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第54話 覚醒

 ラクナマリアが寝室で目覚めた時、寝室内にはクズネツォフとクラウスしかいなかった。


「先生」

「調子はどうですか」


傷は塞がったものの脈がまだ弱く、安静が必要そうだと診断していたが本人の口から状態を聞きたかった。


「しばらく・・・はまだ動けぬ」

「殿下には全て話しました」

「そうか。ある程度は”マー”から聞いた」

「もうですか?」

「夢の中で」


クラウスには精霊が何なのかまだよくわかっていない。

夢の中にまで本当に出入り出来るのか、もしくは本当にただの夢でしかないのか。


「先生も休んで」


そういってラクナマリアはまた目を閉じてしばらく眠った。


 ◇◆◇


 次にラクナマリアが目を醒ました時、夜遅くだったがクラウスとホスタがいた。


「まだいたのか」

「それはひどい」


ラクナマリアが心底嫌そうに言ったのでクラウスはちょっと泣きたかった。


「わたくしの事は聞いたのであろう?婚約を破棄したくなったか?」

「そんな事はありませんよ」


クラウスは握っていた手にもう一つ手を重ねて優しく撫でる。


「気持ち悪い」

「そんな事はありません」

「気持ち悪いであろう?わたくしはお前と同じような人間ではない」

「そんな事はありませんって。それにその話はここでは」


ホスタを気にする。


「彼女も知っておる」

「そうなんですか!?」


自分がこれまで散々苦労して婚約までこぎつけてそれでも知らなかったのに、侍女だからってそれは酷い。というかそんな風に話してしまうから危ないと感じていたのに。


「ドラブフォルトもメアリーもいざとなればホスタを殺す気だ。彼女はまだ奴隷から解放されたとはいえない」

「貴女の判断を信じたいところですが、今の情勢では出来るだけ漏らさないで下さい。貴女を守れなくなりますから」

「本気でわたくしと結婚する気か?変態め。門の人形と変わらぬのだぞ」

「残念ながら私の目にはそうは見えませんね」


クラウスは平然と答えた。今もこの世で一番美しい女性だと思っている。


「これでもか?ホスタ、ちこう」


ホスタははい、とラクナマリアに寄り添った。


「ぁっ」


小さく声を上げる。


ラクナマリアが首筋に噛みついて血を吸い始めた。

ごくりごくりと喉が動き、嚥下されていく。

するとホスタは恍惚とした顔になっていった。


「ずるい!」


クラウスが抗議の声を上げた。


「な、なにをいっておる?」


訳の分からない抗議を受けて牙を離した。


「血が足りないなら私のを吸ってください。これまでもそんなことしてたんですか?あっ、もしかして祈念式の時も?」


亡者に噛みつかれて怪我をしていたラクナマリアは重傷の割にすぐに元気になっていた。


「うむ。ところで今は何日経った?」

「精霊さん”マー”でしたっけ?教えてくれなかったんですか?」

「時間の感覚がこちらとは違う」

「そうですか。もう一週間以上経ちましたよ」


テロの影響も収まりつつある。


「ドナとメテオラはどうした?」

「まだ滞在していますが謹慎中です」

「謹慎?」

「ヴァンダービルト、バラナ両王国の陛下達が酷くお怒りでした」

「巻き込んでしまったのだから仕方あるまいな・・・」

「いえ、そうではなく彼女達が招かれもせずここに入り浸っていたせいで賊に目をつけられて、庇われて貴女に大怪我をさせてしまった、と姫達を修道院送りにせんばかりの勢いで父に謝罪していました」


リブテイン復興に大金を投じてくれていた聖王国の姫が二人を庇って大怪我をしたという情報が流れた為、聖姫は世間の同情を買い、あちこちで回復の祈祷が始まり原因がどうのというのは非常識で今する話ではないとされている。王宮の警備が手薄になった原因の不平分子に大きな非難が寄せられていた。

