表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/130

117話 王都へ

「お疲れ様です。タカさん。イチカさん」


「リーンさん。ゴブリンの魔石です。確認をお願いします」


「畏まりました」


 俺はカウンターにゴブリンの魔石を提出する。といっても、これらは俺が討伐したものではない。


「きぃ!」


 俺の肩で甘える子狐、コハクが討伐したものだ。今日はコハクを連れてゴブリン討伐に出かけた。コハクの実力を見るためである。


「よーしよし。もうちょっとで終わるからな」


「くぅ~ん」


 いたわるように耳裏をなでてやれば、うっとりと目を閉じて俺に身を預ける。かわいい。

 今日のゴブリン討伐。収穫は上々だった。コハクの実力はやはりすごかった。俺はその時のことを思い出す。




「コハク。ゴブリンの群れだ。一旦やり過ごすか?」


「きぃ」


 ふるふる、と首を横に振った。目の前にはゴブリンが3体。なにやら木の実を食べるのに夢中で、木陰に隠れる俺たちには気付いていない。初めはゴブリン1体を相手にするだけでもよかった。無理する必要は無い。そう思ってコハクに声を掛けたが、コハクはやる気満々。今にも飛びかからんとゴブリンを見つめている。


「分かった。でも無理すんなよ」


「きぃ!」


 コハクは元気よく返事をした。と同時に駆け出した。は、速っ・・・。


「ギイイイイ!」


 そこでようやくゴブリンもコハクに気付いた。慌てて食べかけの木の実を放り出し、鋭い爪を構える。

 しかし。


「きぃ!」


「ギイイイイ!?」


「おいおい・・・」


 ゴブリンの口から驚きが、俺の口から呆れ声が漏れた。なんと、コハクが口から炎を吐いたのだ。それはエンのものとは違い、青く揺らめく怪しい炎。ゆらゆらと立ち上り、ゴブリンにまとわりつく。


「ギイイイイ!」


 炎をまともに受けたゴブリンは絶叫する。身をよじり逃れようとするが、炎は絡みついて離れない。


「ギイ・・・ギ・・・」


 やがてそのゴブリンは震えながら地面に倒れた。その身は真っ黒に焦げている。


「きゅ!」


 それには目もくれず、コハクは次の個体へ。


「ギギギギ!」


 二体目のゴブリンは爪を振りかざし、コハクを切り裂こうとする。しかしコハクは軽やかな身のこなしで避け、ゴブリンの懐へ。


「きゅう!」


「ギギギギギッッッ!」


 がぶっと。コハクがゴブリンの首元にかみついた。悲鳴をあげ、ピクピクと身体を痙攣させるゴブリン。もうまもなく絶命するだろう。

 しかし、その背後から。


「ギィィ!」


「コハク!」


 ゴブリンにかみつくコハクの背後。最後のゴブリンが襲いかかってきた。しかし、コハクはゴブリンの首元にかみつき、すぐには動けない。最後のゴブリンが爪を振りかぶりーー


「危ないっ!」


 俺は足に力を込め。今にも飛び出そうとした。そのとき。


「きゅう!」


 べしっっっ


「ギッッッッッッ!」


「は?」


 コハクが尻尾を振るった。その尻尾に払われたゴブリンは、なんと10メートルほども吹っ飛んだ。そのままバキィィッと鈍い音を立てて木に衝突し、ピクリとも動かなくなった。


 俺は飛び出しかけた身体をとめ、たたらを踏みつつ、立ちどまる。そして唖然とする。なんてパワーだ・・・。


「きぃ!」


 コハクはそんな俺の姿を見て一鳴き。ゴブリンの元から離れ、俺たちの元へ。いや、俺の元へ一直線。


「きぃ!」


 ポーンと跳ねて俺の胸元へダイブ。俺は慌ててコハクを抱き留める。コハクはそのままスリスリと顔を押しつける。褒めて褒めて、と甘えているかのようだ。俺の胸元にはべっとりと血が付くが・・・。まあ、仕方ない。それよりも、コハクの実力に圧倒された。


「すごいな、コハク」


 そう言いつつなでると、きゅぅ~ん、と甘えた声を出し、一層頭とこすりつけてきた。

 リルといい、エンといい・・・。本当になんで俺たちの従魔はこんなに強いんだろう。心強いことには違いないが、俺だって負けないように強くならないと。そう思いつつ俺はしばらくコハクをなで続けたのだった。


 


「そういえばタカさん。イチカさん。ビッグマーケットって御存知ですか?」


「ビッグマーケット?」


「はい。王都で年に一回開かれる自由市です。この3日間はだれでも自由に店が開けるので、珍しいものが集まるんです」


 俺が先ほどの出来事を思い出していると、リーンさんと結依がなにやら話をしていた。話題はビッグマーケットというイベントらしい。日本で言うフリーマーケットみたいなものか。


「おもしろそうですね」


 俺はそう相づちを打つ。しかし、ただの世間話だと思ったらどうも違うらしい。申し訳なさそうな顔でリーンさんがこう続けた。


「それでですね。ハイネンの商人も王都に行こうとしているんですが、なかなか護衛の冒険者が決まらなくて。もしよろしければお二人に王都まで護衛していただけないかと」


 要するに、護衛の依頼を引き受けてくれないか、という相談のようだ。俺としては受けても構わないが・・・。俺は結依と顔を見合わせる。


「どうする?」


「いいんじゃない?ビッグマーケットも気になるし」


「そうだな。リーンさん。詳細を教えてくれませんか?」


 結依も同意見のようだ。ということで、リーンさんに尋ねる。


「ありがとうございます。出発は明日、一泊の行程で到着はビッグマーケット開催初日。3日間は自由行動で最終日にハイネンまで同行し、護衛する。という条件です。こちらが詳細です」


 リーンさんは軽く説明しつつ、掲示板まで歩く。俺たちもついて行くと、リーンさんは一枚の依頼書を剥がして見せてくれた。そこにはやはり説明通りの内容が書いてあった。


 ふむふむ。依頼がてら王都へ行けるわけだし、報酬も悪くない。ビッグマーケットというのも気になる。


「リル。エン。コハク。どうだ?」


「わん!」


「ぴぃ!」


「きぃ!」


 ペットたちは元気よく声を上げた。賛成らしい。


「結依もいいか?」


「ええ」


 俺たちは全員乗り気のようだ。それならば、と俺は依頼書をリーンさんに渡し、言う。


「よし。じゃあリーンさん。この依頼を受けます」


「ありがとうございます!」


 こうして俺たちはヴァーナ王国の王都まで行くことになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