番外編:帝国騎士エドヴァルド
新帝国歴1435年、皇帝は北方戦線でたった一人峠道に陣取り蛮族の首領を何人も討ち取って味方の退却を助け、立て直した後の会戦においても氷の巨人を倒して勝利を決定づけた騎士を呼んだ。
「お前に与えた勲章はこの百年で二人目の名誉ある勲章だ」
「光栄です」
「だが、お前は独断専行が過ぎてどこの軍団からも引き取り手がない」
命令無視、独断専行が過ぎて嫌われて敵軍の真っ只中に残されても逆に活躍して帰ってくる厄介な騎士だった。
「国内に置いてもお前はダルムント方伯と折り合いが悪い」
彼は黙って頭を下げた。
「軍ではお前に与える任務が無い。そこで余からお前に直接任務を与える」
「は」
「世界中の学者達から異常気象、地震急増の報告がある。マナ濃度の急低下などについても各国に派遣している魔術師から報告があった。各地域の専門家に調査は続行させているものの、余はバラバラに調査するのではなく俯瞰的に各国を実地で回りながら調査する別の調査隊を発足させることにした」
現皇帝カールマーンの出身一族はトゥレラ家といい、古代から天文官を務め、天文地理に明るい家柄である。彼は実家からの提言もあり、皇帝の権力を行使し議会からの承認も無く大規模な調査団を結成させた。
「お前にはこの調査隊を護衛して貰う」
「護衛?私は殺し屋ですよ」
「この調査は人類の未来を決める事になるかもしれん。それを妨害する者は皇帝の名において抹殺してよい」
調査団の名簿を受け取った騎士、エドヴァルドはその中に何人か見知った名前を見つけた。
「調査以外に目的はありますか?」
「帝国騎士には世界中の白の街道を巡回し、街道上は帝国領として犯罪を処罰する権利を有する。証拠があれば処断してよい」
「西方圏に反乱の兆しでも?」
「勘ぐるな。ドラブフォルトめは常に帝国に追いつき、追い越せと国民を煽り立てているが本気で反乱を計画するにしても証拠を残すような男ではない。問題は南方圏だ。ヴィクラマの死以来、帝国から離脱しつつある。調査団を頼んだぞ」
「は」
エドヴァルドは命令を受領し立ち去ろうとした。
その背中にカールマーンが声をかける。
「コンスタンツィア殿の事は残念だった。お前が婿養子に入っていれば余はお前を片腕と出来たかもしれなかったのに。本当に残念だった」
「陛下、彼女は死んだ。他ならぬ祖父の手によってその未来は断たれた。二度とおっしゃらないで下さい」
「今回の任務は世界中を巡る旅になる。いつでも帰郷してよいから子供達に会ってやれ。子供達の世話はどうしている?」
「イーデンディオスコリデス老師が面倒を見て下さっています」
「奴には評議員として活躍して欲しかったが、どういう風の吹きまわしかな」
帝国でもトップクラスの魔術師が何故か東方圏南端の辺境国家の王子の子供の面倒を見る為にキャリアを捨てた。皇帝もその子たちの父も理由を知らない。
「さぁ、イザスネストアス老師の命令らしいですが」
これ以上、雑談などしたくないと背中を向けて歩き出す。
「お前の母国での境遇は聞いている。暮らしにくいのならお前達を我が家に召し抱えてもよいのだぞ」
エドヴァルドは肩越しに少し振り返っただけで何も言わず、任務に就き西方へと旅立っていった。




