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120話 ヴァーナ王都ギルド

 ギルドは異様な雰囲気だった。


「この依頼を受けてくれないか」


「ゴットフリードさん?勧誘行為はお控え下さい」


「すまない。しかしこちらも村の存亡がかかっているんだ。見逃してくれ。あ、そこの冒険者さん。是非この依頼を!」


「ゴットフリードさん!」


 一人の若者があちこち冒険者に声を掛け回り、そのたびにギルド職員が注意するという光景が広がっていたのだ。声を掛けられた冒険者は迷惑そうな顔で距離を取り、相手にしない。それでも若者はめげずに次の冒険者にアタックして行っている。


「どうしたんだろ?」


「わふぅ」


 俺が疑問に思ったのは、声を掛けている若者。20代くらいだろうか。耳が長い。エルフである。そしてその表情。必死だ。余裕が無い、とも見える。浮ついた目的で声を掛けているという感じでは無いのだ。なにをそんなに必死に訴えているのだろう、と気になった。


 そんな感じで俺がのんきに観察していると。


「!!」


 そのエルフと目が合った。するとなぜか彼は目を見開き、しばらく硬直した。


 どうしたんだろう、と思っていると。件のエルフはだっ、と勢いよく俺たちの前まで走って来た。


「わっ!」


 驚く俺たち。しかし彼はなにやら興奮した様子で俺の前まで来ると、


「君たち!名前は!?」


「えっと・・・」


 身を乗り出してそう訊ねて来た。必死な表情は変わらない。だが気のせいだろうか、その瞳の奥は輝き、興奮しているようにも見えた。

 俺たちのどこに興奮する要素があるのか・・・。若干引いていると、そのエルフははっ、と我を思い出し、ごほん、と恥ずかしそうに咳払いした。


「・・・失礼。俺はゴットフリード。エフリリア村の村長をしている」


「はぁ。冒険者のタカです」


「イチカです」


 戸惑いつつも自己紹介を返したのは、村長と名乗ったから。決してゴットフリードさんがエルフだからとかいう、ミーハーな理由ではない。決して。

 自己紹介が終わると、ゴットフリードさんは冷静に話し始めた。


「タカ。イチカ。お願いだ。この依頼を受けてはくれないか?」


「い、依頼ですか・・・?」


 手渡された一枚の紙。そこにはエフリリア村の防衛、と書いてある。彼が村長を務める村の名前だ。


「エフリリア村の防衛。報酬は魔石を相場の1.5倍で買い取る。衣食住保証。どうだ?」


 依頼の内容を説明しながら顔は真剣だ。彼は自分の村を守ってくれる冒険者を探しているようだ。そう思うとあの必死さも理解できる。気になった俺は、詳細を尋ねてみることにした。


「村の防衛ですか?そんなに大変な状況なんですか?」


「ああ。頻繁に魔物の襲撃を受けている。質も数も尋常じゃ無い。しかも我々エルフは数が少ないからどうしても人手が足りない。なんとか手伝ってくれないだろうか」


「・・・そうですか」


 深刻そうなゴットフリードさん。その表情からは戦況が芳しくないことが容易に想像できる。そして俺は先ほどの光景を思い出す。王都の周りに群がる難民たち。魔王軍の脅威を改めて知ったあの光景。・・・もしかしたら、ゴットフリードさんたちもあの人達と一緒に・・・。


「でも、私たちは三日後護衛依頼でハイネンに戻らないといけませんので」


 隣で結依がそう言う。しかしそれでもゴットフリードさんは唇をきゅっと結び、


「その後でも構わない。どうか力を貸してくれ」


 頭を下げた。


「ただでさえ少ない戦士も怪我をしたり疲労がたまったりしている。もはやだましだましの状態だ。僕らの村が蹂躙されるのも時間の問題。だからどうかーー」


 その時だった。


「ゴットフリードさん。冒険者の方が困っています。勧誘は控えて下さい」


 ギルド職員の女性がゴットフリードさんの言葉を遮った。


 ゴットフリードさんはなにか反論しようと口をもごもご動かした。が、しかし結局、


「ーーすまない。タカとイチカも、邪魔したな。だが気が向いたら是非エフリリア村に来て欲しい。待っている」


 そう言い残し、ゴットフリードさんはギルドを去って行った。

 ゴットフリードさんが去ったことで、ギルドは徐々に落ち着きを取り戻した。そして先ほど割って入ってきた職員は俺たちへ声を掛けた。


「大丈夫でしたか?」


「はい。ありがとうございます」


 職員はふぅと困ったようにため息をついた。しかしそこには同時に同情の色も浮かんでいた。


「ゴッドフリードさんのように故郷を守って欲しいとお願いされる方は珍しくありません。自分たちで報酬を用意するのは珍しいですけど」


「そうなんですか・・・。戦況はかなり厳しいようですね」


「ええ。伯爵領1つと男爵領3つが魔王軍の手に落ちています。国もなんとか対抗していますが・・・」


「・・・」


 伯爵領1つと男爵領3つ・・・。それは結構な被害ではないだろうか。アルス王国にいるときはあまり感じなかったが、このヴァーナ王国は本格的に魔王軍に苦しめられているようだ。


「すみません。なにか依頼を受けて行かれますか?」


「・・・いえ。今日は一旦帰ります」


 魔王軍の被害。ゴットフリードさん。そして再び思い出す、あの難民たち・・・。色々と頭がパンクしそうだ。


「そうですか。どうもすみません。またお越し下さい」


 俺たちは依頼を受けること無く冒険者ギルドを後にした。

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