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106話 ロッシュたちのすれ違い

「メイ。見えて来たぞ」


 水平線の奥。陸地が顔を出す。甲板からそれを目にしたわしは、指をさして妻を呼び寄せた。


「あれがヴェラですか」


「うむ。ようやくじゃ」


 わしとメイの顔に安堵の笑みが浮かんだ。

 ユウとユイが家を飛び出してから、慌てて追いかけた。しかし王都ではゴブリンの群れが現れたせいでケーニン行の馬車が一日ほど止まった。そしてやっとケーニンに着いたと思ったら、今度はドラゴンの群れが現れて、船が軒並み出向中止。再開したのは五日後だった。

 そしてわしとメイはユウとユイが乗ったのと同じヴェラの船の乗り、今日やっとヴェラまで来ることが出来た。

 ようやく二人に会える。安堵と緊張と喜びが混じったような感じがする。

  

 そのまま船はゆっくりとヴェラに近づいていく。出発するまではトラブルがあったが、船旅は順調そのものだった。最後の最後、停泊するまで何ごともなく、船は無事にヴェラに着いた。


「ふぅ。ようやく着いたわい」


 わしは船旅で凝り固まった身体をほぐしつつ、ほっと一息をついた。そしてベラの街を見渡す。ここは大きな港町だ。アルス王都とまでは行かないが、ケーニンと同じくらいの規模はある。港は人でごった返し、街の中心部も商店で賑わっている。ここからユウたちを見つけるのは難しそうだ。さてどうするか、と考えていると、わしの悩みを見透かしたようにメイが言う。


「まずは冒険者ギルドに行ってみませんか?」


「そうじゃな」


 メイの提案になるほどと頷く。生きていくためにはどうしたってお金を稼がないといけない。この世界に不慣れな二人のことだ。おそらく冒険者ぐらいしかお金を得る手段はないだろう。となれば、ギルドに行けば会えるかもしれん。そうでなくても職員なら心当たりがあるはずだ。

 

 というわけで、わしとメイは冒険者ギルドにやってきた。街の規模の割にはこじんまりしているが、きれいな建物である。ここで二人の手がかりが得られるはず。そう思うと年甲斐もなく緊張してきた。

 扉を開け、受付へ。幸いすいていたのですぐに順番が来た。


「いらっしゃいませ。どういったご用でしょうか」


「少し聞きたいことがあっての。タカとイチカという冒険者は知っておるか?若い男女なんじゃが」


 少し緊張しながらそう聞いた。これで二人の居場所が分かる。

 そのはずだ。

 受付嬢は少し首をかしげた後、ゆっくりと口を開いた。

 果たして、返答はーー


「タカさんとイチカさんですか?申し訳ありません。心当たりはありません」


 ーー否、だった。

 ユウとユイなんて知らない、と。

 そんな馬鹿な、と叫びそうになったのをぐっと堪え、重ねて聞く。


「っ!最近この街にやってきたと思うんじゃが・・・」


「すみません。そういった方は来られていないと思います」


 しかし、それでも受付嬢には覚えがないようだ。嘘をついている様子はない。そもそも嘘をつく理由もない。となると、本当に知らないのだ。


「・・・そうか」


「あなた。一旦出ましょうか」


「そうじゃな。すまん。邪魔したの」


「いえ。またいつでもお越し下さい」


 ギルドを出て、わしとメイはとぼとぼとヴェラの街を歩く。間違いなくここにいると思った。それだけにショックが大きい。いったいユウとユイはどこに行ってしまったのか・・・。

 すると、メイが言う。


「冒険者ではない仕事をしているかもしれません。それか、既に別の街に行ってしまったか」


「そうじゃろうか」


「ええ。見たところヴェラの冒険者ギルドはあまり大きな規模ではないと思います。なので別の仕事で稼ぐか、いっそ別の街へ行ったとしても不思議ではいません」


 そう言えば建物も小さかったし、建物内にも冒険者の数は少なかった。この分では魔物討伐の依頼もあまりないだろう。冒険者として稼いだり鍛えたりするには不向きな街かもしれん。


「そうじゃな。それならまず宿屋や馬車乗り場で聞き込みをするかの」


「ええ。そうしましょう」


 わしらは街の宿屋、馬車乗り場、飲食店、食料品店、雑貨屋、武器屋・・・。片っ端から聞き込みをしていった。ユウ、もしくはタカと名乗る黒髪の少年と、ユイ、もしくはイチカと名乗る黒髪の少女は見なかったか、と。つい最近この町に来ていなかったか、と。

 

 しかし・・・


「どうじゃった?」


「いえ。何も情報は得られませんでした」


「わしもじゃ・・・」


 一行にユウとユイの情報は得られなかった。手分けして聞き込みをするも、わしもメイも全て空振りだった。間違いなく船でヴェラに来たはずなのだが・・・。


「どこに行ったんじゃ・・・」


 やっと追いついたと思ったのに・・・。

 

 わしとメイは途方に暮れてしまった。

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