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100話 エン(1/2)

「あら。タカさん。イチカさん。いらっしゃいませ」


「リーンさん。こんにちは」


「おはようございます」


 ハイネンに来て三日目。俺と結依はリルとエンを伴って冒険者ギルドに来ていた。初めて依頼を受けるためである。ハイネンに来た一昨日と昨日はゆっくり身体を休めていたが、そろそろ働いてお金を稼がないといけない。

 ちなみに、俺はこんにちはとリーンさんに挨拶したが、結依はおはようございますと挨拶をした。確かに時刻は朝だが、わざわざ俺と違う挨拶をしなくてもいいじゃないか。結依のこういう細かいところは嫌いだ。


「今日から依頼を受けられるんですか?」


「はい。魔物討伐の依頼などがあればいいんですが」


 まあでも気を取り直してギルドで依頼を受注だ。魔王討伐を目標にしている俺たちは少しでも強くなりたい。そのためには魔物討伐の依頼を受けて経験を積むのが一番だと思う。だからハイネンに残ったというところもある。そう考えていると、リーンさんは受付ブースからわざわざ俺たちのところまで来てこう言ってくれた。


「そうですか。せっかくなので色々ご説明しましょうか?」


「いいんですか?」


「ええ。ご覧の通り、今は閑古鳥が鳴いていますので」


 確かにギルドには俺たち以外の冒険者はいない。アルスの王都は常に冒険者で賑わっていたイメージだから、少し驚いてしまう。もしかしたらリーンさんも暇していたのかもしれない。それに俺たちもこの街に来て間がないので説明してくれるのは正直有難い。結依と目を合わせて頷き合う。そしてリーンさんにお願いします、と言った。

 リーンさんはにっこり頷き、お任せ下さい、と言ってくれた。


「魔物討伐の依頼ですと、ゴブリン、オーク、オーガ辺りが中心になってきます。そして場所は主にシュレル山とその奥に広がるシュルバの森になります」


 依頼書が張られた掲示板でリーンさんが説明してくれる。D級だとやはりその辺りの魔物討伐が中心になるらしい。これはアルス王国と同じだ。そして聞き慣れないのはシュレル山とシュルバの森という単語だ、結依も気になったのか、リーンさんに尋ねた。


「シュレル山とシュルバの森ですか?」


「ええ。街の北側に山が見えませんか?あれがシュレル山です。そしてその奥にシュルバの森が広がっています。シュルバの森は沿岸部から大陸中央部に延びる細長い森で、それがそのままアルス王国との国境にもなっているのです」


「そうなんですか」


 確かに街の外に大きな山が見えたような気がした。山脈というよりは三角形の、富士山みたいな独立した山だったような。そしてその奥に森があるらしい。これは街からは見えなかった。


「ただ、シュルバの森は遠いので、行くのなら野宿をする必要があります。お二人はまだこの町にも慣れていないので、まずはシュレル山で受けられる依頼をおすすめします」


「そうですね。タカ、どうする?」


 野営を避けてシュレル山の依頼を受けることには俺も賛成だ。次はどんな魔物討伐を受けるか、だ。ロッシュさんのもとにいた頃はオーク討伐まで経験した。とはいえあれはロッシュさんが見守ってくれたいたし、戦いで負った怪我をメイさんに治してもらっていた。とすると、ゴブリン討伐から始めるのが無難か。それに、と俺は肩に乗る小鳥を見る。


「ゴブリン討伐にしよう。俺たちの実力的にも無難だし、エンの実力というか、どれぐらい強いかも見てみたいから」


「そうね」


「ぴぃ!」


 ゴブリン討伐が魔物討伐で一番難易度が低い。もしエンが全く戦えなくても俺たちで十分対処できる。そういう思いもあってゴブリン討伐を提案した。これには結依も、そして当のエンも乗り気だった。


