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99話 追跡

「ケーニンまで二人頼む」


「あいよ」


 ユウとユイがいなくなって二日後。ようやくケーニン行きの馬車が再開した。途中でゴブリンの群れが発生した影響で運転を取りやめていたが、どうやら解決したらしい。

 朝一の便に乗り込み、御者であるフィガロに運賃を渡す。この馬車はリントンを経由して港町のケーニンへ向かう。そして何を隠そう、このフィガロはリントンまでユウたちを乗せたという。


「二人とも、あの若者を追ってるんだろ?じゃあケーニンのバルティ雑貨店に向かうといい。あの若者たちと一緒に乗ってた若夫婦はその雑貨店の店主の息子だって言ってたからよ」


「おお。そうか。恩に着る」


 その馬車に乗り込み、ケーニンへ向かう。幸い、道中は何もなかった、途中リントンに寄って、一時間ほど小休憩。そこから御者が代わり、ケーニンへ。盗賊に会うことも、魔物に襲撃されることもなく、夜にはケーニンへ着いた。


「まずは宿ですか?それとも船の予約を取ります?」


「いや、まずはバルティ雑貨店とやらに向かおう」


 まずはバルティ雑貨店に行くことにする。ユウたちと一緒に乗りあわせたという一家。その一家の両親が雑貨屋を営んでいるようだ。この人たちに会って、ユウたちの話を聞きたい。ユウたちは元気か、この先船でヴァーナ王国に向かったのか、そもそもわしらが追っているのは本当にユウたちなのか。それらを確かめる必要がある。

 ケーニンの街を歩いて、バルティ雑貨店に到着した。街の外れにある小さな雑貨店だ。こじんまりとしているが掃除もよく行き届いており、並べてある雑貨も悪くない。


「ごめん」


 その店に入り、陳列をしていた若い男に声を掛ける。その男はわしの方を振り返り、にっこりと微笑んだ。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」


「ああ、すまん。客ではないんじゃ。ルイスという者はおるか?」


 わしがそう言うと、その男は少し驚いたような顔を見せた後、


「私がルイス=ミード=バリティですが。どういったご用で?」


 そう名乗った。どうやらわしは知らずに目的の者に声を掛けていたらしい。


「わしはロッシュ=ロランーミード=ベイルじゃ。少し聞きたいことがあっての」


「妻のメイ=ロランーミード=ベイルです。お忙しいところすみません」


「き、騎士爵の方ですか。ど、どういったご用ででしょうか」


 わしらが名乗ると、ルイスは恐縮したように慌てて頭を下げた。わしらが一応爵位を持っていることに気づき、驚愕したようだ。しかし、わしらの爵位なんておまけみたいなもの。元はと言えばこの男と同じ平民だから、畏まられると逆にこそばゆい。

 それにお願いがあるのはこちらの方だ。だから礼を尽くすのはむしろわしらだ。


「いや、そんなに畏まらんでくれ。おぬし、最近王都から馬車でこのケーニンに来たんじゃろう?」


「は、はぁ。そうですが」


「そこで、ユウ、ユイという若者と一緒じゃったか?」


 若干緊張しながそう問うた。ルイスの答えは、はたしてーー


「え、ええ。確かにユウくんとユイさんと一緒になりましたよ。あとリルというわんちゃんも。このケーニンまで一緒でした。ヴァーナ王国へ行くって言ってましたね」


 それを聞いて、どきっと心臓が跳ねた。間違いない。ユウたちの足跡をたどることが出来た。これで確信を持ってヴァーナ王国へ行くことが出来る。メイト二人で顔を見合わせ微笑んだ。


「あの。ユウくんとユイさんがどうしたんですか?」


 ルイスが恐る恐るそう聞いてきた。単なる好奇心というよりは、ユウたちを心配しているような口ぶりだった。それがなんだかうれしかった。ユウたちを心配してくれる人達がいるっていうことが。


「ああ。実は二人はわしらの子供同然の子たちなのじゃが。勝手に家出しおっての。じゃから妻と二人の後を追っておるんじゃ」


「そ、そうなんですか。うちの娘とも遊んでくれたいい子だったんですが・・・」


「ま、あいつらにも事情があっての。ともかく、助かった」


「あ、いえ。ユウくんとユイさんによろしくお伝え下さい」


「うむ」


 丁寧に礼を言って、わしらはバルティ雑貨店を去った。歩きながら、メイが興奮したように言う。


「ユウさんたちに追いつけそうですね」


「そうじゃな。早速船の予約を取ろう」


 二人で喜び合って、足早に船着き場に向かう。もうすぐユウたちに会える。そう思い、足取りは軽かった。

 しかし、そこでなんとーー


「申し訳ありません。本日からヴァーナ王国ヴェラ行の船は運行を中止しております」


「な、なぜじゃ!?なにがあったのじゃ!?」


 受付で、船が出航中止だと伝えられた。驚いてそのわけを尋ねると、受付の女性は深刻そうな顔で話し始めた。


「実は・・・。ヴァーナ王国とアルス王国の国境の沖合で、ブラックドラゴンの群れが現れたのです。幸い被害はありませんでいたが、安全が確認されるまで、船の出航を取りやめております。ご理解下さい」


「な、なんじゃとっ!?」


 ブラックドラゴンの群れ!?なんということが起こったんじゃ!?

 わしが驚きのあまり絶句していると、隣のメイも目を見開いていた。わしにとってもメイにとっても予想外の出来事じゃ。


「ユウさんとユイさんは大丈夫でしょうか?」


 そうじゃ。ユウとユイは大丈夫じゃろうか。本日から中止と言うことは、昨日ユウが船に乗ったタイミングでドラゴンの群れが現れてもおかしくはない。二人は巻き込まれていないだろうか。


「ケーニン行の船に被害はあったかの?」


「いえ。今のところ、船が襲われたという報告も入っておりませんし、大丈夫だと思います」


 その言葉を聞いて、ひとまず安心する。船には乗ったが、大事にはなっていないようだ。


「それで、どれぐらいで再開しそうなんじゃ?」


「今日明日ではなんとも・・・。10日、長ければ一ヶ月ほどかかるかもしれません」


「そうか・・・」


 わしは肩を落とした。事情が事情とはいえ、歯がゆい事態じゃ。ここで何日も足止めを喰らうのか。見えかけたユウとユイの背中が再び遠ざかってしまった。


「あなた。仕方ありませんよ。ひとまず宿を取りましょう」


「そうじゃな・・・」


 こうしてわしらはまた足止めを喰らうことになった。

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