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第55話 エピローグ

 新帝国歴1435年の春にクラウスは留学を開始した。

この年は蛮族の攻勢が盛んで帝国騎士が転移陣を使い緊急出動したものの、彼らの活躍で戦線が大きく崩れる事は無く撃退に成功した。


クズネツォフは病気がちになりラクナマリアは珍しく後宮を出て見舞に行った。

その帰り道でホスタが問うた。


「クズネツォフ老師はラクナマリア様にとって父のような方なのでしょうか?」

「難しいな。わたくしにとってはそれに近いが、もう一人の、そして前世の私達には憎い仇にも近い」

「では何故当時のラクナマリア様はクズネツォフ老師を頼ったのですか?」

「彼にだけ暗示を解く綻びが見えた」


シャフナザロフが狂い始め、内紛で魔術師が減り、管理者が不足した時、クズネツォフが実験体の子供らを管理者として育て始めた。


「綻び、ですか?もし私が誰かに操られそうになったら使えるようなものでしょうか」


魔術師達は光や炎を出したり人形を人のように動かしたり不思議な技を使うが、ホスタが恐ろしいと思うのは精神を操られる事だった。ラクナマリアと親しくなり、大分気を許して貰っている。もし心を操られ裏切りを働いてしまったらと考えると恐ろしくて仕方なかった。


「そうだな。精神への干渉は難しい。術者に逆流する事もある。初代の頃の私を管理していた女魔術師は無防備な夢の中に介入して自分の術だと悟られずに干渉した。当時の私は”マー”のおかげで夢の中で目覚めて逆に干渉した」


もともと異世界、精霊界の住人である”マー”は夢の世界にも地獄にも干渉しうる。


「もう一人の私の方が詳しいだろうが、そこで知識を得てクズネツォフに掛けられた精神操作を解析して綻びを見つけた。彼だけは他の魔術師と違ってその心に愛があった」

「無感情に残虐行為を繰り返していた男が、ですか?」

「そうだ。彼は帝国に妻子を残していた。非道な目的のために実験体を育てながらも愛があった。彼の心に封印をかけた人物は罪悪感や倫理観については知っていても愛を知らなかった。私は彼の父性愛とでもいうべき鍵穴から封印を解除した」


これまで自分の残虐行為を何とも思わなかったクズネツォフに突然感情が戻った。

皇帝と師の命令でやってきた事とはいえその後悔はいかばかりか。

発狂しかけたクズネツォフを癒すのに時間がかかり脱出は間に合わず、そのラクナマリアも大怪我をしてしまう。


「私が産んだ子供達も多くが彼に殺されたのだろう。だが、わたくしにとっては世界を教えてくれた教師だ」


ホスタは元気になるといいですね、と言うべきか何というべきか迷ったが結局何も言わずに頷いた。


 ◇◆◇


 宮殿に戻るとマナールが配達物を届けに来ていた。


「おお、間に合ったか。ではまた明日な」


駄賃を与え、私室に戻って着替える。初めての服なのでホスタにも手伝って貰った。

帝都から届いた伸縮性の高い生地を使ったズボンである。


「黒が良いか、白がよいか・・・うーむ。悩むな」


鏡の前で何度も穿き替えてポーズを取る。


「どちらが良いと思う?」

「時間帯、髪の色に合わせるのがよいかと思いますが・・・どうなさったんです?」

「明日クラウスが戻ってくるらしいから街に遊びに行く」


まだ夏なので帝都の学院に留学中なのだが、土日にドラブフォルトが帰国するのに合わせて帰ってくる。転移陣は世界中に散らばっているが、全て帝都のメインゲートを利用する必要がある。世界中の百以上の国々、自由都市、帝国軍団、そして当然ながら帝国政府の関係者が使おうとすれば中々予約できない。

選帝侯は特別扱いで優先利用可能となっている為、クラウスもねじ込めた。


「まさかそんな格好で外出されるつもりですか?」

「む?似合わないか?」


ラクナマリア的にはなかなかいいと思ったのだが、ホスタは反対らしい。

鏡の前で髪型を変えて見ながらポーズを取ってみる。

引き締まってスレンダーな体がくっきりと浮き立っている。

凹凸はそれほど大きくないが、きゅっと絞られたお尻の位置が高く、腰は細くくびれて、体を逸らすと形のいい胸が上を向く。


「は、破廉恥です!スカートになるものを上から巻いてください!」


乗馬する時のお嬢様達は普通はズボンの上に何かしらを巻いている。


「これはそういう服ではないらしいぞ」


ちょくちょく空を飛ぶラクナマリアは普段スカートの下に白いタイツを穿いている。

それならともかく今のズボンの上にスカートを穿くのは変に感じた。


「帝都の流行りらしい」

「騙されてるんです!女性がそんな格好で外出するなんてあり得ません!」


ホスタも思わず撫でたくなるようなお尻のラインだった。


「昔はみんな裸で生活していたらしいし、平気だろう」

「昔過ぎる!」


クラウスやマナールは一般常識の無いラクナマリアを騙そうとしているのではないかと疑った。ホスタも長い間後宮から出てなかったので服装の流行については疎くなっているが、自分の事はさておいた。


「ところでホスタ。長い間、休暇を与えて無かったな。明日と明後日は小遣いを渡すから休暇をとって遊んできてよい」

「追い出して二人であれやこれやするつもりですね!そうはいきません。私の家はここしかありません!」

「まあよい。マナールにホテルを取って貰ったから」


久しぶりにレイシーとして変装し、クラウスも変装させてお忍びで街中に繰り出すのだ。


「いつの間に!駄目ですよ、まだ早いですってば」

「明日はな、朝から乗馬して、流行りのダンスホールとやらに行って市井の音楽も聞いてみたい。一度ホテルに戻って休んで、夜になったらまた歌劇を見に行くのだ」

「なんでいちいちホテルに戻るんですか」

「うむ。夜の私にも時間をやらねばなるまいし、とはいえ夜の私に独占させたくない。なのでさきにわたくしがだな・・・」

「あーーー、あーーー、聞きたくありません!」


ラクナマリアは気にせずズボンは白にして上に着るシャツの色をまた悩み始めた。


「ほ、本気で二人きりで二日も?」

「駄目か?クラウスが付き添えば安全だろう?初恋なのだ。応援してくれ」


ストレートな要望にホスタは声にならない声を上げて苦しんだ。


「で、でもあの時の二人だってまだ逮捕されていませんし」

「わたくしは強い。心配いらぬ。賊にわたくしの生き方を決めさせたりはせぬ」


 ◇◆◇


 翌朝、留学から戻り一段と逞しくなったクラウスが迎えに来た。


「さあ、出かけましょう」


二人は変装し、腕を組んで王宮から出ていった。ホスタと従者達に尾行されながら。

二人はめいいっぱい幸せな休暇を過ごし、将来を話し合った。


 第一部 完


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