「畏まりました。ではこちらへ」


 その後シュレル山でのゴブリン討伐の依頼書(討伐数の指定無し。倒した数だけ報酬が支払われる)を受付で処理してもらい、俺たちは依頼に出かけた。



 ハイネンの街の街から歩いて30分ほどだろうか。シュレル山の麓に来た。ここからなだらかに傾斜が続いている。山には草が生い茂り、木々が乱立している。登るにつれて光が届かなくなりそうだ。麓で少し休憩しながら俺はエンに聞いた。


「エン。ゴブリンと戦えるか?」


「ぴぃ!」


 俺がそう聞くと、エンは胸を張ってそう鳴いた。なんとなく、任せて!と言っているように感じた。


「じゃあゴブリンを見つけたら討伐してみてくれ。無理はしなくていいからな。最悪空に飛んで逃げてくれ」


「ぴぃ!」


 エンの強みは空に飛べることだ。相手が空を飛べないという前提ではあるが、どうしても勝てない相手でも飛んで逃げるという手段をとることが出来る。それは見守る俺たちにとっても安心できる材料だ。

 さて、エンがゴブリン討伐を引き受けてくれた。そう思った俺はいよいよ山に登ることにした。


「よし。行くか」


「ええ」


「わん!」


「ぴ!」


 俺を先頭に、リル、エン、最後に結依と続く。ここからは常に魔物が出てくる可能性がある。行動は慎重に。山道をゆっくりと歩き始めた。


 10分ほど歩いただろうか。


 ガサガサ


 目の前の茂みからそう音がした。俺は立ち止まり、じっとその茂みを見つめる。この気配はきっとーー


「ギ」


 来たっ。やはりゴブリンだ。緑の小さな体躯に、手には木の枝を持っている。数は一匹。俺たちにはまだ気付いていない。


「エン。いけるか?」


「ぴ」


 そっと俺がささやくと、エンも小さな声で鳴いて返事をした。そしてふさぁ、と飛び立つと、ゴブリンの目の前に向かっていった。


「ギギギ!」


「ぴ!」


 ゴブリンの目の前にエンが躍り出た。そのまま挑発するようにゴブリンの周りはうろちょろとと飛び回る。それでエンに気付いたゴブリンは少しぽかんとエンを見つめあと、ブンと木の枝をエンに向かって振り下ろした。


「ぴ」


 しかし、エンはいとも簡単にそれを避ける。そればかりか、ゴブリンを挑発するように、右へ左へ軽やかに飛んでみせる。


「ギィィ!」


「ぴ!ぴ!」


 ゴブリンはそれに苛立ったようだ。目障りなエンを叩き潰そうと、手に持った木の枝をブンブン振り回す。しかしエンはひらひらと軽やかに舞ってことごとく躱していく。


「ギギッ!」


 それがまたゴブリンを苛立たせるようだ。枝をめちゃくちゃに振り回す。しかしエンはゴブリンの攻撃をものともしない。

 その後も、ゴブリン枝を振り回し、エンが避けるという攻防が続いた。しかしまったく当たる気配がない。見守る俺たちにとってはひとまずほっとする光景だ。あれだけの素早さがあればそう簡単に魔物に対して遅れは取らないだろう。しかも、体力もある。ゴブリンの動きが段々鈍ってきているのに対して、エンはまだまだ余裕そうだ。

 しかし、攻撃する手段はあるのだろうか。あの身体の小ささだから、体当たりをしても当たり負けするだけだろうし、くちばしだって小さいから相手の皮膚を切り裂けるとは思えない。

 と。


 シュ


「え?」


 俺の口から思わず声がもれた。いや、それは仕方ないと思う。だって、いきなりエンの姿がかき消えたのだから。

 しかし、直後にもっと驚くべき光景が待っていた。


「ぴぃぃ!」


「ギィィィィィ!」


「「なっ!」」


 俺だけでなく、結依も驚いた。なんと、ゴブリンの背後から炎が吐き出されたからだ。

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