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96話 船(2/2)

「悠っ!」


 バサ バサ


 ドラゴンたちは翼をはためかせる。


 俺は歯を食いしばる。ぐっと身体に力が入る。


「「「グルッ」」」


 そしてドラゴンたちはーー


 バサッバサッと翼をはためかせ、


「え?」


 そのまま、飛び去っていった。俺たちに背を向けて、やって来た方向に去って行った。その姿は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。


 なぜ?すぐに帰るなら何しに来たんだ・・・?そんな疑問が去来する。が、ひとまず、


「助かった・・・のか・・・?」


 襲われなかった。その安堵感が一番大きい。はぁ、と息がもれる。と、


「悠っ!」


 ベンチの下から飛び出してきた結依に後ろから抱きつかれた。その勢いを殺しきれずおもわずつんのめる。落ち着け、と抗議しようとしたが、その前に結依の声が聞こえてきた。


「もうっ!なんで隠れないのよっ!」


「いや~。あはは・・・」


「あははじゃないわよ!もうっ!・・・ほんとに、もぅっ・・・」


 その声も徐々に小さくなっていき、最後には聞こえなくなった。俺の服を握る手が一層強くなった。しわになりそうだな、とのんきに考えていると、目の前に白いもふもふが見えた。


「わん!」


 リルが俺の正面に周りこみ、前足で俺の脚をてしてしと叩く。かわいい。じゃなくて、これは抱っこしろ、という催促だろう。


「はいはい」


 しゃがみ込み、リルの小さな身体を抱える。するとリルは俺の顔をペロペロとなめだした。


「はははっ。くすぐったいなぁ」


「もう・・・」


 後ろから結依の呆れるようなため息が聞こえた。そして結依は俺の背中から離れ、横に並んだ。

 改めて見た結依の表情は、困ったような、泣きそうな、眉が下がったような表情だった。でも、無事でよかった。結依もリルも。

 甲板はいつの間にか静かになっていた。どうやらほとんどの乗客は船室に避難し、残っているのは俺たちぐらいだ。


「俺たちも部屋に戻るか」


「そうね」


「ぴぃ!」


「「・・・ん?」」


 鳥の声が聞こえてきた。可愛らしい声。先ほどドラゴンのうなり声に混じって聞こえてきたのと同じような声だ。

 キョロキョロと見渡すと、上空に赤い小鳥が羽ばたいているのが見えた。先ほどのあの鳥だ。


「わん!」


「ぴぃ!」


 リルが小鳥に向かって吠えた。威嚇というよりは親しげな挨拶のようにも聞こえる、そんな声だった。それに対して小鳥はまた一鳴きすると、そっと近づいてきた。


「どうしたのかしら、この子」


 結依も驚いているようだ。その鳥はパタパタと羽をはためかせ、ゆっくりと高度を下げてくる。大きさは20センチほどだろうか。身体は燃えるような真っ赤な羽毛で覆われている。


「ぴぃ」


「わん」


 小鳥に俺たちに対する敵意はなさそうだ。むしろ、なんとなく友好的な感じすらする。リルも警戒している様子は見られない。だから俺も武器に手をかけたりとかそういったことはせずに見守っていたのだが・・・。


「ぴぃ」


 その鳥は止まることなく、どこかに行くこともなく、どんどん俺たちの方へ下りてくる。そしてなんと、


「ぴぃっ」


「え?」


そのまま俺の肩に止まってしまった。


「ぴぃ。ぴっ」


 小鳥は俺の肩に止まり、さらに頭を俺の頬にこすりつける。まるで甘えているような仕草だ。


「なんで・・・?」


 この鳥はなんで俺の肩に止まったんだ?なんで俺に懐いているんだ?訳が分からなすぎる。待て待て。一旦整理しよう。

 まずドラゴンの群れが現れた。襲われる、と覚悟したが、幸いすぐに去って行った。するとその群れに何故か混じっていた赤い小鳥だけが残り、さらに意味不明なことにその鳥は俺の肩に止まり、まったりしている。うん。意味が分からん。

