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109話 オーク討伐

「いたぞ」


 俺の視線の先には茶色の巨体。俺たちに背を向けてもしゃもしゃと死肉をむさぼり喰らっている魔物。オークだ。


「本当に大丈夫なの?悠」


「ああ」


 俺たちは今日もシュレル山に来ていた。しかし、今日はゴブリン討伐ではない。オーク討伐だ。

 いつまでもゴブリン討伐では強くなれない。討伐対象を別の魔物にして、レベルアップを図る必要がある。そう思って、オーク討伐を受注した。

 オークはアルス王都にいるときに一度戦ったことがある。並外れたパワーはもちろん、そのスピードも驚異だった。その時はなんとか討伐できたものの、一度オークに吹っ飛ばされて背中を強打し、討伐後にメイさんに治療してもらったという苦い経験がある。だから簡単な相手とは間違っても言えない。


 ただ、結依が治癒魔法を使えるようになったこと、そしてなにかあってもリルとエンがいること。これらの理由によって、今回、オーク討伐に踏み切ることにしたのだ。


 高鳴る鼓動を押さえ、オークをじっと見つめる。


「よし」


 オークは背後の俺たちに気付かず、のんきに食事中だ。周りに他の魔物の気配もない。一対一でオークとやり合える、絶好の機会。隙だらけ。

 見逃すわけにはかない。

 やってやる。


「ふっ」


 静かに息を吐いて、駆け出す。雄叫びは上げない。わざわざ自分の存在を明かすメリットはないからだ。気付かれないうちに一撃、入れる。それを狙って静かに駆ける。

 あと10メートル。

 あと5メートル。


 だが。


「グモッ?」


 オークが振り返った。気付かれたか!

 そして、俺と目が合う。

 オークの目に、すぐに殺意が宿ったのが見えた。


「グモモモモっ!」


 威嚇。その声には殺気が含まれている。

 俺の心臓がドキンと跳ねる。

 だが、ひるんではいられない!


「はあっ!」


「グオっ!」


 ブン、と剣をオークめがけて振り抜く。しかし、オークはあっさりとそれを避けた。その巨体からは一瞬想像できない、このスピード。やはり侮れない。

 するとオークは手近に生えている木を掴む。そのまま強く握り、


 バキバキ


「ちっ」


 豪快に捻じ折った。2~3メートルはあるかという木の幹。それをそのまま担ぎ、ブンブンと振り回す。

 スピードもそうだが、一番はやはりこのパワーか。一撃でももらうとそれだけでやられかねない。


「グモモモッ」


 今度はオークから迫ってきた。木を大きく振りかぶり、俺に向けて振り下ろそうとしてくる。


「グモモ!」


「はっ」


 バキィィッッッ


 オークの一撃をかわし、距離を開ける。地面に打ち付けられた木はすさまじい音を立て、木くずと土煙が立ちこめる。一瞬、オークの姿が見えなくなった。しかし、一息つく暇は無い。


「グオオオ!」


 まだオークの攻撃は終わらない。雄叫びを上げて突進してくる。その殺気は俺の肌を突き刺す。とてつもない迫力だ。


「グモモモモッッ」


「ふっ」


 バキッッ


 オークの振りおろしを避ける。また地面に木が打ち付けられ、土煙が舞う。

 この木の棍棒、邪魔だな。あれを振り回されると近づけない。どうにかして素手にさせたいが・・・。


「グモモオ」


 オークが苛立ったように吠えた。と、


 ブン


 武器にしていた木を投げ捨てた。


「え?」


「グオオオオッッ!」


 なんと、素手で突進してきた。右の拳を力強く握って、俺をにらみつけて。


「グモモモッ!」


 棍棒では仕留められないと思ったか?頭に血が上ったか?


 いや、理由は何でもいい。


 俺にとっては素手の方が有難い。


 リーチが短くなったぞ。


 オークが、右腕を後ろに引く。


 引きつけて。


 引きつけて。


 右腕の筋肉が、盛り上がる。


「グオオオオッッ!」


 ブン


 風を切って繰り出される右ストレート。それを躱しながら、剣を握る手に力を込める。


 今だ!


