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101話 エン(2/2)

 シュ


「え?」


 俺の口から思わず声がもれた。いや、それは仕方ないと思う。だって、いきなりエンの姿がかき消えたのだから。

 しかし、直後にもっと驚くべき光景が待っていた。


「ぴぃぃ!」


ゴオオオオオ


「ギィィィィィ!」


「「なっ!」」


 俺だけでなく、結依も驚いた。なんと、ゴブリンの背後から炎が立ち上ったからだ。

 その炎はゴブリンを包み込み、小さな身体を焼き尽くす。


「ギ・・・ィ・・・」


 ゴブリンの悲鳴がどんどん小さくなる。やがて炎が消えると、真っ黒に焦げたゴブリンが立ち尽くしていた。顔は上を向き、目はうつろで口もぽかんとあいている。死んでいるのか?そう思った瞬間、ゴブリンの身体が傾き、バタン、と音を立てて倒れた。そのままゴブリンはピクリとも動かない。どうやら本当に絶命したようだ。


「ぴぃ!」


 ゴブリンが倒れたことで、その背後の空間があらわになった。そこにいたのは、赤い小鳥だった。ぴぃぴぃと自慢げに鳴きつつ、俺たちの方へやってくる。そのまま俺の肩に止まり、頭をこすりつけて甘えてくる。俺はその頭をなでてやりながら聞く。


「これ、お前がやったのか?」


「ぴぃ!」


 そうだよ!というに力強く鳴いた。と、


ぼぉ。


「わ!」


 小さくエンのくちばしから炎がもれた。あの炎は自分が出したのだ、と証明するようだった。


「すごいわね、エン」


「ぴ!」


 結依も驚いているようだった。あの目にもとまらぬ速さと、口から出した炎。まさかエンがここまで強いとは、俺も思いもしなかった。

 これは俺たちにとって大きな戦力になりそうだ。というか、ぶっちゃけ俺より強い気がする。あの速度で背後に回られて炎を吐かれたら、避けられる自信は無い。リルもそうだが、俺たちのペットはどうしてこんなに強いのだ。それとも、なぜこんな強い魔物が懐いてくれるのかと表現する方が正しいか・・・。いずれにしろ、喜ぶべきことだが、俺が足手まといにならないように頑張らないと。


「じゃあ魔石を回収してくるわね」


「あいよ。・・・エン。これからよろしくな。頼りにさせてもらうぞ」


「ぴ!」


 エンはより一層強く頭をこすリつけてきた。ふわふわした頭の感触がこそばゆい。


「ぴぃ」


「はいはい。なでろ、ってことね」


「ぴ!」


 俺がなでてやると、エンはうれしそうに目を細めた。まあ、かわいいから何でもいいや。かわいいは正義。間違いない。


「わん!」


 そうやって俺がエンと戯れていると、足下のリルが吠えた。初めは敵が現れたのかと思ったが、どうも違うらしい。俺を見上げて、うー、と吠えるように唸っている。

 

「どうした、リル?」


「わん!」


 リルは吠えつつ、俺の足に頭をこすりつける。ぐりぐりと。


「もしかして、なでてほしいのか?」


「わん!」


 俺がそう聞くと、リルは強く鳴いた。しゃがんで空いている手で頭をわしゃわしゃ。するとリルはくぅ~ん、と甘えるような声を出し、いっそう身体をこすりつけてきた。

 やだ。うちの子かわいすぎません?焼き餅焼いてたなんて。そこに、ゴブリンの魔石回収を終えた結依がやってきた。


「リル。私もなでていいかしら」


「わん!」


「あ」


 俺がなでていたのに、結依がそう声を掛けるとぴゃっと結依の方へ走って行ってしまった。そして結依になでられると尻尾をフリフリしながらなでなでを堪能している。リルを取られた格好だ。いや、リルはかわいいからいい。問題は結依だ。


「結依。俺がリルをなでてたんだ。取らないでくれ」


「悠にはエンもいるじゃない。私にもなでさせてよ」


 むー、とにらみ合う俺たち。


「ぴ!」


「わん!」


 すると、エンとリルが鳴いた。ケンカするな、と言っているようだ。俺と結依は仕方ないな、とため息をつき合い、なでなでを再開した。

 しばらくそうやって戯れていると、リルが、わん!と力強く鳴いた。


「どうしたの、リル?」


「わん!わん!」


 結依が聞くと、リルは茂みの奥を向きながら強く鳴く。その顔はきりっとして、気合いがみなぎっているように見えた。


「もしかして、リルも戦いたいのかしら」


「わん!」


 その声は、結依には肯定に聞こえたようだ。


「じゃあ次はリルがお願いね」


「わん!」


 というわけで、至福のもふもふタイムは終わった。ゴブリン討伐の再開だ。


 まずはリルが中心になってゴブリン討伐。さっそく敵を見つけると、目にも止まら速さでゴブリンの喉元にかみつき、絶命させた。俺たちは再びあきれかえった。知ってはいたけど、つぇぇ・・・。自慢げなリルをなでてやり、魔石を回収する。


 その後は俺と結依が中心になってゴブリン討伐を行った。リルとエンより俺たちの方が弱い。魔王討伐には俺たち二人のレベルアップが不可欠だ。俺が単独でゴブリンを討伐したり、結依が魔法で引きつけつつ俺がとどめを刺したり。

 そして夕方頃にゴブリン討伐を切り上げることにする。今日は10頭以上のゴブリンを討伐した。当座の資金を確保できたし、実戦感覚を取り戻すことも出来たし、エンの強さも確認できることも出来た。上出来だろう。俺は心地いい充実感すら感じながらリルとエンをねぎらう。


「お疲れ様。リル。エン」


「わん!」


「ぴぃ!」


 最初にエンとリルの強さを確認して以降は、二人にはサポートに回ってもらった。ゴブリンの群れと対峙したときなんかは俺と結依だけでは厳しい部分があったから。結依が魔法で牽制するにも限界があるし、俺はもちろん一頭ずつしか殺せないから、二人だけだと手が回らないところを助けてもらった。


 ところで、一つ気になったのは。


「どうした、結依?」


「・・・いえ。なんでも」


 結依の表情が浮かなかったことだ。途中から結依の顔がどんどん暗くなってきたように感じる。俺としては実に有意義な一日だったのだが。何か気になることでもあるのだろうか。しかし本人は何でも無いと言っている。ならば少し様子を見てみることにしよう。

 こうしてハイネンでの初めてのゴブリン討伐を終えた。

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