 でも邪険にする気は起きなかった。むしろ好意さえ抱いてしまう。とりあえず小鳥の頭を指で優しくなでてみる。するとぴぃぃとうれしそうな鳴き声を上げた。かわいい。


「悠?なんなの?その鳥は?」


「俺にも分からん。おっと」


「ぴぃ」


「きゃっ」


 俺の右肩に止まっていた小鳥が飛び立ち、今度は結依の肩に止まった。そのまま結依の顔に頭をこすりつけ、甘え出す。


「も、もう・・・」


 口調は戸惑っているが、口元から笑みがこぼれてしまっている。どうやら結依もほだされてしまったようだ。頭を指の原でくりくりと優しくなで始めた。


「ぴっ。ぴっ」


 結依に構われて小鳥もうれしそうだ。


「わん!」


「ぴっ!」


「あっ」


 リルが鳴くと、小鳥は結依の肩から飛び立った。結依の口から思わずといった風に残念そうな声がもれた。


「ぴっ」


「わん!」


 小鳥はそのままなんとリルの頭の上に乗った。しかし乗られたリルも嫌そうではなく、まんざらでもなさそうな感じだ。


「ぴぃ!ぴぃ!」


「わふぅ!」


「ぴぴぴ!」


「わん!」


 鳥に乗られるリルと、リルに乗る鳥が鳴き合っている。まるで会話しているような感じで、わんわん、ぴぃぴぃ、と鳴き声を発している。その光景は仲が良さそうに見えて微笑ましかった。とても今日初対面とは思えないほどで、古い友人といった雰囲気すら漂っている。


「悠、どうする?この鳥」


「・・・うーん。どうしよう」


 結依の言葉でふと思い出した。あまりにも自然に溶け込んでいるが、こいつは急に俺たちのところに迷いこんだ小鳥なのだ。しかしだからといって追い払うのは忍びない。そう思っていると、結依が驚きの提案をした。


「いっそのこと、この子も飼えばいいんじゃない?」


「飼うって、お前。そんな簡単に」


「でも、どこかに行きそうにもないわよ」


「そうなんだよなぁ」


 小鳥はリルの頭の上でのんびりしている。リルは仕方ないなぁと受け入れている。あ、小鳥が毛繕いを始めた。お前どんだけリラックスしてるんだ。どこかに飛んでいくそぶりなんて全く見せない。


「うーん。どうしよう」


 しかしそんな簡単に飼うと決めてもいいのか。かわいいけど・・・。こいつだって嫌がるかもしれないし。リルとの相性だって・・・。や、それは大丈夫か。でもとにかく無理矢理飼うっていうのは気が進まない。それに俺たちは危険な旅に出るわけだから、それに巻き込みたくないって気持ちもやっぱりある。


「なあお前、俺たちに飼われたいか?」


 どうしたもんか、と悩みながらそう口にする。意思疎通を期待したのではない。埒があかなくて思わずそう聞いてしまったのだ。

 だが驚いたことに、小鳥は胸を張り、鳴いた。


「ぴぃ!」


 うん!そう言っている気がした。いやいや。それは妄想か。百歩譲ってこの小鳥がリル並みに賢くて俺の言葉が理解できるとしても、俺が動物(魔物?)の声を理解できるわけないのに。ただ、なんとなくこの鳥も俺たちに飼われるのに乗り気である、そんな感じはしたのだ。気のせいだろうか?

 俺だって、これだけ懐いてくれるなら飼いたいとう気持ちがないわけではない。うーん。もしこいつが俺の言葉を理解できるなら・・・。よし、じゃあこうしよう。


「俺たちは今から危険な旅に出るんだ。それでもよければ付いてきてくれ。嫌なら船が港に着くまでにどっかに飛んでいってくれ」


「ぴぃ!」


 なんとなく、俺の言ったことを理解して言うような気がした。だから俺たちに飼われるかはこいつの意志に任せようとそう思った。


「結依。船が停泊するまでこの鳥が俺たちの元へいれば飼おう。その前にどこかに飛んでいけば見送ろう。それでどうだ?」


「そうね。そうしましょう」


「わん!」


「ぴぃ!」


 どうやらリルも、そしてこの小鳥も賛成のようだ。さて、あとはこの船がヴェラに着くまでこいつはここにいるか、だな。それまでに飛び去って行くなら潔く諦めよう。

 こうしてドラゴン騒動は一応無事に収束した。

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