「はあっっ!」


 ヒュン


 剣を真横に走らせる。


 すれ違いざま。オークの脇腹を。


 ズシャッ


「グオオオオ!?」 


 思いっきり切りつけた。


 確かな感触。


 そのまますれ違う。


 振り返って、オークに正対する。


「グオオオ」


 オークの右の脇腹から血が流れ出している。深い。だが、致命傷ではなさそうだ。その証拠に、オークの殺意はいささかも衰えていない。いや、むしろ増したかもしれない。よくも一撃入れてくれたな、と。


「グモモッ!」


 再び突進してくる。だが気持ち、速度が遅くなったかもしれない。


「はっ!」


 ズシャッ


「グモッ!?」


 左脇腹。


 これも感触があった。


 それでもオークは倒れない。


「グモモモっ!」


 突進。


「はぁっ!」


 ザシュッ


「グオオ!?」


 右太もも。


 切りつける。その巨体をどんどん傷つけていく。


「グモモモモッッッ!」


 オークが俺を威嚇するように吠えた。しかしその姿は傷だらけ、血だらけ。それでもまだその戦意は衰えていない。


「グモモッ」


 また突進してくる。しかし


「グモモッーーー!?」


 ーーバランスを崩した。右足の踏ん張りが効かなかったよう。


 よし!


 今だ!


「はあああああっっっっ!」


 剣を思いっきり引き絞って。


 狙いを定めて。


 ここだっっ!


 ずしゃっっっっっっ


「グモモモモモモモモ!ッッッッ!」


 心臓を、思いっきり、貫く。


 柔らかい感触。確かに貫いた。


 ピシャッッッ 


 血が吹き出る。


 生暖かい。


「グ・・・モ・・・」


 オークの口から弱々しい声が漏れる。


「モ・・・。・・・」


 だがそれも、すぐに聞こえなくなった。


 ドサッ


 俺は剣を引き抜き、オークの身体を地面に転がした。ピクリとも動かない。

 どうやら絶命したようだ。


「はぁっはぁっ」


 死体を見下ろし、息を整える。もう今更、殺すことに動揺はしない。ただ緊張の糸が切れて疲労感が身体を襲う。それでも無傷で討伐できたことにある種の充実感があった。

 すると、


「悠」


「わん」


「ぴぃ」


 遠くで見守っていた結依、リル、エンがそばにやってきた。結依は心配そうな表情。だがリルとエンはうれしそうだ。


「大丈夫だった?」


「ああ。バッチリだ」


 そう言って軽く笑う。前回オークと戦ったときは吹っ飛ばされて背中を痛めた。だが今回は無傷で討伐することが出来た。そのことに成長を感じてうれしくなる。


「わぅ!」


「ぴぃ!」


 リルがよくやった、という風に俺の足に頭をこすりつける。エンは俺の肩に乗り、翼で俺の顔をぺしぺし。


「あはは。くすぐったいぞ」


 と言って2人をなでようと手を伸ばす。だが、


「まって」


「ん?」


 結依に伸ばした手をがしっと捕まれた。こいつ、俺のもふもふタイムを邪魔する気が?そう思って、眉間にしわが寄る。

 だが、結依はキッ、と俺を睨めつけた。


「まさか、その手でリルとエンを触る気?」


「え?・・・あ」


 俺の手はオークの血がべったり。

 ・・・確かに、これじゃあ触れない。近くの川で洗うまで、なでなではお預けだ。


「くぅ~ん」


「ぴぃ」


 勘違いじゃなければ、リルとエンも残念そう。心がぎゅっと痛くなる。

 ごめんなぁ!俺だってもふもふしたい!でも、手が汚れてるんだ!お前たちのきれいな毛並みを汚すわけにはいかないんだ!ああ、なんというジレンマ!


「代わりに私がもふもふするわね」


「わん!」


「ぴぃ!」


「あ、おい!」


 結依はリルとエンをわしゃわしゃ、くりくりとなでた。それでリルとエンもうれしそうに鳴いた。

 ・・・なんだが釈然としない。すっごく寂しい。これが寝取られというやつだろうか。そんな気持ちを抱えながら俺は3人の戯れを見つめるしかなかった。



 このあと、リルとエンがそれぞれオークと一体ずつ討伐した。どうやら俺に触発されて自分も戦いたくなったらしい。リルはスピードで翻弄し、最後は喉元にかみついて一撃だった。エンはオークの死角から炎を浴びせて丸焼きに。2人ともいとも簡単にオークを仕留めて見せた。本当に恐ろしくも頼もしいペットたちだよ、


 しかしまあ。何はともあれ、オーク討伐はクリアである。

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