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103話 コイルの課題(1/3)

「いらっしゃいませ。タカさん。イチカさん」


「おはようございます。リーンさん」


「おはようございます」


 翌日、俺と結依は冒険者ギルドを訪れていた。今回はゴブリン討伐ではない。コイルさんに魔法の呪文書をもらう条件として出された三つの依頼を受けるためである。

 今日はギルドに何人か冒険者がいる。それでもアルス王都に比べれば閑古鳥が鳴いている状態だ。だがまあリーンさんにすぐ会えるので都合はいいのだが。リーンさんに例の依頼を受けることを告げると、分かりました、と依頼書を三枚出してくれた。


「こちらになります。ホワイトウルフの散歩、シトレアン村のほこらの修理、空き家の修理です。どれから受けられますか?」


「そうですね・・・。この順番通りでいいと思うけど。どうする?イチカ?」


「私もそれでいいと思うわ」


「承知しました。まずはホワイトウルフの散歩ですね。依頼人はハイネンにお住まいの老夫婦です。年齢のために遠くまで連れて行ってやることが出来ないそうです。出来ればシュトレ山の手前当たりまで散歩させてあげてほしいとのことです」


「分かりました」


 リーンさんの説明に俺は頷く。魔物の散歩ならアルス王都でも経験済だし、普段からリルの散歩もしているし、大丈夫だろう。

 シュトレ山まではゆっくり歩いても一時間かからない。長めの散歩にはちょうどいい距離だ。うちのリルの散歩も兼ねれば俺たちも楽しめる。途中の草原でピクニックをするのもいいかもしれない。と、思っていたが。


「ただ、気をつけて下さい」


「はい?」


 楽観的に考えていた俺たちに、リーンさんが真剣な顔でそう言った。


「ホワイトウルフは気性が荒く、飼い主以外には懐きません。なので誰も受けたがらないんですよ」


「わ、分かりました」


 そう言えば、この三つの依頼は誰も受けたらない癖が強い依頼だった。ホワイトウルフの散歩も一筋縄ではいかないようだ。



 さて、ホワイトウルフの依頼を受け、俺、結依、リル、エンの四人で依頼人の元へ。ここから歩いて10分ぐらいの一軒家に住む老夫婦のようだ。


「ごめんください」


 ややこぢんまりとした家。小さめの庭には色とりどりの花が咲き誇り、目を楽しませてくれる。そこで作業をしていた男性に声を掛ける。


「はい」


 俺の声に応えたて、こちらを向いてくれた。70代くらいの男性だった。やや腰を曲げ、頭はすっかり白くなっているが、ニコニコと愛想のいい笑みを浮かべて俺たちの方へ歩いてきてくれた。


「どちら様ですかな?」


「初めまして。冒険者のタカとイチカと言います。ホワイトウルフの散歩の依頼を受けて参りました」


 俺がそう名乗ると、男性は一瞬目を丸くしたあと、うれしそうに破顔した。


「おお!冒険者の方でしたか!ありがとございます!依頼人のノイエス=フコー=ベンヤミンと申します。どうぞ、お入り下さい」


「ありがとうございます。あの、犬と鳥の従魔がいるんですけど、一緒にお邪魔してもいいですか?」


「もちろんですとも。おぁ。可愛らしいですな。さ、どうぞ」


「「お邪魔します」」


「わん!」


「ぴぃ!」


 そうやって俺たちはリビングに通された。そこにはソファに座って大型犬をブラッシングする老婦人がいた。


「こちらが妻のヘリーナです。ヘリーナ。冒険者のタカさんとイチカさんだ。ファングの散歩の依頼を受けて下さったんだ」


 ノイエスさんに紹介された老婦人はヘリーナさんというらしい。俺たちを見つめるとぺこっと軽く頭を下げ、にこっと微笑んだ。


「まあ!ありがとうございます。ヘリーナといいます。受付の方にはホワイトウルフは気性が荒いから難しいかもしれないと言われたんですが。受けて下さってありがとうございます」


「いえ。お役に立てるかは分かりませんが」


「早速紹介しますね。こちらがホワイトウルフのファングです」


「グルルルル!」


「わっ」


 ヘリーナさんの膝に乗っている大型の白い犬。これがホワイトウルフだという。事前に聞いていたとおり、気が強そうだ。俺たちに向かって牙を剥いて唸ってきた。


「こら、ファング。お行儀よくしなさい。すみません、タカさん、イチカさん。普段はおとなしいんですけど・・・」


 ヘリーナさんは困ったように言ってファングをなでる。それでいったんはおとなしくなるのだが、俺たちが近づこうとするとまた唸る。それでヘリーナさんがたしなめて・・・。の繰り返しだ。


「うーん。どうしよう」


「そうね・・・」


 これではファングを連れて行けない。俺たちが途方に暮れていると、


「リル?」


 リルがぽてぽてと歩き出し、ファングに近づいていった。


「グルルル」


 案の定、ファングはリルに唸る。が、しかし、リルが一鳴き。


「わん!」


「ぐるっ!?」


 なんと、ファングが目を丸くし、驚いたように身体を跳ねさせた。どうしたんだろう、俺たちがそう思っている間に、さらにリルが吠える。


「わん!わんわん!」


「ぐる~」


 ファングが唸る。だがそれは威嚇と言うよりなにか戸惑っている、迷っている、そんな感じの鳴き声だった。


「わん!」


「・・・くぅ~ん」


「まあ」


 リルの強い声に、ファングはすっかりおとなしくなった。これには俺たちも、ヘリーナさんたちも驚きだ。


「くぅ~ん」


 さらに驚くことに、ファングはヘリーナさんの膝から下りて、ぺたんと床に伏せた。


「わん」


 そしてなんと、その頭をリルがなめる。身体は断然リルの方が小さいのだが、完全にリルがファングを手懐けているような様子だった。その様子を見て、ノイエスさんがほっと一息ついた。


