し訳なさそうな顔をした。
「ああ、アルス王国では隠していたんだ。騙すようなことをして申し訳ない」
「うむ。ま、仕方あるまい。あそこはエルフには生きづらいじゃろうて」
アルス王国はエルフと獣人への差別がまかり通っている。いかにA級冒険者とはいえ、エルフだとおおっぴらにして活動するのは難しかっただろう。もう仕分けなさそうな顔をするクリスに、わしは気にするな、と笑いかける。するとクリスはほっと笑顔になった。
「そう言ってくれるとありがたい。で、二人はどうしてヴァーナ王国に?イチカとタカは?」
「・・・せっかくじゃ。お茶でも飲みながら話そう」
そうしてわしらは近くのカフェに移動した。そしてクリスにことの顛末を話す。ユウとユイが異世界からの召喚者だと知っていたので話は早かった。タカが同じ召喚者にはめられたこと、国外追放になったこと、勝手に出て行ったこと、イチカも一緒について行ったこと・・・。そしてわしらは二人を探してヴァーナ王国に来たこと。
「そんなことが・・・!」
クリスは怒りで震えている。ユウが国外追放になったことに対してだ。
わしは意外だった。クリスはユイに懸想しているはず。タカはライバルだ。にもかかわらず純粋にユウのために怒ってくれている。いい人じゃな、と思った。
「それでイチカたちはどこに?」
「まだ見つかっておらんのじゃ。ヴァーナ王国に来ておるはずじゃが、なんの手がかりもない。ヴェラや付近の村、王都にも行ったが、見つかっておらん」
「そうか・・・」
その声には残念さも含まれていた。ユイに会えるかも、と期待していたのかもしれない。
「クリスはどうしてここにきたんですか?」
今度はメイがクリスに聞いた。するとクリスは真剣な顔になり、重々しく語り始めた。
「ああ。僕はヴァーナ王国からの依頼を受けているんだ。魔王軍からの国土防衛が主な任務。基本的には自由行動だから故郷のエフリリア村にいるが、状況が厳しくてね。村の防衛の依頼をギルドに出そうと思ったんだ」
「そんなに厳しい状況なのか?」
わしは驚いて聞き返す。するとクリスは暗い顔で頷いた。
「ああ。数日おきに魔物が襲ってくる。数も多いし、強い。村の戦士たちは皆疲労困憊だ。だから村を守ってくれる冒険者を探しているんだ」
村が自分たちで防衛の依頼を出すのはそうあることでは無い。村が出す依頼は、ほとんどは畑や家畜を荒らす魔物退治の依頼だ。防衛は領主や国の仕事。しかしそれでもその依頼を出すということは、被害の深刻さと同時に、国の手が回っていないということも意味する。おそらくは同じような状況の村はエフリリア村意外にもあるはず・・・。
「ロッシュ殿。メイ殿。どうか力を貸してほしい」
わしがそう考えていると、クリスは頭を下げた。本気だ。クリスは本気で助けを求めている。
「うむむ・・・。しかし・・・」
わしも、できるならば力を貸してやりたい。しかし、わしらには目的がある。
それはクリスも察したようで、顔を上げて言った。
「分かっている。二人はタカとイチカを探しているんだろう。だからずっと村にいてくれとは言わない。一ヶ月でも、一週間でもいい。旅の途中で立ち寄るぐらいでもいい。どうか頼む」
そして再び頭を下げる。わしはメイと顔を見合わせる。メイも困ったような表情だ。手を貸してあげたいが、でもユウたちのことも気になる・・・。
いずれにしても、すぐには結論は出せなかった。
「・・・少し考えさせてくれんか」
「もちろん。・・・僕はすぐにでもエフリリア村に戻るよ。タカとイチカにあったらよろしく伝えておいてくれ」
「ええ。もちろん」
「それじゃ」
そう言ってクリスは去って行った。残されたわしらは、今後の行動について思いをはせるのであった。