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118話 エフリリア村 

「ふぅ」


 なんとか今日の襲撃もしのぎきった。今日はハイオークが2体現れた。それを僕一人で対処しなければならなかった。さすがにきつかった。しかし、文句は言ってられない。仲間だって別の場所で命を賭けてくれているのだから。


「無事か、クリストファー」


 村に戻ると、幼馴染であるゴットフリードが出迎えてくれた。流れるような金髪と艶やかな鎧だが、返り血でべっとり汚れている。それでも、その姿を見ただけでほっとする。今日の襲撃も無事跳ね返したということだから。


「今日はどうだった?」


「ハイオーク2体だよ。そっちは?」


「俺はハイゴブリンが3体だ。エレオノールたちはゴブリン20体を相手にしていたらしい」


 ゴットフリードは疲れたような表情でそう報告した。僕以外のところにも強敵が現れたようだ。僕とゴットフリードとエレオノーラ。今日は主に三人で村の防衛に当たった。そのうちエレオノーラは半人前の戦士を連れて防衛に当たった。だが、そのエレオノールの姿はここにはない。


「エレオノールは?」


 気になって聞くと、ゴットフリードは軽い口調で返してきた。


「足を負傷したようだ。ロゼティーナのところで手当を受けている」


「大丈夫なのか?」


「ああ、ただの擦り傷だ。心配することはない」


 どうやら本当にエレオノーラは軽傷らしい。エレオノールが重傷なら、恋人であるゴットフリードはもっと慌てふためいているはずだ。ひとまずほっとする。

 ゴットフリードと二人、並んで帰路につく。その道中、ぽつりと幼馴染がつぶやいた。


「しかし、お前が帰ってきてくれて助かった」


 元々僕は各地を転々しながら冒険者活動をしていた。しかし心機一転ヴァーナ王国を守る依頼を受けて国に戻ってきた。そのなかで故郷がピンチだと聞き駆けつければ、その実態は想像以上だった。

 2~3日おきに襲撃が繰り返される。それも村を囲むように何方向からも魔物が押し寄せてくる。ハイオークのように強い魔物が現れることも珍しくない。一方で僕たちの村で戦えるのは現在わずか10名ほど。半人前の戦士を入れてこの数だから、正直、戦況は悪い。

 それに、僕はヴァーナ王国からの依頼を受けている状態。基本的に自由行動なので故郷を守っているが、ヴァーナ王国からの要請があればその指揮下で戦わなければならない。いつまでもこの故郷を守れるわけではないのだ。


「力になれてうれしいよ。でも思ったよりも厳しいな。このままじゃもたない」


「・・・だが、なにか手はあるのか?」


 なんとかこの状況を打破する手立てはないか。前々から考えていたが、僕にはこれしか思いつかなかった。ゴットフリードは嫌がるかもしれないが、僕はそれを口にした。


「ヴァーナ王国中のギルドに依頼を出そう」


「何?」


 それは、村で依頼を出すこと。冒険者を雇い、このエフリリア村を守ってもらう。案の定、僕の提案を聞いたゴットフリードは戸惑い、顔をしかめ、言いづらそうに言葉を続けた。


「それは・・・。大丈夫なのか?その・・・」


「君の言いたいことは分かる。確かに人間の中には我々に差別意識をもつ者もいる」


「そうだろう?」


 エルフ、獣人。人間はこの二種族を差別している。そして冒険者は人間が圧倒的に多いから、冒険者を雇うとなるとこの村に人間を招き入れることになる。ゴットフリードは彼らが僕たちを差別することを恐れているようだ。

 その気持ちは僕もよく分かる。僕が思い出すのはあの国の光景だ。


「なかでも僕が直前までいたアルス王国は最悪だ。あそこは僕も正体を隠さざるを得なかった」


「アルス王国、か。いい噂は聞かないが」


 少し前まで僕はアルス王国で冒険者活動をしていた。あそこはエルフや獣人に対する差別意識が根強く残っていた。自分がエルフだということを隠して活動していたほど。アルス王国で暮らす同胞や獣人は隠れるように生きていた。そのことに心を痛め、同時に自分を偽っていることに情けなくも感じたりもした。

 ・・・まあ、悪いことばかりではなかったけど。アルス王国ではいい出会いがあった。あの二人は元気でやっているだろうか。いや、それはともかく。


「だが、ヴァーナ王国は大丈夫だ。エルフや獣人にも好意的な人が多い。それに僕たちだけで村を守るのは限界がある。一刻も早く冒険者に協力してもらう必要がある」


 ヴァーナ王国ではこの耳を隠さずとも、悪口を言われることはないし、避けられることも無い。普通に生活できる。僕がそう言うと、ゴットフリードは黙ってしまった。考えこんでいるようだ。差別されるかもしれないリスクとこのままじり貧になるリスク。


「・・・」


「・・・」


 しばらく無言で歩く。木造の家をいくつも通り過ぎたあたりで、ようやく隣の友人はため息をつき、結論を述べた。


「・・・そうだな。よし。村長として俺が許可する。依頼料も俺が捻出しよう」


 ゴットフリードが言った。こいつが今や村長だ。信じられない。だが村長だった父親が魔物の襲撃で亡くなって以来、立派に後を継いでいる。今も憎しみや恐れにとらわれることなく、冷静に結論を出してみせた。しばらく見ないうちに、立派になったものだ。本人には言わないけれど。


「よし。では手分けしてヴァーナ王国のギルドに依頼を出しに行こう。とは言ってもあまり人手も割けない。僕とゴットフリードの二人で依頼を出しに行くのがいいだろう」


 さて、そうと決まれば早速行動だ。とはいっても村を守る人員を残す必要がある。魔物の襲撃はあと数日はないだろうが、念には念を入れて戦える人員を残しておく必要がある。


「分かった。やはり王都のギルドが一番大きいだろうか」


「そうだな。ゴットフリードは王都のギルドに行ってくれ。僕は・・・ヴェラにでも行こうか。たしかちょうどビッグマーケットの時期だ。港も活気づいているだろうし」


「了解した。では次の襲撃までに急いで戻ってこよう」


 全力で魔法を行使すれば王都まで一日、ヴェラまで二日でつけるはず。出来ればヴェラで直接冒険者を勧誘したいが、そうすると次の襲撃に間に合わなくなるかもしれない。となると依頼を出してすぐとんぼ返りか。仕方ない。誰かがこの依頼に興味を持ってくれることを願おう。


「ああ」


 こうして僕とゴットフリードはヴェラと王都へ赴くことになった。

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