「ふぅ。ファングがおとなしくしてくれてよかった。では、散歩をお願いできますかな?」


「ええ。よかったわ。私たちじゃあこの町を散歩させるのがせいぜいでしたから」


 その言葉を聞いて、俺はファングを見つめた。もしかしたらこの子は、運動不足でストレスがたまっているかもしれない、と。俺たちに唸ったのは元々の気性の荒さもあるかもしれないが、動けないストレスもあるかもしれない。そこで俺は二人にこう提案した。


「じゃあ運動不足かもしれませんね。よかったら一日遊ばせてきましょうか?」


「え?でもご迷惑ではありませんか?」


「いえ。全然。僕たちもリルを遊ばせたかったので」


 いいか?と結依に視線で聞くと、こくんと頷いた。事後承諾になってしまったが、結依も賛成のようだ。一方のベンヤミン夫妻も顔を見合わせた後、申し訳なさそうに言ってきた、


「そう・・・。ではお願いできますか。もちろん報酬はその分お支払い致します」


「い、いえ。こちらから言い出したことですし。結構ですよ」


「そうはいきません。お二人はそれだけのことをして下さるんですから。ぜひ払わせて下さい」


「・・・では有難くいただきます」


「ええ。そうして下さい。ああ、それではこれをお使い下さい。えっと、確かこの辺に・・・」


 ノイエスさんは戸棚を開け、何かを探すようにゴソゴソし出した。やがてあった、と言って小さなボールを取り出した。そのボールを見て、ファングの目がキラッと光った。


「わん!わん!」


「こら。落ち付きなさい。これはファングが好きだったおもちゃです。投げるとうれしそうに取ってくるんですよ」


 どこの国でも、どこの世界でも犬はボール遊びが好きらしい。リルも好きだから一緒に遊ぶのにちょうどいいかもしれない。そう思ってボールを受け取った。

 めどが付いたところで、早速散歩に出発することにした。

 

「では行ってきますね」


「お願いします」



 俺、結依、リル、エンのいつもの四人にファングを加えて、シュレル山までの散歩に向かう。


「わん!」


「ぴぃ!」


「くぅ~ん」


 リルとエンは上機嫌だ。これだけでも来た価値があるというものだ。あと気性が荒いと言われたホワイトウルフだが、リルのおかげでとてもおとなしい。吠えることもなく牙を剥くこともなく静かに歩いてくれている。


 やがて俺たちは街を出て(この町はアルス王都のような石の立派な壁ではなく、木の柵と堀で街を守っている)、草原に入った。ここから30分~1時間でシュトレ山に着く。

 しばらくのんびりと歩く。青い空に爽やかな風が吹く。こうしているとアルス王都の外の草原を思い出す。ロッシュとメイさんとピクニックをしたっけ。あの二人は元気かなぁ。あ、それと村上たちも。前田や貴族に目をつけられていなきゃいいけど。

 10分ほど歩いただろうか。結依が立ち止まって言った。


「この辺でいいかしら。遊びましょうか」


「「わん!」」


「ぴ!」


 リルもファングも、エンもノリノリだ。

 ボールを投げて、取ってこさせる遊び。俺たちがポーンと投げると、リルとエンがものすごい速さで取ってくる。エンはくちばしで挟むには大きすぎるが、器用に両足に挟んでボールを掴む。


「わん!」


「ぴぃ!」


 リルとエンが強い。投げると大体この二人のどっちかが追いついてしまう。ややエンの方が勝率が高いか。リルのジャンプ力もすごいが、やはり空を飛べる分、エンのほうが有利だ。というか、リルとエンがすごすぎる。ボール遊びって大体、ボールが地面に転がってから拾うもんだろ?なんで空中にあるボールをダイレクトキャッチするんだよ。そのせいで、


「くぅ~ん」


 ボールを全然取れないファングがすねてしまった。ファングだって遅くはないんだが・・・。いかんせんリルとエンが速すぎる。


「リル。エン。もう少しファングにも遊ばせてあげなさい」


 すると、俺と同じことを思ったのか、結依がリルとエンにそう言った。リルとエンははっと我に返ったように驚いたあと、ファングに申し訳なさそうに近づいた。


「わふ!」


「ぴ」


「くぅ~ん」


「わふぅ」


「ぴ」


 その後はファングも適度にボールを取れるようになった。

 ボーラ遊びが一段落すると、のんびり昼食を食べたり、軽く散歩したり、またボール遊びをしたり・・・。夕方頃までもふもふたちと存分に遊んだ。

 

 日が暮れる前にはベンヤミン家に戻った。その庭では老夫婦が待っていた。


「わん!」


 その姿を見つけると、ファングは一目散に駆けていき、ノイエスさんに抱きついた。

 

「おお、ファング。お帰り。楽しかったかい?」


「わん!」


「そうか。それはよかった」


 ノイエスさんはファングをうれしそうになで、なでられるファングもうれしそうに尻尾を振っている。とても心温まる光景だった。


「タカさん。イチカさん。ありがとうございました」


「いえ。僕たちも楽しかったですから」


「ギルドにはいいようにお伝えしておきます」


「すみません。ありがとうございます」


 こうして一つ目の依頼、ホワイトウルフの散歩は無事に終了した。


「リル。ありがとな。お前のおかげで助かったよ」


「わん!」


 さて、残るはほこらの修理と空き家の掃除だ。

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