ドナ達も非難が及び、謹慎中である。


「そんなことをされては庇った意味がないではないか」

「伺いました。お願いですから自分の体を一番に考えて下さい」


クラウスは握った手に少し力を込めた。


「下らん。この体がどうにかなったところでまたどこかで”マー”がわたくしを目覚めさせる。わたくしに記憶は残らないが、もう一人はお前の事も覚えているだろう」

「嫌ですよそんなの。僕が婚約しているのは次の貴女じゃない」

「ふ、次のわたくしは婚約など知らぬ、と破棄しそうだ」

「だから死なないでください。お願いです」


今の彼女と二度と話せないと思うと、少し涙が零れてきた。

夜の彼女の一部となってしまう。それでは寂しい。


「愚かな。西方の大君主になろうというものがこんなわたくしに拘るなど」

「貴女も怪我している時は弱気で卑屈になるんですね?」

「なんだと!?」


ラクナマリアから怒気が発する。


「僕の事を子供のように見ていた人の言葉とは思えませんね」

「短いうちに生意気になったな」

「自信がついたんです。他は何も変わってません」

「自信?」

「ええ、貴女の事をよく知って、愛してるっていう自信が深まりました。ああ、大丈夫ですか」


さっき怒らせてしまったせいか、体を起こしてすぐにふら、とし始めたラクナマリアの背中に手を回して支える。


「ぬう、逞しい腕ではないか」


安心して体重を預けた。


「へへ、ちょっとは鍛えましたから」

ちこう」


支えた際に、顔が近づく耳元で囁く。

するとクラウスは無言で首を差し出した。


かぷ、とラクナマリアが噛みついて血を吸い上げていく。

ごくりごくりごくり、たっぷりと自分の一部が彼女の体に入り、彼女の一部となっていく。

血液とともにマナも流れて二人の肉体とマナスが結びつく。

一体となる感覚にクラウスも恍惚となり、先ほどのホスタの様子にも理解が及ぶ。


吸血行為が終わった時、残念に思ってあぁと吐息を漏らすと傷口をラクナマリアがぺろりと二回舐めとった。満足して脱力していくラクナマリアをクラウスは横たえた。

そして彼女は見上げながら問う。


「平気か?」


吸い過ぎたりしなかっただろうか、とラクナマリアは不安に思った。


「全然平気です。むしろ嬉しくて元気一杯です」


一方通行の愛では無くなったという確信を得た。


「そのようだ」


ラクナマリアは体の上のクラウスの頭を掴んで引き寄せて唇に合わせた。

二人は舌を絡め合わせてから、ふと隣で座っているホスタに目をやる。


「あー」「朝まで外してくれ」

「い、いえお目覚めしたばかりでそんな」

「十分血を貰った」

「だ、駄目です!断固として駄目なのです!まだ早いです!殿下、ラクナマリア様を大切にして下さらないのなら私も決死の覚悟でお仕えしている証拠をお見せします」


ここで邪魔する?と二人は思ったが、病み上がりなのは間違いないしクラウスの頭のどこかで勢いは駄目だと叱る誰かがいる。一方で弱気になっている彼女を励まし、愛を証明すべきだと応援している誰かもいる。


「証拠って・・・」

「ラクナマリア様の不興を買ってもお守りする覚悟をです!」

「むう、なんだというのだ」


ここまで反対されると興が削がれる。


「ラクナマリア様はとても成長の早いお体なのですよね?」

「うむ。あっという間に大人になる」

「ここにいらしたのは今から十年前、殿下が養子にくる少し前の筈。ラクナマリア様がお生まれになったのはいつですか?」

「ふむ・・・。わたくしの仲間は三歳くらいで子供を産み始めるから気にせずともよいぞ」


獣人だと早ければそんなもので、それをさらに加速されている。


「あー、僕やっぱちゃんと留学してもっと大人にならないと駄目かなーと思い始めました」


勢いは駄目だ、とささやく自分が勝利した。


「そうか。まあそれならそれでもよいが、腕は貸してくれ」

「え?」

「実はこうやって体を寄り添って温め合って寝るのが習性なのだ。ホスタも来るが良い」

「ええ?」

「ホスタがいないと襲ってしまうやもしれぬ。そろそろあちらも目覚めそうだ。切り替わるとたぶん我慢できぬ」

「で、では仕方ありませんね」

「あの、僕は?」

「先ほどそなたに看破されたように今人生で一番弱気になって助けを求めている。見捨てたければ見捨てよ」


仕方なくクラウスもベッドに入る。


「うむ・・・」


満足し、安心してラクナマリアは眠った。

しばらくして。


「まぁ、夜はまだまだ長いしホスタが眠ったらご褒美あげましょうね」


経験豊富な方が目を醒ましてそっと誘惑され、クラウスは結局逃げ出す羽目になった。


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