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116話 思惑

「魔王軍との戦況はどうだ?」


 王都にあるカーン家の屋敷。わしは書斎でワインを傾けながら問う。直立不動で控える部下は抑揚のない声で答えた。


「日に日に激しさを増しています。イグニス伯爵領の被害は大きく、援軍を求める使者が連日王都へ来ています」


 ガザール。こやつもわしに仕えてもう30年か。髪には白髪が、顔にはしわが増えてきた。表情は淡々としてるが、有能である。そしてなにより従順。わしがどんな命令を出そうが異を唱えない。


「援軍は出さん」


「しかし、このままではイグニス家は滅びます」


「構わん。いや、むしろそれが狙いだ。イグニス家は我がカーン公爵家にとって邪魔。潰れてもらった方が都合がいい」


「はっ」


 イグニス家を見捨てる。そんな命令にも、ガザールは眉一つ動かさず了承する。それこそが、わしがこいつを重用する理由だ。


 援軍は出さない。これでイグニス家の滅亡は決まった。あとはその時を待つばかり。あやつはわしが陛下を蔑ろにしていると突っかかってきた、目障りな存在だ。いなくなるのは清々する。それにイグニス領が滅んだとして、わしの地盤である王国北部には関係ない。どころか、相対的に王国内での発言力はむしろ上がるだろう。


「・・・しかし、わしがイグニス領を見捨てたと思われるのもまずい。適当に武器や食料を送ってごまかしておくか。手配しておけ」


「畏まりました」


 部下の返答に満足し、ワインをあおる。貴族にとって体裁は大切である。それを整えるためなら、多少の出費は喜んで許容する。


 さて・・・。魔王軍にはイグニス領をくれてやってもいい。それで手打ちとしてやろう。これだけわしが譲歩するのだ。魔王軍も泣いて喜ぶであろう。そして対外的にはわしが見込んだ優秀な戦士に恐れをなしてイグニス領より先には進軍できないという筋書きとする。うむ。我ながら完璧である。


 そのために必要なのが強い手駒である。戦闘経験が無くてもいい。ただ強いと思わせればいいのだ。要はお飾りの抑止力が必要なのである。魔王軍が進軍しないことに説得力をもたせればいいのだから。


「マエダの様子はどうだ?」


 その点、マエダはうってつけだった。ステータスが異常なほど高い。そして甘い蜜を垂らしてやればすぐにわしの言うことを聞く。しかし・・・。


「部屋に引きこもっています」


「そうか・・・。ちっ。役立たずめ」


 最近は部屋にこもりっぱなし。どうもオークにやられたのを引きずっているらしい。これでは強さをアピールできぬではないか。奴がこんなにもろかったとは・・・。

 マエダを大勇者にしたのは失敗だったか・・・。貴族たちの評判も徐々に悪くなっている。たかがオークごときで、と。もはや抑止力という役割は期待できんか・・・。奴のステータスは説得力をもたせられるというのに・・・。仕方ない。奴のことは諦めるか。


「他の駒を探せ」


「はっ」


 お飾りの勇者としてふさわしい者。できればわしが召喚した救世主であればさらにわしの影響力が強くなるが・・・。マエダであれなら、他の救世主は期待できんかもしれんな。この際、市井の冒険者でもなんでもいい。強いと見なされていて、わしに従順であればな。


「それともう一点」


「なんだ?」


「アルスの森でスタンピードの兆候が見られます」


 ふむ・・・。スタンピードか。いつものようにギルドに任せれば・・・。いや、待てよ。


「・・・よし、救世主たちを向かわせろ」


「よろしいので?未だ経験不足と思われますが」


「構わん。一人二人死のうが知ったことではない。むしろそれで泊をつけろ」


 スタンピード沈静で使えんやつは脱落するだろう。そしてスタンピードを乗り越え、功を上げた者を抑止力に仕立て上げる。それがいい。


 邪魔なイグニス家はもうすぐ消える。陛下の病気は日に日に悪化。救世主はわしの掌の上。なにもかもが思い通り。くっくっく。笑いが止まらんなぁ。


「ふっふっふ・・・はっはっはっ・・・!」

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